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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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第87話 街角デート

 さて昼も回りまして。

 三徹して死んだことがあるくらい、その気になれば長時間集中し続けられるぼくだけど、さすがに人といる時にそんなことをするわけにはいかないことはわかる。まして女性といる今は。


 ってことで、お昼ご飯を求めて図書館を出ることに。


「セフィはどういうものが食べたいですか?」


 手をつないだライラがそう聞いてくる。


 ……これは確か、あれだな。なんでもいいとかそういう系の回答はNGだったはず。


 てことは、んー、何かそれなりのことを言わないとダメだろうけど……。

 ……白米はこの世界にはないしなあ。うむう。


「うーん……」


 困った。これといって食べたいものがない。

 土地のものを、と言いたいところだけど、ムーンレイス独自とも言うべき魚介類はこないだの夜会で随分ごちそうになったしなあ。


 選択肢が多すぎるってのも考え物っていうか……。シエルだったら、肉かパンかの二択でほぼ確定なんだけども。

 周りを見渡した限り、カフェらしきところとか、甘味どころっぽい場所なんかもあるんだよなあ。さすがに都会っていうか……。


「……あ」


 その中に、とあるものを見つけた。

 その瞬間、ぼくに電流が走った。


 これだ!


「うふふ、決まりましたか?」


 ぼくの変化に早速気づいたライラが、微笑みながら顔を覗き込んできた。

 彼女に大きくうなずいて、ぼくはその目当てのものを指さす。


「うん、あれにしよう」

「あれ?……あれ、って……」


 ぼくが指さしていたもの……それは……。


「……や、屋台、ですの?」


 そう、屋台だ。

 道行く人たち……それも庶民とかが小腹をすかせたときなんかにちらっと寄って、ちょっとしたものを食べ歩くような、そんな屋台。


「……あの、セフィ? ああいうのは、貴族は食べないもので……」

「うん、だろうね。でもああいうところに意外と当たりがあったりするんだよねえ」


 ぼくは王族だけど、王族という概念がとても薄い国の王族だ。元冒険者が王様やってる国なんて、シエルくらいのもんだろう。

 おまけに、当初は庶民のつもりで育ったぼくにとっては、いかにも貴族御用達、みたいなお店は敷居が高いのだよね。

 どっちかっていうと、大衆食堂のほうがぼくは気楽だ。そっちのほうが多く食べられるし。


 それに、こういう屋台で売ってるようなものは……。


「屋台で買ったやつ食べながらさ、街を見たいんだ。食べ歩きってやつ」


 そう、食べ歩きができる!


「ええ!? そ、そんなの行儀悪いですわよ!」

「あはは、言うと思った。でもさ、今のぼくたちはお忍びみたいなもんじゃない。時間もそんなに多くはないし、ぼくはこの国の庶民の暮らしが見てみたいんだ」

「う、は、はあ……」

「よーし、じゃあ決まり! 『れっつごー』!」

「れ、れっつ……?」


 おっと、思わず英語を使ってしまったよ。

 まあどうせわかる人はいないし、別にいいか。


 ぼくは今までとは違って、ライラを引っ張る形で図書館前の広場を移動する。そして、目当ての屋台へと歩み寄る。


「おじさん、串焼き二本くださいな!」

「はいよ、大銅貨2枚だよ」

「はい、ちょうど」

「ん、まいどあり」

「はい、これライラの分」

「え、あ、は、はい……」


 手早く串焼きを購入したぼくは、一本をライラに差し出す。

 それからその場を少し離れながら、改めて買った串焼きをまじまじと見た。


 何かはわからないけど、肉の串焼きなのは間違いない。シエルだと、肉の代わりに食べられる虫とかがあったりもしたけど、これはどう見ても肉だね。

 見た感じは、牛肉によく似てるかな。


 まあとりあえず、その辺りのベンチに腰掛けまして。


 では、いただきます、っと。


「……ん、こりゃなかなか」


 食べた感じは、鶏肉みたいだった。ぷりぷりしてて、そうだな、鶏ももが一番近いかな。

 味が結構タンパクなのも、鶏肉っぽい。かけられてるタレが濃いめだけど、だからこそいい具合に味がマッチしてる。

 なんていうか、焼き鳥感すごい。お酒が飲みたくなる味だこれ!


