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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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第85話 ムーンレイスの秘密 下

 入り口(?)の段階でめちゃくちゃ驚いたぼくだけど、中に入ってからはむしろそれを通り越して逆に冷静だった。


 まず最初に入った場所。それがどこからどう見ても、3LDKの部屋にしか見えなかったんだ。

 日本じゃないから、土足で行動することが前提になってはいるようだったけど、それ以外は完全にマンションの一室だったんだよ。


 キッチンには皿や道具がそのまま残っていたし、リビングにはテレビと思われる装置があった。廊下に併設された部屋は書斎だったし、どこからどう見ても洋式の便座が据え付けられたトイレすらあったんだから、もう何も言えやしない。

 そして部屋から出れば、そこは同じ扉がずらりと居並ぶ廊下。遺跡がいつのものかはっきりとはわからないけど、いまだに廊下を照らす明かりが地下のここではとてもありがたい。共益費はまだ発生してるんだろうか。


 いやまあ、それはともかく。


 ぼくを案内する月子さんには悪いんだけど……。


 うん。


 この遺跡、集合住宅だ。それも、富裕層がファミリーで住むタイプの!


 今のこの世界には、集合住宅なんていう概念はまだ存在しない。だからだろうか、ここを見て「さあ、なんだろうね?」という返答になるのは。

 あるいは、わかっていてぼくにはあえて言わなかったのか……まあ後者だと思いたい。


 確かに、移動の道中見たテレビ(仮)やトイレは、今のこの世界にとっては間違いなくオーバースペックな代物だ。これを解析して、再現することができれば間違いなく国力は上がるだろうからね。

 仮にこの遺跡が工場だったら、またかなり違ったんだろうけど。

 こういう、人が密着していた空間にあるものは、さまざまな技術と創意工夫によって生み出され、理屈がわからなくても誰もが使える、というものがほとんど。


 だから、単純に国を富ませるという意味なら、こういう遺跡のほうがよかったのかもね。

 これでうっかり、古代の超兵器とか発掘しちゃったらえらいことだし。


 そんなことを考えていたので、ぼくは確かに驚きはしたけどそこまで大げさな反応はしなかった。

 月子さんたちは、驚いて何も言えない状態に見えたかもしれない。特に訂正しようとは思わないけど。


 ちなみに、ここ以外の階層には移動できないらしい。階段も謎の昇降装置(どこからどう見てもエレベーターだった)も、遺跡自体を包んでいる封印よりも強力な封印で閉ざされているんだって。

 まあ、ここがマンションである以上、他の階層もさして違いはないだろうけどね。もしかしたら、1階は店舗になってるかもしれないけど。


 さて、そんなこんなでぼくが連れてこられたのは、最初に入った部屋と同じ階層の、一番端の部屋だった。


「……うわあ」


 その部屋は、明らかに今の技術で手が加えられていて、悪目立ちしていた。周囲に置かれた調度品や、ほどこされた装飾が周囲の雰囲気と全くかみ合ってない。

 おまけに、張られた結界は遺跡を封印していた神様のそれに比べると、間違いなく稚拙。ぼくから見てもそう思えるんだから、ある程度の技術を持った人なら簡単に押し入れるだろう。


 まあ、当然だけど月子さんはその結界を正規の手順で解除して入れるわけで。それに続いて、ぼくは部屋の中へと入る。


 部屋の中は……外の見た目に比べると元の雰囲気を残してる、かな?


 けど、まったく人の気配はしないのにもかかわらず、妙な生活感が漂ってる。まるで、いつもの日常の中で突然人間だけが消えたみたいだ。

 そうだとしたら軽くホラーだけど、文明崩壊時は一体どんなことがあったんだろう? 私、気になります!


 閑話休題。


 ぼくたちは部屋の廊下を見渡しながらも中に進んで、リビング……ではなく書斎と思われる部屋に入った。

 ……いや、書斎というのもちょっと違うな。なんだろう、どちらかと言えば仕事場、って感じかな。


 実用性第一の机に、パソコンと思われる装置。そこから繋がるディスプレイらしきものは2つで、この世界にもデュアルディスプレイをする人はいたんだなと、妙に親近感を覚える。さらに、その周り、机の上の大半は書類や書籍が山になっていて、立錐の余地もない。

 なんていうか、生前出入りしていた出版社の、デスクに似たような雰囲気だ。やり手の編集者の机って、こんな感じだったような。


「……セフィ、ここが印刷技術が見つかった場所だよ」


 部屋のほぼ真ん中で、月子さんが言う。


 うん、そうだろうね! ここならあると思いますよ!

