第8話 異世界の魔法事情
「ねえ父さん」
「うん?」
魔法書を手に入れたこの日、ぼくは自室で魔法書を呼んでいた。……いや、正確に言うと内容を暗記していた。
魔法は、慣れれば何もなくとも使えるらしい。けれど初心者は、まず詠唱文を唱えることで魔法を覚えるのが鉄則のようで……つまり、その詠唱文を丸暗記している真っ最中なのであった。
詠唱文とは、具体的な「音声」という形で魔法の式を編むための文章。これを口にすることで、本来なら人が実力でやらなければならない魔法式の構築を、音声が代替してくれるらしい。そのため、どんな初心者であっても、魔法に見合った量のマナを扱えるなら、これを唱えることで魔法は発動するという。
この詠唱文をすべて網羅しているのが、ずばり先日購入したティライレオル大全。その名前の通り、この本はメン=ティの魔導書という体系に属する魔法のすべてが載っている。詠唱文から何から何までだ。まさに魔法の図鑑であり、最高の教科書でもある。
こんなものが買えていいのかと思えるほどの逸品だけど、聞いた話ではあのおばあさん、ああ見えて冒険者ギルドのお偉いさんなんだとか。そして本来であれば、購入に際してはさすがに身分証明と簡易な試験が行われるらしい。
ただ、父さんが彼女の知り合い……というか、ぶっちゃけて言うとあの人が父さんの乳母だったみたいで、その辺りのことは必要ないと判断されたのだ。
なるほど、とも思う。父さんがいつもより子供みたいな振る舞いをしていたのも、それだけ心を許している相手だからってわけだ。そしておばあさんのあの態度も、要はバカな子ほどかわいい、とかそういうアレだと思う。
ともあれそんなわけで、ぼくは魔法の第一歩である詠唱文を覚えようとしている。
ちなみに、扱えるマナの総量が年齢の割に多いぼくが口にして覚えようとすると、魔法が勝手に出てしまうので、魔法の名前を宣言することは絶対にできない。そんなことをしたら、部屋の中が大変なことになる。
一方の父さん。ぼくが暗記をしている間はここにいる必要は正直ないと思うんだけど、なぜか部屋の真ん中で右手の小指だけで腕立て伏せをしている。息はまるで乱れていない。ぼくの呼びかけを受けてもなお、機械のような正確なペースを維持している。
ようやく聞きたいことが聞けるので、ここにいること自体は別に咎めるつもりはないけど、暗記がしづらいことは間違いない。
「……その、ずっと気になってたんだけど」
父さんの正体ではない。
今まで言おう、言おうと思って結局今日まで引き延ばしてきた話をするためだ。
「その、なんで話し言葉と書き言葉が違うの?」
「ほう」
今までまったく乱れなかった父さんの指立てが、そこで初めて止まった。その気配に振り返れば、父さんはピタリと動きを止めた状態で、ぼくのほうを見ていた。
それから不意に立ち上がると、ぼくの隣までやってくる。
「……普段話している言葉とは違うのに、それがどうして使われているのか、ということだな」
「うん……だって、正直めんどうだよね? 話してる言葉通りに書けばいいのに、これじゃ違う言葉を使ってるようなものだよ」
「ああ、そうだな。その通りなんだよなあ……」
「……え?」
しかし、父さんの返事は予想していないものだった。
「お前の言う通りだ。はっきり言って、今のヴィニス語は面倒だ」
「ぅえ、と、父さん……今の状態ちゃんとわかってたの?」
「もちろんだ。どう考えても不自然だろ?」
びっくりした。父さんは、今のダイグロシアになっているヴィニス語の問題にちゃんと気づいていたのだ。
普段からまったくそれを感じさせていなかっただけに、本当に驚いた。
同時に、心強くもある。ぼくと同じことを考えている人が、こんなに身近にいるんだから。
「……はは、とは言ったが、最初は全然気にしてなかったよ。生まれてからこれが普通だったからな。けど、セントラルに初めて行った時に、そこで話し言葉で書かれた文章を見てな……」
「セントラル、で?」
「ああ。俺は昔、大陸を旅してたんだ。で、セントラルは位置的にも文明的にも大陸の中心だからな。シエルを出て最初はここだって決めてたんだよ。まあ田舎から出てきた小僧が大都会の洗礼を受けまくったってわけなんだが……」
「その中に、言文一致した文章があったと……」
「おう。いやあ、あれはマジで衝撃だった。頭殴られたみたいだったな。なんでこれに誰も気づかなかったんだって思ったもんだ。
いや、とは言っても当時のセントラル全土でそれが実施されてるわけじゃなかったけどな。帝都くらいだった。それでも、画期的なことだと思ったさ」
「それはいつのこと?」
「10代中ごろの話だから……あー、30年ちょい前ってところか。……うわ、改めて言葉にするとすげえ悲しい」
深く共感できるつぶやきを残しながら、父さんが遠い目をした。
それは置いとくとしても……30年ほど前に既にセントラル帝国では言文一致が始まっていたのか。ってことは……。
「……今ってどうなってるの?」
30年も経てば、相当進んでるよねえ?
