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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 1~でもその前に、精進だ!~
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第61話 完成! 三種の神器

 三種の神器。いわずとしれた、日本の皇室に伝わる3つの宝物。

 伝説に名を残しているアイテムが、21世紀になっても現存してるのがすごい通り越して恐ろしい。


 一方で、この宝物にちなんで三種の神器と呼ばれたものが、テレビ、洗濯機、冷蔵庫。豊かさの象徴として、高度経済成長期の日本で喧伝された電化製品だね。

 この考え方を踏襲すると、色んな分野のものに「これは重要」みたいな感じで指定できるものがあると思う。


 そしてぼくが思っている漫画家でこれを選定するとしたら、やはり紙、鉛筆、消しゴムになると思うんだよね。

 まあ、ペンとかインクとか、あるいはスクリーントーンとか……21世紀ならパソコンとか入りそうだけど。原点と言う意味で、やっぱりこの3つは外せないと思うんですよ。


 ぼくがこの世界に転生して、12年が経った。そう、12年だ。


 12年かけて、ぼくはようやくこの三種の神器を手に入れることができたのだ!


「紙ッ! 鉛筆ッ! 消しゴムッ! 取るに足らぬ人間どもよ! 支配してやるぞッ! 我が『知』と『力』の下にひれ伏すがいいぞッ!」

「どうしたよセフィは」

「兄様は今ちょっと最高にハイ! ってやつらしいから、しばらく放っておいてくれって言ってたよ」

「はあ?」


 机で紙に向かい、一心不乱に絵を描きまくるぼくはまさに、「最高に『ハイ!』ってやつだあアアアハハハハーッ!」状態。

 口で説明するのは難しい心境だけど、もしぼくのことを見ている人の中に心底絵を描くのが好きな人がいるならば、きっとわかってくれると思う。


 12年! 12年も待ったんだ! 漫画家を目指すうえで最低限必要な道具が揃うまでに!

 もちろんただ手をこまねいていたわけではないけど、それでもこの時間は長かったんだ!


 この世界、一年の日数は地球よりも短いけど、一日の時間数が地球よりも長い。だから実際のところ、12年というのは地球の14年以上に匹敵する。

 それだけ待った! 念願はまだまだ先だけど、ようやく足がかりがつかめたんだよ!


 これが嬉しくないわけがあるとでも!? いや、ない!


 前世で初めて賞で佳作を取って漫画が雑誌に載った時より嬉しいよ!


 ん?

 藤子ちゃんから日本の文房具をもらっていたはずだ?


 うん、そうだね。その通りだ。そして当然だけど、日本の文房具のほうが質がいい。世界に誇るメードインジャパンだ。


 でも!


 でも違う、そうじゃないんだよ。


 確かにぼくは藤子ちゃんから道具をもらってたし、それを使って夜な夜な絵の練習をしていたことは否定しない。

 けれどそれは、あくまで「日本の道具」。この世界のものじゃないんだよね。

 そんなものを人前で使うわけにはいかないし、ぼくだけの特権で一番になったって嬉しくもなんともないじゃあないか。


 ぼくはもう、地球人じゃない。この世界に生まれた、この世界に生きる、ハーフウィンディアという人種の、セフュードという人間だ。

 そんなぼくが、地球のものをいつまでも使うわけにはいかないんだよ。それは、昔無理に白米を食べて死にかけた時と似たようなもの。

 機構や仕組みはコピーであっても、この世界で作られた、この世界でも作れる、この世界の誰もが手にすることができるものを使って、それで一番になってこそ、本当の意味で一番って言えるんじゃないのかな。


 ……というわけで、藤子ちゃんにもらったあの道具は、今日をもって封印だ。これからは、今手にしているこの道具を使ってぼくは生きていくのだ。


 紙。この世界のもので作った、この世界の紙。

 初めて作ってからもう6年は経ったっけ。今はかなり改良も進んでいて、色んな種類の紙が出回っている。やっぱり、技術は秘匿するより広めてナンボだよね。色んな人が作るからこそ、色んな方向に進化していくんだ。


