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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 1~でもその前に、精進だ!~
70/133

◆第66話 カルミュニメルの塔 3

 ハーピーロードの気絶は、藤子の回復魔法「仙光杜若やまひと・ひかり・とじゃく」により最速で解消された。

 そして目を覚ました彼女は、力関係を完全に把握しており、即座に藤子に頭を下げた。


 それを適度になだめ、ようやく会話ができるようになるまでに十数分を要したのは、余談かもしれない。


「妾はミリシアと申します!」


 ハーピーロードはそう名乗り、深々と頭を下げる。

 それを聞いて、藤子はわずかに首を傾げた。


「……既に名を持っておるのか。幻獣は魔獣からなるもの、通常はあまり名前は持っていないはずじゃが」

「外ではどうかはわかりませんけれど、ルーイルではそうでした!」


 このごくごくわずかなやり取りに、目の色を変えたのは藤子一人である。


「ルーイル? 幻獣の都ルーイルか?」

「はい、そうです! 妾はそこにいました!」

「幻獣の都? そんなところあるの?」

「セレン、馬鹿……。シイルがちゃんと説明してた」

「えっ、ホントに? 全然記憶にないなあ……」

「幻獣の都ルーイル……かつて幻獣王が住んだ街。エルフィア文明当時は、まさに都と評すべき繁栄を誇ったと聞いておるが……」

「はい、そのルーイルです!」


 断言したミリシアに、藤子は思わずにやりと笑った。

 それにミリシアがびくりと身体を硬直させるが、今のところ彼女に何かをするつもりなど藤子にはない。ただ、思うところがあってほくそ笑んだだけだ。


「それはおかしな話じゃのう。知り合いの幻獣が言うには、幻獣の街はすべて亜空間に隔離されておる。それはもちろんルーイルも例外ではなく、すべての幻獣はこちらに出てこれないようになっているはずじゃが……」

「は、はい、それが妾にもわからないのです!」

「ふむ……?」

「もうどれくらいここにいるのかわかりませんが、少し前に妾は都の封印扉の回廊の掃除をしていました」

「「封印扉の回廊?」」

「……それはもしや、開かぬ扉がずらりと並んだ場所のことか?」


 藤子の説明に、セレンと輝良カグラはああ、と納得したように数度小さく頷く。


 他方、ミリシアのほうは首を傾げた。


「はい、そう言う場所です。……けど、どうしてそれを……?」

「ああ、以前インティスと言う幻獣の街に滞在したことがあるのじゃが、それと同じものがその街にもあってな。わしらもこの目で見てきたし、神々の力で直に封印されていることも確認してきた」

「インティス……聞いたことがあります。そこも確か、かなり古い時代からあったはずですが……そこにも同じようなものがあるなんて……」

「うむ、同感じゃ。まさか幻獣の街全てにあるとは思えぬが……」


 インティスの、あの教会のような建物にあった封印された扉。正体はその推測の域を出るものではなく、まさしく神によって封印された扉だった。

 藤子の力ならこじ開けることもできたが、さすがに神の封印を穿つのは世界に及ぼす悪影響が強すぎる。何より面倒な割に、費用対効果に見合わない。


 このため藤子は、状態を確認しただけでそれについては放置することにした。少なくとも、インティス内で調べられる情報の中に、あの封印を正攻法でどうにかできるようなものはなかった。

 どうせ急ぐ旅でもないし、何より次の目的地が神話級ゴッズを擁するマレナだっただけに、ついでにそこで聞けばいいかとも思ったわけだ。


「……それで? 掃除をしていたというが」

「あ、はい。掃除をしていたんですが……街が突然激しく揺れて倒れてしまって、そのまま封印の扉の一つにぶつかったんです。そしたら……その扉が急に開いて、中に入っちゃったんですよ」

「扉が急に開いた……?」


 あり得ない、と藤子がつぶやく。

 それだけ、あの扉の封印は頑丈だったのだ。藤子の目から見ても、十分に堅牢に練られた封印だった。


 それがたかだか空間の揺れ程度で開くなど……。


 そこまで考えて、藤子は待てよ、と再び口を開いた。


「……亜空間であるはずの幻獣の街が、揺れる。これはつまり、外部からか内部からかは不明じゃが、空間そのものに激しい衝撃が加わったことを意味するが……」

「……トーコ、空間自体の寿命、とかは?」

「否定はできんが、幻獣の街という空間の維持は神々がしておるのじゃぞ。あまりその可能性は高くないように思う」

「えー、じゃあ誰かが空間を破壊しようとしたのかな……?

