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最低の國  作者: 糯
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最低の国 17

 「一体何を考えている」

 「っ、申し訳ありません!」


 半壊した誠也のワルキューレを牽引してきた彈と、怪我の手当を受けた誠也が帰投すると司令室では、政府の大人達によって弐本の総理と巨大スクリーンによる、テレビ通話が始まっていた。議題はもちろん、誠也のことである。しかし当の誠也は発言を認められず、特別クラスの監督役の鳴海が必死に謝っていた。


 「何のための特別クラスだ。国民を危険な目にあわせるのが仕事ではないぞ」

 「申し訳ございません!私が指揮をしていながら、このような事…!」

 「謝罪で済むことではないというのは、君なら分かっているはずだが?」

 「……っ、謝って済むことでないのはもちろん、分かっております。」

 「さて、君の謝罪より、彼の処遇を決めなければ……」


 鳴海の全力の謝罪を邪険に扱う首相に負けず、謝り倒した鳴海のおかげで誠也の処遇は、半壊してしまったワルキューレの修理も含めて、1週間の謹慎処分で済むことになった。このとき、悠は鳴海と政府の信頼関係は決して薄いものではないことを実感し、鳴海という人物の凄さを改めて感じていた。


 鳴海に礼を言う暇どころか声を出す間も与えられずに、誠也は部屋に戻されると、軽率な行為をした自分を情けなく思い、力なく窓際の椅子に倒れ込んだ。


 「…ま、いいじゃん。授業出ないでいいしよ」


 少し遅れたタイミングで部屋に戻った彈は、自分なりに精一杯誠也を元気づけようとしたが、誠也は返事をする気力もないのか、返事はなかった。


 「つーか、俺も同じ立場だったら間違いなくあいつら殺そうとしてたと思うわ」

 「……そうかな」


 ようやく返事が返って来たかと思えば、いつも以上に声に力が無い誠也。

このまま自分以外と、ろくに接触のないまま1週間も部屋に閉じ込めておいたら、思い詰めて自殺でもしてしまわないかと彈は心配になった。


 「なあ。コンビニ行かね?」

 「…僕、謹慎処分なんだけど…」

 「いーからいーから!夜中抜け出しゃ、バレたりしねーよ!」



 その夜。

 彈に無理矢理引っ張られるような形で、誠也は夜中のコンビニに連れ出された。


 日も変わって人通りも疎らな真夜中だというのに、煌々と明かりの灯る店内では、店員が気だるそうに「いらっしゃいませ」と迎えてくれ、有線は発売されたばかりのアイドルの音楽が流れている。本当に自分達の置かれている世界と同じ世界なのだろうか、と誠也は妙なことを考えてしまった。


 「好きなモンいっぱい買って帰ろーぜ!」

 「…何か用事があったわけじゃないんだね」

 「夜中のコンビニなんてそんなもんだろー」

 「…来たことないから知らない…」


 誠也から見て、片っ端からお菓子をカゴに詰めていく彈はとても楽しそうに見えた。たかだかコンビニに来ただけだというのに。


 「ほら、遠慮しねぇでなんでも買えって!ガッコーからカネ貰ってるんだし?」


 彈は誠也に見せつけるように、携帯電話をちらちらと振ってみせた。


 特別クラスに配布された携帯電話には、本来ならば高校卒業まで与えられることのない、オートチャージ機能が追加されており、政府から月5万円の生活手当てが送金される仕組みになっている。つまり、特別クラスに配属になれば、命掛けの都市防衛と引き換えに、中学生にとっては大金の5万円が1ヶ月使いたい放題なのだ。


 「…遠慮しないで、ってこのお金は政府からの援助…」

 「よーするに税金だろ?この歳にして税金ドロボーなんざ、なかなかやれる機会ないと思うぜー!」


 彈の凄まじいまでのポジティブっぷりに疲れ果てたのか、誠也もお弁当コーナーの商品をカゴに入れる。夜は彈が部屋に食事を持って来たが、誠也は手をつけられるような精神状態ではなかった。