「ライラはどう?……って、ありゃ? 食べないの?」

「い、いえその……」


 隣に目を向けてみれば、ライラはどうも串を見つめたまま考えているみたいだった。

 どうしたんだろう? 別に毒とかそういうのはないはずだけど?


「もしかして、この肉嫌いだった?」

「え、いえ、そうではなく……どうすればいいのかと……」

「えっ」


 そこから!?


「……もしかして、ライラってこういう料理食べたことない?」

「その……はい、お恥ずかしながら……」

「わーお」


 いやでもまあ、そりゃ皇族だもんな。こういうザ・庶民な味は縁がなかったのか。

 ぼくとしては、どうも何もそのままかぶりつくだけなんだけど。


「別にテーブルマナーとかそういうのはないものだから、そのまま食べればいいんだけどな。こう、かぶりつくんだよ」


 ぼくは例を見せるために、これみよがしに串に刺さっていた鶏肉もどきを口いっぱいにほおばった。

 一本の串に刺しておける肉の数なんてしれてるから、これでもうほとんどなくなっちゃったけども。


 ……うん、美味。


「んぐ。まあ一気に食べちゃうのはやりすぎだけど。こんな感じだよ」

「ええと……」


 ここまでやって、ようやくライラは串の肉に口を付けた。

 こわごわ、おそるおそる、と言った様子は否めなかったけども。


 そのまま彼女は、肉を咀嚼していた。ぼくはそれを横目に眺めながら、彼女の反応を待つ。


「…………」

「どう?」

「……おいしい、ですわ。……意外と」


 付け足された意外と、という言葉に彼女なりのプライドを垣間見たような気がした。

 けど、そこは指摘してあげないほうがいいんだろう。


 ぼくはくすっと笑って、


「でしょー? こういういかにも安っぽいようなやつが、意外とおいしかったりするんだ」


 そう答える。


「……セフィは、こういうところはよく利用するんですの?」

「ん? まあね、妹とよく食べ歩いてた。うちの国は王族とか貴族と平民の壁がほとんどないからさ、別に何も言われないしね。父さんもよく下町でうろうろしてるくらいだし」

「それは、……なんといいますか……自由奔放ですわね……」

「父さん、元冒険者だからね。見栄えとか権威とか、そういうのは興味ないんだ。で、ぼくはそれで育ってるからね。どっちかっていうと、こないだの夜会みたいな雰囲気は苦手なんだ」

「そう、なんですか……」

「そうなんだ。……で、まあこんな感じで、ぼくは屋台なんかを巡りながら、街の中にあるお店を冷やかしつつうろうろしたいなあと、そんなことを考えたわけなんだけど」


 そこで一旦言葉を切って、ぼくはライラの顔色をうかがった。

 まだ少し、唖然としたような顔をしている彼女だけど、どうかなあ?


「こういうのは、駄目かな?」

「……いいえ」


 少し沈黙はあったけど、ライラはそう言ってくすりと相好を崩した。


「とっても驚きましたけど。面白そうですわ。ぜひ、ご一緒させてくださいまし」

「……あは、あはは、おっけー、行こう行こう!」

「はい。……あ、でもこれはここで食べさせてくださいな」

「うん、構わないよ」


 そうしてぼくたちは、クレセントレイクの下町に繰り出すのだった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 女性と二人っきりで、街を食べ歩き。

 デートっぽくないすか? デートっぽいよね?


