第二話
皆様ごきげんよう。アリシア・ワルシャートと申します。
先日は無事に敵国の軍勢を退けた訳ですが、いやはやそれにも苦労がありました。
何故ならば王国の軍隊とはハッキリと申し上げて質ばかり求めて効率と言うものを真っ向から無視した代物でしたから。
コレはいけない。軍隊の質や内容に固執する余り補給とか維持とかがまま成らない。オマケに王国は負けっぱなしと来ていました。
即急に改善策を打ち出さなくてはいけなかったのです。誰だって、沈みそうな船からは救命ボートに飛び乗りますし、飛行船が落っこちそうならパラシュウトを背負うでしょう?つまりはそう言う事。
時はやや遡ります。頃合いは私アリシアがこの王国に召喚されてちょっと経った頃。
国王のズヴェズダが召使の小父さんやら小間使いやらを連れて私の所に大量の本、巻物、走り書き等などを抱えて帰ってきました。
広い木のテーブルに大きな地図と情報源たる書物やメモやら撒き散らして、メモを取りながら話を伺ったところ…あら大変。
国土の約半分を隣接した国…俗に、世界的には【帝国】と呼ばれる覇権国家の属国によって占領されています。不味い。これは拙い。とても拙い。
何が拙いかって、カビの生えたパンをカビも取らずに食べるぐらい。そのままお腹壊してトイレに行かなくてはならない。何日もお腹がズキズキ痛くなるレベル。
直ぐにでも敵の侵攻を止めねば成りません。防御の陣を引いて敵に攻め込むのは無価値か、膨大な出血を強いるようなモノを。
…ところが…
「…は?今なんと?」
「ですから、軍隊はこれっぽっちなんですよぉ」
ズヴェズダから聞いた、この王国の軍隊の数は余りにも少ない物でした。
どれくらいか?と言われますと、敵国の軍隊の数が山火事であるならば、こちらはライターと言った所。
いえね。そりゃこちらは身体能力の優れる亜人で構成された軍隊ですよ?一騎当千でございますよ?でも数の暴力に敵う訳がありません。
どんなに強い兵士であろうと、ザコ千人から石を投げられれば死にます。
まるで山火事を手の平の僅かな水で消火しろと言うものです。馬鹿か!
「軍隊の責任者を呼びなさい!」
私は叫びました。畜生。
暫くして。嗚呼、一分一秒たりとも惜しいと言うのに。
これでもかと待たされて、やってきました王国の軍隊の一番偉い人。
虎の亜人で、片目が潰されていました。おや強面。どうでもいいですが。
彼は酷く不遜な態度で私を見るなり完璧に見下す様な表情を浮かべました。ド畜生。
横には凛々しい狼の亜人。此方は温和な表情で私に会釈してくれました。
会釈には会釈を返しましょう。挨拶は大事です。
「私、魔法少女のアリシア・ワルシャートと申します。僭越ながら国王より勇者の任を与えられた身です」
簡潔に、判りやすく自己紹介。
すると虎の亜人はフンと鼻を鳴らしながらソッポを向きました。嫌な奴だ。
対して狼の方は頷き返し、言葉を返してくれました。
「自己紹介ありがとうございます。私はヴォルフガング・ワーグナー。親しくヴォルフとお呼びください。国王をお守りする近衛騎士団の団長と、相談役を務めています」
「こんな小娘に何が出来ると言うのだ。国王は若くして耄碌されたのか?」
嗚呼もう、このデカイだけの猫は心底人をイラつかせる天才とお見受けした。
横に居るヴォルフもやれやれとばかりに眉毛を潜めている。苦労しているのが伺える。
「判りやすく言おう。王国の軍隊がこのままでは、王国は滅亡する」
「何を!?」
大きな猫が怒るが無視しよう。馬鹿に使う時間は無いのだ。
「兵士の数が圧倒的に足りないのだ。数に押されてジワジワと削られ、今に王国は半分も敵国に取られている。今すぐやり方を変えないと必ず死ぬ」
「貴様!このわしが、無能だと言うのか」
目を血走らせて此方を睨む大きな猫に私はただ呆れた。愚者ほど自分の失敗を認めず、怒るのだから。
「貴方が無能かどうかは判らないが、負け続けた結果は事実だ。時にヴォルフ?」
「なんでしょう。勇者様」
「アリシアでいい。少し聞きたい事が…」
そう言うと私はヴォルフに近付き、ヒソヒソと声を潜めた。丸判りの内緒話だが、今は時間が惜しいのだ。