 しかし、今現在空腹か?と問われれば、そんなことはない。適当につついて、少し食べたふりでもして捨ててしまえばいい、と誠也は思っていた。


 「弁当1個なんてケチくせーことすんなって!」

 「…はいはい」


 そこからなんだかんだと無駄な物まで買い物をしてレジへと向かう。誠也は彈からの謎のプッシュにより、必要かどうかも怪しいのに、普段使わないメーカーの洗濯用洗剤までカゴに入れてしまった。当の彈はさらにレジでフライドチキンを2つ注文している。


 「無駄遣いが過ぎる」、と誠也は、順番にバーコードを通される商品達を見つめていた。


 バーコードの読み取りと、お弁当の加熱を待っていると、2人の背後でコンビニの入り口が開いた。


 「いらっしゃーせー」


 店員はレジを打ちながら片手間で挨拶をする。誠也はなんとなく気になり、入り口を振り返った。瞬間、表情が凍り付き、アイスの棚にでも押し込められたのではないかと疑う程の悪寒が全身を襲った。


 あのいじめグループが入店してきたのだ。


 「誠也?」

 「しっ!」


 心配した彈に名前を呼ばれてしまった誠也は、すぐに顔を背けた。しかし、時すでに遅し。いじめグループのリーダー・秀は誠也を見付けてしまったのだ。


 「あれ?渡部じゃーん。久しぶりー」

 「つか、お前今なにしてんの?高校入ってから1回も見てねーんだけど」

 「なにそいつトモダチ?見たことねー顔だな」


 震え上がる誠也。喉がカラカラに乾き、暑くもないのに汗が体中から吹き出してくる。


 「4280円になりますー」


 妙なタイミングで会計が終わり、彈が支払いを済ませようと電子マネーの入った携帯電話を読み取り部分にかざそうとした。


 「あ、俺の値引きのポイントもうないや。誠也ポイント持ってたよな?使っていい?」


 彈はいじめグループを完全無視し、誠也から携帯電話を借りようとしている。誠也が渋々、携帯電話をポケットから取り出した時、秀はとても面白そうな顔をした。


 「おい、その携帯電話、中坊用のじゃね?」

 「つーことはお前なに?また中坊してんの?中学でダブりとか、マジであるんだ!」

 「まー、仕方ねーかぁ。俺達が仲良くしてやってんのにお前全然学校こねーし」


 誠也は、何が仲良くだ、と内心では思っているが言葉は出ない。早く去りたい、早く帰りたい、と誠也は乱暴に商品の入ったビニール袋を持ち、彈を待たずに走り出そうとした。

 しかし、1歩踏み出そうとしたところで、非常に良く出来たチームワークで腕を掴まれ、道を阻まれてしまった。


 「まーまー、待ってよ待ってよー。」

 「オトモダチまだ会計してんじゃーん。つか、俺らに会ったの久々なのになんもないわけー?」


 「なあ誠也。さっきからこいつらなんなんだ?」


 会計がようやく終わったのか、彈が誠也に加勢する。


 「っ…こ、の人、達は…」

 「オイ中坊。先輩に向ってタメ口利いていいと思ってんのかよ?」


 秀は、これ見よがしに自分の携帯電話を見せ付けた。深い青色のボディカラーをした携帯電話。間違いなく、國で指定された高校生専用のものだ。


 「…あー。高校生だったんスね。シツレーしやしたー。そんじゃ。」


 いくぞ、と彈は誠也の腕を掴んでいた秀の腰巾着達を振りほどき、コンビニの自動ドアをくぐって外へ出た。


 「っざけてんのか、コラァ!」

 「逃げてんじゃねーぞガキがぁ!!」


 余程、彈の態度が気に入らなかったのか、いじめグループは大声を出しながら、2人を追って外へ出てきた。特に表情を変える訳でもなく、いつもどおりの彈とは反対に、誠也はもう気が気ではなかった。


