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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 1~でもその前に、精進だ!~
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◆第63話 フォーバ商会

あけましておめでとうございます。

今年も一年、どうぞよろしくお願いいたします。

 目当ての建物は、探すまでもなくすぐに見つかった。

 街のあちこちに看板が立てられており、どこの道をどう行けばそこにたどり着くのかが一目瞭然だったのだ。


「おー……」

「……ふうん」

「うむ、なかなかの大店おおだなじゃのう」


 目当ての建物――フォーバ商会本店を見上げて、三人はそれぞれの感想を口にした。


 それは、それこそ王侯貴族の居城か何かかと思わんばかりの佇まいであった。人の入りも周辺の店に比べると段違いだ。店の前には、待ちに徹する竜車の列もできている。

 地球人である藤子にしてみれば、実に4階建てを誇るそれは商店と言うよりも、大型ショッピングモールかデパートの感覚だ。


「すごいね! これ全部お店なんだよね!?」

「らしいのう。ダリルのやつ、どうやら相当のやり手のようじゃな。……むぐ」


 ふむう、と店の天辺を見上げる藤子の口に、横から輝良カグラが先ほど商店街で買った串焼き最後の一切れを含ませる。イカに似た生物をタレに漬け込んで焼いたものである。それを拒否することもなく受け入れて、しばし咀嚼する。

 それを見届けてから、輝良はさらになった串を口に含んだ。そのまま、先ほど藤子が口をつけた部分をねぶる。


「……その、ダリルって人は私も見たことあるから知ってるよ! いるかなあ?」


 平然と変態チックな行動を取る輝良に、若干引きながらセレンが言う。


 一方、藤子は平然と答えた。


「さあのう。まあ、いないならばその時はその時じゃ」


 そして、「参るぞ」という彼女の言葉に、弟子二人は「おー」と続くのであった。


 店内は、明るい雰囲気で統一されていた。多数入る客の動線を考えてか、調度品の類は窓際や壁際に多少ある程度だが、その設定が正しいのだろう。

 そしてそこを見渡せば、一階が消耗品の類を扱う店が軒を連ねていることがよくわかった。旅路で必須となる傷薬の類から、道具を入れる皮袋、あるいは竜車の予備用車輪など、消耗品という大きなくくりに収まるものは大体扱っていそうな雰囲気である。