 鉛筆。この世界のもので作った、この世界の鉛筆。

 これは5年くらい、だっけ。最初は魔人族ダークムーンが大事にしてるものを砕いたりなんだりするからやばいかも、なんて懸念があったけど、今ではそんな魔人族ダークムーンたちにも広まっている。


 この二つは、今日までの段階でぼくが積極的に技術開示してきたし、シエル王国としても大々的に他国に輸出をしたから、今では大陸全土で普通に使われている。世が世なら、ぼくは特許のロイヤリティで死ぬまで遊んで暮らせるだろうな。

 まあ、遊んで暮らすなんてこと、娯楽の少ないこの世界でできるわけもない。そしてそれは、ぼくにとって選択できない道でもある。


 そして、消しゴム。この世界で作った、この世界の消しゴム。

 こいつが一番苦労したなあ。他の2つと違って、地球の技術が通じなかったんだもんね。そりゃまあ、プラスチックとかこの世界でまだ作れるわけがないから当然と言えば当然なんだけど。

 まさかそれが、今ここになってダンジョンのモンスターから手に入るなんて思ってもみなかったよ。


 その作り方は、氷霊石ひょうれいせきの粉末を混ぜ込んで熱する。この世界の消しゴムは、なんていうかファンタジーの塊みたいな代物になった。


 ……ここまでやってきて思うんだけど。


 やっぱりこの世界って、ほしいと思った道具の素になる素材が、結構そのまま丸ごと手に入ることが多いんじゃないかな。

 紙もそうだったけど、その前身である羊皮紙にしたってそうだ。どっちも、この世界で普通に手に入るもので、その加工方法も決して難しくない。


 なんていうか、あらかじめそうなるように用意されてるような、そんな感じがするんだよなあ。

 そりゃあ、神様が世界の管理をやってて、何かあれば介入してくる世界らしいから、当然のような気もするんだけど。なんか釈然としない……のは、ぼくが元日本人だからなんだろーか?


「……すげー。どんなスピードで絵量産するんだ」

「これが兄様の本気なんだね!」


 後ろから二人の声が聞こえてくる。

 描いた端から次の絵に取り掛かってるぼくの絵が、後ろからも見えてるんだろう。


「……スピードもすげーけど、絵もすげー。色々描き分けれるんだな」

「ホントだ。いつもの絵も好きだけど、わたしこういうのも嫌いじゃないよ」


 ぼくの基本の絵柄は、いわゆる萌え絵だ。リアリティは必要な分だけ残す、それ以外は削る。

 でも、それ一辺倒でやっていけるほどこの世界は甘くない。だからぼくは、色んな絵を描けるようにやってきた、つもり。


 銃火器とかロボットだって描いてみせらぁ。でもマッチョだけは勘弁な!


「……なるほどなあ。こうやって見てると、この消しゴムってのは絶対必要だなあ」

「パンとは威力が全然違うよね」

「……そう、その通りなんだよね」

「あ、戻ってきた」

「落ち着いたかよ?」


 ぼくは鉛筆を置いてイスにもたれかかる。その状態で身体をそらして、顔を天地逆で二人に向けた。


「デジタルで絵を描くならともかく、アナログしか選択肢がない現状じゃ、これはどうしても必要なんだ。パンはものによって効果に差が出るし、一応食べ物だし、何より細かいところが上手くできないしで。だからどうしても、消しゴムは必要だったんだ」