 うん。

 たぶんだけど、ぼくは今、デートをしてるんだろう。


 なんていうか、日本で言うと七夕とか初詣で、出店を冷やかしながらデートしてるような、そんな感じだ。

 どうすればいいんだろうって最初は思ってたけど、案ずるより産むがやすしとはよく言ったものだね。


 食べたものは、どれも貴族の食卓に並ぶようなものじゃない。けど、なんだかんだでライラも慣れたみたいで、途中からは結構積極的にこれがほしいと言ってくるようになった。


 ……まあ?


 はい、あーん、とか。


 そういうのは、やれてないけどね。


 ぼくが気恥ずかしいってのもあるんだけども、人が口を付けたものを食べるという行為に対する忌避感が、貴族の中ではかなり強いんだよね。だから躊躇してるわけ。

 とはいえ、それができてない理由はそれだけじゃなくって……。


「……うーん」

「どうですか、お客さん。掘り出し物ですよ、これは」

「いや、申し訳ないけど質としては下も下なんだけど」

「う……!? い、いえそんなはずは……」

「そんなはずだってば。これ、ただ見た目を写しただけでしょ? まあそれならそれで美術品になるのが刀だけど、これはその美術性もほとんどないね」

「…………」


 ぼくの言葉に、武器屋のおじさんはがっくりと肩を落としてしまった。

 悪いと思わないわけじゃないけど、質の悪い道具を売るというのはあまり感心できないからね。自業自得だ。


 そう思いながら、ぼくは手にしていた刀を鞘に戻した。

 がちん、と鍔鳴りの音が響く。うん、やっぱり質はよくないね。


「セフィ、そんなにですの?」

「うん。バリはたくさんあるし、波紋もないし、反りも微妙だし。素人目に見ても、ダメダメ」


 時代劇の模造刀でも、これよりはましな見た目してるよ、まったく。

 そんなことを考えながら、ぼくはその刀もどきを机の上に置いた。


 ここはとある武器屋。たまたま通りがかって表から中をちらっとのぞいたところ、なんと刀が置いてあるとのことだったので、思わず中に入っちゃったのだ。


 そう、刀だ。地球の、それも日本でしか作られていないはずの刀が、なぜかこの異世界アステリア大陸の武器屋に置いてあった。元日本人として、これは顔を出さずにはいられないってものだよ!

 けど、ぼくが思ってたような刀はなくて、直前の会話に至ったってわけ。


 まあこの際、質の良しあしは気にしないことにしようと思う。問題はそこじゃない。


「……でも、なんで刀がこんなところに置いてあるわけ?」

「とあるミスリルの冒険者の人が、長らくこの街にいたんですが……その人がたまに使っていて、目ざとい商人の方々や腕自慢の鍛冶師の方たちが面白そうだと飛びついた結果だったかと記憶しておりますの」

「……なるほど!」


 また藤子ちゃんか!

 でもまあそうだろうな! 刀なんて武器を使う可能性がある人間は、この世界じゃ彼女しかいないもの!


「……もしかしてとは思うけど、その人って、刀だけじゃなくって服についても……」

「あら、よくおわかりになりましたわね。その通りですわ」

「ライラがこないだの夜会で着てたやつだよね?……うへえ」


 やっぱり!


 一体全体なんでまたそんなことに……。


「あの人は良くも悪くも、いろんなところで目立っていましたから。目立つ人は、その分影響力も強いということですわね」

「……すごい説得力だ」

「それに、強い人には一定数のファンができるものですわ。あの人はそれだけの実力がありましたし……」

「……だろうね」


 つまりあれか。

 藤子ちゃんは、この国である種の尊敬を向けられるほど活躍をしてたってことか。


 そんな彼女が普段から身に着けている和服なんかを、真似したいと思う人々が出てきて今に至るというわけ……かな……。


「でも、不思議ですわね」

「ん、何が?」

「カタナもキモノも、他の国で見る機会なんてそうそうないと思いますけど……よくご存知でしたわね?」

「あー……まあ……その、……たぶん、その原因になった人とは顔見知りだから……」

「えっ」

「えええっ!?」

「ん?」


 一番の反応を見せたのは、今まで沈み込んできた武器屋のおじさんだった。

 彼はそのままカウンターの向こうからこちらまで猛スピードでやってくると、ひざを折ってぼくにすがりついてくる。


「君、彼女は今どこにいるんだ!? 頼む、カタナのことをもっと知りたいんだ! お願いだよ!」

「え、えええっ!?」


 そんなに!? そんなにか!?