「こないだ行った感じだと、どこに行ってもほとんどすべての文書が話し言葉で書かれていたな。さすがに外交文書の類はそうでもなかったけど」
「うわあ……やっぱりセントラルは進んでるんだね」
思わずため息が出る。大国はさすがだなあ、とね。
と同時に、そんな話をほいほいしてもいいのかとも思ってしまう。外交文書なんて言葉、普通外交官などの官僚か、それこそ大臣以上のクラスの人間じゃないとそうそう見る機会ないよね?
父さん……やっぱりその、もしかして……。
「シエルも進めてはいるんだ。学校では極力話し言葉を書くように教えてるから、今の25歳以下の人間は大体、ほとんと書き言葉を使わないようになってるはずだ」
「え? そ、そうなの?」
「おう。国主体で学校を作り始めたのが今から25年前、その時から俺は書き言葉と話し言葉の差異はなくすべきだって言ってたからな」
「……父さんすごい!」
「お、おう? そうか? がははは」
なんだ、ぼくががんばるまでもなく、父さん言文一致運動してるんじゃない!
それもある程度の立場にある人間じゃないとできないやり口だ。これは絶対、今のぼくがこうしたいって思ってもできないぞ。
「……こほん、まあそんなわけで、少しずつ変わってきてはいるよ。ただな……これ以上はその、少し外交の話が関わってくるんだが……」
「え、他の国のことと……?」
「ん。シエルは魔法王国ムーンレイス、グランド王国と三国同盟を結んでるんだが……ムーンレイスがなあ、お固いんだよ。文字を書くはこうあるべきである、みてえなところがあってな……」
「ああー……なるほど……」
新しいものを受け入れることができないというのは、多かれ少なかれ人間にはよくあることだ。
そんな人間が国の中枢に多ければ、国の方向性としてもそう言う風になるのも仕方ないだろう。
よく言えば慎重、と言える姿勢ではあるけど……言葉に関してはセントラルに従ったほうが……って、そうか。だからか。
「えと、セントラルとムーンレイスって確か、仲が……」
「そう、よくない。だから余計だ。セントラルが推進してる政策を、そっくりそのままムーンレイスでやるわけにはいかないってことなんだが……同盟のよしみでつき合わされるこっちとしてはなあ」
「難しい話だね、そうなってくると……」
要するに、セントラルとムーンレイスは、かつてのアメリカとソ連のようなものってことだ。
世界で1位と2位を争う大国同士。互いを強く意識し、その利権を確保しようと動きは、まさしくかつての冷戦を思わせる構図だ。ここ数十年は戦争もないというから、余計それっぽい。
さすがに核の脅威なんてものはこの世界にはないだろうから、二か国間の緊張がイコール世界の危機ってわけでもないだろうけど……この世界には魔法なんて技術があるからなあ。案外どうなるかわかんないかもしれない。
いずれにしても、平和に漫画を描いていたいぼくにとっては、御免こうむりたい話ではある。
「まあそういうわけで、いまだに書き言葉が主流な国もある。ってことでな。両方必要になるわけだ。国外に行くとなると、文字で困る可能性があるからな」
「そっかー、そりゃ仕方ないね……」
「ちなみに、例の魔法書だがな。ティライレオル式はムーンレイスで主流の詠唱文で、内容が書き言葉だから文字数が少ない、その分身体にかかる負担が少ないという利点がある。シエルにとっては同盟国だから、安く手に入るしな」
「おお、なるほど?」
「対してカルミュニメル式はセントラルで主流のものだ。話し言葉が混ざってる分文字数が多いが、その代わり威力などの点ではこっちに分がある。一応色々あってティライレオル式を買ったが、もしカルミュニメル式のほうがいいと思うなら、それもありだからな」
「うん……覚えとくよ」
へえー、そんな違いがあったのか。
同じメン=ティの魔導書なのに、種類が違うのはどうしてかと思ってたけど……つまりは魔法を使う時に必要になる魔法式が違う、ということなんだろう。算数で言うところの、答えは一緒だけど過程が違うってやつと考えればいいのかな?
