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監獄ロック

敵襲!?

準備どころか軍隊もないらしいんだけど・・・

「山賊です!山賊がオカピョン村を制圧してしまいました・・・だピョン」

どうやらこの国では語尾にピョンをつけるのは、敬語みたいなものなのだろうか?

「なんだ。山賊かよ。まあまだ戦争できないもんな」

「百人の完全武装した山賊らしいんだピョン」

「それって山賊なの?」

まずいことになった。オカピョン村は東の外れの国境沿いにある。たかが山賊程度に国境の村が荒らされているなんて噂が広まれば、国防上たまったものじゃない。

我が国が脆弱なのは十分知られているだろうが、戦争を決断するのはクラスメート、謂わば素人である。

絶対に最初は様子見になるはずだ。まやかし戦争になるはずだ。

だからこそ、変な噂が広がって『ものの試しに』攻められるような状況は困る。ただでさえ、僕には時間が必要なのだ。



「徹底的に鎮圧するぞ。山賊どもは面の皮を剥ぎ取り、手足を切り落とし・・・」

「誰が行くんだピョン?」

つい熱くなってしまった。

「せめて警察のような機関ぐらいはあるだろう?」

「いやあ、平和なもんで自警団くらいしかいないんだピョン。地方自治のために中央からそういった野蛮な・・・」

「近隣の自警団を今すぐかき集めてこい!」

まずは中央集権化していかないとダメだなこりゃ。

平時には素晴らしい平和な国だが、これから強制的に戦乱の幕が切って降ろされるのだ。



「王!スイートピー広場に自警団を集めましただピョン」

いちいち可愛らしい名前だなあ。あとで「革命広場」とかに変えてやる。

僕は王宮前にあるスイートピー広場に向かった。そこには百人ほどの男たちが地べたに座っていた。

「諸君!私が王だ!よく集まってくれた」

彼らはちらっと僕に目をやると、不安そうな顔をした。

初めての国民との会合だ。威厳よくしなければ。

「わ、わ、わ、私が王だ!」

うわあ、いきなり噛んでしまった。緊張すると声が上ずってしまう癖は、王になっても変わらなかった。

「じ、自警団の、代表者は誰だ?前に出てくだ・・・前に出よ!」

待つこと五分、代表者がすごすごと前に出てきた。今お前ら絶対じゃんけんしてただろう。

「あのぅ、わしらはその~ただの百姓でして~その~」

「褒美は取らす。相手はたかが山賊だ」

自信を持て!俺は王様なんだ。そうだ。イメージは信長。第六天魔王だよ俺は!僕は心の中で何度かキャラクターチェンジしながらも、理想の王様、君主像を織田信長から頂戴することにした。

「いや~その、なんというか~俺等にもしものことがあったら~家族や村は・・・」

「そんなことは起きない。万が一起きたとしても国が一生面倒を見る」

だんだん慣れてきて「っぽい」ことが言えるようになった。司馬遼太郎先生、ありがとうございます。

代表者は仲間の方をチラチラと見ている。

「同じ国民が襲われたんだぞ!助けようとは思わないのか?」

僕は頭に来て怒鳴った。というか焦っていた。


「ガハハハ!そいつは無理だぜ!新人の王様よう!」

どこからか地鳴りのような声がした。

「あ、ポニョン!」

ぴょん吉が向いた方向を見ると、地面すれすれに鉄格子がはめられた窓があった。そこから声が聞こえる。

「王、聞いてはなりません。奴はこの国始まって以来の大悪党なのだピョン」

僕はぴょん吉の静止を振りきって、暗い窓の方へ歩いて行った。

「なぜ無理なのか簡潔に話せ」

「この国の自警団は名誉職なんだ。こいつらは一家の主か家継ぎ坊やの集まり。だから死ぬのが怖いのさ。死ぬのが怖い兵隊なんざ、笑えちまうぜ。こいつらはいくら金を積まれようが、あんたを裏切ってでも生き延びようとするぜ」

中を覗いても暗くて何も見えない。

「ぴょん吉、これは牢屋か?この男は何をしたんだ?」

「この大悪党めはどこぞの国からの流れ者、行き倒れていたのを助けてやったにも関わらず、恩を仇で返しよって・・・ぴょん」

「迫真の演技だったろう!お宝のために3日も飯を抜いたんだからなあ」

「お宝?」

「この国に伝わる秘宝を、こやつは盗み取ろうと・・・」

「やい、ちびのおっさん!盗み取られたというのが正しいんじゃねえのかい」

暗がりの中から不敵な笑い声が聞こえる。


ぴょん吉曰く、このポニョンという男は行き倒れたフリをして城内に忍び込み、秘宝を掠め取ったという。

「まあ、ドジ踏んじまって今はこのザマだがな」

「このバカモノは仲間に裏切られたのでございますだピョン」

ポニョンは国境まで迎えに来た仲間たちといざこざを起こし、半殺しにされて道端に転がっていたところを御用となった。

「偽物を渡したのがバレちまってよ。拷問されちまって。いやあ、痛いのなんの。隙を見て逃げ出したんだが腹が減っては戦はできぬ、そこにおわしの自警団さんたちに拾われちまって」

「で、今はどうなっているんだ?」

僕はぴょん吉に聞いた。

「秘宝の隠し場所を話す代わりに釈放を求めていまして、まあ秘宝はたしかに受け取ったんだピョン。だがまた此奴を野に放つのもどうしたものかと・・・そんな時に新たな王が、貴方様がいらっしゃったんで、まあその・・・」

「忘れてやがったんだろう!この詐欺師野郎!早く出しやがれ!」

「釈放しろ」

僕はぴょん吉に言った。

「へ?」

こいつは使えるかもしれない。



ポニョンは見上げるような大男だった。

今にも襲いかかってきそうな荒々しい野生の臭いがした。

「新米の王様よう!恩に着るぜ!」

「無礼者!ピョン!」

ぴょん吉が聞こえるか聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。

「ポ、ぽ、ポニョン、そのぅ・・・」

間近で見るとかなり強面なポニョンさん。筋骨隆々の偉丈夫、ぼさぼさの熊みたいな髪の毛、飛び出しそうな黄色い目玉でこちらを見下ろしている。

「山賊の件かな?」

ご、ご名答。

「そうだ。まあ正直なところ、我が国には・・・」

「ボンクラしかいねえ」

そうともいう。

「まあなんだ。平和で良い所なんだけど・・・」

「将軍ってのはどうだい?」

「将軍?」

「そ、俺様が将軍!」

「馬鹿な!お前のような下賤の者が将軍だと!」

冷静さを失ったぴょん吉はまたしても「・・・ピョン」を忘れている。

「良いだろう」

周囲の視線が一気に自分に集まったのを感じた。

「王ピョン!」

ぴょん吉は青い顔をして叫んだ。

「城下の屋敷に美人妻付きでどうだ?」

「良いだろう。その代わり・・・」

「ヘマしたらこの首をやるぜ」

ポニョンの目が急に厳しくなる。もしかしたらこの男は、武士のような階級の出なのかもしれない。

僕は希望的観測だけで、この泥棒を将軍に任命した。

「よろしくな!大臣!」

背中を叩かれたぴょん吉は、痛みかショックのせいかはわからないが失神した。

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