勿論。大きな猫に私達の内緒話が聞こえない様に、静寂の魔法は掛けさせてもらう。
「ぶっちゃけた話、どうなのだ?あのデカイ虎の軍人としての価値は」
「丸っきりありません。コイン1つの値打ちも無い。過去の成功に固執してズルズルと引きずったままの老害で御座います。彼の存在を疎む人々は軍人でなくとも沢山居ますとも」
「つまり、【無能な働き者】か」
私が率直にデカイ虎を評価すると、ヴォルフはケタケタと楽しそうに笑った。
「無能!無能な働き者!なんて見事な表現ですか!笑いすぎてお腹が痛い!」
「ヴォルフ君、笑うのは結構だが今は少しだけ真面目な話が必要だ。もう一つ聞こう。彼は死んでも誰も悲しまないか」
「殆ど居ませんな。彼に寄生する蚤ぐらいなものでしょう」
わお。なんて鋭い切り替えし。気に入った。
「ならば話は早い」
内緒話を終えて私はにこやかに大きな虎へと近付いた。
「閣下!貴方に素晴らしいお役目をお願いしたいと思います!」
「……なんなのだ。それは」
私は素早く、腰に吊るしていた大口径のリボルバーを抜いて構えた。
「名誉の戦死です」
BANG!と鋭い銃声が轟き、血糊が大量にぶちまけられた。
それからは大変でした。邪魔者を消して、軍隊を今出来る限り最適化しないといけなかったのですから。
軍隊は、虎や狼、犬と言った種族の亜人だけで構成されていた所を、兎に角呼べるだけ、戦いに慣れていた人々を呼びました。
ええ。弓矢や魔法に長けたエルフや、腕力に自慢のあるドワーフにオーク。ワイバーンライダー等など。
不平や不満?勿論黙らせました。国家の存亡が掛かっているこの状況で、どんな不平や不満が言えましょう。
腹が減って今にも死にそうなのに、豪華料理でないと嫌だと言っている様なものです。愚かしい。
勿論、それでも判らないと言う頭の固い判らず屋の方々には実力行使で黙らせて頂きました。
…うん?具体的に何をしたのか、ですって?
死なない程度の爆発エンチャントを与えた銃の早撃ちで半殺しにしただけです。私は卑怯者かつ腕力も非力なので、使える物は何だって使う主義ですから。
但し。この方法はあまりお勧めできない。
何故って暴力で言い聞かせる行いは、何度も繰り返すとただのキチガイですから。
望ましいのは知的な観点から敬われるのが良いですね。
お金やご褒美で働いてくれるから。
あ、さて。
軍隊には他にも無駄が山ほどありました。先ずお給料。死ぬかもしれない。と言う事を差し引いても与え過ぎです。バッサリとカットしました。
次。装備品。無駄な装飾が多い!しかもこの装飾付きの装備は国の金で買ったと言う。止めさせました。
今持っている装備品については何も文句は言いませんし、個人のお金で買った装備品に装飾を付ける事には何も文句は言わない事にしました。自己負担ですからね。
指揮官。馬鹿ばっかり過ぎたので短時間でお勉強させました。真っ向から敵にぶつかりに行くなんて無駄な事甚だしい。
いえ、敵の数が少ないなら蹂躙すれば、心理的ダメージも与えられますがね。
相手が圧倒的に多いのに突っ込んでいくのは馬鹿以外の何物でも無い。
無論、勉強中は卑怯だ何だと言われましたが、
「これ以上死者を出してどうするつもりだ」
…と、言いながら今まで死んだ軍人の数と、種族の人口の比率を言ったら黙りました。
とどのつまり、これ以上無様に死に続けるとお前らの種族は殆ど消えるぞ。と言ってやった訳で御座います。
生き物ですからね。死ぬのは怖いです。私だって怖いです。この世界には蘇生術もあるらしいですが出来る人はとても少ない上に恐ろしく面倒くさいらしいです。
現実を叩きつけられれば嫌でも黙ります。
そんなこんなで、アレコレと手を回して、卑怯者と罵られようとも私は先ほどの戦いを征しました。
勝てば良いのです。勝てば。勝利と言う結果が付いてくれば、馬鹿でも理解します。
しかし、働きすぎるのはいけない。
あのアバズレのズヴェズダに召喚されてから、私はずっと働きづめ。
ズヴェズダの小間使いや、頭の良いヴォルフが沢山手伝ってくれましたがコレでは首が回りません。
…次の手段を考えなくてはいけません。
さておき。今回はこれくらいで。
それでは皆様ごきげんよう。