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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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◆第93話 ナルニオル練武場 下

 魔法陣により藤子が招待されたのは、見晴らしのいいどこかの屋上であった。

 空は青くどこまでも澄み渡り、その彼方には雲を貫く巨大な何かが見える。

 眼下には、整然と立ち並ぶ広い街並み。洗練された姿は高い建築技術をうかがわせ、同時に生活水準の高さも見て取れる。


 ただし、そんな街に人の姿は一切見当たらなかった。

 ……いや、人に限らず生物の気配がない。動くもののない街の様子は、昼間だと言うのに夜中のようであり、またどこか廃墟のような虚しさに満ちている。


「……これが、神話時代の世界一の都の姿さ」


 いつの間にか藤子の隣にいたナルニオル――その姿は実態があり、本神である――が、寂しげに口を開いた。


「随分な栄えようじゃな。現代のセントラルに匹敵するほどの街並みじゃ」

「だろう。俺はここで生まれ育った」

「……なるほど。神の玉座はそれぞれの神が一番思い入れのある場所を写し取っている、とカルミュニメルは言っていたな。お主にとってはここがそうだというわけか」


 ちらり、と横目にナルニオルを見る藤子。


 ナルニオルは、寂寥感をたたえた穏やかな表情で、誰もいない仮初の街並みを見下ろしている。


「ああ。ガキの頃からの、俺のお気に入りの場所だ。よく幼馴染たちとここに入り浸っていたもんさ」

「はっはっは、秘密基地か。お主にもそんな時代があったのじゃなあ」

「そうそう、ちょうどそんな感じだ。あの頃は荒んでたし……って、まあ、その辺は勘弁してくれ。俺としても割と黒歴史だし、思い出話を続けてたら時間がなくなるだろう」

「くくく、仕方ないのう」


 本当に仕方なさそうに肩をすくめて、藤子は改めてナルニオルに向き直った。

 その顔は、直前までとは打って変わって真顔である。


「……で? どうなのじゃ、今の世界は」

「まだまだ、だな。藤子がクー……じゃない、あー、っと、嫁のところに行った時から状況は変わってねえよ。いまだ予断を許さず、ってところか」

「左様か……。いや、確かにあれからさほどのことはしておらぬからのう、それも無理からぬことではあるか」

「一番大きい動きが、セフィがクレセントレイクの遺跡を見たくらいだからな。っつっても、あそこの遺跡はただのマンションでしかないんだよな……。だからさほど未来には影響がないんだよな、良くも悪くも……」

「うむ、セフィも前世以上のものはなかったと言っておった。歴史的な価値はあるじゃろうが、それ以上ではあるまいのう」

「んだな、その判断で正解だ」


 むう、と腕を組む藤子。


 ナルニオルもそれを真似るかのように腕を組み、やや眉をひそめた。


「……ああしたエルフィア文明期の遺跡は他にもあるのか?」

「ああ、結構あるぞ。各国にいくつかあるくらいにはな」

「左様か……では、人が出入りできる状況になっているもの、まで絞ると?」

「その場合は各国に1つあるかないか、まで減るな。当然、国によって厳重に管理されてるけどな」

「じゃろうな。ふーむ、となるとやはり、まずは紋章を集めたほうがよさそうじゃ」

「いいんじゃねえか? 集めておけばおくほど、あとあと楽になるからな」

「で、あるか」


 目を細めながら頷いて、藤子は視線を遠くに移した。


 その視線の先には、先ほども見た、空の彼方まで伸びる何か。

 改めてそれを見つめてから、藤子は口を開く。


「……のう、あれはもしや世界樹か?」

「ああ、そうだ。……っつっても、あれは今の世界樹とは別物だけどな。この空間自体が俺の記憶が元だから、っていう意味じゃなくて、単純に個体として。この当時あった世界樹と今の世界樹は、完全に別物だ」