 ぼくの感じた通りなら、編集者っていう職業の人がプリンターを持ってないはずがないもの!


 そんなことを心の中でツッコミつつ、努めて平静を装っていたぼくの前に、月子さんが恭しく機械を持ってきた。


 人間、それも女性が両手で持てる程度の重さなんだろうそれは、曲線的なフォルムの直方体だ。上部には、動作を決めるためのコンソールと思われるディスプレイが組み込まれて、その周辺にはいくつかのボタンが着いている。

 ついでに言うと、その上部はフタみたいな形で開閉ができそうだ。ってことはこれ、たぶんスキャナの機能も持った複合プリンターなんだろうな。


 ……なんだろう。ねんがんのアイスソードをてにいれたはずなのに、それが思い描いていたものと微妙に違うけどまったく違うわけでもない、この微妙な感覚。

 ガン○ムだと思ったらヒュッ○バインだったみたいな……。


「セフィ、これが我がムーンレイスに残された印刷技術……我々は、『魔式印刷機』と呼んでいる」

「な、なるほど……これが、ですか……」

「ふふ、さすがのセフィも驚きを隠せないようだね」


 いや、しどろもどろになったのは、決して驚いているからじゃないんですけどね。

 別に隠すほどのことでもないなとは思うけども……。


 ともあれ、魔式、ということはこのプリンター、魔法あるいはマナで動いてるのかな?

 確か噂でも、ムーンレイスにある印刷機は魔法を使ったもの、という風に聞いてる。どこからどう見ても、エプ○ン辺りが出してそうな複合プリンターだけど、たぶん地球のそれとは異なる機能があるんだろう。

 たぶん。うん、きっとそうなんだろう。


「……これは、どのように使うんですか?」


 聞いてみる。大体見当はついてるけど、ここは説明してもらったほうがいいだろう。


 ぼくに頷いた月子さんは、プリンターを机の上に置いた。そして、コンソールのそばにあったボタンの一つを長押しした。

 そこに描かれていた図柄は、さすがに地球の電源ボタンのとは違ったけど、地球でのそれを考えるなら、たぶん今後エルフィア文明の機械に遭遇した時は、あの図柄を押せばいいんだろう。


 ちなみに、赤と青の線で描かれた三角が組み上がった六芒星だった。それを取り囲むのは橙色の円で、中央には、緑色の線の六角形、さらにその中に紫色の丸があしらわれている。

 どこからどう見ても、神様の5色です。本当にありがとうございました。

 この辺りは徹底してるなあ、この世界……。


 まあそれはともかく。


 プリンターが起動した。コンソールに浮かび上がった文字は、どこからどう見てもヴィニス古語。

 なるほど、これを使いこなすには古語が必要になるわけか。ムーンレイスが文語体に固持してるのはこれが理由?


 ま、ぼくも一応読めるけどね。自力で覚えましたもの。

 えーっと……印刷、スキャン、取り込み、送信、保存、外部端末……。


 ……思いっきり複合プリンターじゃないかっ!!


「いいかい、セフィ。これが印刷だ。この蓋の中に、印刷したいものを下向きにして挟み込むんだ。そしてその状態でこの文字を押せば……」


 思わず頭を抱えたぼくに、月子さんは文字が読めないと判断したのだろう。

 懇切丁寧に印刷を実演してくれた。出てきた紙を手渡される。


 ……印刷速度はレーザープリンター並みか。表面を触ってみる限り、凹凸ができてないからトナーを利用したレーザー印刷じゃなさそうだ。

 かといって、紙がよれてる感じは一切ない。ってことは、インクジェット式でもないわけか。

 じゃあ何で印刷されてるなんだろう? うーん、わからない。この辺りが魔法が使われている、ってことなのかな。


 マンションと思われるこの場所にあったってことは業務用ではない……と思う。家庭用でこれってことは、もしかして印刷技術は現代地球よりも上だったのか、エルフィア文明って?