「我々も鍛冶師たちも、全然満足も納得もできていないんだ! キモノはなんとかなってきてはいるけど、カタナは本当にどうにもならなぐで……! うぐ、ひぐぅ……!」


 ひええええ、涙まみれのおっさんなんて見たくないよ!

 かといって、これはこのままじゃ帰してくれそうにないし……!


 うー、うーん……どうしよう……。


「ちょ、お、落ち着いてくださいよ! このままじゃ身動きもとれないです」

「あ、……あ、あああ……す、すまないつい……」

「いえ……」

「大丈夫ですの?」

「うんまあね……」


 とりあえずなんとか離れてもらったけど……。


 んー……。


 藤子ちゃんは向こう何年かはここには来ないと思うんだけどな……かといって、このままそれをそのまま告げたらこの人たちどうなるかわかんないしな……。

 ……仕方ない、ちょっとだけ手を貸すか。


「……えーと、確かあったはず……っと、うん、やっぱりあった」


 アイテムボックスを開いて、中身を確認。

 そしてぼくは、中から一振りの刀を取り出しておじさんの前に差し出した。


「はい、これ。本物の刀です」

「は……!?」

「え……」

「以前彼女からもらったものです。ああ、彼女がたくさん持ってる量産品の一つなんで、気にしないでください」

「い……い、いいのかい……!?」

「はい。ぼくは刀は使えないので」

「あ……ありがとう……ありがとう……! 本当に……!」


 そのままおじさんは、ぼくから受け取った刀をひしと抱きしめると、さめざめと泣き始めてしまった。

 ……うーん、大げさな人だなあ……。


「……このままじゃ埒が明かないし、そろそろ出ようか……」

「あ、は、はい……」


 結局、おじさんはぼくたちが店を出てからも泣き続けている姿が外から見えてたけど、これ以上は見なかったことにしよう。

 そのまま店を離れて、ぼくたちは改めてクレセントレイクの雑踏へ溶け込んでいく。


「……セフィ、彼女とはどれほど?」

「え? ああ、藤子ちゃん? んー……そうだなあ、もうそろそろ8年目に入るかな?」

「……!」

「あれ、どうかした?」


 突然足を止めたライラに、ぼくは首をかしげながら振り返る。

 彼女はしばらく、思いつめたような顔で口元に手を当てて、何やら考えているみたいだったけど……。


「……い、いえ。なんでもありませんわ。参りましょう」

「? うん、じゃあ次はどこに行く?」

「そうですわね……カフェで軽く休憩しませんか?」

「あ、いいね。ちょうど座りたいなって思ってたところだよ」

「では、私行きつけのお店がありますからそこへ行きましょう。おいしいですわよ」

「本当? 楽しみだなあ」


 ライラが考え込んでいたのはほとんど一瞬で、すぐに元通りに戻ったので、ぼくもそれ以上は追求しないことにした。


 それからぼくたちは、ライラ行きつけというカフェでお茶を楽しみながら、のんびりとした時間を過ごす。

 取り立てて目立った出来事があったわけではなくて、のんびりとした昼下がりをおしゃべりを楽しむことができたのでした。


 ……念のため言っておくけど、手をつなぐ以上のことはしてないからね! その辺りはその、まあ、正式に結婚してから、ということで……。


ここまで読んでくださりありがとうございます!


やっぱりデートシーンって難しいですね……精いっぱい頑張りましたが、これは次回以降の教訓です。

そろそろ一人称にも飽きてきたので、藤子編にまた移りたいところですが……はてさて。

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