「……すごいねえ。ここだけで小さい街の商店街分くらいありそうだよ」

「トーコがいれば、必要ないけど」

「それを言っちゃあおしまいだよー……」


 実際その通りではあるので、二人に口を挟まない藤子である。

 消耗品に限らず、武器も防具も藤子が亜空間に大量に持っているものがあるので、実のところ店に客として入ることはほとんどないのが実情なのだ。


 そのため藤子は店内を確認して、客との対応に追われていない店員を見つけて声をかけた。


「のう、そこな」

「はい、なんでございましょうか?」

「わしはこういう者なのじゃがのう……ダリルはおるか?」


 その言葉と共に見せられたミスリルのギルド証を見て、店員は顔色を変えた。接客業で必須の営業スマイルが消える。

 そして、そこに記載されている名前を確認してさらに顔色を変えた。今度は、真顔を通り越して慌てた様子に。


「しょ、少々お待ちください!」


 そう言い残して、店員は猛スピードで走り去り、そして階段を駆け上っていった。


「……何、あれ?」

「トーコ、何かしたの?」

「するか阿呆。大方わしのことをダリルから聞いておるんじゃろう」

「どうかなあ、トーコならあるいは……」

「同意」

「お主らはわしをなんだと思うておるのじゃ」


 返事はなかった。代わりに、視線を藤子からそらす二人である。


 そのまま三人は沈黙に突入したが、ほどなくして先ほどの店員がダッシュで戻ってきた。


「た、大変お待たせいたしました!」

「そう慌てずともよかったがのう」

「い、いえそういうわけには!……ええと、大旦那様は現在他国に出払っておりまして……ですが、その息子の旦那様が代わりにお会いしたいとのことで、差支えなければ……」

「息子か。あいわかった。せっかくじゃ、顔を合わせておくのもよかろう」

「はい! ではこちらです、どうぞ」


 二つ返事で了承した藤子は、そのまま4階へと通される。


 道中でちらりと視界に入った各階は、武器と防具がそれぞれ扱われているようだった。そして4階は、装飾品の類が扱われている。


 そんなフロアをすりぬけて案内された先は、その4階の一番端に据え付けられた部屋だった。

 特に札の類が掲げられているわけではないが、いわゆる店長室のようなものかと藤子は判断する。


「旦那様、お連れいたしました」

「わかった、入ってもろうてください」

「失礼いたします」


 短いやり取りを交わして、店員はその扉を開ける。


 中は、店長室というよりは応接室といった設えだ。店の部分とは異なり、ふんだんに使われた豪奢な品の数々はこの商会の財力の一端だろう。

 そしてその奥に立っていた男の身なりも、それにふさわしい立派な装いである。


「やあやあトーコ殿、ようこそおこしやす。以前は父がえらい世話になったみたいで」


 男はその身なりに似合わぬ人懐こい笑みを浮かべると、シェルドール訛りを隠すことなく口を開いた。

 そのまま悠然とした足取りで藤子にまで歩み寄ると、藤子の視線に自分のそれを合わせるようにそっとその場に膝をついた。


「自分、ダリルの長男でここの本店を引き継いでますサムス言います。以後よしなに」

「むう……宇宙を駆け巡るフリーのバウンティハンターか」

「はい?」

「いや、なんでもない。こちらの話でな……」


 こほん、と咳払いをして脳裏に浮かんだ鳥人族スーツの女性の姿を振り払うと、藤子は改めて名乗る。


「……既に聞いておるやもしれんが。わしは光藤子、ミスリルは『青花』の藤子じゃ。よろしゅうの」

「はい、お会いできて光栄ですわ」


 そして二人は、どちらからともなく握手を交わした。

 それを終えて、藤子は位置をずらして後ろのセレンと輝良の姿がサムスから見えるようにする。


「それから……ついでに紹介しておこう。ダリルと行動しておった頃にはおらんかったが……弟子のセレンと輝良じゃ」

「セレンですっ。よろしくお願いしまーす!」

「……カグラ。よろしく」

「おおー、あなた方が。噂には聞いてます、『剣閃』のセレンさんと、『青竜』のカグラさん! いやあ、噂通りお強そうですわあ!」


 紹介されて、サムスはセレンたちとも順に握手を交わす。褒められるのに慣れていない二人は、やや困惑顔でそれに応じていた。


 それからサムスは、今まで入口に待機していた店員に目を向けると、ここでようやく気付いたといった様子で、右手をひらひらと振った。それから空いた左手で、何かを飲む仕草。

