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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 1~でもその前に、精進だ!~
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◆第69話 カルミュニメルの塔 6

 最後の扉を抜けた先……そこは、何の変哲もない部屋だった。分類するならば、書斎を兼ねた応接室と言ったところか。

 広さはほどほど。調度品の類は比較的質がよさそうではあるが、それでも最高品質というわけではない。あえて目を奪われるならば、壁一面に並べられた大きな書架くらいだが、そこに並ぶ本は表紙だけの飾りのようである。


 しかしこの部屋で特筆すべきは、そう言ったところではない。なぜならば、この部屋の様式は全て過去のもので統一されているからだ。

 その様式を藤子が今持つ知識に問えば、インティスで仮宿として貸し出された教会らしき建物と一致していた。そして本の背表紙に記された文字も。


 そんな部屋の奥、大きなテーブルにカルミュニメルはいた。優しい微笑を浮かべ、藤子たちを招く姿はまさしく世界を支える慈愛の女神だ。

 その姿は確たる実像がある。先ほどとは異なり、正真正銘の神本人がここにいるのだ。


 セレン達は、その姿を見るや否や傅いたが、藤子は違う。


「神の割に、随分と俗っぽい空間を出してきたな」


 招かれるまま、カルミュニメルの正面に座ってそう言ったのだ。

 その後ろで、静かに扉が閉じていく。


「まあねえ、人間時代の思い出の場所だからそう感じるのも無理はないよ」


 しかし、あはは、とカルミュニメルは笑う。まるで気にしていないようだ。

 が、藤子はその後には応じず、その二色の視線は先ほどから書架に並ぶ本にくぎ付けだ。


 藤子の感覚があれはダミーだと告げているが、書かれた文字まではダミーではない、とも言っている。古代文字を遥かに超える神話時代の文字を見る機会など、そうそうあるものでもない。


 そんな藤子に代わって、おずおずとセレンが口を開いた。


「あのー……人間時代、って……さっきも言ってた気がするけどー……」

「うん、他意はないよ。ボクは今神様やってるけど、大昔は人間だった。ここはボクが人間時代に過ごした我が家の、応接室を写し取った空間なんだよ」

「はあー……道理で見たことのない感じ……」

「ここに限らず、他のみんなのダンジョンも最深部はこんな感じだよ。みんな、自分が一番思い入れのある場所を自分の玉座にしてるからね」

「……他の方も、みんな元人間なのですか……?」


 しっかりと敬語をわきまえているのは、ミリシア。


 まあ、ざっくばらんな対応を嫌うカルミュニメルではないのだが。


 ティライレオルやナルニオルもそうだったが、これは彼らが元人間であるが故の気安さなのだろう。よほど英雄願望の強い人間でもなければ、神と崇め奉られることには抵抗があるのが普通だ。


「そうだよ。グ……じゃない、うちの人が人間族スターズ、ボクとティル……ティライレオル君が月人族ムーンライト、シフォニメル君が魔人族ダークムーン、マルス君が陽人族サンセット

 マティアス君は人間族スターズに先祖返りした魔人族ダークムーンで、クレ……リルリラはボクたちの娘だからハーフムーンライト。アリー……アルテア君は夢人族イリュージア魔人族ダークムーンのハーフだね」

「……? マティアス様は小人族ウィンディア、リルリラ様は才人族ジーニアなのではないのですか?」

「当時はその二種族は存在してなかったんだよ。彼らはみんな、魔人族ダークムーンの子孫なんだ。ちなみに、魔人族ダークムーン月人族ムーンライトの子孫だったりするよ」

「え……ええええ……!?」

「うそー……」


 この世界の歴史的謎が、いとも簡単に明かされた。

 ついでに、常識も破壊された。


 輝良カグラはまだ人間社会について熟知しているわけではないので驚きは少ないようだが、セレンとミリシアは愕然としている。

 彼女たちに、神が暴露した真実を世間に知らせる勇気はないと見ていいだろう。


「……あの、ちなみになんで『ボク』……?」

「あ、これ? ボク、最初は男だったから」

「「「はああああ!?」」」


 これには、輝良も度肝を抜かれた。


「いや、最初歯も何も、元々は女だったんだけどね? 夢人族イリュージアの呪いで生まれる直前で男にされてたんだ。で、両親にはそれと知らずに育ったから、これはもう癖だね」

