第五話
娯楽が足りない。がるるるる。
…おっと失礼。お見苦しい所を失礼しました。
改めて…
皆様ごきげんよう。アリシア・ワルシャートと申します。
以前は私の新しい友人、フェアリィ族のジョゼット・カリオストロ氏のお陰で様々な改革が行えました。
教育やら、医者を増やそうとか、食料備蓄とか、なんやかんや。
やってる事は殆ど政治的介入ですな。コレの何処が勇者なのだか。
しかし、敵国たる【帝国】にやられたくはありません。
やられない為には負けない国作りをしないといけません。
つまりは、豊かな国になって、備蓄を増やして、強い兵隊を作る事。
願わくば同盟国も作りたいですが、まだソコに至る程の力は無いですね。
幸いにも悪い国の【帝国】は各地を侵略中な様で、手札は薄い感じ。
この間にグングン国力と軍備を高めましょう。
他にも色々としなくてはなりませんが。嗚呼やれやれ。
ともあれ。今日も参りましょう。
どうでも良いですが娯楽が足りません。オッペーラは一度鑑賞するには時間が掛かるしお金もかかる。
サーカスはあまり趣味ではありません。お酒飲んでも直ぐに酔っ払って眠ります。
これは新しい娯楽を作らなくては。
今日お邪魔したのはドワーフの大きな鍛冶屋です。
お歴々の方々にも来て頂きました。見学会ですな。
工場では様々な人々が働いています。筋骨隆々のオークが重い材料を運んだり、鞴を吹いたり。
手先の器用なエルフやゴブリンが高級品の剣やらナイフやらに彫金したり。
主役たるドワーフは大きな金槌をガツンガツンと振り回したりしておりました。
適材適所政策と、人種差別の撤廃を行ったお陰で国力は伸びつつあります。
元より、ロマンを追いつつも効率も求めるドワーフ一派にとって
力持ちのオークや手先の器用なエルフと言った存在を雇用するのは、正に渡りに舟だった様子。
今まではこっそり雇用していたのだそーで。
元より、使える存在を野放しにするなんて勿体無いんですよ。
閑話休題。
今回は、そんな鍛冶屋の一幕を見に来た訳ではありません。
「工場長!注文した物は出来ていますか?」
私がヒゲモジャのナイスミドルの工場長に問い掛けると、
彼は眩しい笑顔で答えてくれました。歯並び綺麗ですね。
「勿論よ!裏口に置いてある。付いてきな」
さて。裏口へ歩いていくと何か細長い物に布が被せられて居ます。
「こいつが注文された、カノーンだ!」
工場長がどうだとばかりに名前を言い放ちながら布を引っぺがします。
そこにあったのは、頑丈な鉄で作られた長い筒。早い話が大砲です。
鋳造で作られていますが、頑丈な作りの為、割とほっそりとしています。
重さはオークでも担げるレベルだとか。
とても簡単な作りではありますが、ライフリングと砲栓を備え、命中精度と装填のしやすさを両立しています。
更には、ゼンマイ仕掛けの、ヒモ式着火装置付き。
ヒモを引っ張ると火打石と鉄がぶつかりあい、着火すると言う代物。
引っ張った後はゼンマイが引っ張ったヒモを元に戻してくれると言う訳です。
これで態々、火縄を点火口に当てずに済みます。
あれ、結構おっかないんですよね。
また、この着火装置は規格化しておいたので、壊れても簡単に取り替えられます。
幾らかは私の入れ知恵ですが、多くは錬金術師兼科学者のジョゼット氏と彼女らの悪友の悪知恵でもあります。
と言う訳で試し撃ちと参りましょう。
狙いは遠くで突っ立っている頑丈なゴーレムです。現状、今の世界規模で平均的に見かけられる、ゴーレム使いが戦場で出してくるモノ、と言われています。
狙いを定めて。ファイア!
