ハネウマライダー
「さあ、行くぞ」
ポニョンが馬に飛び乗った。
「え?もう行くの?」
「当たり前だろ!こうしている間にも、あんたの国民がひどい目にあってるんだ」
「そ、そうだったな」
なんか展開が早いなあ。少し落ち着きたいところだが、そうも言ってられない。
これは普通の戦争とは違う。一斉スタートのバトルロワイヤルだ。それが意味するところは深い。
「おい、行くぞ」
ポニョンが馬上で僕を見下ろしていった。
「ポニョン」
「何だい?」
「俺、馬に乗ったことないんだけど」
「手綱を引け!もっと脇を閉めて、力を入れすぎんな!」
「ケツが!ケツが!」
僕はケツに躍動する馬の背骨を感じていた。
ポニョンは僕と並走しながら、器用に馬術指導してくれている。
「根性がねえなあ!ここからオカピョン村まで走り間に基本を叩き込んでやる!」
ケツの感覚が無くなってきた。
「ポ、ポ、ポニョン!オカピョン村まで、どれくらいかかるんだ~」
「3日だ」
意識も無くなってきた。
「おい、ポニョン」
全く気付かなかったが、貴族の格好をした男が一人付いてきていた。
「将軍と呼べよ!貴族のあんちゃん!」
ポニョンが馬上で姿勢を正したまま言った。
「す、すまない。将軍、兵たちが着いてこれていないんだが。気づいているのか?」
え?そうなの?自分のことが精一杯で、全く気付きもしなかった。たしかに馬は10頭ほどで、残りの兵たちは徒歩だ。このスピードだと徒歩の兵たちは、随分と走らなければならないだろう。
「いいんだ」
ポニョンは僕の馬も操りながら、後ろを振り返った。
「けっこう付いてこれているじゃないか」
「そんな!20名ほどしか見えないぞ!」
残念ながら、僕は後ろに目をやるどころではない。
「品定め中だ」
ニヤッと笑いながらポニョンが言った。
「どういう意味だ?」
「付いてこられる奴等が、我が国の精鋭ってわけだ」
ポニョンが言った。
貴族の若者は小さく頷いた。彼の名はピンといった。
3日の間、僕は馬に揺られ続けた。
ポニョンのおかげで何とか馬を操れるようにはなった。でも尻の皮は剥け、二足歩行が困難になった。
オカピョン村の手前にある町に入った。
ここに来るまで、兵たちを叱咤し、通過する町や村で情報を確認し、そして自らの国を肌で知るよう努めた。
この国は豊かだ。どの町や村も綺麗に整っており、市場には物が溢れ、どこまでも続く農地が見えた。だからこそ、弱い。
国民は平和で、そこそこ豊かだ。だがそこには安易な満足感だけがあった。国を走っている間、何かが変わるような雰囲気を感じることができなかった。
意識を変えなくてはならない。これが一番最初の課題となるだろう。
3日目の夜までに、40人の兵が何とか追いついてきた。
「予想が当たったな。これだけいれば良いだろう」
ポニョンは活き活きとしている。彼は本当にただの泥棒なのか?きっと違う。
「ポニョン、君はどこで生まれたんだ」
「北の方かな」
「何をしていた」
「つまらんことさ。気づいたら泥棒になって檻にブチ込まれていた」
「き、君は軍人だったんじゃないか?」
僕はわざとらしく外の景色を見ながら聞いてみた。
「昔のことは、覚えちゃいないんだ。馬に小突かれてるアンタの泣きっ面なら、鮮明に覚えてんだけどな。ガハハハハ!」
こりゃ勝てないな。
明日はついに戦いが始まる。
長時間の移動で疲労困憊にも関わらず、僕はなかなか眠ることができなかった。