「「「…………」」」


 もはや何も言えねえ、とばかりに三人は機能停止フリーズした。


 そんな三人を見て、カルミュニメルが肩をすくめた。仕方ないね、と言わんばかりである。


「仕方なかろう。わしのいた世界でも、性転換は常識的には起こり得ることではなかったのじゃ。この世界の人間にしてみれば、驚き以外の何物でもなかろうて」


 そこで、ようやく藤子が会話を継いだ。


「……まあ、魔法使いの間では結構行われておったがな。特に、部分的な変換は倒錯した趣味の奴らが……」

「そこでそういう生臭い方向に持ってこうとするあたり、君も大概だよねえ」

「なんじゃ、事実を隠すことなく述べただけじゃが」

「情報の取捨選択って、大事だと思うなあ?」

「そう言う割に、お主らはわしに対して必要な情報を開示してくれぬではないか」

「あー……それを言われると立つ瀬がないんだけども……」


 藤子の指摘に、カルミュニメルは視線を泳がせながらその長い耳の裏をかいた。


「……君は自主性に任せた方がいいだろう、っていうのがボクらの総意なんだよね。君は大体のことをあっさりこなしちゃう人だから、セフィ君のサポート一辺倒にすると飽きちゃうだろう、って。

 うちの人が言うには、『旅してまわる口実をあげたほうが楽しめるだろ』ってことなんだけど」

「……否定できぬから妙に悔しいわい」

「でしょ? ってわけだから……ここまで来てくれるのもわりとボクたちの計画のうちというか」

「釈迦の手のひらの上の孫悟空の気分じゃ。さすがに神なだけはあるか」


 もっとも、セリフに反して藤子は楽しそうだが。


「……では、そのまま乗せられ続けるとしよう。聞きたいことがいくつもあるのでな」

「うん、もちろん。でも、ようやく開き始めた可能性を閉ざす質問には答えられない。ボクがそう答えたものは、自力で答えを探すべきものか、まだ答えられる時期じゃないって思ってね」

「よかろう。ではまず……今まさに、世界の可能性は開き始めた、と言ったが……進捗がどうなっておるのか聞きたい」

「進捗、か……」


 最初の問いに、いきなりカルミュニメルは渋い顔をした。

 そのまま少し、その状態で考えていたようだが……。


「……今のところ、大きな変化はないよ。ほとんど元のまま推移してる。ある意味では『予定通り』。最初にうちの人が君に言った通り……そうだね、あれから7年近く経ったから、310年ってところかな」

「……ふむ、左様か。と言うことは、流れを確実に変えるような事案は発生していないのか。突如として瘴気が地上にあふれてくる異変を含めて」

「うん、そうだね。……でも、細かな動きは結構あるんだよ。君を呼び込む以前から存在していた世界線じゃ、こうはいかなかった。現状で一番大きな変化は、あの子の情報がフォーバ家に伝わったことだね」

「ほう? では、この間のわしの行動は正解であったか」

「うん、正解だよ。彼女の情報が渡ったことで、この世界線はやや好転したんだ。今後の細かな可能性を辿っていくと、その中に解決に至るだろう可能性を芽吹かせる線がいくつかあるよ」