 外灯があるとはいえ、昼間のように明るくはない夜の暗闇の世界。細い道に引っ張りこまれて多少、いや、かなり痛い目に合わされるかもしれない。前にやられた、全身痣だらけの刑で許してもらえるだろうか。いやしかし、今度という今度は、歯の何本かくらいは覚悟しておかないといけないかもしれない。行きつけの歯医者の診察券は寮に持ってきていただろうか。


 さらに誠也は、前歯のない自分なんて、きっといつも以上に間抜けで情けない顔なのだろうな、

というところまで想像してしまった。


 「あのー、俺達学校戻んなきゃなんで、先輩らと遊んでらんないんですよねー」

 「ぁあん?ほんっとにナメた口しかきけねーんだなテメェ…」

 「やだなー、敬語だし、ちゃーんと【先輩】って言ったじゃないすか」


 どんどんヒートアップしていく現場。頭数も少ない上に、大量の荷物を持っている誠也と彈。2人が不利なのは誰が見ても明らかだ。


 「ッチ、ホントかわいくねーんだなぁ。中坊っつーのはよ」

 「いやぁ、別に可愛がってくんなくて平気っすよマジで」

 「……ほんっと、腹立つなぁテメー、はっ!」


 腰巾着の1人が話の途中で拳を握り、力を込めて彈に殴り掛かり、思わず誠也は目を覆った。


 しかし、彈はそれを文字通り「すいっ」と避けた。余程の力を乗せていたのか、拳からバランスを崩し、ふらふらと間抜けな姿を披露する腰巾着その1。中学校でいじめ抜かれてきた誠也ですらも、こんな情けない彼の姿は見た事がなかった。


 「もー、いきなりそんなんしたら危ないっしょー?セ・ン・パ・イ」

 「っの、クソガキ!!」


 やめておけばいいのに煽る彈。腰巾着その2も加勢するつもりなのか、ばきばきと拳を鳴らして彈に近付いてくる。2対1。しかも相手は高校生。彈に勝ち目はない、と誠也は悟った。謝れば、許してくれるだろうか、と誠也は声を張り上げて秀に訴えた。


 「や、やめてよ!この人は関係無い…!」


 「誠也」


 いつもより低い彈の声が夜の街に響いた。思わず誠也の口も止まる。


 「俺達、友達だろ?」


 その言葉を合図に、高校生3人と彈との喧嘩が始まった。


 しかし、彈は数の暴力に屈することなどなかった。襲いかかってくる高校生3人をそれぞれ拳1発づつで黙らせてしまったのだ。


 「ったく。高校生だかなんだか知らねーけど、俺の友達に手出したら次はこれだけじゃ済まさねーからな。そこんとこヨロシク頼むぜ。先輩方」


 殴られた場所を抑えながら呻く高校生を尻目に弾は「いくぞ」、と誠也に声をかけ、寮への帰路へ着いた。



 3人が復活して追いかけてくるかと誠也は内心怯えていたが、人の気配が近づいてくることはなく、どうやら無事に寮まで帰りつけそうだ。誠也は久方ぶりに気持ちが落ち着いてきていたが、


 「あーぁ。これで俺も謹慎かねぇ……」


 がしがしと頭を掻きながら呟いた彈のその言葉により、また気持ちがざわついた。


 「な…なんか、ごめん……なさい……」

 「おいおい、なーんで誠也が謝ってんだよ?」


 勝手に殴っちゃったの俺だし、と彈は付け加え、先にわざと殴らせておいてから殴り返せばまた話は違ったなー、と笑った。


 「でもよ、あいつら懲らしめてやったんだぜ?気分的にはどーよ?」

 「……ちょっと、スッキリしたかも」

 「だろだろー?」


 気付けば、コンビニに誘われる前に誠也の中にあったモヤモヤとした気持ちはなくなっていた。


 「そういえば携帯で支払いしたよね……?」

 「ああ、そうだな」

 「レジに携帯通した時点で抜け出したこと学校にバレちゃってる……かも?」

 「……うっそ……」


 自分たちの処罰は一体どうなってしまうのか、と怯える反面、気持ちはとても晴れやかな彈と誠也であった。


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