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俺の周りに天使の輪  作者: 立川好哉
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第28話 なかよしメイド

 開戦直後、殺し屋の口から紡がれた言葉、『動くな』。天使三人が動きを止め、賢は一瞬にして数的不利に陥った。どちらにせよ不利なら武器があったほうがいいので、葵から霧姫を借り、一文字に振った。

 「様になってるっすね」

 もはや霧姫は賢のものでもある。彼女は人間の主に従順で、怖いくらいに手に馴染む。その稀代の適応力を畏れたメイド二人はアイコンタクトで意識を合わせるとついに襲い掛かった。身体が小さいと認識より速く訪れる。遠くにいると思ったオートバイが意外と近くにいてぶつかってしまう時のように。賢は敢えて突撃し、武器を避けて金髪の腹に霧姫の柄の端を立てて押し当てた。このとき、赤髪は金髪ごと武器...鎌で薙ごうとしていた。身体を翻して金髪を盾にすると、鎌はその胸を裂く前にぴたりと停止した。この重厚な金属の扱いには長けている。白の衣の向こう側には女子らしからぬ筋肉の隆起があるに違いない。

 「金髪がお好みらしいっすよ。やったね」

 「残念。わたし、脱げばスゴいのに...」

 二人は仲良く対称の動きで初期位置に戻った。万華鏡のような調和には美しいとの賞賛を禁じ得ない。

 「右利きだからだよ!」 

 二人を相手にするのはやはり辛い。元敵の現仲間が三人もいるのに複数相手の訓練をしなかった自分を恨めしく思う。呪縛言さえなければ、片方を自分が相手して、もう片方を三人で無力化してもらえただろう。その呪いを解く方法を、人間の自分が実行できれば―

 「なぁ、死ぬ前に訊いていいか?」

 「およ?こいつ死ぬって言ったっすよ?」

 「...いいでしょう」

 賢の最後の質問、それは、

 「呪縛言って、天使のランクで持続時間が変わるモンなの?」

 「!」

 メイド二人には意外な質問だったようだ。これだけ多くの女を侍らせている賢だから、てっきりバストサイズでも訊くのかと思っていた。『死ぬ』とは言ったが、この男に死ぬ気はまったくない。

 「時が教えてくれるっすよ。そっちのショートパンツはそっちの二人より位が高いんすから、時間差があれば正しいってことっすよ」

 「...そうだね、確かめてから死ぬことにするよ」

 賢は呪縛言が解けるまでの時間を確認するため、時間稼ぎを目的とした防御戦術に切り替えた。葵を縛ったということは彼女より上位の天使であるため武器もランクが高いだろうと予想した賢は霧姫を無駄に使うことを嫌い、持ち主の手に戻した。

 「よっしゃ」

 「無謀っすね、二人いるんすよ?」

 「...諦めてはないね」

 賢の血は勝利を渇望している。全身を動かすためのエネルギーは、その血が運んでいる。ならば、賢は勝利のエネルギーに満ちている。弱気な言葉は欺瞞で、最期の頼みと言えば要求が通る可能性が高いと思って言っただけだ。

 賢は回避に専念しながら、このような極限の戦闘でしか味わえないスリルを楽しんでいた。咄嗟に回避しても連続して行動できるようになっていることが彼に興奮を教えたのだ。

 

 「めっちゃ躱すっすね」

 「蜘蛛みたい」

 賢は傷だらけになった家具を見て苦笑した。向こうにはまだ余裕がある。戦闘時間は自分の想定より長く、短期決戦タイプの彼は不利になっている。しかし彼は逃げ出せない。呪縛言で行動を封じられた三人は護衛対象だからだ。自分がいなくなれば三人は確実に処分される。

 「クッソ、なんで女天使ってのは見た目通りにできないのかね?」

 「天使としての使命は絶対、でも女の子としての生活も大切っす。おしゃれしたいでしょう?」

 「女の子と天使は矛盾、どう足掻いても見た目と合わない」

 「...使命を捨てればもっと可愛くなれるのにね」

 「高貴であることこそ可愛さっす。あんたを殺せばかわいくなれるっす」

 戦う気を失わない二人を前に賢は最後の溜息をついた。この二人は顔を殴ってでも更改させねばならない...いや、顔を殴らないと勝てない。

 「悪く思うな!」

 懐に滑り込み、腹ではなく顎を狙って拳を突き上げる。微かな手ごたえは掠った証。翻って相手の攻撃を避け、それからは再び回避に集中。時間が経過し、呪縛言が解ければ戦況は自分に有利になる。

 

 賢が痙攣の予感によって動きを止めると、その首の傍に鎌が立てられた。怯むと次は金髪の短剣が向けられる。

 「...すまん」

 彼は諦めたのではない。痙攣覚悟で最後の足掻きをしたのだ。


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