「左様か。……ふふふ、セーブロード不可、バックログなしなどという鬼畜難易度でも、存外なんとかなるものじゃのう」

「君は本当に『今』を楽しむ才能があるね。伊達に人の身で不老不死はしてないわけだ」


 そこで一人と一柱は、くすくすと笑う。


「……では次と行こう。幻獣の街についてじゃ」

「あー……悪いんだけど、それについては言えないんだ」

「何? あれに関すること全てか?」

「そうだね……全部、かな?……あ、あー、封印扉の回廊については少しだけ話せるよ。聞きたい?」

「聞かせてもらおう」


 聞けるものは聞いておこうとばかりに、藤子はやや前に身体を出した。


「あの扉……ボクたちの封印が直にかかってることは確認してたかと思うけどさ。あれはね、各地の幻獣の街を繋いでるんだ」

「えっ!?」


 しかし、カルミュニメルの説明に誰よりも早く反応したのは、ミリシアであった。


「……各地の?」

「そう。幻獣の街は結構数があるんだけどね、扉をくぐれば別の街に行けるんだよ」

「え、じゃ、じゃあ、なんで封印されてるんですかっ?」

「んー……正確には違うんだけど、それでも答えるために敢えて誤解を招く言い方をすると、『服役中だから』かな?」

「……なるほど、『まだその時ではない』というわけか……」

「そんな感じ、だね」


 藤子は一応の納得を見たようだが、ミリシアは納得できないと言いたげであった。


 そして少しだけ考えた後、彼女は再び口を開いた。


「……妾たちが、一体何をしたって言うんですか……?」


 それは絞り出すような、そんな声音であった。

 彼女にしてみれば、幻獣の街の今の扱いは、そういう言葉を出さずにはいられないようなものなのだろう。現実との接触ができないということは、知的生命体にとっては苦痛となりうるのかもしれない。


 しかしそれについて、カルミュニメルはその慈愛の表情を消して言葉を発した。


「……それについては、ちゃんと君たちが語り継いできてるよね?」


 微笑みは残っている。しかし自らの名を冠する青い瞳は、冷ややかな空気を隠そうともせず、ただミリシアを一直線に見つめていた。


「……っ」


 その神威に気圧されて、ミリシアは歯噛みする。隣で、セレンと輝良が後ずさった。


「あの街の幻獣たちは、ボクたちが1万年かけて築き上げてきた世界の根幹を破壊したんだ。数世代の幽閉で済んでるだけでも十分温情を受けていると思ってもらわないと困るね。もちろん幻獣だけの責任ではないけど……それでも、その罪は重い。贖罪はまだ済んでない」


 カルミュニメルの言葉には、言い知れぬ迫力がこもっていた。

 ただの神威というものではない……もっと大きな感情の奔流がそこにある。


 藤子にだけ垣間見ることができたそれは、たとえて言うならば、子を失った母親のそれのようで――。


「……カルミュニメル、そのくらいにしておいてくれぬか。ミリシアは少なくとも、当時はまだ生まれておらんのじゃろう? 親の罪は子には及ばぬが法治というものではないか?」

「そういうわけにもいかないんだよね。君の言う理屈はもっともだけど……幻獣の技術は風化してもらわないと困るんだ」

「なるほど、なるほど?」

「……あっ。あーしまった、もー、ちょっと、言いすぎちゃったじゃない!」

「ふっ、先ほどの趣向返しと思ってくれ。……ミリシア、よく食い下がった。その根性、誉めてやろう」

「え、……えーと、はあ……」


 藤子にとっては、カルミュニメルから引き出したい言質を取らせたのだ。その気がなかったとしても、ミリシアの功績は大きいのである。


 もちろん当人は、感情に任せて詰め寄っただけなのだが。


「……はあー、ボクもまだまだだなあ。まあ反省は後でするとして……」

「うむ。幻獣のことでもう一つ聞きたいことがあったのじゃが……」

「ああうん……彼女のことだよね?」


 そして再び、ミリシアに神の視線が注がれる。

 びくりとするミリシア……だが、今度の彼女に注がれた視線は冷たいものではない。元通りの、優しい色を帯びている。


「うーん、と、察してるとは思うけど、幻獣の都ルーイルを入れていた空間に穴が開いたんだよね……」

「ふむ……自然的にそのようなことが起こるとは思えん。崩壊ならば、別の兆候もあったはず」

「うん、その通りで……その、人為的に開けられた穴、だね」

「ほう……ではもしや、わしらがこの塔に入る前にあった次元震はそういうことか? なれば、どこぞのいかなるものがなしたことじゃ?」

「……それは言えないかな」

「むう……では、ルーイルがどこにあるかも」

「察しの通り、言えないんだ。ごめんね」


 肩をすくめて見せたカルミュニメルに、藤子はふむ、と小さく息をついた。顎に手を当てて、思案する。

 そんな藤子をよそに、ミリシアがもう一度口を開く。


「その……じゃあ、妾はこのまま外にいても……?」

「うん、まあ、しょうがないね、ってことで。本来なら、君は落ちた空間の狭間から出てこれないまま死ぬから、この世界線が特例なんだけど、まあ、藤子ちゃんが面倒見てくれるならありだろうね、ってことでボクたちも話したから」

