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最低の國  作者: 糯
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最低の國 0

-とある腐った国の腐った話-



弐本國にほんこく


 技術的・経済的な国際優位に恵まれ、国民は「平和」で「治安の良い」豊かな生活を送っている、弐本列島及び周辺の小さな島々を領土とする国の名だ。


 治安も良く、経済も安定しており、独特の文化を発展させたりと、海外からも非常に人気の高い弐本國。

 「平和」とは「安全」であること、だと国民は信じており、妙に潔癖な国民の気質のせいか、国内は悪く言えば巨大な無菌室のようで、特に食べ物の安全には弐本國内どこへ行ってもうるさい。「卵を生で食べられるのなんてこの国くらいだ」と海外からは絶賛されている。


 何かの拍子に珍しい病が国内に入ってきてしまっても、発達した医学で広がってしまう前に抑え込むことができ、重大な伝染病が広まることは非常に少ない。「間違いなく世界有数の平和な国だ」と世界からは思われているようだが、実際はとある問題に苦しめられていた。


 未確認生命体【モンスター】がある日、降って沸いたことである。


 そのモンスターと呼ばれる生き物たちの出処は現状不明。

 さらにモンスターという呼称の通り、人間に危害を加える生き物なのだ。


 ガリガリにやせ細った全身土気色の人型をしたものが通り魔的に人間を襲ったり、真っ青なダチョウに似た姿をしたモンスターが、鉄をも溶かす酸性の体液を吐き出しながら無差別に走り回ったり、はたまたマンモスも逃げ出しそうな程の堅牢な牙を持った、大型犬のような巨大モンスターが電線等を食い破ってライフラインを絶ってから攻め込んできたり等、危害の加え方も多岐に渡っており、政府は本当に手を焼いていた。


 このような正体不明のモンスターがいつ襲って来るのかわからないという事態に、政府も国民も怯える毎日を送っているのだ。

 政府はすぐに国防を担う政府組織・慈衛隊じえいたいを配備したが、生身の人間が特殊な能力や特性を持つモンスターに敵うはずもなく、犠牲者を出すばかりで根本的な解決には繋がらなかった。


 そこで政府は【弐本國のお家芸】と言われているガラパゴス的技術を総動員し、避難用の地下シェルターを急ごしらえで作る傍ら、モンスターを撃墜・撲滅に追い込むための最新兵器【対モンスター用ロボット】を専門家の全面協力のもと、数年かけて制作した。財源確保のために税金云々はもちろん大幅に上がったが、国民が政府に直接文句を言うことはなかった。


 ロボットが完成してすぐ、慈衛隊員が乗り込んで始めて出動し、モンスター5体を仕留め、さらに2体を生け捕りにした時は、オリンピック選手の金メダルを祝うかのように連日同じ内容のテレビ番組、変わり映えのしない同じ内容と、まったく興味のないモンスターの研究者の日常生活までもが流れ続け、しばらくの間トップニュースから動くことはなかった。


 さらにそれから数年、ロボットの生産・改良も急ピッチで進められ、モンスターの研究もある程度進んできた頃、さらなる問題が発生した。


 ロボットのパイロット要員の不足である。


 以前は人気職の公務員という憧れの枠で命を掛けて戦う慈衛隊のパイロットというのは名誉ある職業だ、と応募が殺到したロボットパイロットだが、時代が進んでいくに連れて国民の価値観は変わってきていた。


 公務員にはなりたいが命は惜しい、他の誰かがやればいい、自分以外の誰かが応募するだろう、という政府に言わせれば「意識の低下」から、同じ公務員に分類されるモンスターの研究職志望が7割以上を占めており、パイロットの募集は低迷の一途を辿っていた。


 パイロットがいなければ動かないロボット。なんとかして中身を調達しなければ。


 そこで政府のとった策は「不要とされる人間を探す」ことだった。


 乱暴な言い方をすれば、この先、國の発展に必要のない人間に国民たちの命を掛けたパイロット業務を押し付けるという非人道的な法律が完全非公開で施行される事になってしまったのだ。


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 この非道極まりない法律は、いきなり全国規模ではなく徐々に、かつ国家の最高機密として最大限に静かに始められることになった。


 手始めに、首都圏に位置している政府の運営する國立中学校「國立新聖しんせい学園中等部」が、厳正なる検討の末に新たな法律のスタート地点になることとなった。


 國立の中学校とあって学内設備も常に最新の教育設備が導入され、教員も一流大学卒業者のみを採用する等充実しており、毎日の通学に不利な条件がある生徒には寮まで準備してもらえるという、まさに「政府様さま」な学校だ。

 幼稚舎から大学院まで全て敷地内に有り、「まぐれ」でも幼稚舎に入れてしまえば実質、大学まで受験とは縁がなくなり、苦労を重ねる必要がない。

 至れり尽くせりのスタイルが保護者にも子供にも大人気という、一見すると非の打ち所のない教育施設なのだ。


 入学方法は従来通りの筆記試験と面接になっているが、ここ数年はその法律の準備期間のため、どこへも公表せずにこっそりと「来るもの拒まず」のスタイルに変更し、余程問題のない子供であれば学校に詰め込み、膨大な生徒数を抱えることとなった。そのおかげで、現在は中等部だけで生徒は1200人強という超マンモス校になっているのだ。


