第七話 ルナフィリアの決断
前までは5機VS5機の戦闘だった。それが今回は援軍一個小隊を引き連れて来たので総勢10機の敵機をたった5機で相手をしなければならないのだ。だが舞のヴァルキリーは敵の赤い機体に掛かりきりになって、残る4機でまともに闘えるのは3機のみ、その上頼みのレオ少佐のリンドブルムは出撃出来ないため、3機で9機を相手にしなければならないという危機的状況だった。幸いと言って良いのか9機うちの2機が赤い機体の支援に向かったが危機的状況に変わりはない。
「出力を上げすぎるな!エネルギーの無駄だ。」
「でもよ翔平、どうやってこの数を落とせって?」
「一機でもエネルギー切れを起こしたら全滅だぞ。」
後方から麗奈の援護射撃があるとは言え彼らは敵の攻撃を防ぎきる事はできずに、徐々にダメージを積み重ねていった。それは別の場所で闘っている舞も同じだった。飛び出したときは互角の闘いを繰り広げていたが支援機2機からの攻撃も同時に対処することは、いくら最新鋭機のヴァルキリーとはいえ困難だった。近づこうとすれば二機から牽制射撃が飛んできて近づけないし、一旦距離を取ろうにもあの機体のパイロットがそれを許してくれるわけがなかった。それを感じ取っている舞は先に支援機二機を無力化しようとしていた。
一方、アマテラスのブリッジではミサイルによる牽制射撃しかできておらず、混戦の中で味方の機体に当たってしまうかもしれないビーム兵器は使えないでいた。そんな時、一本の艦内通信がブリッジに届いた。そこに映っていたのは、ブリタニア王女ソフィアとルナフィリア・ノームだった。
「貴女たち今は戦闘の真っ最中よ!」
「分かっています艦長さん。そしてこちらが不利なことも。だから私を使ってください。このルナフィリアの存在を。」
「貴女に何ができると言うの?パイロットでもない貴女に。」
そうやって問答している間にも刻一刻と状況が変わっていく。
「この戦闘を止めてみせます。ですから私をブリッジに。」
「いくらなんでも民間人をブリッジに入れることは...」
とそこへリンドブルムで出撃出来なかったレオ少佐がモニター越しに現れた。
「良いんじゃないの?嬢ちゃんの目を見てみなさいよ、この覚悟が伝わってくる目をさ。」
そういって通信は切られた。ほどなくして二人を連れたレオ少佐がブリッジにやって来た。
またその頃、月共和国軍の部隊は予想外のタイミングで嫌な敵との遭遇戦を早く終わらせる手段はないものかと思案していた。
「隊長、アレックスの奴はどうしてあの白い機体にあそこまで執心しているのでしょうか?」
「私にもわからぬさ、言えるのはそんなアレックスでも倒せていないということだ。このまま持久戦になれば我が軍が不利になるのだがな。」
ただでさえルナフィリア嬢の捜索という厄介ごとを背負っている状況でこれ以上の面倒は御免だ、と心の中で呟くギャルドであった。
「隊長、敵艦より通信です。どうしますか?」
「メインモニターに映せ、話をしよう。」
そこに映った人物を見て、艦長を含め大半のクルーが己の目を疑った。なぜなら本来いるはずではない人物がそこに映っていたからだ。そしてその映像と音声は戦闘中のパイロット達にも送られた。
「お久ぶりですねギャルド隊長。」
「これはこれはルナフィリア嬢ではございませんか。どうしてそのようなところに?」
「遭難した私をこの艦の方々が保護してくださったのです。私は恩を仇で返したくはありません。」
「そのようなことがあったのですか。それで私は何をすればよろしいので?」
「ひとまず部隊を下げてください。そうして頂ければ私は一時間後、白い機体のパイロットとともにこの地点に向かいましょう。回収にはアレックスが来てください。もし私の言葉が信用できないのならば引き渡し場所はそちらが決めても構いません。」
「その条件で良いだろう。一時間後そのポイントにアレックスを向かわせよう。」
その言葉を最後に通信は切断された。気を張っていたのか通信が終わったのと同時にルナフィリアはその場に崩れ落ちそうになったがソフィアに肩を支えられその場を後にした。
一時間後、舞とルナフィリアはヴァルキリーで引き渡し地点へと向かっていた。
「なんであなたは私を選んだのですか?」
「ただアレックスの機体、あの赤い機体を舞が知っているからだよ。」
「あの機体のパイロット、アレックスというのですか。」
「そうよ。詳しいことは知らないけど死んだパパが助けた戦争孤児みたいよ。」
会話をしているうちに引き渡し場所に到着した。すでにそこには赤い機体の姿があった。
「こちらはアレックス・ノーム、聞こえるか日本軍パイロット。」
「はい、聞こえています。」
「彼女の姿を確認する。コックピットを開けろ。」
「わかりました。そちらもお願いします。」
同時に二機のコックピットが開く。迎えに来た男の姿を確認したルナフィリアはその懐へ飛び込んだ。やり取りを終えた二機は背を向け互いの母艦に帰投した。