「えっ!? いや、ちょ、わ、妾死ぬ予定だったんです!?」

「うん、藤子ちゃんがこの世界に来てなかったら100パーセント死んでたね」

「……トーコさん本当に何から何までありがとうございますうううう!!」

「……いきなり土下座されても困るのじゃが」


 半目をミリシアに向けて、藤子は気持ちはわからんでもないが、と続ける。


「……まあミリシアのことは責任を持って預かろう。……それよりもう一つ、いいか? お主と戦って新しく出てきた疑問なのじゃが」

「ボクが使った魔法のことかな?」

「わかっておったか。うむ、お主が使っておった魔法は全てメン=ティの魔導書であろう? にもかかわらず、その中には現代に伝わっていない・・・・・・・・・・魔法があったよな?」

「水と雷でしょ。うん、昔は炎、氷、風、土、水、雷、聖、闇の、全部で8属性があったんだ。霊石にその名残があるかな。ボクたちとも対応させてて、ボクは氷なんだけども……」

何故なにゆえその2つは魔導書から消えたのじゃ?」

「それは言えない、ね。ごめん」

「左様か……ふむ……」


 満足のいく回答は来ていないが、それでも藤子は満足げに頷く。

 情報は断片的だが、手掛かりがないわけではない。いくつか心当たりもある。藤子にとってここからは、ある意味で楽しい謎解きの時間でもあった。


「……もう質問はないかな?」

「わしからは、ひとまず以上じゃな」

「後ろの君たちも?……ていうか、結局椅子にすら座ってくれなかったね……ホント、畏まらなくっていいんだけどなあ」


 どことなく残念そうにカルミュニメルは笑う。

 が、セレンたちにしてみれば、冗談ではない。神と同じ卓に着くなど、畏れ多くてできることではない。藤子が鉄面皮すぎるのだ。


 まあ、それを気にしていては話が進まないので、一言でカルミュニメルは済ませるのだが。


「……じゃあ、最後にボクから……これを藤子ちゃんに」


 その彼女が、空中に青い光を浮かべたかと思うと、その光は手のひらほどのプレートとなった。

 そしてそれは、そのまま空中を滑るようにして藤子の前へと飛んでいく。


 一方、それを一応は丁寧に受け取った藤子は、そこに描かれていたものを見て小さく首をかしげた。


「ふむ……? お主の紋章……これは一体?」


 それは二等辺三角形の形をしていた。色は今しがたの光がそのまま形を変えたかのように、カルミュニメルブルーだ。

 そしてそこにはまさに、星と月が重なるカルミュニメルの紋章が描かれている。


「それはね、名付けて魔法の紋章。ボクの力が込めてあるんだ」

「お主の力が? そんなものをわしに授けていかがする」

「それにはね、要するにセキュリティカードのようなものだよ。それを持っていることで、ボクたち八大神が施した封印の一部を数秒解除することができるようになるんだ」

「ほほう、それはなんともありがたい逸品じゃが」


 得心が言ったように口元を緩めた藤子は、そのまま視線をカルミュニメルから外して、手元の紋章に意識を向ける。


「でもそれ一つじゃ完璧じゃなくって、他の八大神もそれぞれ自分の紋章を持ってるから、それを集めれば集めるほどより強い封印も開けられるようになる。効果は所有者の半径3メートル以内。そして全部集めれば……そうだね、この世界の真実にたどり着ける、そんなアイテムだよ」

「……まさしく、その手の『アイテム』じゃのう。これ……ナルニオルの発案であろう?」

「あははー、せいかーい。原案、うちの人ー。発展、うちの娘ー」

「だと思うたわ……あやつならやりかねん」

「一応これ自体は今の歴史が始まった頃に作ったものなんだけどね。ただ、現代は神話級ゴッズを踏破できる人間がまだまだいなくって……藤子ちゃんが最初だよ、これを渡したの」