考え方としては、
1+1=2=2×1
が成り立つのと同じということだろう。
いやまあ、効果に差があるって父さんが言ってるということは、実際はここまで単純ではないだろうけど……考え方としては似たような感じだろう。
どちらの方式がいいかというのは、片方しか知らない現段階では何とも言えない。もし今後触れる機会があれば、その時に考えるとして今は置いておくとしよう。
ともあれ、どうやら言文一致に関してはぼくがそこまでがんばらなくてもいいということがわかった。今日は、この収穫があっただけでも有意義だったと思うべきだろう。
これで心置きなく、漫画を描けると言うものだ。
あ、もちろんその前にやることはまだまだたくさんあるけどね……。
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さて、それから3日が経った。
そこから今日にいたるまで、ぼくは父さんから魔法の手ほどきをあれこれと受けている。場所は庭の一角だ。
珍しく父さんが長めに家にいてくれるので、魔法の習得は思ったよりも順調だ。父さんとしても、叩けば響くぼくは教えがいがあるのか、なかなか熱がこもっている。教え方はお世辞にもうまいとは言えないけど、フィーリングで説明をくれるわけではないので、そこは単に教える側としての経験不足だと思う。そこはぼくが逐一質問すればいいことだ。
ともあれ、魔法だ。ファンタジーの代名詞と言ってもいい。それが使えるんだから、これほど嬉しいことはない……。
まあ、前世には「極まった科学は魔法と区別がつかない」とおっしゃってくれた方もいるが、ぼくとしては、魔法というのは「なんかこう、原理はよくわからんがパネぇパワー」だと思ってるので、この世界の魔法は十分に魔法です。
この世界の魔法は、いくつか種類がある。その中でも、もっともメジャーかつ基本的なものが、今まで何度か言及してきた、メン=ティの魔導書と総称される魔法だ。
これはゲームでおなじみの、攻撃魔法と回復魔法といったものをすべて統合して体系化されたもので、神話に名を残す大賢者、メン=ティが編纂したとされる。
これがどうして最も利用されているのかというと、その使い方がすべて公開されているから、というのが一番大きい。
ティライレオル式大全に代表されるように、この魔法は本という形でマニュアルが完全に出来上がっているのだ。だからこそ、初心者にとっても上級者にとってもなじみやすい。
加えて、様々な魔法をジャンルごとに区別し、さらに難易度や威力に合わせて初級から極大までの4段階に細かく段階が定義づけられているというわかりやすさも大きい。そうした区別から、魔法使いとしての能力が一目でわかるという利点もある。
というわけで、この世界で「魔法使い」と言った場合、大体はこのメン=ティの魔導書を扱う魔法使いを指す。それくらい一般的な技術なのだ。
「我、風に乗りて歩む。汝、我を拒むなかれ……ウィンド!」
詠唱に合わせてぼくの手には淡い光が集い、そして宣言と共にそれは風の刃となって放たれる!
