【第5話】初めての空気、初めての人々
転生してきた部屋から更衣室へ続くあたりの廊下は細く、歩くとコツン、コツンという音が冷たく響いていた。しかし、だんだんと賑やかな雑踏が近づくと、大きな廊下へ出た。明るく広々とした廊下には、俺やセシルと同じ制服を着た生徒や、ローブに身を包んだ人、鎧を纏った戦士のような人たちで賑わっていた。
「すげぇ...みんなドラク○エみたいな格好してる...なぁなぁ、これって皆生徒なのか?」
「そうよ!もちろん座学だけやってちゃダメな職業もあるわけだし。あと、その文字伏せ意味ないからね。」
「おー、そうなのか!いいなぁ!かっこいい鎧とか剣着てみてぇなー俺もなー!」
やはりいくつになってもこういうのは興奮する。闘いは、男のロマンなのだ。
「あらいいの?ああいう鎧を着る魔獣征伐科とか総合戦闘科、防衛科に行くと、日々自らの肉体に磨きをかけることに余念のないむさ苦しい男子たちと、毎日のように実戦訓練を受ける日々が待ってるんだよ?」
「いや俺昔から座学だいっ好きでさ!!体とかぜんぜん動かさないんだよね!まじで!」
「あらそう残念!せっかくいちばんきつい魔獣征伐科の先生に報告しようと思ったのに」
くっ、油断も隙もない。
「こえーよ!その先生ぜったいマッチョだろ!」
「マッチョだよ」
うむ。やはり座学は最高である。体動かすの、だめ。こわい。
「てかさ、今俺らってどこに向かってんだ?」
「生徒指導の先生のとこだよ。転生してくる人たちは皆まちまちのタイミングで、女神さまから連絡くるまで入学式とかやってらんないから。そこでいろいろ説明やらなんやら聞くの」
「あー。めんどくさいやつだな。」
「そうなのかな?あたしはもともとこっちの人間だからわかんないんだけど。」
「へー。そうなのか。じゃあなんでわざわざこの学校に?」
「そりゃ冒険者になりたいからだよ!楽しそうじゃん!ここは、転生してきた人間を育てる学校としてだけじゃなくて、冒険者の職業訓練校としても有名なの。だから、この世界の人たちはみんなそのためにくるし、電話してき人たちも、基礎過程が終わったらだいたいそっちに行くんだよ。」
「あー。なんだか言葉だけ聞くとめんどっちいな。でもまあ、こっちの世界の学校よりはよほど楽しそうだ。」
「良かったじゃん!」
そんな話をしていると、いつの間にかまた静かな廊下まで歩いていた。しかし、更衣室のあたりよりも、荘厳で緊張感がある。
「さ、着いたよ!ここが生徒指導の先生の部屋...あー、もう、私までドキドキしてきちゃった!」
「なんだよ、お前も一緒に入るのか?」
「えー、わかんない」
「心配なやつだなー。てかそんなこと言われたらここがその部屋で合ってるのかも疑わしくなってきたんだが......」
「そんなことないよ!大丈夫!ここはぜったい生徒指導の先生の部屋だよ!」
「そうか。じゃ、入るぞ」
「え、も、もう?」
「何さっきから緊張してんだよ。え、何、この先生こわい人なの?」
「すっごくこわい!なんかずっと睨んでて、髭が生えてて、マッチョで。」
「うん、怖い。」
まぁ、先生は先生だ。こんなとこで物怖じしていても仕方があるまい。
「じゃ、入るぞ。」
「うぅ。うん。」
トントントントン、と四回ノックをして、
「失礼します。」とガチャリ。少し声が震えてしまった気がする。うう、どんな先生なんだろう、こええ。
「やぁ。君がカレン様から聞いていた新転生人の西寺煌斗くんと......君は、先生に頼まれて案内役をしてくれたのかい?確か、セシル・ルスティカーナくんだね。ふたりとも、もう少しこちらに近づいてくれるかな?」
おおお!良かった、俺の思ったよりも物腰の柔らかそうな先生だ。
「まず、色々話したいことはあるんだが......君たちの話は、全部筒抜けだったということは、伝えておくよ。」