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第七話






嗚呼、小鳥の囀りに小川のせせらぎ。風が枝葉を撫でてゆく音。

なんと心地の良い朝でしょう。素晴らしい目覚めです。

王国の首都の、喧騒に塗れた騒々しい朝とは違いますね。

長閑な村に引っ越してきた甲斐がありました。

さぁ、今日ものんびり参りましょう。




皆様ごきげんよう。アリシア・ワルシャートと申します。

【王国】の国王、ズヴェズダによってこの世界に召喚され、どうにか目先の【悪の帝国】との

侵略戦争に一段落が付きました。しかし、まだまだなのでございます。

ぶっちゃけた話、私があの手この手で退けたのは【悪の下っ端】なのでございます。

ええ。襲ってきたのは【帝国の属国】つまりは占領された国、または【帝国の傘下】の国。

和平を結んだとは言え、帝国が再侵攻を命じれば彼らは安々と戦争を始めるでしょう。

その為にはどうすれば良いか?

戦争するに値しない。つまりは帝国にとって不利益を生み出せば良いのです。


早い話が帝国よりも強い国になれば良いのです。


そうすれば、帝国も手出しが出来ません。理屈では。勝てない戦をやる人が何処に居る?

しかし感情論ではそうは行かない。【帝国の偉い人】は其処彼処に戦争をふっかけてくる

キチガイめいた御仁とお聞きします。ええ。絶対戦争を売るでしょう。私に。


さておき…


【王国】の建て直しと富国強兵政策。そして同盟国の入手。他にもetc…

やる事が残っています。いっぱい。

アレもコレも、とは行きませんから一つずつ潰してまいりましょう。

「アリシア。食事が出来ましたよ」

お手紙を読んでいたら、メイドのヴラドからお声が掛かりました。

ハーフドラゴンの彼女は表情こそ薄いものの、可愛いメイドです。

仕事の斡旋先で暇そうにしていた所に声をかけたらついてきて下さいました。

片目をやられたとかで、もう戦士としては戦えないとかどうとか。故にメイドになろうと。

ですが、ハーフドラゴンをメイドにしようなどと言う奇特な人はそうは居ないらしく

結果、私がお迎えする事になりました。まぁ有り難いのですが。

閑話休題。




「学校の設立の進捗が悪いな。学び舎なんて豪華である必要は無い。私学にやらせろ。

教師を引き抜け。お金が無くて燻ぶってる学者や魔法使い、どんどん連れて来なさい。

教科書の生産が間に合わない?印刷機を開発したでしょうが。あれを使いなさい。

手書きの写本なんかじゃ間に合わない。お金が掛かる?これは未来への投資です!

いずれ印刷の需要が出てくるのですから、それで投資資金は回収できる!ああもう…」

王国の首都に出勤してみれば、そこは大忙し。

フェアリィ族のジョゼット・カリオストロ氏はてんてこまいですね。

とは言っても、彼女も沢山の部下を持っているので、やっているのは指示出しばかりですが。

いやはや。彼女を雇用しなければああ成っていたのは私だと思うと、ぞっとしないですね。

他にも…

「北の国境の防備が進んでいない?もっと土木作業員を増やすんだ!

予備役の制度はちゃんと話したな?報酬の話も。告知のチラシも沢山作れ!

訓練で教鞭を取れる軍人が居ないだ?今回の戦いに参加した指揮官でどうにか工面しろ!