 それを見た店員はすぐに察したようで、頭を下げて静かに部屋から出て行った。


「……まあまあまあ、御三方ともどうぞお座りください」


 そしてサムスは、藤子たちを椅子へと誘った。

 遠慮なく藤子たちがそれに従うと、彼もまた椅子へと腰かける。


「いやあ、何はともあれ、旅先では親父がお世話になりまして」

「なんの、こちらも仕事であったからな。それにダリルとは良い取引をさせてもらったからのう」

「ははは、親父の腕はまだまだ健在言うことですな」

「そうじゃな、やり手であったよ。……しかし今日はダリルは? 国外と言う風に聞いたが」

「ええ、年明けからセントラルのほうに行ってますんや。最近は東部連合中心に動いてましたさかいな、今後はセントラル中心に大陸の北のほうで動くて言うてましたわ」

「そうか、北のほうか……。確かに最近情勢が怪しい東部よりはそちらのほうが安全であろうな。セントラルとブレイジアも、ここ数年は大人しいしのう」

「そういうことですわ」


 ひとしきり世間話に花が咲く。そこに、ノックの音がして先ほど退室した店員がティーセットを持って入ってきた。

 そして、藤子たちの前に一つずつティーカップが並べられる。


 出てきたのは、東部ではほとんど見ることがなかった香茶こうちゃだ。色合いは赤みがかってはいるもののほぼ透明だが、何より鼻孔をくすぐる芳醇な香りが特徴の茶である。

 その分味は控えめだが、これはその香りを楽しんだり、飲むことで得られる身体へのリラックス効果などを求めるものである。


 地球で言えば、ハーブティーが最も近い飲み物と言えるだろう。匂いに敏感なものには、その香り自体が敬遠される傾向があるのも同じだ。

 この場合は、輝良がそれに当たる。彼女は、その眠そうな半開きの目のまま眉をひそめた。


「それでトーコさん。わざわざこの街にいらはった言うことは、やはり塔が目当てで?」


 会話が再開されたところで、また店員が静かに部屋から出ていく。


 その後ろ姿を見送りながら、なかなか教育が行き届いているなと思う藤子である。


「……うむ。今のところ寄った国の神話級ゴッズには一通り足を運んでおるからな、ここもぜひにと思うてな。それに、ダリルがこの国の人間と聞いておったからのう、ついでに顔を出そうと思うたのじゃ」

「自分は親父と違うて、トーコさんの実力を間近で見たわけやあらしませんから、どれほどのものかわからんのですが……親父の話を聞く限りでは、リルリラ大聖堂でも無傷で帰還した言うことでしたなあ」

「表層の周辺をうろつく程度、わけもないわい。あれくらいならこの二人でも問題あるまいて」

「うはははっ、天下の神話級ゴッズをそう切り捨てられる御仁がこの世におったんですなあ。親父もまたえらい人と知り合ったもんや」


 ひとしきり笑い、サムスは自分の香茶に口を付けた。


「……それやったらトーコさん。塔で手に入る品も、うちに卸してくれへんやろか? 特に中層以上はほとんど人が入れへんところやさかい、そこら以上の品はなかなか手に入りませんよって」

