第34話 未来断絶
賢は家族を連れて塔の最上階に辿り着いた。そこは生ぬるい不気味な風が吹き抜ける壁のない円形の床だけのフロアで、気をつけなければ落ちてしまいそうだ。下層の床とは違って機械的で、LEDの灯りが等間隔に放射状に並んでいる。
客人の到来を察知して現れたのは、賢の髪を切った円盤だ。賢はこれを躱して一歩前に出た。
「ようこそ、最上階へ...」
黒ずくめの男だ。彼は恭しくお辞儀をすると、懐に隠し持った円盤、チャクラムを投げつけた。二枚目だ。彼はそれぞれの手、それぞれの目で別々のチャクラムを管理する。
「お前には溶けたアイス代を払ってもらうぞ」
「払ったところでどうだ?ここは最上階...」
「うるせぇ!」
賢は得意の速攻で瞬時に男との距離を詰め、鳩尾を狙って肘を突き出した。この男には分厚い筋肉があるため、腹を狙えば腹筋、心臓を狙えば胸筋に阻まれる。ならばその隙間を突くしかない。ちょうど賢の頭の高さに男の胸があるため、少し跳ぶと水平に当てられる。
「話している途中だろうが!」
片腕で弾き飛ばされ、フロアの淵まで転がされた。この男は予想を大幅に上回る尋常でない筋力の持ち主だ。おそらく人間の筋肉自慢の誰よりも強い。つまり、賢は体術で勝つことはできない。となると、武器が必要になる。後方に合図を送ると、遥たちが男を包囲するように散らばった。賢が誘い、隙を5人の誰かが突く。言うは易し、行うは難しの通り、男はチャクラムを巧みに扱って自分を守護させつつ攻撃に転じる機会を探っている。前に霞たちが言っていた『呪縛言を使わずとも自分たちを殺せる』というのは本当のようだ。二人を加えていても戦況に大きな変化は起きない。
「この塔はここが最上階、この塔はお前の記憶...どういうことかわかるだろう?」
「俺の記憶はこれ以上続かない...」
男が両手を広げた。
「その通り!お前はここで死ぬ!」
「よしわかった!お前らちょっと時間を稼いでくれ!建材持ってくる!」
賢は塔を降りようとした。これは記憶を逆行するということであり、現実では決してできないことだ。しかし賢を阻まねばならない塔は、彼に階段を下ることを許した。その瞬間、男の嘘が判明した。
「そういうことだ!このフロアだけほかと違うのはなんでだろうな!?」
攻撃し続ける遥たちが動きを止め、賢の傍に集った。
「あのチャクラム...」
「このフロアに似てる...?」
こんどは賢が両手を広げて叫んだ。
「そう!お前のことなんだよ!」
「!」
男が狼狽えたような気がした。俯いた彼の口から放たれた言葉は、
「動くな」
遥たちが動きを止める。賢はこの時を待っていたと言わんばかりに口元を歪めた。いつものように葵の手から霧姫を奪い、男のチャクラムを弾き返す。かなり強度があるようで、名刀と評される霧姫でも断ち切ることは叶わなかった。
「さて...呪縛言が解けるまで時間稼ぎをするかな」
「残念だが呪縛言は解けない」
その言葉の直後、賢は自分の傍を通り抜けるチャクラムを見た。




