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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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◆第81話 真実の一端

 最大の目的は果たせなかった藤子であったが、それでもインティスに数日滞在することを選んだ。

 ミリシアとシイルが持つエルフィア文明の知識を照らし合わせ、情報を整理したかったからだ。

 その結果は、なかなかの成果と言っていいだろう。


 そこから藤子が判断するに、エルフィア文明当時の生活水準はおおよそ現代地球よりやや上と言ったところである。冷蔵庫や車、洗濯機といった生活用品は当然のように全世帯に普及していたようだし、武器にしても既に剣や槍と言ったものは基本的に廃れており、銃がその大部分を占めていたようだ。

 ただし、当時もダンジョンは存在していたようで、そうしたところに入り資源を得る職業では、職場が職場だけに剣などの武器が使われていたようである。

 さらに、天駆ける魔法機械が空を埋め尽くしていた。魔獣を人工的に幻獣にする技術があった。そういった話が次々と飛び出てくるのだから、面白くないわけがなかった。


 とりわけ藤子が興味を示したのは、大量破壊兵器である。

 地球においても、核兵器や生物兵器といったジャンルでそれは複数存在し、俗にABC兵器(アトミック、バイオ、ケミカルの頭文字)と称されていた。

 この世界ではそこにコンピュータに対するものと、魔法による兵器が存在していたようだ。地球のそれに倣うなら、前者データ、後者をエーテルとでも名付けてABCDE兵器とでも呼べばいいだろうか。


 ともあれ、そういうわけで兵器が地球よりも数が多かったという推測は簡単にできる。エルフィア文明当時に技術は、明らかに矛と盾のバランスが地球のそれよりも大きく崩れていたとみて、間違いないだろう藤子は考えるに至った。

 だからこそ、ある日文明が崩壊するような事態が起こったのだろう、と。


 実際に文明崩壊のその前後で、人間と幻獣が大きく対立しており、幻獣側が魔法兵器の過剰は開発を進めていた事実を、ミリシアは聞き及んでいた。


「魔法という技術を重視して大きく発展させてきた幻獣にとって、威力の限界を超えることはさして難しいことではなかったようです」

「そうじゃのう、わしもその気になれば世界の一つくらいは滅ぼせるし」

「……それはともかく、それがすなわち神々の怒りにふれた、ということだろうか……?」

「妾たちだけが隔離された空間に閉じ込められていることから、きっとそうなんだと思います……」

「開発しただけで終わっておればよかったのじゃろうがな。早急に人間側も同程度の威力のものを用意できれば、あるいは抑止力となり一触即発以上のことにはならなかったやもしれぬが」


 地球の冷戦のように、と脳内でつぶやいて藤子は腕を組む。


 そもそも、そんなバカげた威力の兵器など作られないことが一番なのだが、人間の性質上そうもいかない。

 加えて、地球は邪神どもに狙われており、なおかつその中の特にたちの悪い邪神が、平行世界の壁をも越えて核兵器の技術を人類に散布してしまうため、どうしようもなかった。

 この世界にはそういう邪神はいないようだが、いなくともそこに達してしまう辺り、人間……というより知的生命体の業の深さはどこに行っても同じなのかもしれない。


「……そりゃあ、そんな兵器を作ったうえに使って、世界を崩壊させたとあれば神様も怒るに決まってますよね……」


 わかってはいるんだけど、とこぼしてミリシアは顔を伏せた。

 シイルもまた、目を閉じて深いため息をつく。


 エルフィア文明時代を実際に経験しているわけではない彼らにとって、先人の行為は愚行にしか見えないのだろう。


 ちなみに、セレンと輝良カグラはこの場にはいない。連れて行ってほしいと小うるさい幻獣が大勢いたため、「弟子の幻獣に勝ったら考える」という言葉と共に面倒事を押し付けたのだ。セレンは幻獣ではないので戦わせるつもりはなかったが、せっかくなので審判を任せた。


 まあ、既に浅い階層ならばソロで神話級ゴッズダンジョンも動き回れる二人だ。そんじょそこらの幻獣に負けることはないだろう。

 ただし、挑む側の幻獣にそれに気づけたものがいないので、連日道場破りを受け続けるような形で戦いまくる事態になっている。

 時折爆音などが藤子たちのいる場所まで聞こえてくるが、藤子は弟子の勝利を疑っていないので気にしない。


「……とりあえず、これで一つはっきりしたことがある」


 重くなった空気を塗り替えるかのように、藤子はさらりと話題を変えた。


「少なくともエルフィア文明が滅んだ当時、この世界の情勢は人間と幻獣に分かれていた、ということじゃ。そして今わしの元にある情報は、すべて幻獣側のもの。当時をより正しく理解するためには、人間側の情報も得なければならんのう」