「かまわんぞ。ダリル含め、この商会は信頼に足る健全な商売をやっておるようじゃしな」

「そりゃどうも、ありがたいことですわ。……ついでにもう一仕事させていただけるなら、挑む前の準備はぜひぜひ、うちでと……」

「ははは、そうじゃな、そうなろう。が、道具の類は不要ぞ」

「ほう。ではその状態で挑まれるので……?」

「左様。死なない限りは万全の状態に戻せるし、装備もわしが持つもの以上のものはこの世にない。それに、わしは死なんからのう」

「大した自信ですなあ……」


 半ば呆けた顔で、サムスがつぶやくように言った。

 二人のやり取りを聞いていたセレンと輝良が、それに対して当たり前だとばかりに頷く。


 そうしてできていた沈黙を、香茶で口を湿らせた藤子が破った。同時に、懐から取り出した折りたたまれた紙切れをそっと机の上に置く。


「……とりあえず挨拶はこれで終わりとして、じゃ」

「……?」


 差し出されたサムスはというと、首をかしげる。

 しかし藤子はそれを、いいからと頷く形で読むことを促した。


「では……」


 それを受けて、サムスは紙切れを手に取ってそっと開いた。

 そして……その中身を見て、一瞬にして今までの気のよさそうな表情を凍りつかせた。


 そのまま彼はしばらく硬直していたが、やがて油の切れたロボットのようなぎこちない動作で藤子の顔に、自らの顔を向ける。


「と、トーコさん……これは……、本当ですか?」

「本当かどうかは知らぬ。あくまで、噂として巷に流れている程度のものでしかないからな。真偽のほどを確認できるのは、お主らフォーバの人間くらいであろう」

「…………」


 やや青ざめた顔のサムスの変貌ぶりに、セレンと輝良が視線を交わしながら首をかしげるが、そちらに構うつもりのない藤子だ。


 そのまま会話を続行する。


「ダリルがこちらに戻ってくるまでどれくらいの時間があるかはわからんが、もしあやつが戻ってきたら教えてやってくれ。元はあやつとの約束じゃからな」

「……わかりました」

「……さて、ではわしらはこの辺りで失礼するとしよう。伝えるべきことは伝えた」

「……あ、もう行かはるんですか。もう少しゆるりとしても……」

「お主が既にそういう心境ではあるまい?」

「……たはは、お見通しですか。さすがはミスリルですなあ。ご配慮、痛み入りますわ」


 苦笑方々後ろ頭をかいたサムスは、それから両手を勢いよく叩いて人を呼んだ。


「お客様がお帰りや。親父の大事な友人やさかいに、丁重にお見送りするように」

「かしこまりました、旦那様」

「ではトーコさん、また機会がありましたら。自分はしばらく今後のことについてゆっくり考えさせていただきますわ」

「うむ、そうするがよい。ダリルがもし戻ってきたら、よろしゅうな。では失礼しよう」

「ありがとございました! 本当、この情報には感謝ですわ!」


 そうやってサムスと、店員に見送られて藤子たちはやや慌ただしくフォーバ商会を後にした。

 店を出てすぐに、セレンが待ってましたと言わんばかりに問いかけてくる。


「……トーコ、あの人に何を知らせたんだい?」

「あやつの行方不明の親族に関する情報を教えたのじゃよ。ダリルの娘の娘……つまりは孫が恐らくシエルにいると、そう教えてやったのじゃ」

「はあ……そんなこと頼まれてたんだ」


 感心したようにセレンが息をつき、輝良は納得と言わんばかりに小さく数度、頷いた。


 そうやって弟子二人に応じながら、藤子は考える。彼らフォーバの人間がシエル王国……その王家に真実を確かめに行くのはいつになるだろうか、と。


(それまでに……あの兄妹がどういう風になるのか? それ次第によっては、この世界の可能性は分岐するやもしれんな。はてさて、今わしが存在するこの世界線は、どう転ぶのやら)


 そしてほくそ笑みながら、藤子はふと立ち止まってとあるほうへと目を向けた。


 天を貫く巨大な塔。世界の副神の名を冠する神話級ゴッズダンジョン、カルミュニメルの塔だ。その頂上へ、藤子は目を向けていた。


「トーコ?」

「どうかした?」

「……いいや。このダンジョンは、何なら制覇してもよいなと……そう思うただけのことよ」

「うえっ!?」

「……本気?」

「ふふふ、本気も本気。お主らも今まで得た力がどこまで通用するかを確かめる絶好の場じゃ、覚悟しておけよ」

「うう……でも、上を目指すならこれも当然だよね。わかったよ、トーコ!」

「……ん。やるからには、全力出す」

「ふっ、それでいい。明日は……ひとまずオフとして、あさってから挑むぞ」

「おーう!」

「了解」


 再び歩き始めた藤子に、右の拳を掲げたセレンと尻尾を嬉しそうに振った輝良が続く。

 そんな二人に笑みを浮かべながら、藤子はもう一度カルミュニメルの塔を見た。今度は、足を止めずに視線だけで。


(……噂では、最深部に神がいるのであったな。その真偽を確かめるのにもちょうど良い。カルミュニメル……神ならば全ての世界線を同時に確認できるであろう? 色々と聞かせてもらうとしよう。待っておれ)


 そしてそう思考した藤子は、笑みをそこで歪める。少しずつではあるが、確実に世界の核心に迫っている実感に満足しながら。


 なお、それを見たセレンと輝良が、鬼のしごきを覚悟して決意を新たにしていたが、先のことを思案する藤子がそれに気づくことはなかった……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


新年一発目ですが、その、なんていうか年末年始ほとんど書いてなかったんで、自分ながらなんか劣化を感じていますが、がんばります。また毎日更新目指して。

なにせ今日初詣に行っておみくじひいたら、「一度思い定めたことは一心になさい」とのことでしたので、去年以上に死ぬ気で頑張っていこうと思います。


ちなみに、今回の藤子編はダンジョンに挑むということもあるので長くなる気がしています……。

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