刃はそのまま一直線に飛んでいき、その先にいた父さんに襲い掛かる。しかし……父さんは動じることなく拳をぐっと握り、
「むんっ!」
気合一声と共に開かれた手から、マナがあふれて風の刃を打ち消した。
……半端ない。何度見ても、半端ない光景だ。
もちろん、練習とはいえ放たれた魔法には十分な殺傷力がある。だからこそ熟練である父さんがその受け手になって、どこにも被害を出さないように解呪してるんだけど……。
これはメン=ティの魔導書が完全に体系づけられた技術だから、という側面もある。つまり、仕組みが見てすぐにわかってしまうので、熟練者にもなるとそれを外から打ち消すことができてしまうのだ。
メリットもあるけど、その分デメリットもある。世の中なんでもかんでもうまくはいかないね。
「うむ。一切の乱れのない、きれいな魔法式だ」
その父さんは、何やら嬉しそうにうなずいている。それだけ、今ぼくが放った魔法がいい出来だったんだろう。
「魔法の出来は、いかに簡潔に、そしていかに強力な魔法式を編めるかどうかにかかっている」
父さんは最初、ぼくにそう言った。
いわく、式が短ければ短いほど発動までのタイムラグが減る。
いわく、式が強ければ強いほど魔法の威力が上がる。
同じ魔法であっても、これらがより優れた式を持つ魔法のほうが、強大な魔法になる。そういうことらしい。
この「式を編む」という行為が、いわゆる「魔法を使う」ということに直結する。具体的にどうやっているかは、水泳や自転車と同じように、身体で覚える感覚的なもので、うまく表現することはできないんだけど……。
ともあれ、そうやって式を編めなければ魔法は使えない。けれど、当然初心者にそれはできない。ではどうするのか、というと……そう、先日必死に覚えたあの詠唱文を用いるのだ。それが結実したものが、先ほどの結果というわけだね。
「よしセフィ、次は詠唱破棄でやってみろ」
「うん」
父さんの言葉に頷き、ぼくは身構える。
先ほどの魔法と同じ仕組みをイメージして、マナに魔法式を落とし込む。それは、淡い光という形で具象化し、そして……。
「ウィンド!」
ぼくの言葉に応じて完成、風の刃となって父さんに放たれる!
「ふんっ!」
もちろん、それは父さんによって解呪される。けれどこの場合、魔法がしっかり発動したことのほうが意味は大きい。
「……よし、十分な威力だ。いいぞセフィ!」
父さんの嬉しそうな顔に、ぼくはこっくりと頷いた。
これが詠唱破棄だ。見ての通り、さっきは唱えた詠唱文を、まるっとカットした上で魔法を発動させている。
これを実行するには、詠唱文がサポートしていた魔法式の構築を自分でやる必要がある。そのため難易度は、普通に魔法を使うよりも上がる。
その代わり、口をほとんど動かさなくて済むというメリットを持つ。当然だけど、いつも長い詠唱文を唱えていられる状況とは限らないからね。
「じゃあセフィ、最後だ。無詠唱で来い!」
「うん!」
父さんにもう一度頷いて、ぼくは改めて身構える。
やることは、基本的にさっきと変わらない。ただし、最後の最後で一つだけやり方を変える。
ぼくは淡い光が集まった手を、そのまま父さんに向けた。その瞬間、光は風の刃になり、父さんに向かって飛んでいく。ただし、その大きさは今までと異なり小さい。
「はっ!」
当然のように、それは解呪される。が……。
「すごいぞセフィ、まさかたった3日で無詠唱までやってのけるとはな……!」
父さんはそう言いながらぼくに駆けより、高い高いをした。次いで、喜色満面と言うにふさわしい顔で頬ずり。伸びかけのひげが少し当たってむずかゆいけど、ぼくも嬉しいのでそれは気にしないことにする。
何せ、今まで詠唱破棄はできても無詠唱はできなかったのだ。これは快挙と言ってもいい。自力で魔法式を組むのは、思いのほか難しかったんだよねえ。
詠唱破棄とどう違うのかって? ふふふ、違うんだなあこれが。確かに似たような言葉だけど、二つの技術は決定的に違うのさ。
さっきも言った通り、詠唱破棄とは詠唱文のサポートなしで魔法を放つ技術。けれど、練り上げた魔法式を完成させる際に魔法の名前を宣言している点では、実は通常の詠唱とあまり差がないとも言える。
なぜなら、最後に魔法名を言うという行為は、実のところ詠唱文とほぼ同等の効果があるからだ。つまり、魔法式を編むことが出来さえすれば、最後の宣言で確実に魔法が発動するってわけだ。
