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ヒトでなし

作者: さい




黄色の花がゆれる。遠い夕焼けの追憶のなか、がらくたの山。焼け焦げたにおいと廃れた焦土。スイートピーだ。揺れている。


くらくら、ふらふらとたよりなげにその小さく鮮烈な黄色の花は揺れて、ごく僅かな、ヒトでは気づかないほどの芳香をふうと散らす。かたわらに寝転ぶヒトは、女性らしい。


茶色く長い髪の毛を焦げた土に絡ませ、緑色のすすけてほつれた丸首の膝丈ワンピースを地面に這わせ、自らのからだを横たえ手首を放り出している。その鼻先、スイートピー。


彼女はそんなもの見ていない。その、彼女には見えない花のもっと遠く。赤銅色の太陽がぐらぐらと煮え、いまにも沈みかけているあの境目。


空と焦土の境目にあり、何よりも濃く、横に横にどこまでも伸びる灼熱した直線。溶かされ焼かれてしまう前の地面は生暖かく、彼女はほおでその熱を感じ取る。


じくじくとしたぬくもりは、彼女をいっそう冷たい殻に近づけていく。彼女は、生来持たされたものどもをすべて、地面に吐き出し溶かし尽くして、動くものすら動かないものと認識せざるを得なくなった。


最早、彼女が持つものは、見ること・触ること・感じること以外には特にない。それだけで生きていける。


彼女がそう思えば、彼女は地平にぐらぐらと溶けていく太陽を見ているだけで、水を食い、花を毟り、世界を壊すことだってできる。


それが、彼女にとっての自殺なのだ。




さて、では、彼にとっての自殺は、どのようなものなのだろう?


海の底だった。

空き缶やらビニール袋やらが散乱し、沈殿して汚泥にまみれ、汚濁した水は澱んでそこらじゅうに溜まり腐り、腐臭を発して何者もよせつけず、ただくさるものを好む小魚や害虫の群れがよってたかって群生していた。


そこから、一筋の白いけむりが上がっている。


細く上がるそのけむりは、水の澱に惑わされることなく水面を目指してゆらゆらと身をくゆらせながら登っていき、水面近くにわらわらと蛆のようにむらがるプランクトンなる生物たちを掻き分け、ついに水面に達するとぷつりと消えた。


弱々しい煙だったのだ、水面を一度超えてしまえば生きられない程度には。


さて、その白い筋は何もどきだったのか?正解、それは、ヒトだ。もうこの世界では、ヒトがヒトのすがたをしているのは結構なナンセンスなのだ。


ヒトをヒトたらしめるものが手や足や生命活動だという奴なんか、よってたかって虫の餌食にされる。


だから、彼は自分を殺したあげく白い空気、彼を燃やしてのこった灰を巻き上げるけむりになってしまった。




さあ、このヒトたちを君はどう弔う?

違うだろう、弔われるのは君だろう。

さあ、弔うといい。

次は君がヒトでなしになる番だ。

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