「世界樹も世代交代するのじゃな……」

「……ま、そんなところだ」


 ナルニオルの答えに、引っかかるものを覚えた藤子は、また横目で彼を見る。

 が、それで動じるナルニオルではなかった。


 そんな姿を見て、藤子はこれ以上の詮索を諦め、話題を変えることにした。


「……時にナルニオルよ」

「なんだ?」

「この世界……何故なにゆえに平面なのじゃ?」

「それは答えられない質問だな」


 藤子も予想はしていたものの、ナルニオルは即答でもって拒否を示した。


「……駄目か」

「ダメだな。それに回答すると、お前はたぶん一気にすべての答えに辿り着く。お前にも、この世界の人間が踏むべき段階はしっかり踏んでもらうぜ」


 そうはっきり断言すると、ナルニオルはにやりと笑った。

 藤子が普段するような、自信に満ちた、どこか楽しそうなそれとよく似ている。


 そんな顔を見て、藤子はやはり彼とは似た者同士なのだろうという感想を抱く。


「是非に及ばず」


 だから、彼女はそう答えて不敵に笑い返した。


「そのセリフを言う人間の面じゃあねーなあ」

「くくく、抜かしおる。誰にせいじゃと思うておる」

「はっはっは、そりゃそうだ。わかってる、だからこれをくれてやるよ」


 笑いながら、ナルニオルがその手の中に輝くものを出現させた。

 金でも銀でもない光沢を放つそれは、薄い二等辺三角形。そこには、月と星が合わさったナルニオルの紋章が刻まれている。

 それは、藤子がこのダンジョンにやってきた目的の一つだった。


「剣の紋章。このダンジョンをクリアした証だ」

「ありがたくもらっておこう」


 手渡された紋章を躊躇なく受け取った藤子は、紋章の飾りをしげしげと眺める。

 それから、小首を傾げながらナルニオルの顔を見上げた。


「……どのあたりが『剣』なのじゃ?」


 確かに、あしらわれている飾りには、それを思わせる要素は一つもない。

 それどころか星と月の大きさの比率が違うだけなので、カルミュニメルの紋章と比べても、違いがわかりづらい。


 その問いを、ナルニオルは承知していたのだろう。けらけらと声を上げて笑った。


「はははは、そうだよな、そう思うよな。いやぶっちゃけた話、武勇の神って言われてるけど俺、剣が専門で他はさほどでもないんだよ」

「……おおう」

「当初は剣の紋章って名前で問題なかったんだ。ところが神話ができていく過程で、なんかいつの間にかそうなっちまってな。まあ嫁が魔法全般なのに俺が剣だけってのは恰好がつかねえからな、じゃあそういうの全般で武勇、ってなったんだと思う」

「そんな伝言ゲームではあるまいし……」

「そんなもんだよ、伝説なんて。シフォニメルなんか、性別が間違って伝わってるんだぜ?」

「……ああ、あやつ男なのか」

「おう、れっきとした男だ。いやー、俺らが気がついた頃にはもうあいつ女神様扱いだったからな。あの時はみんなで盛大に笑って、シフォニメルを慰める会を開いてやった」

「仲良し神様じゃなあ……」


 ナルニオルの話を聞きながら、そういえばこの世界の神話に神々のいさかいに関するエピソードがないなと思った藤子である。

 親子神であろうと兄弟神であろうと、時に人間以上に醜い争いを繰り広げがちな地球の神々とは、良くも悪くも対照的かもしれない。


 ゼウス辺りにはこやつらの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい、などと不遜なことを考えながら、藤子は剣の紋章を亜空間へと仕舞い込んだ。そして、くるりと踵を返す。


「……さて、と」

「おっと、もう行くのか?」


 その背中に、ナルニオルの声がかかる。


 彼に顔だけを向けながら、藤子が応じる。


「おう、弟子たちを待たせておるのでな。それに、現状で聞きたいこともすべて聞いた」

「そうか、わかった」

「まあ此度は、その場の勢いに任せたところもあるからな。ここはどうやらわしにとって最も短時間で踏破できるダンジョンになりそうじゃし、何か疑問が浮かんだらまた会いに来るさ」

「……まさか俺のダンジョンがタイムアタックの対象になる日が来るとは」

「はっはっは、せいぜいわしを楽しませてくれ」

「へいへい……お前が来た時だけメンツめちゃくちゃ強くしてやるから、覚悟しとけよな」

「それは楽しみじゃな。ぜひ邪魔させてもらおう」

「……何だか地雷を盛大に踏み抜いたような気がしてならないな……まあいい」


 その言葉と共に、ナルニオルは指を鳴らした。

 すると、先ほどと同じく床に魔法陣が浮かび上がる。


 そこに記されている魔法式を確認した藤子は、そのまま陣の中央へ躊躇なく踏み込んだ。


「お前に言う言葉でもないかもしれんが、ま、気を付けるんだぞ。一応、お前にはこの世界の未来がかかってるんだから」

「ふふふ、うむ。殺されて死ぬ身体でもないが、せいぜい気を付けよう」

「ん。それじゃあまた会おう。良い旅を」

「おう、しばしさらばじゃ」


 そのやり取りを終えるや否や、魔法陣が作動した。そうして、藤子の姿が光となってその場から消え失せる。


 藤子が他の場所へ飛び、魔法陣も緩やかにその色を失っていく様を見つめながら、一柱残ったナルニオルは、しばらくその場にたたずんでいた。


「……もうこの世界の構造に疑問を持ってるのかよ、予想以上だ」


 そしてそうひとりごちた彼は、こめかみを親指でぐりぐりともみこむ。


「この分だと、俺たちの予想よりも早くなんとかなるかもしれねえな。この世界の真実にたどり着くまでだったら、案外すぐなんじゃねえか?

 ……まあ、いいことではあるか。俺らとしては。ただ、あいつの歩くスピードに、セフィ坊やがついていけるかどうか、そこが問題かね……」


 そんなことをこぼす彼の赤い神眼には、荒れる波間で船酔いと戦うとある国の王子が映っていた……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


一人目の神様からほとんど期間があいてないおかげで、あんまり語らせることがなくて世間話が多めになりました。

それでもなお短い……うん、ここまでとは思わなかった……。

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