一方無詠唱とは、それすらもせず、練り上げた魔法式をまったくの自力で完成させる技術。音声の補助が一切ないので、うまく式が編めていないと魔法は失敗する。
ここにはさらに精神状態なども絡んでくるので、無詠唱で魔法を発動するのは、高い技術が必要になってくるのだ。おまけに、詠唱と同等の性能を引き出すにも、使い手の技量が関わってくる。
一見すると、無詠唱にはメリットがないようにも見える。けれどこれが、魔法使い同士の実力をはっきりさせる線引きになる。
詠唱、あるいは詠唱破棄は確かに便利だ。言いさえすれば、魔法がちゃんと発動するんだから。でも、そう、「言いさえすれば」というところがネックなんだよね。
これらは、結局口に頼る必要がある。口が使えない状況では、魔法が使えなくなってしまうのだ。
ところが、無詠唱なら自分の意識がありさえすれば魔法は使える。口をふさがれようが喉を潰されようが、だ。これがどれだけのメリットかは、言うまでもないだろう。
そしてこの無詠唱。実は単なる長所短所とは異なる点で、重要だったりする。
「あとは無詠唱で、どれだけ効果を詠唱に近づけられるか、同じにできるか、だな。それができれば、お前は初級魔法合格だ!」
「うん、がんばるよ父さん!」
先にも言ったけど、無詠唱は使用者の実力によって威力や効果が大きな差が出る。さっきぼくが無詠唱で放った魔法が、今までより小さかったのはそれが理由だ。
つまりぼくにはまだ、詠唱した時と同じ威力を出せるだけの実力がないってことになる。父さんが、効果を同じにできれば初級合格、と言ったのはそういうことだ。
自力で詠唱という模範通りのことを同じようにできること。これが、メン=ティの魔導書という技術の目安であり、その基準に使われているのが無詠唱という技術なのである。
もちろん、同じクラスの魔法であっても、属性や効果によって式は変わる。だからこそ、一つの魔法ができたからと言ってすべてが同じようにできるわけではない。
けれど、少なくとも一つの魔法で合格級の実力があれば、他の同クラス魔法も比較的それに近づけられるらしい。無詠唱とは、それだけ魔法使いにとって重要な技術なのだ。
ちなみに父さんだけど、メン=ティの魔導書に関してはほぼすべて上級まで問題なく使いこなせるらしい。これはとんでもない実力だ。
どれだけすごいかというと、メン=ティの上級まで使いこなせる人間が100人に1人程度と言えば、おわかりいただけるだろう。前世の日本とは違って、人口も少ないこの世界でこの比率は、相当なレアリティだよ。
その上であれだけの速度で走れたりするような、強靭な肉体の持ち主だからね。案外この人、何かチートの類でも持ってるんじゃないかとも思っちゃうよ。
「いやー、やっぱりお前は天才だな! ああ、天才だ!」
その父さんが言う。あなたには負ける、とも思うけど、まあ年齢差が相当あるからね。口にはしない。
で、正直照れくさいんだよね。前世、ぼくはそこまで褒められた経験ないから余計かなあ。
けど、魔法は前世には存在しない技術なだけに、これに関しては本当に自分の才能なのかも、と思ったりもする。
いや、それでうぬぼれるとあとあと痛い目を見ることはわかってるよ。そこは思うだけにして、謙虚に練習に打ち込むべきだろうね。
……とまあ、そんな感じで魔法の練習に打ち込むぼくなのでした。
ちなみに、ティーアはぼくと同じことがしたいらしいんだけど、彼女の場合まだ文字が読めないので、お預け状態。こちらは現在、母さんとフィーネによってみっちり教え込ま絵れている真っ最中だ。
彼女がぼくと並んで魔法を使えるようになるのは、果たしていつになることだろう。
父さんは、あまり期待せず、気長に待っておけと言ってたけど……?
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
この世界の一般的な魔法についての説明回。
そして、言文一致についてついに動き始め……と思ったら、親父が既に進めていたの巻。
当初はこれすらできてないという構想でいましたが、調べた結果、日本で言文一致が完了するまでに実に百年近くもかかったらしいんですよね、これが。
さすがにそんなにかかるとなると今からやるのは遅いだろう、ということでパパンにがんばってもらいました。
彼のチート具合が上がったような気もしますが、まあ蛙の子は蛙ということで一つ。