「……あるいは、壊せなくっても穴を開けようとした、か」

「うむ……そちらのほうがあり得るな。そうでもなければ空間は揺らがぬ。あるいはその衝撃で、空間に穴が開いた場所がたまたまその封印扉の回廊だった、か……」


 腕を組み、藤子は考える。しかし、判断を下すには材料が足りなかった。


 ひとまず断言できることは、ミリシアが何らかを原因とした空間の衝撃により生じた穴に落ち、藤子たちが探索を進めている空間に、奇跡的な確率の中現れたということだ。

 空間操作の技術を持たないものがはざまに落ちれば、無事に帰還できる保証などどこにもない。そんな中で無事に外に出て、更にダンジョンではあるものの、藤子という絶対的な強者の近くに出現したということは、運が良かったとしか言いようがないだろう。


「……あのー」


 そこにミリシアがおずおずと声をかけてきた。

 視線で言いたいことは言えと、続きを促す藤子。


「ここに落ちた時から思ってたんですけど、その……ここって、一体どこなんでしょうか? ルーイルではないのはわかりますが、歩き回っても全然外に出られそうになくって、何が何だか……」

「あー……まあいきなりここに来たらわかるわけないよねえ」

「外も見えない、出られないだし」

「そうじゃのう。では教えて進ぜようかな。ここは神話級ゴッズダンジョンの一つ、カルミュニメルの塔じゃ。間違いなく閉鎖されていない現実の空間であり、幻獣の街とはまったくかけ離れた場所じゃな」

「……その、53階」

「か……カルミュニメルの塔!? あ、あー……で、でも、そうよね、モンスターにもびっくりしたけど、それがあんなに強いんだもの、神話級ゴッズダンジョンくらいの場所じゃないとありえないわよね……」


 驚きで口調が砕けたミリシアに対して「これくらいなら遺産級レガシーの序盤程度だ」と思った藤子ではあったが、それは言わないでおく。


 ともあれ、ミリシア自身が言った通り、ここのモンスターが彼女にとって強いことは事実である。

 そして来た道を戻るという順当な脱出方法が使えないこのダンジョンでは、死にたくないならば先に進むしかない。しかし先に進めば進むほどモンスターも罠も強くなるので、このままいけば彼女は死ぬだろう。


 まあ、普段ならば藤子はその選択をするだろう。究極、彼女とは関係のないのだ。己の目的にかかわりのないことは、基本的にどうでもいいのが彼女である。


 けれども今回の事案で言えば、ミリシアは「己の目的にかかわりのないこと」ではない。

 なぜなら、彼女が幻獣の街に在住していた幻獣であるから。そこから得られる情報は、藤子にとってどんな些細なことでも重要だ。知ること、それを伝えることこそ、神々が藤子に与えた役割なのだと、彼女は認識しているのだから。


 ならば。


「……ふむ、ミリシアよ」

「は、はいっ」


 藤子の様子に、何か決心したことがあるのだろうとミリシアは察したようだ。声をかけられて、背筋を伸ばした。


「幻獣は閉じた空間の中で生活を送る。故に外への願望が強いようだとインティスで見たのじゃが、お主はどうなのじゃ?」

「と……言いますと……?」

「原因はわからぬにしても、お主は外に出れたのだ。そう、お主は自由なのじゃ。その上で、お主はどうしたい?」

「わ、妾は……」


 藤子の問いかけに、ミリシアは逡巡した。

 しかしそれはさほど長くはなかった。元々、他の幻獣と同じように外へ出たいと思っていたのかも知れない。


「……そ、外のことを知りたいです。今の世界がどうなっているのか、妾の母上がなした罪・・・・・・・が、どういう結果になったのか……それがどうしても知りたくて!」


 その言葉を聞いて、藤子の二色の瞳が目ざとく光った。聞き捨てならない単語を、しっかりとその耳がとらえた。


「よかろう」


 だから藤子は、ミリシアに即答した。


「なればわしらと共に来い。わしはこの世界の歴史や謎を知ろうとする立場であり、またその目的のために、神がいると言われるこのダンジョンにやってきたのだ。お主の目的も叶えてやることができるじゃろう」