ドォン!と激しい音を立ててカノーンは発砲。お歴々の方々はその音にビックリ仰天。
近くの茂みからは小鳥が驚いて飛び立ちました。
すると、瞬く暇も無く、遠くに突っ立っていたゴーレムは見事に爆発四散。
狙い通り胴体のほぼど真ん中を撃ちぬけました。ヒャッホウ。
斯くして、プレゼンテーションが終りました。
同時にこれから説明会にも入りました。
絶対に、この大砲を流出してはならないと。
ライフリングや砲栓と言った技術は瞬く間に盗まれ、コチラの軍事的優位が消えてしまう為である。と懇々と私やジョゼットは説明しました。
でもきっと、何処かで流出するのだろうなぁ…と私は思うのであった。
何故なら、金の亡者と言う奴は自分の魂でさえ、売り払って金にしてしまうのだから。
それから、これから。
再び戦場です。
今回は私やジョゼット氏も、戦場に立っています。
理由は言わずもがな。戦場視察と効果の確認です。
あと、抜き打ちで前線に立っている兵士が悪さをしていないかだとか
不味い食事が出されていないかとか、兵士のイジメは無いか等のチェックも兼ねて。
ブルーエルフのドレッドノート氏はとても頑張ってくれています。彼女の腹心の方々も。
それでもやっぱり、腐敗しきった軍部を叩き直すには時間が掛かります。
私の大事な腹心、狼族のヴォウルガングことヴォルフの親しい友人等にも手伝って貰い、誠実な指揮官や軍人を次々入れて貰っては居ます。
「ケットシーの手も借りたいですな。にゃあ」
などとぼやいていました。そんなの、私だって借りたいですよ。
さてはて…繰り返し、コチラ【王国軍】との巻き返しの戦闘で幾らか勉強した【帝国側】の軍隊は最近は少しは警戒する様になりました。
そりゃそうでしょう。生き残りが帰っていけば経験値が溜まるのですから。
しかし、今回はどうでしょうか。
なだれ込みはしませんが、やはりコチラ側に食いついてきてくれる模様。
徐々に徐々に、コチラ側に引っ張ってこれました。これで準備は万端。
「砲兵に告ぐ。攻撃開始!味方には当てるなよ」
念話で号令を出すと、次々にカノーンが火を噴きました。
空を駆ける砲弾。そして着弾した砲弾は、次々に敵の兵士をなぎ倒していくではありませんか。
まるでボーリングですな。砲弾がボールで、敵兵はボーリングピン。
初めて経験する圧倒的な攻撃に、【帝国側】の兵士は阿鼻叫喚の地獄絵図。
対してコチラは士気も充分。
情けなくも逃げ出していくわけでございます。敵の兵士達は。
そこを空かさず攻撃する我らがワイバーンドライバー。
ワイバーンに火を噴いてもらう訳ではございません。いえ、火を噴ける種類のワイバーンも居ますが。
頭上から火薬のたっぷりと詰まった爆弾や、油の詰ったタルを落として頂く訳でございます。
早い話が爆撃ですな。ドドーンと。
遠くからは一方的に撃たれ、頭上からは爆弾に燃えるタル。
マトモな指揮が行える訳も無く、逃げ出す兵士や白旗を挙げる兵士ばかり。
斯くしてこの度も無事に勝利を掴む事が出来ました。
バンザイ。
さて。派手に爆発させたり燃やしたり。大砲ぶっ放したりして愉快痛快爽快快、と言う感じではありますが
それもこれも、事前に仕込んでおいたモノがあってこそです。
火薬作り。大変でした。
ヨモギやらの特定の野草や糞尿と敵兵の死体を土に埋めて必死に硝石作ったりとか
鉱山の各地に問い掛けて硫黄を買い集めたり、錬金術師に精製して貰ったりだとか
質の良い木炭をかき集めてきたりとか。
火薬を作る為の作業も大変でした。この事の難しさが判るのは科学者や錬金術師だけですからね。
だけども、科学者や錬金術師に火薬の精製を任せる訳にはいきませんので
几帳面で、手先が器用で、変な事をしない、言いつけをキッチリ守ってくれる人々を呼び集めました。
エルフ族とか、犬族とかの人達ですね。
魔法だなんだも使ったお陰で、火薬の量産態勢が整ってくれました。
幸いにも事故は起きていないみたいです。休憩もたっぷり取らせていますからね。
それに、事故が起きたらどうなるか、等の判例も作業員に見せてますし。
お陰様でバンバン爆弾作って、大砲がぶっ放せます。
反撃に出てからと言う物、こちらは快進撃を続けていますが
大砲と爆弾のお陰でその快進撃に拍車が掛かりました。
えぇ。国土の半分を奪われていた【王国】でしたが、無事に失われていた国土を取り戻せました。
全ては大砲と爆弾があってこそです。
いやはや。補給線が延びて大変でしたけれども。そこは以前から改良するように、と言ってましたのでどうにかなりました。
沢山の馬車作ったり、馬車を改良したり、四足の生き物に牽かせたり、兵士の移動を楽にしたり。
ともあれ、人心地つきそうです。
しかし、これはまだまだ序盤です。
勝って兜の緒を締めるだけじゃなく、富国強兵をしませんと。
問題は、倒した傍から次々湧いてくるのです
しかし、今はこの辺で。
それでは皆様ごきげんよう。