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第四話






此方の世界に招かれて…と言うよりは

拉致同然の召喚を受けてから落ち着かない日々が続いておりましたが

有能な人材を発掘した事で余裕が出てまいりました。

余裕の無い生活はいけません。

最終的には死ぬだけです。


…コホン。


皆様ごきげんよう。アリシア・ワルシャートと申します。

ブルーエルフの女性戦士、ドレッドノート・バルバロス のお陰で戦線の維持がかなり楽になりました。

彼女の実力に見合った兵士の選定と、柔軟な戦法やら

魔法使いや錬金術師、ゴーレムマスターの使役によって効率よく、また的確な防衛ラインの構築が出来た事がそれに起因するでしょう。

しかし、効率が良くなれば今まで目を瞑られていた事が問題として浮き上がるのは当然の事。

悪化しないウチにちゃっちゃと改良しましょう。えぇ。




と、言う訳で。会議を開きました。偉い人呼び集めて。

無駄口叩く奴は首に縄巻きつけて無理矢理引っ張ってきました。国王命令で。

諸悪の根源のアバズレ、国王のズヴェズダはこんな事に仕事をさせられるのは不満たらたらな様でしたが異議を唱えさせる暇はありません。

と言うか、仕事しなさい仕事。

私だけが仕事させられるなんて不愉快極まります。

それに、雑菌たっぷりの怪我を放置してたら、腐り落ちるのは誰の目にも見えているのですから。

では先ず。速達ワイバーン便に乗って態々最前線から一時的に来て貰ったドレッドノート氏から。

「端的に申し上げよう。飯が不味い」

おぉ。ダイレクトでございます。

「今までは何とか不味い飯でも凌いできたが、これ以上あの不味い飯で戦い続けるのは無理無茶無謀であると言わせて貰おう。

硬くて咬み切れやしないパン。生ぬるいスープ。塩辛いだけの味のしない干し肉に酸っぱいワイン。どうやってそんなもので戦えと言う!」

ドン!とテーブルが叩かれて、ヒビが入りました。

私だってそんな食生活は御免です。

ええ。何せ私もそれ、食べましたから。

硬いパンを食べようにも、ナイフは弾くし、千切ろうにも千切れず。硬くて噛み付けず、スープで柔らかくしようにもスープは温く、肝心のスープも味はイマイチ。干し肉なんて皮を食ってるんだか、肉を食ってるんだか分りやしない。

