一七歳の地図
「僕」の推理が始まります。
あの変な声たちからは、特に詳しい説明はなかった。
僕はキメラに渡された地図を開いた。
というか、僕に与えられたのはこのヘンテコな生き物と地図だけだった。
目が覚めた時、この豪華な椅子にキメラと地図を抱えて座っていたのだから。
地図には不自然なくらい正方形の大陸と、それを囲んだ海が描かれていた。
大陸には森や山脈や砂漠や雪原が、さも自然な体裁で存在している。
しかし人工的な正方形に上書きされているものだから、なんとも不条理な感じがした。
おそらくこの正方形をクラスの人数分である三〇に分割しているのだろう。
中央より少し西南方向の部分が、赤い色で正方形に近い形に縁取られている箇所があった。
ここが僕の領土、『国』なのだろうか?
では僕に与えられたのがこの箇所だと仮定すると、正方形の大陸を三〇分割したのだろう。僕の領土を見ても、ちょうど三〇倍すれば大陸がきれいに埋まりそうな大きさだ。おそらく縦が5段、横が6段くらいか?
地図には自分の領土の印以外は、何も書き足されていなかった。
誰がどの場所にいるか、それすらもわからない。
まずは情報収集する必要がありそうだ。
「やけに冷静じゃないか」
キメラがニヤニヤしながら言った。
僕は冷静だった。他のクラスメート達はどうしているだろうか?
きっと何が起こっているのかすら把握できずに、不安と恐怖で震えているに違いない。
僕はこの世界が、「僕達がいた世界の現実ではないが、僕にとっては現実である」と結論づけていた。仮想世界、異世界、呼び名は多くあるだろうが、夢や幻覚ではないという確かな実感があった。
僕はここに確かにいる。例えば今から目の前の窓から飛び降りれば、僕は地面に向かって無抵抗に落ちていき、骨は折れ、内臓は潰れ、そして死ぬだろう。
死の恐怖は未だに持続している。動物的な本能によって、僕は今たしかにここに存在しているとわかるのだ。
そして僕は今、今までにないくらい生を謳歌している。悲しいかな、僕達がいた世界では感じ得なかった感覚だ。
まあ、それも良いだろう。
「生きがい」とは自分の能力がうまく環境に適応しているという自信がある時に感じるもののようだ。
これは歴史でありシュミレーションゲームなんだ。
如何に早く状況を判断し、如何に早く敵を見据えて先手を打てるか、ただそれだけを競うゲームである。
この分野では、僕は他のクラスメートを大いに凌駕しているはずだ。
僕の数少ない得意分野・・・歴史とシュミレーションゲームという得意分野が、生の必須条件になったわけだから。
僕は誰に言われるでもなく、少ない小遣いで歴史の資料やシュミレーションゲームを買い集めていた。とにかくそれをやっていれば、無性に心地よかったのである。
それは現実世界からの逃避だったかもしれない。何か一つの分野でも良いから、他者より抜きん出ていたいという欲求がそうさせたとも読み取れよう。
だが今はその逃避した世界こそが、現実となったのだ。
「キメラ、天下統一ってのはどの辺までを言うんだい?」
「程度のことかい?」
キメラは首を傾げた。
「そうだよ。ただ領土を征服するだけで良いのか、それとも」
「それとも?」
キメラはまた首を傾げた。
「クラスメートを皆殺しにしなきゃならない・・・ってわけじゃないよね?」
僕はキメラを見つめた。