【第2話】異世界のフロントにて新米女神と
「嘘...だろ?」
俺は、気づくと一面真っ黒な空間にへたれこんでいた。自分の体はしっかりと確認できるのだが、この空間のどこにも光源は確認できない。地に足が着いていないような感覚で、とても気味が悪かった。
「ようこそっ!ここは異世界への案内所でございます!」
目の前から若い娘の声が聞こえ、ハッとして顔をあげた。全くその存在に気付かなかったし、いつからそこにいたのかもわからない。
ええっと...どうしてこんなとこに?確か俺は部屋で暇つぶしに魔方陣の真似事をしてて、それから...ダメだ、記憶がない。...ということは、まさかとは思うが...失踪したのか?俺以外のやつと同じように...
そんな瞬間移動なんてあり得るはずがない!そもそも、目の前にいるこの女の子もとてもリアルだし、ファンタジックな装束を身に纏っているけど、ドッキリということもありえるな!そうだきっとそうだ!
「えへっとぉ、こ、これ、っひぇもしかす、もしかして、ドッキィリ?とか、じゃないんでしゅ、じゃないんですよね?」
無念。母国語ロール失敗。まぁ、いきなりの事態で気が動転していて、意識を取り戻してすぐに口を開いたのなら、呂律が回らなくてもしょうがないだろう。しかし、そんな事態にもかかわらず、目の前にいるのが女の子だということに、ガチガチになってしまった自分が一番情けない。今のはダメだ。絶対にコミュ障だと思われた。いや思われただけであって決してそうではない。はずだ。
しかし、そんな自分の後悔とはうらはらに、女の子は微笑みをたたえ、丁寧に答えてくれた。
「いいえ、違いますよ。あなたは本当に異世界転生をしようとしているのです。今までに同じようなことをおっしゃった方は364人もおられました。」
「えええわざわざ数えたの!?」
いやいや何つっこんでんだよ馴染まずにこの状況に疑念を抱きなさい自分。
「はい。こんなとこで働いてると、そうやってでもいないと、暇で暇でしょうがないんですよ。あ、良かったらしばらく転生せずにおしゃべりでもしていきます?」
女の子はなんだかいきいきしている。いや、こんなに人間らしいとこ見せられたらますますドッキリだとしか思えない。
ここで、晴れない疑惑に切り口を入れる。
「あの、働いてるってどんなお仕事を?あと、名前をまだ聞いてないんだけど」
よしっ、完璧!もしも安易なドッキリならこんな事態は不測。よもや細かい設定など用意してないだろう。勝ったな(確信)
「あら、そうでしたね、ごめんなさい!」
女の子らしくエヘヘと笑みをうかべる。
「わたくしはカレアと申しまして、あちらの世界では、女神をさせていただいております!とはいっても、駆け出しなのでこんな世界の間の継ぎ目の空間で、受付嬢やってるんですけどねー。エヘヘ」
完全敗北である。あぁ、これは夢なのか現実なのか。いや、ここまで見せつけられては認めざるを得ないだろう。ええい、ドッキリなら恥かいてやるよ!!ここはひとつ俺が折れてこの話は信じてやる!!!
「そうなんだ、カレアって言うんだ。いやぁ、こんなとこで毎日大変だね、女神ってのも」
は?ペラペラ何言ってんだ俺は。「大変だね、女神って」とか俺の人生で吐き出すとは思ってなかった同情ランキングの上位に食い込むんだが。ちなみに1位は「宇宙人に拉致られたんだって?そんなもん宝くじより低確率じゃん!お前絶対豪運だヨ!ファイトp(^_^)q」である。
「そうなんですよー!もういっつも寂しくって寂しくって!暇を潰すのにゲームばっかりしてるので、ずいぶん上達しちゃいました!」
おっと、思った以上の食いつきだ。なんか飾らないかんじで可愛いな。もうちょっとおしゃべりしてても...いやいや、そうじゃなくて。この状況についてもっとちゃんと聞き出さないと。
「へぇ、そうなんだ。どんなゲームしてた?俺も結構ゲーマーだから話合うかもね!FPSやらTPSなんかより牧場ゲーとかが好きだよ!」
ああああああああ!ちげーだろ!何話題広げてんだよ!俺はFPSのほうが好きだろ!牧場ゲーとかモンスターファームしかしやったことないし!いやあれ牧場ゲーじゃねぇわ。
「そうなんですか!!わたしも牧場ゲーム大好きなんです!癒されながら自分のペースでのんびりできるし、いいですよね!」
ああ、目がキラキラしてきている。この罪悪感には耐えられん。このまま牧場ゲームの話を濃厚にするのは危険すぎる。そうだ、今こそだ。今こそ頑張って話題を切り替えよう。