挙句ワインは酸っぱい上に、これ、発酵しているのか、腐りかけなのか理解に苦しむ有様。

「と言う訳で。皆様にも食べていただきたいと思います」

私ことアリシアがそう言うと、会議に並んだ皆様の目の前にぞんざいに食事が出されました。

硬くて咬み切れやしないパン。生ぬるいスープ。塩辛いだけの味のしない干し肉に酸っぱいワイン。

ええ。この為だけに皆様の朝食は抜いて頂きました。監視をバッチリつけて。

効果は抜群だ。辟易した顔が見れました。

ざまあみろ。

「と、言う訳で。豪華でなくていいので、安価で、お腹に満ちて、美味しい食事の開発を行いたいと思います。異議申し立ては?」

満場一致で可決されました。

ヒャッホウ。

序でに戦場での大量調理のシステムと、保存食の開発も捻じ込ませてもらいました。

これは将来、国の為にもなるので今のうちに開発しておくべきなのです。

「では次の事を。皮肉な事に今まで我が国はその半分の領土を敵方に奪われていた事で、補給が安易だった。

しかし、敵を退け、奪われた土地を取り戻す事に、補給の線が延びて戦線の維持が難しくなっている。

幾らどれだけ消耗を抑えようとも、食料やら弓矢やら甲冑やらの戦争物資が無くては話にならない。即急に補給の線の強化を願う」

「因みにこのまま放ったらかしにしているとあと一週間でカツカツになります。申し上げましょう。カツカツになった補給で敵と戦ったら我が方は負けます」

一度の防衛戦でどれだけの物資や人員を消費するのか、数字とグラフにして分りやすく皆様に開示した所、コレも瞬く間に満場一致で可決されました。



さてはて。ドレッドノート氏のお仕事はコレぐらいで終りです。次に行きましょう。

新しい私のお友達の紹介です。

青白い程の肌に、背丈は4尺ほど。染み塗れの実験着を身を纏うのは魔法使いであり、科学者であり、錬金術師の可愛らしいフェアリィ族の人でした。

目元はゆるく、眠たげな半眼に随分とご立派なクマを作っていましたが。

「ジョゼット・カリオストロです。お見知りおきを」

見た目の可愛らしさとは裏腹のガラガラ声の彼女に、周りの方々はビックリ。

「戦争がらみで一つ。軍医が足りません。ああ、魔法使いが居るのだから、ケアーの魔法でどうにか成るだろう?と思われている方々ばかりなのでハッキリ言いましょう。

ケアーの魔法はドチャクソ疲れるのでやってられません。

そもそも、人体の神秘に片足突っ込むケアーの魔法を習得している魔法使いは『我が国の』全体の2割程度です。

戦争に引っ張り出された魔法使いが都合よくケアーの魔法を覚えているなんて事はありません。寧ろ大半は相手を燃やすか痺れ殺すか凍らせるしか出来ません。

そう言う訳で、軍医が必要です。

戦場での負傷兵の処置の如何で、兵士のその後が決まります。

助かる命も助からないし、軍医さえ居れば今まで助からなかった命も助かります。

オマケで戦死した兵士の慰謝料とか払わずに済みます。

魔法使いや錬金術師の数も足りません。と言うかそもそも、馬鹿ばっかりなのです。改革が必要なのです。学校建てて下さい学校。

我が国の就学率の低さと言ったら目も当てられません。

医者や魔法使い、錬金術師のみならず、知識人が増えればいい事尽くめです。

先ず、過酷な医者の労働環境が減らせます。少ない医者で沢山の患者を抱えてる量が減りますし、山奥の村にも医者を常駐させられます。

魔法使いや錬金術師、知識人が増えれば、その分魔法研究や科学の発展に役立ち、国の発展に役立ちます。

食糧の増産や出生率の拡大、病魔の予防など、大助かりです。

と言うか今までの国のあり方が酷かったのです。やれ胡散臭いだのやれ根暗だの言って私達魔法使いや錬金術師や科学者を蔑ろにして頭デッカチの筋肉馬鹿ばっかり重宝してくれてブツクサブツクサ…」




…とまぁ、ジョゼット氏の恨み90%の様な、国家改良計画が発表されました。

お話を聞いたお歴々の方々はもうゲンナリ。その有様を見てドレッドノート氏はゲラゲラ笑っていましたが。

斯くして、私の思惑通り、この王国の富国計画が発動されたのでした。

ジリ貧のまま戦い続けるなんて馬鹿のやる事ですから。

戦争で死んでしまった種族の人口も増やさなければなりませんし。

戦争するにはお金も物資も必要ですし。

戦争で勝つには相手よりも効率よく兵士を殺して、ズルをしなくてはなりませんし。嗚呼やれやれ。




嗚呼。ズルと言えば…

とある静かなバーの一角で、私と、ドレッドノートと、ジョゼット、そしてヴォルフの四人で夕飯を食べている最中のこと。

「ジョゼット。ジョゼット。例の計画は順調ですよ」

私、アリシアが炭酸水を飲んでいるジョゼットに声をかけると、眠たげな半眼を輝かせてくれました。

「本当に!?アリシア、愛しているわ!」

「ええ。輸送計画は滞りなく進行中。他にも必要な物資を必死にかき集めてます」

「なんだ。隠し事か?俺も混ぜろ」

ドレッドノートが楽しげに顔を寄せてきます。ヴォルフも興味津々のようで。

「私が、敵兵の死体を集めておいてくださいと言ったのを覚えていますか?」

「趣味の悪い事をする、と前線の兵士からはブーイングを受けているアレですな」

ハムステーキを上品に食べながら喋るヴォルフの言葉に私は頷く。

「アレで火薬を作ります。大量に」

「…火薬か?あの、バーンって弾ける。爆発魔法とか、油じゃイカンのか?我が君」

ドレッドノートの疑問顔に私は頷き返しました。

「爆発魔法って結構難しいし、体力使うので。魔法が使えない人でも爆発魔法と同じ事が出来たら、魔法使いも楽でしょう?」

「それは確かに…だが、それだけか?」

「勿論。それだけじゃない」

ケッケッケ。と悪党面丸出しの笑顔でジョゼットは言いました。

「とてもとても楽しい事が出来る。楽して戦争の優位を握れるわ」

「…怖いなぁ。俺、錬金術師だけは敵に回さないで置こう」

「自分もですな」

ドレッドノートとヴォルフの言葉に、ジョゼットはとても良い気分な表情をしています。


ともあれ。

「我々の未来に乾杯。死なない為に。繁栄の為に。私一人だけが貧乏くじ引かないために」

『乾杯』

楽しい夕食を、友と一緒に過ごすと言うのは幸せです。


さて。はて。どの様に国を運営していきましょうか。

土は耕した。種を蒔いて、水もやった。

あとは無事に芽吹いて実を実らせれば、次のステップに進めます。

実るだけじゃダメなのです。改良し、沢山収穫出来ないと。

それでは皆様ごきげんよう。






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