「……い、いいん、ですか?」

「無論じゃとも。見返りは、お主が持つエルフィア文明の知識でよい。断片的ではあっても、ルーイルの十人であれば多少は知っておるじゃろう?」


 そうして藤子は、にやりと笑った。


 ミリシアは再度、一瞬言葉を失ったが……。


「はいっ! よろしくお願いします!」


 そう答えて、深々と頭を下げた。


「じゃあ、これからミリシアも仲間だね! よろしくねー!」

「は、はい、よろしくお願いしますセレンさん」

「やだなあ、私なんてタメ口で接してくれていいんだよー。一番弱いし、たぶん一番年下だし」

「ええと……じゃあ、うん、よろしく、セレン」

「うん、よろしくー!」


 あははと笑うセレンとミリシア。その様子を尻目に、輝良はあまり歓迎するようなそぶりを見せずに、藤子の傍らに立ってささやいてきた。


「……トーコ、弟子にする?」

「ん? そうさな……今のところそのつもりはないが、こちらから道連れにしたのじゃ。請われれば応じねばならんじゃろうな」

「……そう」


 藤子の答えに、輝良は露骨に顔をしかめた。


 それを見た藤子は、くくくと笑う。


「なんじゃ、その顔は。不満か、ん?」

「……不満。アタシたちの時間がなくなる。トーコとの時間が減る」

「ははは、お主のそうした直球な物言いは好きじゃぞ」

「ん……うん」


 何に反応したのか、輝良が一瞬目を見開いて顔を背けた。


 その様に、やはり藤子は笑う。人間に姿を変えている輝良の顔が、その変化の力で再現された「赤面」という現象を起こしていたから。

 だから、言う。


「わしが空間魔法の専門家であることは、以前ちらりと話したかと思うが……時間の流れが異なる空間もわしは作れる。この意味がわかるか?」

「……!」


 頷いた輝良の顔は、口元に笑みが浮かんでいた。彼女にしては珍しい。


「ならば案ずるな。さあ、参るぞ輝良」

「……ん、どこまでも」


 それらのやり取りを済ませた藤子は、セレンとミリシアの間に文字通り割って入りながら、その二人を巻き込んで抱きすくめた。そして二人をいじりながら、笑いながら、先に進むことを宣言する。

 返ってきた答えに満足げに頷く藤子を、後ろに付き従った輝良がどことなく楽しげに、微笑みを向けていた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 そして再開された、塔の攻略。

 藤子は再び後方に回り、前を進むセレンたちを傍観する立場となる。

 セレンたちは互いに意見を出し合った結果、セレンと輝良を前衛、ミリシアを後衛とすることを決めて進む。


 セレンの武器は刀である上、この世界の魔法は得意ではない。輝良はオールマイティにふるまえるが、基本的にはその膂力を生かしたパワーファイトが一番向いている。


 それに対して、ミリシアは種族の関係上、手がない。このため、近接攻撃はどうしても苦手となる。狩りの時も、猛禽類と同じく上空から急降下することで行うことがほとんどなのだ。

 そしてここはダンジョンの内部。天井は低く、その機動力も生かせない。しかしそれで彼女が無力化されるわけではない。彼女とて幻獣であり、戦う手段はいくつも持ち合わせている。

 とはいえ、それでも彼女の本領が発揮できないことには間違いないので、前衛から外れたと言うわけだ。


 そうして、ちょうど逆三角形の角を形成するような位置関係で、セレンたちは進む。

 三人になったことで、50台の階層では苦戦することはなくなった。60、70台でも軽傷はあっても致命傷を負うような危険な状況には陥っていない。


 その様子を後ろから眺めていて、藤子はミリシアの能力について吟味していた。


 場所が場所なので、どうしても目立った活躍はないが、それでも太陽術と風魔法を駆使した的確な攻撃は、幾度となく前衛に立つ二人を助けている。

 その技術は、魔法そのものの構成や展開はともかく、使うタイミングや威力は十分だ。

 体捌きもなかなかである。人間がそれを真似することはできないだろうが、ハーピーロード一族に伝わる戦闘術があるのだとか。手がないだけにそうした特殊な動きが生まれ、伝承されてきたのだろう。


