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俺の周りに天使の輪  作者: 立川好哉
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第11話 天使とクラスメイト

 久しぶりにチャイムを聞いたと賢は言った。そのすぐ後ろで遥が頷いた。

 「同じクラスだし、俺の後ろの席だったね」

 賢と遥は同じクラスになった。新しいクラスは前のクラスルームにて担任から発表される。遥は新担任に呼ばれ、賢より先に新しいクラスを知ることになった。賢が新クラスの教室に行くと中に遥がいて、彼女の前の席を指差していた。苗字の頭文字の都合で、二人は一つ違いの出席番号を踏んだのだ。

 「あっちの学校でもここまでの流れは同じ?」

 「うん。この後自己紹介がある」

 それはこの世界でも同じことで、出席番号1番の人から自己紹介を始めた。賢は毎年無難な自己紹介をしていたが、遥がいるからだろうか、新たな仲間を笑わせてやろうという気持ちが湧いた。

 「桐矢賢です。漫画同好会で漫画を描いてます。チャンドラー吉井のモノマネやります」

 チャンドラー吉井とは小中学生を中心に高い人気を誇るお笑い芸人であり、『ウィィィー!』という奇声とともに変顔をする芸が去年の師走あたりから大流行している。賢は彼に目が似ているという理由だけで彼の芸を真似したが、芸のほうはあまり似ていなかったようで、彼を初めて見る人たちは口元をすこし歪ませた程度で大笑いをしなかった。賢は笑ってくれた友人に感謝の念を送り、初対面の人たちにはひとこと詫びて着席した。あまりウケなかったことは幸いだった。後続の遥が笑いを取ることの強迫を受けず、極めてシンプルな自己紹介でも落胆の音を聞かずに済んだからだ。現時点では、賢だけが『変なヤツ』と思われているだけだ。

 

 「今日は午前で終わり。さっさと帰って昼飯をつくろう」

 解散の合図を聞き、葵の待つ家へ帰ろうと賢が荷物をまとめた時、後ろから近寄って彼の肩を強めに叩いた人がいた。

 「チャンドラー桐矢、メシ食いにいこうぜ。遥も一緒に」

 彼の名は(かしわ) 満晴(みちはる)。小学校のサッカー部で賢とツートップを組んでいた男だ。小柄だが非常に俊敏で、近隣のサッカー部の部員には『特急列車』の二つ名で知られている。彼はとても気さくで、いつも男女問わず誰かと話をしている。彼の誘いを受ければ必ず楽しい出来事が起きるし、いろいろなことを知ることができる。そのため断るのは勿体ないと思えるが、長い時間葵を一人にしたくない気持ちが強く、賢は別の友人を誘ってくれと言って彼の誘いを断った。

 「大切な用事があるんだな。明日の昼は一緒に食おうな!」

 「おうよ。ネタ用意しとけよ」

 物わかりの良い男・柏と別れると、賢はふと大切なことに気付き、遥に学校の案内をした。教室があるのが教室棟、家庭科室や美術室などがあるのが教科棟、漫画同好会があるのが部室棟だと自分がよく使う言葉を使って説明し、最後に校庭のわき道を通って校門を抜けた。真昼に学校から家に帰るのは半ドンの日にしか経験できないので、少しゆっくりした歩行でアスファルトの歩道を踏んだ。

 

 「おにーちゃん!ハルねえ!おかえりなさい!」

 葵に迎えられた二人は『ああ、働いて帰ったら娘が出迎えてくれたときってこういう感じなんだろうな』と思った。制服から着替えた賢が昼食を手早く作り、家で過ごす平日の昼を満喫した。


 「どうだった?意外と問題ないっしょ?」

 「同じクラスになれたのは大きいね。それと、柏くんがいるってのも」

 遥はあのナイスガイを気に入ったようだ。彼は爽やか系美少年ではないが、彼にしか持てない素晴らしいものを持っている。むしろ美少年ではないからこそあの性格と合っていて違和感がないのかもしれない。この先賢以外に彼にも助けられそうだと遥は思った。

 

 「葵も学校に行きたいか?」

 彼女を知る下界人が賢だけしかいないので小学校に通うならそこで起きることはすべて葵一人で解決しなければならない。彼女の年齢を考えると大きな負担となるので言わなかったが、学校に通う二人を見て思うことがあるのかもしれない。そう思っての質問だ。

 「いまはそんなに行きたいとは思わない。下界...この世界のことをもっと知ってないと、おにーちゃんのいないところでいっぱい困るから」

 

 直感だけで物事を言わないのは葵が天使だからだろう。一人で行動することに慣れている彼女だからこそ、自分が処理できる問題の量をきちんと把握している。『おにーちゃん』と呼んで妹らしくしているが、自分が思うよりこの子は大人なのだと賢は柄にもなく真剣な顔を見せた。


 「葵、俺のことを試しに『兄さん』って呼んでみてくれないか」

 「にーさん」

 「これはこれでいいなぁ」


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