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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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◆第88話 謎が謎を呼ぶ

 街を背にした平原の真ん中に、藤子は立っていた。

 いつも通りの改造和装は薔薇色に映え、その裾が風に舞っている。併せて揺れるポニーテールが、陽光を反射して艶やかに光る。


 ここはセントラル帝国の最南部。シェルドール諸侯連邦との国境を目前とした、学園都市レイロールの周辺に広がる平原である。


 幻獣の街インティスを発った藤子たちは、当初の予定通りのルートを通りグドラシア森国の近くまで来ていた。

 しかしその道中で、国境から少し北に足を延ばせば、遺産級レガシーダンジョンでにぎわうこの街があると聞いた藤子は、予定を一部変更してこの街まで来ていたのだ。


 目的は、主に弟子たちの訓練である。


 遺産級レガシーダンジョンは、等級で言えば上から二番目。出てくるモンスターの強さや、内部が変化しないという構造上、どうしても神話級ゴッズには劣るものの、その辺りの適当なダンジョンに比べれば当然、相応の難易度を持つ。

 そのため、神話級ゴッズを攻略するにはまだいささか早いセレン達には、ここらが今一番妥当だろうと判断し、あえて寄り道をする形になってもここまでやってきたのである。


 そして藤子は、セレン達に課題を出した。


 このレイロールが抱える遺産級レガシーダンジョン、久方の洞窟を単独で踏破せよ、と。


 一見するととんでもない無茶ぶりに聞こえるが、このダンジョンのモンスターはそこまで強い部類ではないため、今のセレン達でも十分だと藤子は踏んでいる。

 そうやって弟子三人を千尋の谷に突き落とした藤子は、暇を持て余して街の外まで散歩に……出てきたわけではない。ちゃんと目的はある。


 緩やかな風の吹きぬける平原は、穏やかな雰囲気が漂っている。場所が場所だけに、街周辺の魔獣は定期的に掃討されているのだ。そのため魔獣の類は見えず、普通の動物がちらほらと見える程度に留まっている。

 街の中は賑やかだが、ここはそんなことはない。牧歌的な、とでもいうべきか。静かに時間が流れていた。


 戦闘狂の気がある藤子がそんなところで何を、と思われるかもしれない。しかし彼女は、インティスを出てからというもの、これくらい安全な場所をずっと探していた。

 正確には、これくらい安全で開けている場所、である。


「……むう」


 そんな平和な場所で、藤子はおもむろにうなると、腕を組んだ。

 仁王立ちに近い状態のまま身じろぎもせず、二色の相貌を細める。


「今まで気にしておらなんだが。この世界……やはり尋常ではない。なぜ地面が平ら・・・・・なのじゃ?」


 そうつぶやいたところで、彼女の整った顔がしかめられた。


 その視線の彼方。決して高くはない彼女の視線の正面、それと同じ高さに地平線が広がっている。それは、彼女の故郷である地球では、絶対にありえない光景だった。

 球形の惑星、地球では、地表の湾曲のため、地平線は実際の視線よりもやや下に来るはずなのだ。


 つまり、今彼女が立っているこのアステリアの大地は、文字通りの意味で平らな状態になっていることになる。


「……しかし、そんな莫迦な。天体の動きは、この世界が惑星であることを物語っている。にもかかわらず、何故なにゆえこのような状態になっている?」


 その理由が、わからない。

 さすがの藤子でも、即座に答えを導き出すには材料が足りなかった。


 しかし、このまま漫然と時間を過ごすほど彼女は愚かではない。


 そもそも、今回ここに出てきた最大の目的は、この世界の地下を調査するため。かなり大規模に力を振るうことになるので、これくらい周囲に何もない場所がどうしても必要だったのだ。

 そしてここまで来て、周囲に誰もいないことを確認するためぐるりと平原を見渡したところで違和感に気づき、今に至る。


 目的の前に新たな謎が急浮上してきたが、何はともあれ当初の目的は果たさねばならない。


 藤子は気持ちを入れ替えると、静かにその場で膝を地面につけて座り込んだ。と同時に、両手を地面に当てて、己の力を地下へと放出する。魔力の波動が、勢いよく世界を駆け下りる。

 そこに記された情報を収集する式が、波動と共に地面の下へ下へと浸透していく。それは通り過ぎた場所にあるあらゆる情報を獲得し、藤子へと運ぶのだ。


(土……土……ふむ、構成はともかく、一般的な大地じゃのう。資源の類の反応がちょくちょくあるが、別段変わったところはない……。マナが含まれていることが、地球との違いと言えば違いじゃが……)


 今まで渡り歩いてきた藤子の経験上、宇宙や惑星という空間ではない世界……その場所だけで成り立つ世界は、地面の下を突き詰めると次元の狭間に到達する。

 世界によっては巨大な生物が支えていたりするが、その生物から離れればやはりそこは通常の時空間ではない。


 対して、地球のような惑星で地面の下を追及すると、当然惑星の反対側に辿り着き、最終的には宇宙へと至ることになる。


 前者は異常な空間、後者は周囲と同じ空間と言えるが、この違いは大きい。魔法によって尋常ならざる空間把握能力を持つ藤子にとって、この二つは月とすっぽん以上の差異があるのだ。