余剰になった兵士は国境警備や山岳部の警備に回せ!ただ飯食らいにさせるな!」

ブルーエルフのドレッドノート・バルバロイ氏もああだこうだとお仕事をしています。

いやはや…アレも私が彼女を雇用しなかったら私の肩に圧し掛かってるんですね。


畜生。アバズレのズヴェズダめ。


二人の苦労を見ていると、全て抱えた場合の苦しさを思うに胃袋がキリキリします。

ともあれ。富国の為には経済活動をしなくては。

具体的には他国とのやり取り。早い話が商売ですね。

幸いにも、王国には様々な物資があります。

食べ物。鉱石。家畜。木材。特産品。あと観光名所。

有り難い事にご利益のある土地神様の神殿もあります。コレを使わない手立てはありません。

しかし参りました。流石に商売事に関してはズブの素人です。

魔法式書くのは得意ですが商売の算盤弾くのは苦手です。どうしたものやら…。




そんな事を考えながら数日を過ごしていると、客人の姿がありました。

鳥族の商売人。南の方からいらっしゃったとか。

「どうも、アルバトロス・ベンヌと申します」

「アリシア・ワルシャートと申します。失礼ながら…誰の紹介で?」

「いやはや。ジョゼットお嬢が何やら新しい友人と楽しい事をしている。と聞いたので

遠くから馳せ参じた次第です。戦争もどうにか終って良かったですねぇ」

「ええ。まぁ」

はて。一応【勇者としての私】の存在は公には隠しているのですが。

嗅覚が鋭いんでしょうかね。この人。ジョゼット氏は口が堅い人ですし。

「そうだ。お近づきの印に南の方のお菓子でも」

と、差し出されたのは焼き菓子の様に見えました。

フムン。毒物の気配はありません。

私が人知れず魔法で毒物検査をしながらジロジロ見ていると

アルバトロスは焼き菓子を摘んでヒョイと食べました。

「見ず知らずの方からの贈り物は怖いですからねぇ。これでどうでしょう?」

私の気持ちも理解して頂けたようで。頂きます。

あ。美味しい。

「さて。一服もした所でご相談なのですが」

おや、お早い。

「王国は復興の為にお金を欲しているのではありませんか?」

「その通りです。国土の半分を蹂躙されましたので」

「しかし、外貨を得る手段を持ち合わせていないと見ます」

「えぇ。一握りの金持ちは傲慢で、私腹を肥やす事しかしてくれませんでした」

税収、ガツッとかけてやったお陰でブーイング酷かったですが、押し切りました。

「商売事は信頼が命なのに。愚かしいですねぇ…そこでです。私を使ってくれませんか?」

フム…。

「ジョゼットお嬢他、私はこう見えて王国のアクの強い魔法使いや錬金術師を相手に

商売の信頼を勝ち取ってきました。如何でしょう?」

「いきなりそう言われても『はいそうですか』とは言えないんですよね」

商売ってズッコケると国を容易く傾けてくれますので。

「では数ヶ月。数ヶ月頂けませんか?私の能力をお見せしたい。

王国の商品を使って稼いで見せましょう。たっぷりと」

ニッコリと笑うアルバトロスの顔は、ちょっぴり怖く見えました。

「あー…倫理だとか人権とか無視するのは勘弁して下さいね」

「勿論。奴隷商売ってしんどいらしいので」

王国は奴隷制度取りやめちゃいましたからね。私の考えで。




それから数ヵ月後…アルバトロス・ベンヌが帰ってきました。沢山の金貨を抱えて。

ええ。小国の一年の稼ぎと言われる様なソレを彼は数ヶ月で稼いできました。

私はビックリ。ドレッドノート氏は金貨の余りの眩しさに目が潰れそうになり

お金に飢えてるジョゼット氏は口から涎が出てました。だらしの無い。

「如何でしょうか?魔法少女殿。私の能力を、理解して頂けましたか?」

私の前で膝をつくアルバトロスに私は暫く呆然としていましたが、気を引き締めて言いました。

「アルバトロス・ベンヌさん。貴方を王国の経済顧問として任命したいです」

「おやおや、まぁまぁ」

予想だにしない言葉が飛び込んできた。と言わんばかりの表情でアルバトロスが私を見ます。

「やはり貴女が、噂の…」

「其処までだ。それ以上は言ってはいけない」

ドレッドノート氏が抜いた剣の鋭い切っ先が、彼に突きつけられます。

「いやいや。守秘義務は守りますとも。えぇ」

「ならばよし」

ああ。噂になっちゃってるんですか。私。

まぁかなりヤンチャをやっちゃいましたからね。悪い帝国相手に。




ともあれ。

経済復興の為の商売は、上手い事行きそうです。

次はどうしましょうか。悩ましいですね。

ああそうだ。やらないといけない事がありました。

しかしそれは、もう少し経済が立て直されてからやる事にしましょう。

今やらかしたのでは、国がコロッとひっくり返る事が確実でしょうから。

新しいお友達の手腕に頼りましょう。


それでは皆様ごきげんよう。

…ところでアルバトロス?美味しいお菓子買ってきてくれませんか?個人的に。

お菓子下さい。お菓子ー。






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