「……人間側、ですか」

「うぅむ……残っているだろうか……」

「さて、どうかのう。わしは残っていると思うが?」

「どうしてですか?」

「エルフィア文明時代の古書が残っておるのだぞ? 当時のものがすべてなくなってしまったとは到底思えん」


 ムーンレイスの図書館、その禁書が集められた地下書庫のことを思い出しながら、藤子は言う。


 あそこで閲覧した禁書の中でも、先史時代、すなわちエルフィア文明時代の書物は、明らかに他のものとは異なっていた。

 羊皮紙とは異なり、質のいい紙と上等な印刷がなされたもの。それを見た時、藤子はこの世界に超古代文明が存在していたことを確信したものである。


 そして、そんな紙の集合体ですら残存しているのだから、たとえばかつての街などが丸々残っていたとしても、不思議ではない。それが藤子の持論であった。


「……なる、ほど」

「うむ……可能性はある、かもしれぬが」

「ムーンレイスが秘匿している情報は、恐らくそれに関連したものだと思うのじゃがなあ……」


 藤子がこの世界で一番長く滞在したのは、今のところムーンレイスである。

 その間に、印刷をはじめとした多くのものをかの国が隠していることは、調べをつけている藤子だ。


 ただ、さすがに敵でもない相手に不条理で押し通ろうとは思わなかったので、その辺りのことはまだまだ手を付けていない。

 それでも、ムーンレイスが秘匿していると噂されている技術の多くは、現代ではまだ存在しないものばかりだ。そのため、可能性は高いと藤子は見ている。


「ま、わしが旅の道中でそういったものを見つけられれば一番じゃがのう」

「……そりゃあ、まあ」

「誰にも邪魔されないだろうし、な」


 その言葉に、藤子はくくくと笑った。

 それは、肯定と言っていい態度だろう。


 ――と。


 不意にノックの音がした。

 藤子たちがそれに応じると、中に入ってきたのはセレンと輝良。セレンは無傷だが、輝良は多少傷を負っており、変化もやや解けている。


「トーコー!」

「全部、終わった」

「おう、ご苦労であったな」


 二人を迎えながら、藤子は回復魔法をかける。

 もはや当然だが、その瞬間に輝良の傷は完治した。が、初見のシイルが目を点にしている。


 それはもちろん無視して、藤子は改めて二人に声をかけた。


「思ったより早く済んだようじゃな?」

「ん。みんな弱かった」

「わあ、カグラってば言いすぎだよ!?」

「事実」

「そ、それはそうかもしれないけどー!?」

「はっはっは、ほどほどにしておくのじゃぞ」

「ん」


 こくりと頷きながら、輝良の身体が人間のものへと変化する。


 空気を読む、という行為は幻獣である輝良には期待できないようだ。

 それを横目に眺めながら、セレンは小さくため息をついた。


 ちなみに、藤子は読めないのではなく読まない。


「……して、いかがであった? セレンは審判をしたのであろう?」

「うーん、なんていうか、私が目指してるものとは違ったかなあ。だって、みんな戦い始めると同時に原型になっちゃうんだもの。あれじゃあ怪獣大決戦だよ」

「それは仕方なかろうな。人型の状態で戦うということは、そもそも幻獣にとって想定したものではないはずじゃ。のう、二人とも?」

「えっ? あ、は、はい……そう、ですね。妾のような人に近い幻獣はまた別ですけど……」

「う、うむ。人の姿で戦うことを前提に修練をしているものは、我の知る限りいない」


 不意に話を振られた幻獣二人の、それでも迅速な回答に藤子たちは頷く。


「……アタシ、変?」

「そうね……普通じゃないと思うわよ……」

「……そう」


 とはいえ、輝良はブレなかった。

 落胆した様子はなく、ただいつも通りの薄い表情のままでいる。ただ事実を確認しただけ、といった様子だ。


「ま、これにて面倒事は落着じゃな。シイル、見ての通りわしにはこれ以上幻獣はいらん」

「うむ、そのようだな……残念ではあるが、皆には諦めよと告げておく」


 シイルの顔は、言葉に反してそこまで残念そうではなかった。

 この街で唯一藤子の素性を知っているだけに、そうなることが当然だとわかっていたのだろう。


「さて、では全員そろったところで今後のことを話し合おう。セレン、輝良、お主らも席に着け」

「わかったよ」

「ん」