 そんな政府の黒い側面など知らず、大人数でわいわいと賑わう学校の正門。今日は始業式だ。

 最早、テーマパークの開園待ちのような人数が動き回っているなかで、1人の少女が学校には似合わない大きなキャリーケースをごろごろと引きずりながら、人気のない方向へ歩を進めていた。


 少女の容貌はあまり「真面目で中学生らしい」とは呼べず、肩より少し長いくらいのオレンジに近い茶色をした髪をバレッタでアップにし、制服も長袖のブラウスごとブレザーを肘下までまくり、学校指定の赤いリボンも緩く着用し、だらしなく結んでいる。スカートも膝上丈と、悪い意味で「今時の子」という印象を与える装いだった。


 一見、中学校生活を謳歌しているように見える少女は、心なしかどんよりとした表情で、入学式の入場を待つ群衆に興味も示さず、ある場所を目指して歩いていた。


 そう。彼女こそが、この学校で新年度から施行されることになった法律の被害者となる、「特別クラス」の生徒なのだ。


 新しいシステムとして組み込まれることになった「特別クラス」とは、平均より成績が著しく低かったり、素行不良や不登校の生徒が集められるクラスのことだ。


 表向きには「成績向上に向けて特別な学生寮へ移り、最大限に勉強をさせる」という、保護者は大喜びの説明になっているが、本当のところは前述した通り、モンスターと戦わせる兵隊として徴兵された集まりなのだ。


 もちろん、そんなことが漏れては一大事であるため、学校側は特別クラスに配属される子供たちにはもちろん、保護者にすらも本当のことを打ち明けていない。

 教室も一般生徒の集まる本校舎ではなく、本来ならば取り壊してしまう予定だったはずの旧校舎をわざわざ改築して、学校生活を送るスタイルを選択した。


 つまり、政府の手の付いていない人間は、なにも知らされずにこの仮初の平和な国で生きているのだ。


 (毎日毎日死ぬほど勉強とか……やっていけるのかなぁ)


 少女はこれから1年間「勉強漬けになる」と信じ込んでおり、非常に落胆してしまっていたのだ。毎日毎日勉強だなんて頭が割れてしまわないか、という不安とともに旧校舎への道を歩く。ひっぱるキャリーケースも、入っている物以上に重くて進みが遅い。


 神聖学園の敷地は全ての教育施設が集まっているためとても広く、特別クラスの旧校舎は本校舎から2キロほど離れたところに建っており、「勉強に集中させるため」という学校の意向で増設された大きな囲いがあり、一般生徒や付近の住民からは見えない仕組みになっている。

 本校舎に併設されたグラウンドやプール、体育館なども旧校舎からは反対側に位置しているため、旧校舎の方へ近づく生徒は誰もいなかった。


 うつむき気味に歩く少女。少しづつ式の開始を待つ一般生徒の声も遠のいていき、最後には周りに誰もいなくなった。もしかしてあの校舎に自分ひとりなのでは、とさらに不安が加速する。しかし、本校舎に戻ったところで自分の席はない。少女はまたとぼとぼとうつむき気味に歩いた。


 歩くこと十数分。


 「旧校舎、ってこれ…?」


 少女の目の前に現れたのは、真っ白で綺麗な外壁の白い3階建ての鉄筋校舎だった。

 ゆっくりとガラス戸を押し、彼女は侵入する。内装もしっかりとリフォームされており、塵ひとつ落ちていない綺麗さは、本校舎と遜色なかった。


 旧校舎という響きからはあまり想像できなかった綺麗な校舎に、少女は少し安心した。

 てっきり、アニメのような木造の、歩けばギシギシと音の響くような建物を想像していたからだ。


 さて旧校舎のどこへ行ったものか、と少女があたりを見渡せば、下駄箱の脇に大きな張り紙がしてあるのを見つけた。


 『特別クラスの生徒は1FのA教室に集合の事』


 下駄箱は、既に場所が割り振られているようで、出席番号らしき数字と、それぞれの名前が振り分けられていた。まるで小学校の低学年にわざわざしてやるような手厚い歓迎を受けたことに、少女は違和感を覚えた。


 さらに、そこそこの大人数がすれ違えるほどに広い下駄箱のスペースで、番号が割り振ってある場所は、少女の分も入れてたった6か所しか存在していない。どうやら、このクラスは6人だけの構成になっているようだ。


 (……廃校寸前の学校みたい)


 流石にそれは偏見か、と不安に駆られる自分を落ちつけながら、少女は自分の名前である「烏丸からすま ゆう」と名前の振られた下駄箱に、履いてきた靴を入れると、A教室と呼ばれる場所を目指して歩き出した。


中学時代から作り直しを重ねた作品です。

「空き時間にサッと読めるのに後引くおもしろさ」を追求して走り出した作品です。


ネットに小説を投稿するのは始めてですので、至らない点等多々あるかと思いますが末永くお付き合い頂けますと非常に嬉しいです。


拙い文章でお見苦しいかとは思いますが、皆様是非よろしくお願いいたします。

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