 そして彼女ほどの力を持っていれば、見るだけでそこがどういう空間か把握できる。


「……!?」


 だが、不意に感触が変わった手ごたえに、藤子は珍しく目の色を変えた。それほど、その変化は地球人が考える普通――たとえば地殻からマントルといった変化――ではなかったのだ。


 彼女が感知した変化。それは、地殻から空洞だった。


「……次元の狭間ではない。これは普通の空間の感触……。マナ……というより瘴気が満ちているようじゃな。地下から瘴気が吹き出す異変は、やはりそこが原因……つまり……この世界は、地面の下に空洞があるのか?」


 地球空洞説、という言葉が藤子の脳裏をよぎった。地球の中心部は、マントルや核があるのではなく空洞になっている、という一種のオカルトである。

 いや、地球においてはオカルトの域を出ないが、そういう形状の世界がないわけではない。世界とは、可能性がある限り無数に存在するものなのだから。藤子も、そんな世界を旅したことがある。


 だが、世界が変われば法則も変わる。その世界は、地球……というより地球が存在する時空の常識は、あまり通じなかった。

 けれどもこの世界は、どちらかといえば藤子が慣れ親しんだ法則があてはまる世界。だからこそ、藤子は判断に困っていた。


「……立方体型の惑星世界、か? なくはないが……その場合必要な力がこの世界からは感じられぬ。一体どうなって……、むっ」


 続く独り言を途切れさせたのは、やはり魔力の波動から伝わってくる感触の変化だ。今度は、再び地殻にぶつかったようである。


 そしてさらに続いた変化に、今度こそ藤子は驚嘆した。


「……マントル、じゃと? それに核……? この成分構造に……物体構造は……完全なる地球型惑星ではないか。……しかも、これは。……下にあるもう一つの地殻は湾曲している・・・・・・!」


 いつも以上に深刻な表情で、彼女はひとりごちる。


 ほどなくして、伝わってくる感触は再び地殻を貫き、やがて宇宙空間へと消えていった。

 それを確認して、しかしそのままの状態で藤子は動かなかった。その脳裏で、あらゆる可能性が思考されている。


(……「宇宙空間に浮かぶ惑星」という世界であることは間違いない。そして今、わしらが立つこの場所は、地殻の上にあるもう一つの地殻。しかし下の地殻は湾曲しており、上の地殻は平ら……。待てよ、もしや……)


 そうして至った一つの仮説に、藤子はごくりと生唾を飲み込んだ。


「……あり得る。もしそうだとすれば、元人間の神であるカルミュニメルが言っていた『一万年かけて築き上げてきた世界の根幹』の意味に説明がつく」


 そこまでつぶやいて、藤子はゆらりと立ち上がる。その様は、まるで幽霊のようであった。


「……確かめねばならんな。魔法に頼った遠見ではなく、この目でしかと確かめねばならん」


 そう続けた彼女はしかと地面を踏みしめると、北に顔を向ける。どこまでも続く、平らな地平線。

 森や小山がその視界を遮るが、彼女の記憶している限り、その先にはセントラルの都がある。藤子をこの世界に呼んだ主神、ナルニオルと邂逅した場所が。


 そして藤子は、そこで顔を合わせた神の顔を思い浮かべながら独語した。


「……じゃが、どう行く? 世界への悪影響もあるし、地面の下には瘴気もある。この上では大穴を開けるわけにはいかぬ」


 それからしばし黙考ののち、懐から二等辺三角形の装飾を取り出す。


「……まずは、紋章を集めるが先決か」


 カルミュニメルから渡された、魔法の紋章。神々の扉を開くための鍵。


「……全部集めれば世界の真実にたどり着ける、であったな。あの言葉はつまり、そういうことなのであろう」


 金でも銀でもない輝きを放ちつつも、魔法の紋章は静かに黙している。


 その表面に自らの姿を映し入れた藤子は、にやりと笑った。

 彼女が普段からよくする、自信に満ちた笑み。心は決まったようだ。


「残り7つ……セレンたちが戻ってくるまで、まだまだ時間がかかる。なれば……ここは一つ、ナルニオルに挑んでみるとしようかのう」


 そうつぶやいた時の彼女の顔は、会心の笑みであった。


 そしてそれと同時に、その身体を青い光の粒子がまとい始める。

 それに引き上げられるかのように、藤子の小さな身体はふわりと空中へと舞い上がった。浮かび上がりながら、空中でくるりと身体の向きを変え、北へと正対する。


「どれ、久々に少し飛ばすとしようか」


 そして次の瞬間、彼女の身体は高速で飛び出した。


 鳥でも竜でもない人の身で、空を飛ぶということはこの世界においても非常識だ。

 その非常識を隠すこともなく、藤子は一直線に北へ飛び続ける。


 向かう先はセントラル帝国の中心、帝都アステリア――。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


久々の藤子編。まずはプロローグ的な感じで、と思ったのときりがよかったのとで今回はちょいと短めでした。

今回の藤子編は、それぞれが別行動する感じで行こうと思っているので、場面転換が多くなりそうです。違和感のないように文章がんばりますよう。

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