「今後のこととなると、我は席を外したほうがいいだろう。結果を告げるためにも、先に失礼するとしよう」

「おう、気を遣わせてすまんな」

「構わぬ。では」


 セレンたちが席に着くのと入れ違いで、シイルが退室した。

 それを見届けてから、藤子は三人を順繰りに眺めやる。


「今後じゃがな。まず、各地の神話級ゴッズダンジョンを踏破する」

「本当!? よーし、もっと修行して今度こそトーコの手を借りずにクリアできるようにならなきゃ!」

「同意。次こそアタシたちだけでクリアする」

「ちょ……あんたたちの感覚やっぱりおかしいからね!?」


 この場合はミリシアが正しい。神話級ゴッズは通常、たかだか二、三人で踏破できるような代物ではない。


「行先は、グドラシア森国、太陽王国ドランバル、セントラル帝国、魔の国ブレイジアの順で行くつもりでおる。ダンジョン名で言うなら、順にアルテア幻夢界、マルス地下渓谷、ナルニオル練武場、シフォニメル王墓じゃな。途中で何かあった場合はこの限りではないが……とりあえず、目安としてな。

 ただし、道中で幻獣の都ルーイルを発見した場合は、そちらに向かうことを最優先とする。何が起きたかはまだわからんが、恐らくこれを捨て置いてはならんとわしは思う故な」

「……トーコさん」

「礼はいらんぞ、わしのためでもあるからな」

「……はい、わかっています」


 それでもどことなく嬉しそうに微笑むミリシアに、藤子は一つ頷く。


「経路は、このままムーンレイス・シェルドールの国境を北上して、シェルドール・セントラルの国境沿いを西進してグドラシア森国を目指そうと思っておる。その先のことはグドラシアで考えよう」

「……トーコ、待って」

「なんじゃ?」

「そのルートさ……オーウィラム湿原通るんじゃない?」

「通るが?」


 それがどうかしたか、と言わんばかりの藤子の口調に顔色を変えたのは、セレンだけだ。

 血相を変えてものすごい勢いで立ち上がると、机に両手を置いて身を乗り出す。


「ちょちょちょ、いくらなんでもあそこはまずいんじゃない!? あそこはいくらなんでも危険すぎるよ!」

「そうか? かつてお主も通ったではないか」

「あれは運が良かっただけだよ!? そもそも、トーコが通った後を通ったんだから、襲ってくるやつなんてほとんどいなかったし!」

「当時は運だけだったとはいえ、今はそうでもないじゃろう。今のお主らなら、さして問題はないと思うが?」

「ええええ、とてもそうは思えないんだけど……!」


 元々スライム系の青い顔を、さらに青くするセレン。

 そんな彼女に、輝良とミリシアはついてこれない。二人とも世俗の知識には疎いので、無理もないのだが。


「セレン、よくわからないけど、トーコが問題ないって言ってる。だから大丈夫」

「うん……妾もそう思うんだけど、そこってそんなに危ないの?」

「危ないよ! とっても危ない! あそこに住んでる魔獣は、どいつもこいつも厄介なんだ! ゴールドクラスでも苦戦するって言われてるくらいなんだ!」

「……アタシとセレン、この間ミスリルに上がった。何か問題?」

「……それもそうか。っていやいや!?」


 一瞬きょとんとして頷きかけて、もう一度声を上げるセレンである。

 そんな彼女に、藤子がくすくすと笑えば三人はピタリと声を殺して目を向けた。


「ふふ……セレンの言わんとしていることもわかるがな。もう一度言うぞ、今のお主らならさして問題はない。己にできることを、いつも通りにこなせばよいのじゃ」

「……う、うん……」


 にやりと笑う藤子に気圧され、セレンはそろそろと腰を下ろした。

 それと同時に、藤子がそこまで言うなら大丈夫なのかなあ、とも思ったのだろう。顔色はあっという間に元に戻った。

 一般人の感覚からは、相当にかけ離れたやり取りである。


「他に質問はあるか?」


 藤子から問いかけが飛び、対する三人は揃って首を振った。

 それを確認した藤子は、先ほどから浮かべたままの笑みをそのままに、ゆらりと立ち上がる。


「では、明日の朝一で出るぞ」


 そして、そう告げたのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


人間側の古い情報は、できればセフィ編で明らかにしていきたい所存。

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