第三話 迷子の姫
皆さん、新年明けましておめでとうございます。作中では正確には決めてないんですけどだいたい六月下旬といったところでしょうか?本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
テストも行わずにいきなり始まった彼女達の戦闘を見守る艦では敵部隊の母艦の発見を急いでいた。
「母艦発見急いで、偵察機だけで月からここまでこれる訳がない。」【美咲】
「やってます。しかし、策敵有効範囲内には何の反応もありません!」【井上】
「なら、有効範囲を広げなさい。」【美咲】
「無茶よ美咲!策敵だけに演算を割いたら艦の管理システムに支障をきたすわ。」【美琴】
「だったらどうしろと、第三世代の戦闘データを持って帰られたら不味いのよ!」【美咲】
「コネクターのセンサーならあるいは。」【美琴】「わかったわ、相楽准尉に連絡。敵艦の策敵を依頼して。」【美咲】
艦と主戦場の中間地点で味方の機体の通信を管理していたコネクターのところにブリッジからの指令がとどいた。すぐにこれに取りかかり敵艦の位置を割り出した相楽優美はその位置情報をブリッジにとどけた。
「コネクターより返答。11時の方向、距離2500、小惑星の背後です。」【優美】
「2500!主砲の射程範囲外じゃない。小惑星を砕く、荷電粒子砲チャージ急げ!」【美咲】
「荷電粒子砲、エネルギー充填80%」【矢島】
「発射後、敵艦が主砲の有効射程範囲内に入るまで前に出る。」【美咲】
「荷電粒子砲、エネルギー充填100%」【矢島】
「てぇーー!」【美咲】
アマテラスの特装砲である荷電粒子砲が障害物であった小惑星を破壊したことによりその後ろに隠れていた敵艦があらわになった。そのころ舞のヴァルキリーと取り付かれては引き離し、取り付いては引き離されと一進一退の攻防を繰り広げていた敵の隊長はモニターでその威力と射程を確認し、撤退命令を他の隊員に出した。
「一時撤退する。十分に戦闘データは取れた筈だ。それに今の破壊力を見たか、再び撃たれれば母艦が持たない。」【隊長】
「了解!」【隊員】
そうして、敵のドリムスーツ部隊は撤退していった。そして、敵艦が主砲の射程範囲内に入れたアマテラスは主砲を撃ち込んでいた。
「主砲照準。共和国軍宇宙艦、てぇー!」【美咲】
「躱されました。」【井上】
「機関最大、追尾する。」【美咲】
「荷電粒子砲にて消費したエネルギーが回復していません。このままでは振り切られるだけです。」【河田】
「信号弾撃て、ドリムスーツ収容後予定進路に戻る」【美咲】
相手をしていた偵察部隊は退却し、信号弾と通信による帰投命令を受けて、ドリムスーツのパイロットは母艦に戻っていった。
ドリムスーツが艦に戻り、第一級戦闘配備を解除したブリッジにつかの間の平穏が訪れ、艦長も髪をおろしていた。
「みんな、お疲れ様。交代で休憩に入って良いわ。但し対空監視は怠らないでよ。」【美咲】
「分かりました。」【井上】
それから、第一級戦闘配備が発令されたため姿を消していたアマテラスが再びブリッジに現れた。
「艦長、お疲れのところ申し訳ないのですがひとつ質問を宜しいでしょうか?」【天照】
「良いですよ。何かありました?」【美咲】
「はい。この艦のデータベースにまだ登録していないクルーがいたりするのでしょうか?」【天照】
「そんなことは無いですよ。」【美咲】
「そうですか。でしたらこの端末は誰の物なんでしょうかね?」【天照】
このおっとりとした和服美少女の爆弾発言に一瞬固まってしまったブリッジだった。
「その端末の電波は一体どこから発せられているの!」【美咲】
「第二収納庫の中です。」【天照】
「どうしてまた、そんな変な所から。まあ良いわ、あなた達ちょっと確認してきて。」【美咲】
そうして、交代で外に出ようとしていたCICの二人を第二収納庫に向かわせた。その頃、初戦闘から戻り機体から降りたパイロット達は、シミュレーションの時よりも格段にアップしていたその性能を戦闘が終わり安心したからなのか今ようやく実感していた。
「どうだった、初出撃でのこの機体の動きは?」【蓮】
「蜻蛉切の威力がすげぇよ!あんな綺麗に盾が、割れたのは初めてだぜ。」【利幸】
「私の腕に加えて、パーソナルAIによる支援まであるとは言え、あんな正確に武器だけを狙い撃てるなんて驚いたわ!」【麗奈】