「喜んでいいのやら悪いのやら……」

「それについては同感だよ」


 仮にも藤子は異世界人である。一番乗りがそんな赤の他人とも言うべき人間というのは、いかにも体裁が悪そうだ。


 ならばもっと難易度を下げればいいのに、とも思う藤子ではあったが、この魔法の紋章とやらが神々の封印に干渉するものである以上は今の状態でも十分妥協したのだろう。


 ともあれ、これがあれば現状わからないままになっている諸問題の解決に向けて動きやすいことは、疑いようがない。

 そしてその効果を高めるものがそれぞれの神の元でもらえると言うのならば、今後の行動指針は主に神話級ゴッズダンジョンの攻略ということになりそうだ。


「どうやらこれからもお主らの思惑通り、手のひらで踊る道化を演じ続けることになりそうじゃな。ナルニオルとはうまい酒が飲めそうじゃがのう」

「あはははは、確かに気が合いそうだね。ふふ、でもあの人の隣はボクのものだからね?」

「わかっておる、そんなことわしとて御免こうむるわい。……では、そろそろ行くとするかな」


 カルミュニメルの言葉に、うっすらとはかなげな笑みを藤子は浮かべた。

 しかしそれは一瞬で、袂に魔法の紋章を仕舞い込むと、ゆっくりと立ち上がる。


「カルミュニメル、此度は邪魔したな。有意義な時間であった……他の神には、会うのを楽しみにしておると伝えておいてくれ」

「……ん、わかったよ。任せといて」


 カルミュニメルがにっこりと笑う。幼げな姿の彼女に、それはよく似合った。


「帰りは入ってきた扉を戻れば、そのまま塔の入口まで出る仕組みになってるからね。もう一度会いたかったら、また100階踏破してもらわないといけないから気をつけて」

「うむ、よくわかった」


 そして藤子も、応じる形で笑った。

 いつもの、にやりとした勝ち気な笑みである。


 その顔のままカルミュニメルに背を向けた彼女は、未だに畏まっている弟子たちを促した。


「戻るぞ、三人とも」

「う、うん」

「……ん」

「はいっ」


 そこでようやく立ち上がった三人は、藤子の後ろに付き従う。


 そして、それに応じたように扉が開いていく。あくまで音はなく、粛々と。

 扉の向こうは、光だ。その光の中に、藤子は臆することなく進んでいく。


「――藤子ちゃん」


 その背中に、カルミュニメルが声をかけた。


 今まさに、光に身を任せようとしていた藤子はすんでのところで振り返る。セレンたちは止まり切れず、先に出て行ってしまう。


「……言えないことも多くて、ごめんね。でも、君たち二人だけが頼りなんだ。この世界を……ボクたちの子供たちを、どうか……どうかお願い」


 自らの周囲に満ちる光が多く、藤子はカルミュニメルの顔がよく見えなかった。

 しかしどことなく……切なく哀しげな表情に見えた。


 齢十にして不老不死を完成させた藤子に、子供はいない。だからカルミュニメルの気持ちは、正確にはわからない。


 それでも、想像することはできる。不治の病に侵された我が子を案じる、母の気持ちは。


 だから彼女は、笑った。いつものような、勝ち気な笑みではない。それは、年ごろの少女がするような、無垢で、どこまでも透き通った笑みであった。


 それを見て、カルミュニメルは安心したのか。同じように笑いで応じ――。


 そこで、藤子の視界は完全に白に染まった。


 そしてその日から――――シェルドール諸侯連邦が擁する神話級ゴッズダンジョン、カルミュニメルの塔が遂に攻略されたとのうわさは、瞬く間にアステリア大陸全土へと広がっていったのである。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


今回の藤子編は、これにて一旦おしまいです。いやあ長かった。

次回からセフィ編に戻りまして、日常的な物語をやっていこうかと思いますが……そろそろセフィたちもちょっと冒険をさせたいですね。


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