旅人の息子は邪気眼
とある異世界での物語。
大陸の北方に位置する連合国家『グラス』。その国の各地を回っている男がいた。
男の名は、『シルファ』と言う。各地を巡り、様々な仕事をする『レンジャー』の一員だ。
今、彼が担っているのは、地図を作製する業務。大陸の東の端、海と砂漠に囲まれた地方の街を拠点として、いろいろな仕事をこなしつつ、地図を埋めていく。そして今日、彼の請け負った任務が一段落した。空白がある程度埋まり、探求の部隊が進む足がかりが出来たのだ。
シルファは、レンジャーの本部に仕事の完了を報告した後、街のはずれにある廃墟にやって来た。日が暮れて、辺りには誰もいない。
廃墟の中でシルファは叫んだ。
「任務は果たしたぞ。そっちの判断は?」
すると、建物の中に二つの気配が現れた。
「申し分ありません。見事な仕事です」
「よくやった。息子よ」
一人は女性。この国の行政、軍隊、民間を繋ぐ機関の一員。名前を『ラムダ』という。
この国は紛争や小競り合いを繰り返し、分裂、統合、再編成も繰り返されている。そのため、地方ごとに独立性が強く、国として繋ぎ止めるものが必要とされた。彼女の所属する機関がそれにあたる。
シルファが今回こなした任務は、その機関に彼が加わるための試験でもあったのだ。そして、彼は見事合格した。
もう一人の人物は、シルファの父親である。名前は『オライオン』。この世界の各地を旅し、『グラス』が関わった数々の戦いでいくつもの功績を残した。ただし、知っているものはごくわずかである。
つまり彼もその機関の一員であり、重要な位置にあるのだ。
「それにしても、一体どうやってこれほどの力を身に着けることが出来たのか……魔術師や精霊術師の力だけでは説明がつきません。あなた達にしか知らされていない秘術のようなものがあるとしか……それを教えてはいただけないのでしょうか?」
「まあ、その辺の事は、教えたくても教えられない、と言う他は無い。すまないことだがな。だが、息子ならその秘密を解き明かし、君たちの助けとなることも出来るかもしれない」
「買い被りですよ。お父さん……」
その後、シルファとオライオンは二人になり、話し合った。
「息子よ。お前の封印を解こう。これでお前は自由だ」
オライオンはそう言った。言っただけで、他に何をするでもない。だが、シルファは分かっていた。その言葉が重要なのだ。これで自分の封印は解けた。
「今のお前なら分かるはずだ。何をするのもお前の自由。だが、まだ心に秘めておくべきだろう。我らがアリゾナから飛ばされてきたナバホ族であること、そして、お前がどういうわけか、グランドキャニオンに突如として現れた日本人だと言うこと」
「あの世界のアメリカに居た時から、私はお前に何かを感じていた。そしてこの世界に飛ばされてからも、その感覚が消えることは無かった。そして今、お前のサードアイが開いた。お前はこの世界で重大な使命を負っているのだ。その使命のために己を鍛え、磨き、自分と世界のために力を使え。そしてその力はお前だけのものだ。お前の故郷の呼び方がふさわしいかもしれない。『邪気眼』とでも呼ぶか、それとも自分で名前をつけるんだ」
シルファは頷いた。
この後、シルファは孤独なレンジャーとなり各地を回ることになる。だがお目付け役として、ラムダが同行する。機関の一部体として任務を担う彼らは『スピリット・ウォーカーズ』と呼ばれることになる。
今日も彼らは、謎に満ちた世界を行く。
(もしかしたら、続くかも……)