第22話 漆黒の富士見
「富士見 集です…」
周りにノイズがあったら聞き取れなさそうな声量で自己紹介をした富士見少年・一年生。彼は三人を前に俯きがちで顔を前髪で隠している。
「彼は人と話すのがあんまり得意じゃないみたいなので代わりに俺から説明しますね」
「待て、それじゃあ話すのが苦手なのを改善できなくないか?ざっくりでいいから説明してくれ」
柏が先輩らしく堂々とそう言ったので栄弟も富士見もそれに従った。
「えっと…話すのが苦手なせいで友達がクラスにできず、ただ来て勉強して帰るだけになってるんですけど…えっと、もっと話せる友達ができたらいいなと…」
富士見の要望は自分からクラスメイトに話しかけるのは気が引けるので、何かをきっかけに話さざるを得ない状況をつくってほしいとのことだった。
「委員会があるじゃん。入らなかったの?」
「立候補者がいたので譲りました」
気弱なので目が合っただけで萎縮してしまう彼は、同じ委員会に立候補したクラスメイトにその座を譲り続けた結果、どの委員会にも所属しなかった。そのため仕事の話をする相手ができず、一言も喋らなくても朝から放課後まで過ごせる状態ができてしまった。部活動に入ることも考えたが、先輩後輩の関係や、自分の能力のことで悩むことが多くなりそうなので控えたという。
「一人でもできればそこから広がっていくんだけどなぁ…このクラスには柏くんみたいな誰にでも話しかけられる元気な子はいないの?」
賢がいたから交友の幅が柏に広がったし、賢がいなくても柏と同じクラスになったのだから友達はできた。人を選ばず話しかけてくれる人は中学校の友人と一緒にならなかった人にとって救いである。
「いつも休み時間は本を読んでいるので、邪魔しちゃ悪いと思っているのでしょう…」
「なるほどな…」
「趣味は読書ってこと?」
「はい…中学の時から休み時間は小説を読んで過ごしていました」
彼の読む作品のファンがクラス内にいれば話しかけてくれるだろうと思ったが、彼が取り出した本にはカバーがかけられていたのでタイトルがわからない。外すことを提案したが、彼の読む小説はライトノベルであり、表紙は万人に認められるようなものではなかったため、そのままにしておいた。
「ほかに趣味は?あと、特技があるとそこから友達ができるかも」
富士見少年は耳にかかった髪をかき分けて言った。
「趣味はアニメとかのグッズを集めること…で、特技は…ないですね」
「んなこたぁないだろうよ。何か平均以上のものはねぇのか?」
「昔から続けてることでもいいよ」
富士見少年は天井を数秒間見上げ、脳から口まで落下したワードを呟いた。
「スキー…は毎年行ってます」
「どんくらい滑れる?パラレルができれば俺は上手いほうだと思うけど」
「パラレルはできます…親からは二級の検定を受けるように言われましたが…うまくできる気がしません」
富士見の特技を発見した賢たちはそれをどうやって周囲にアピールするかを考えた。たとえば、携帯電話の待ち受けを自分が滑っているときの写真にするとか、鞄にスキー場のマスコットキャラのキーホルダーをつけるとか…しかし、どちらも他人が注目しなければ気づかないものだ。
「やっぱり友達をつくるのは難しいんですよ…」
「まあそう落ち込むなよ。クラスメイトと話せなくても、俺らにはすっかり慣れた様子で話せるじゃねぇか」
「相談した時点で富士見くんは一人じゃなくなったってことよ」
富士見少年が顔を上げて三人を見つめた。瞳は少し潤んでいる。
「あっ、わかった」
賢が唐突に閃き、クラスメイトの目に入りやすいものを提案した。
「この季節にスキーの雑誌を読むってのはどう?」
「変人だと思われない?」
「まあ、それだけスキーが好きな奴って印象を持ってもらえたら成功だな」
翌日、鞄にスキー雑誌を忍ばせ、小説の代わりに休み時間に読む富士見少年の姿を見ることができた。周囲の反応はいまいちだが、富士見少年の顔は今までとは違って楽しそうだ。
「スキーが好きすぎて顕示欲が爆発して他の人に話しかけてまで広めるようになったらいいんだけどな…」
「彼は自分の特技を特技だと思えていなかったから、他のことも特技だと思えるようになれば自信がつくでしょう。これは解決傾向と言っていいんじゃないでしょうか。次もこの調子でお願いします、先輩」
一人目、解決。