 しかし、やはり幻獣の街という閉ざされた環境ではあまり戦いを行う機会がなかったからか、全体的に荒も目立つ。普通の人間に比べれば十分ではあるが、神話級ゴッズに挑むにはだいぶ足らないと言わざるを得なかった。


 が、藤子の見立てでは、ミリシアの保有マナはドラゴンである輝良をも上回る。戦闘中はほぼ常時全身を太陽術で覆っており、一回の戦闘で使うマナの量が他二人の比ではないにもかかわらず、一向に疲れを見せていないのだ。恐らく、その総量もまた二人とは比べ物にならないのだろう。

 藤子はそれを、ミリシア個人の才能ではなく種族固有のものだと推測した。いかにももろそうな種族であるハーピーが、自然界では生態系の頂点にいるのだ。頭脳や技術ではなく、理不尽と言える量のマナを保有できること、それこそがハーピー種族の生存競争なのだろう、と。


 ハーピーがドラゴンよりも強いのか、と思われるかもしれないが、事実なのだから仕方ない。魂の奥底にたゆたう輝きは、確実にミリシアが最多なのだ。


 しかしこれはあくまで個人が体内に保有できるマナの量であって、戦闘力ではない。実際に模擬戦でも行ったら、今のミリシアでは他の二人にあっさりと負けるだろう。


(レベルにするなら32といったところかのう……遺産級レガシーをどうにかこうにか進めるといった程度か。セレンと輝良は40を超える……遺産級レガシーなら既に単騎で制覇できよう)


 藤子は対象の能力を、総合的に加味して存在力という数値で定義している。この考え方は、良質なエンターテイメントを求めてテレビゲームに触れていた時に考察されたものであり、藤子は人に説明する際、これをあえてレベルと呼称する。

 彼女独自のものの見方であり、主観も幾分含まれるが、対象の魂の奥まで見通す目を持つ彼女であればこそ、その見立てはかなり正確である。何せ、その定義はあらゆる異世界を渡り歩いた経験が反映されている。大抵の場所へ行っても通用するだろう。


 潜在能力の明確な多寡はさすがの藤子もわからないので、セレンたち三人が今後どういう成長をするかは不明だ。

 しかし藤子は、十分のびしろはあると思っている。その保証ができる程度には、相手の能力は把握できる。藤子にとって彼女たちは、磨きがいのある原石と言っても差し支えない。


 なお、藤子に自らを鑑定させるとしたら、彼女はレベル8000程度と答える。これは低位の神なら問題なく殺せる強さだ。アステリアの神々も、全力を出せれば殺せるだろう。あくまでも全力を出せれば、だが……。