 むむむ、さすがに魔法が絡んでくると異世界の面目躍如か。魔式、という現代の名付けからして、地球じゃ再現するのは難しそうだし。


「……すごいですね」


 なのでぼくはそう言って、月子さんに視線を移した。


 これは素直な感想だ。

 どこからどう見てもただの複合プリンターだったから、ちょっと甘く見てたよ。でも、仕組みははっきりとわからない。これは素直に兜を脱ぐべきだろう。


「ああ、妾もそう思う。これほど精巧に転写して、これほどの速度で印刷する……かつての文明が、いかに高度な技術を持っていたのかがよくわかる……」

「……けれど、今の私たちではこれを作ることはできないのだよ、セフィ。仕組みも、はっきりとはわからない。数百年をかけてできたのは、これの使い方を知ることだけだ」


 ぼくの隣に並んだハルートさんが、自嘲気味に肩をすくめる。

 それから、プリンターが元々置いてあった棚から一枚の紙を持ち出してきた。A4に近いサイズの紙だ。


「実を言うとね、セフィ。私たちは、この印刷に用いられる紙を作ることができなかったのだ。この遺跡に残されていた紙を見て、羊皮紙以上の性能を持ったこの道具の存在は誰よりも早く知っていたけれど、作り方がわからず、うかつに印刷機も使えない状態だったのだね」

「兄者の言う通りだ。しかし、その紙を作り上げた人物が遂にこの時代になって現れた」


 な、なんだってー。なんてすごいひとなんだー。


 …………。


 ……はい、すいません。ぼくですね、それ。


「……そう、君だよセフィ。君は、この先使えなくなっていたであろう我が国の印刷機を、再び使えるようにしてくれたんだ。だから我々は、その恩に報いるためにも君をここに連れてきたんだ」

「まあ、単に礼をするためだけってわけでもないけどね。下心があるのは否定しない」

「それを曲がりなりにも本人の前で言っちゃうかなあ? いや、そうだってことは知ってたから、別にいいんだけど」


 わかってはいたけど、苦笑が思わず漏れた。


 ぼくは、将来のために印刷技術を獲得したい。ムーンレイスは、将来のために印刷技術を解明したい。

 最終的な目標は違うけど、直前までの道はまったく同じだ。協力は可能なのだ。


 けど、離れた国同士である以上それを「じゃあこれ」「はいどうも」とするわけにはいかないのは、ちょっと考えればすぐにわかる。

 だからこその、政略結婚なんだろう。


「……ともあれ、二人の言いたいことはわかる。これを持って帰って、ぼくが仕組みを調べればいいんだよね?」

「そういうことになる。そしてできれば、その技術を我が国に還元してもらいたい」

「それについては、できればシエルとの共同事業ってことにしてほしいな。ぼくだって、印刷使ってやりたいことがあるから」

「その点については問題ない。ムーンレイスとシエルは、固い友情で結ばれている。今までも、これからも」

「固い友情、ね……。まあ、それについては善処しますよ」

「おや、セフィはライラが不満かい?」

「そういうわけじゃないんだけど……なんていうか、偉い人たちの手のひらの上で転がされてるような気がして、それがちょっと、ね」


 ため息交じりにぼくが首を振ると、月子さんとハルートさんは揃ってくすりと笑う。


「政治とはそういうものだよ、セフィ」

「うむ。君も王族なら、少しずつ慣れていきたまえ」

「……やだよ。それよりも何よりも、これを解明することのほうがよっぽど重要だし、気楽だよ」


 決して理系で機械いじりが好きってわけでもないけどさ。

 それでも、腹の探り合いばかりの世界よりはよっぽど気楽だ。機械は嘘をつかないもの。


「ははは、確かにそれは優先してもらいたいところだね。なあ、兄者」

「ふふふ、そうですな。まあ、私としては孫の顔も早くみたいところだがね?」

「それはたぶんだいぶ先になると思います!!」


 反射的にそう答えてしまった。


 元々彼女いない歴イコール年齢だから、どうしてもそっち方面は苦手なんだよ!

 前世から数えたら、もう40年も彼女いな……い……あ、なんか悲しくなってきた。やめようこの話題。


「ははは、さすがの君も、そっちについては奥手かね?」

「いやそういうわけじゃなくって!」


 まあ、義理とはいえ親がここにいる以上それは許されなかったんですけどね!

 子供が結婚したからには孫を欲しがるのは、どこの世界でも一緒なんですね!


 結局、ぼくは遺跡からプリンターを1台借りて出てくるまでの間、散々ハルートさんにいじられ続けた。


 くそう……この借りはいつか必ず返してやるからな……!


ここまで読んでいただきありがとうございます!


補足するキャラがその場にいないのでここで補足しますと、ここに入る正規の手段は神話級ゴッズ最深部で神の試練を乗り越え、紋章を手に入れる必要があります。

入るだけなら1つで十分ですが、他の階層に移動するならもっと数が必要になります。

まあ、この遺跡に関して言うなら、セフィの想像通り他の階に行っても得られるものはほとんどないんですけどね。だってマンションだし。

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