「それはよかった。」【蓮】
二人が蓮と感想を延べあっているなか、一人はとっくに部屋へと戻っていき、一人はまだ機体から降りてこないでモニターを見つめながらキーボードを打ち込み、最後の一人は無言で愛機の事を見つめていたのであった。
「舞、自分の機体に何かあったの?」【麗奈】
「なんかね、あの赤い機体のパイロット、わざと隙を見せて攻撃させていたのかもしれない。」【舞】
「未知数の機体相手にそんなことできる人なんているわけ無いでしょ。それも舞を相手に。」【麗奈】
「初出撃で機体と共に無事に戻れた。それだけで今日は十分だよ。」【蓮】
二人にそう言われた舞だが、どこか不完全燃焼と言ったような事を感じていたのである。
そのころ偵察部隊が母艦に帰投しており、赤い機体のパイロットアレックスは全機のデータを集めて、小隊長のところへ持っていっていた。
「ギャルド隊長、ただいま戻りました。これがあの艦とその搭載機の詳細です。」【アレックス】
「やはり、私の予想は的中したか。この緊迫した時期にこんなものを製造していたとは日本の工廠も困ったものだな。」【ギャルド】
「本当にその通りです。独立後ようやく秩序が出来てきていると言うのに。」【アレックス】
「それは彼らとて同じことよ。平和を維持するためにも抑止力としての強い軍と己を守る力は必要だからな。」【ギャルド】
「肝に命じておきます!」【アレックス】
「うむ、ならもう下がりなさい。」【ギャルド】
とはいえ、小惑星を穿ったあの砲撃、強大すぎる力は要らぬ争いを呼ぶのもまた事実。それに偵察とは言えこちらの最新鋭の愛機レッドナイトで行ったアレックスが仕留め損ねたという白い機体のパイロット、もし前線に来るのであればいずれはあれを攻略しなければ何も始まらないか。そう思いを巡らせながら資料を読み進める。ギャルドであった。
再び場面はアマテラスにもどり、ブリッジでは第二収納庫に向かわせていたクルーから連絡が入り、民間人と思われる十代の少女を発見し気を失っていた為、医務室に連れていったということらしい。その連絡を受けて艦長の藤林美咲はアマテラスにコロニー『タカマガハラ』のデータベースに創作願届の出ている女子の検索を依頼して一人で医務室にむかった。
「美里、その娘の調子は?」【美咲】
「今は眠っているわ。」【美里】
「それにしてもどうしてあんな所に。」【美咲】
「格好からして民間人だとは思うけど、民間人の女の子が入り込めるほどセキュリティは甘くない筈よ。」【美里】
ベットで横になっていたその女の子が目を覚まそうとしたとき、検索結果の出たブリッジから医務室に通信が入った。
「艦長、該当する人物が一人出たんですけど・・」【凜】
「どこの誰なの?はっきりしなさい。」【美咲】
「それが、ブリタニア王国第一王女ソフィア王女殿下なんです。」【凜】
それを聞いた美咲艦長がベットに目をやるとそこには服装だけを見たのならばどこから見てもごく普通の少女なのだけれど、どこか洗練されたオーラが滲み出ていた。
「目が覚めたみたいね。貴女お名前は?」【美里】
「何を寝ぼけておる。主人であるこのソフィアの事を忘れるとは私の側付きが聞いて呆れるわね。」【ソフィア】
「と言うことは貴女は本当にソフィア王女なのですね。」【美咲】
「いかにも私は現ブリタニア国王ヘンリー・A・ブリタニアが長子、ソフィア・E・ブリタニアであるが、何故今さらそのような事を。」【ソフィア】
「貴女、ここが何処だかわかります?」【美咲】
「この感覚は宇宙空間なので、シャトルの類い中だとは思いますが、それにしては変です。軍服を着ている筈がない私の側付きが軍服を着ていて、それもブリタニア軍のではない物。一体ここはどこなんでしょうか?」【ソフィア】
「まず、私たちは貴女の側付きではありません。そしてこの艦は日本の新造艦です。いくら貴女がブリタニアの王族を名乗っているとは言え、私たちにそれを確証する術はありません。従って、然るべき所と連絡が取れ、貴女の身分の保証が出来るまでこの艦での行動を制限させて頂く事になりますがよろしいですね。」【美咲】
「私がここにいるのはこちらの不手際。無許可での軍用艦に乗艦。本来ならば拘束されてもおかしくない所、最大限の配慮感謝します。」【ソフィア】
そうして、アマテラスは迷子のブリタニア王女を乗せて、再び『イザヨイ』へ向けて進路をとった。