「あっ、あった! 階段みつけたわ!」

「うひゃあ、ミリシアはいつも早いなあ」

「……ん。鳥のくせにミリシア、暗いところでもよく見える……」

「鳥が夜目は利かぬというのは迷信じゃぞ。むしろ利く鳥のほうが多い」

「えー、そうなんだ?」

「……そうなのかー」

「そうなのよ。特に妾たちハーピーは、抜群に夜目が利くんだからっ」


 大部屋の真ん中にぽつりと佇む階段の前に移動して、一行は一息つく。

 周辺にモンスターの気配はない。アイテムの回収は目的ではないので、階段を見つけたのならこのフロアにとどまる理由もない。


 が、ダンジョンの階段はその先がどうなっているのか見えない。各フロアは、物理的に完全に隔絶されているのだ。

 だからこそ、先に進んだ直後にいきなり大量のモンスターに囲まれる、と言う事態も珍しくない。そのため、階段を使う前に調子を整えておくことは冒険者の常識である。


「ねえトーコ、当然先には進むけどさ。タイミング的に見て、そろそろモンスター強くなるよね?」

「あー……」

「確かに……」


 現在彼女たちは、84階にいる。今までと同じ調子なら5の倍数の階に来ると敵の強さが上がるので、確かにそろそろだろう。


 そして80階を過ぎてから、セレンたちは目に見えて苦戦することが多くなった。

 倒せないわけではない。倒せわけではないが、一戦一戦が全力であり、藤子が回復してやる機会もぐんと増えた。


 とくれば、次の階層からは勝てない戦いが連続する可能性は十分にある。セレンも、それを懸念しているのだろう。先ほどの問いは、そういうことだ。


「……そうじゃな、そろそろ危ういやもしれん」


 三人の間を縫うようにして、藤子は先頭に立った。そして、階段を見上げる。


「ひとまず次のフロアで一、二戦様子を見よう。それで危ういのであれば、このダンジョンでの修行は終いじゃな。そこからはわしが片付ける」

「んー、まだまだいけると思うんだけどなあー。でもトーコのダンジョンと違って、死んだら死ぬし……」

「同意……気軽に死ねない。それに、制覇の効率はトーコ一人に任せたほうが圧倒的」

「……ねえ二人とも……その感覚は絶対におかしいからね……」


 麻痺した感覚でしゃべるセレンたちに、ミリシアが若干引いた顔をした。無理からぬことである。

 とはいえ、藤子の育て方はそういうやり方だ。望むのならば、ミリシアもそこに飛び込むことになるが……今はまだ、その話はすべきではないだろう。


 藤子は三人に振り返りながら、笑った。


「莫迦者、まずはお主らが戦うのじゃからな。手は抜くなよ、抜いたらあとで死ぬほどしごいてやる」

「え、じゃあ私抜こうかな……」

「アタシも、トーコになら……」

「えっ、いや、だから……貴方たちの感覚、絶対ヘンよ、ヘン!」

「えー、だってトーコから直接教えを受けられるんだよ? マンツーマンだよ?」

「強くなるチャンス……逃すわけにはいかない」

「……なるほど、そう言う見方するのね……」


 今度は、まったく引かないミリシアである。これには藤子も、さすがに苦笑いを隠せない。


 普通の人間ならば脅しになるしごきが、セレンや輝良には効かないのだ。普段と勝手が違うので、教え始めて4年経った今でもたまにやってしまう藤子である。


 これは別に、セレンたちが重度のマゾヒストだからというわけではない。単純に、魔人族ダークムーン……と言うよりは魔獣の性質だ。強いものに惹かれ、強いものに従い、強いものに憧れ、強いものを目指すのは、彼らの本能でもある。

 そしてミリシアも幻獣である以上、この気質は持っていたようだ。強くなれるなら……と言った色の目を、藤子に向けてくる。


「……やりづらいのう、まったく。わかった、わかったわい」


 とはいえ、藤子も強くしてやることに異議はない。彼女自身、魔獣の本能は理解できる。ひたすら上を目指した過去があり、今もなお上を向き続けているのだから。


 人数が増えて時間が足りないなら、それこそ先ほど輝良に言ったような時間の流れの違う空間を出せばいいだけのことだ。某元地球人が聞けば、「精神と時の部屋マジうらやましい」と言うだろうが。


 ともあれ、仕方ないと笑いながらも、藤子はぎらりと瞳に力をみなぎらせる。そしてその視線でもって、三人を射抜く。


「覚悟しておけよ? 途中での放棄は絶対に許さんからな」

「もちろんだよ」

「ん」

「ええと……はい」

「良かろう。では次のフロアから、わしが攻略する。全てを観察して、わしの歩みについてこい」

「わかったよ!」

「ん!」

「はいっ!」


 三人の威勢のいい返事を聞き届けて、藤子は再び階段に向き直った。そして、その一段目に足をかける――。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回は久々に難産でした……書いては消してを繰り返したのはどれだけぶりでしょう。普段書く手が止まることはわりとあるんですがね……。


ちなみにレベルの概念ですが、実際に藤子は「低位の神」を殺したことがあります。当時はまだ未熟で二人がかりでしたが。

藤子のその話は、過去作「枯れずの花」にて読むことができます……が、あれを書いてから結構な時間が経っていて、藤子の設定も当時からちょいちょい変わっているので、もし読んでいただけるならパラレルワールド的な感覚で挑んでいただければと思います。

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