「必要だって思ったものを実現できるお前は、さすがだよな……」

「でしょー!」

「なんでティーアが自慢するんだよ」

「だってわたしの兄様だもん」

「ダメだこいつ。……で、紙とか鉛筆の時と同じようにするのか?」

「うん。三種の神器はぼくが独占しておかないほうがいいんだ、ぼくはあくまで絵を描いていたいだけだから、この辺りの管理なんてやってらんないしね」

「どこまでも相変わらずだな、お前は。……ってか、三種の神器ってかっこいいな」

「ふふふ、でしょう」


 にやりと笑って、ぼくは先輩に返した。


 それから身体を起こすと立ち上がって、改めて二人に向き直る。


「……材料はあのダンジョンで全部手に入るからね。これからは、あのダンジョンでの素材集めが常駐クエストとしてギルドに出るようになるだろうね」

「ついでにわたしたちもそれやって、クラス上げたいね」

「あはは、確かに。なんかマッチポンプ感半端ないけど」

「その前に技術売り込まないとだよな。心当たりはあるのか?」

「エアーズロックでお世話になった道具屋の大将はまず選択肢かな。あとは父さんからいくつか候補を教えてもらいたいところ。国外にも」


 とはいえ、材料が特定のスライム系モンスターからのドロップアイテムだということを考えると、それを恒久的に入手できる場所は限られるよなあ。このままだと、シエル王国の特産品になるかもしれない。

 思わず突っ走っちゃったけど、ダンジョンの固定化って相当反則行為やらかしたんだろうね、ぼく……


 国外と言えば……藤子ちゃんが内偵進めてたムーンレイスのほうはどうなってるんだろう。

 彼女はとっくにムーンレイスを出てて、その時の会話では、近いうちに使者が来るだろうって言ってたけど……もうあれから半年近く経ってるぞ。

 噂だと、グランド王国の情勢が不安定らしいから、その辺りで何か手間取ってるのかなあ?


 なんて考えてると、ノックの音がした。


「はいどうぞー、開いてますよー」

「失礼っ、仕りっ、申し候!」


 入ってきたのは、相変わらず妙なテンションのエルトさんだ。いつも通りのハチマキに、いつも通りのオーバーリアクション。

 今日は花弁を散らしながらの登場だ。お前は宝塚か。


「……どうかしたんですか、エルトさん?」

「はい、実はですな、先ほど城のほうから使いがいらっしゃいましてな。陛下からですぞ」

「え、あ、ども」


 今までのテンションから急に普通に戻ると、こっちとしてはびっくりするのでやめてもらいたい。もちろん、普段から普通にしていてほしいって意味で。

 まじめなときはちゃんとまじめな顔をできるのが、この人のすごいところではあるんだろうけどさ。たぶん、あのテンションはわざとなんだろうけど、意図的にあれだけテンションあげられるとか、やっぱこの人役者だよ。言葉通りの意味で。


 ともあれ、エルトさんから差し出されたのはメモ書き。開いてみると、見慣れた父さんの字が飛び込んできた。


『ちょっと用事頼みたいから戻ってきておくれ』


 手短っ!

 ……まあ仕方ないんだろうけども。携帯でもあればねえ、この程度の用件でわざわざ人をよこさなくっても済むんだろうけど。


 それは置いといて……用事かあ。どんなことかな。政治とは無関係な話だと助かるんだけど。


「兄様?」

「ああうん。父さんが用事あるから戻ってこいってさ。ティーアどうする?」

「わたしも行くー」

「わかった、じゃあ一緒にもどろっか。……えっと、先輩ごめんけど」

「いいって、行ってこい。陛下からなら仕方ないさ」

「ウィッス」


 ひらひらと手を振る先輩に愛想笑いをして、ぼくは散らかった机の上をまず片付けることにする。掃除はこまめに。


「あ、そうだエルトさん。メモ持ってきた人ってまだいます?」

「おりますぞ。何か言伝を先行させますか?」

「お願いできますか? えっと、研究所片付けてから行くから、30分くらい待ってて、って」

「わかりましたぞ、お任せくだされですぞ!」


 なぜいちいちポーズを取るのか。っていうか、ポーズに合わせて光るとか、その研究開発は果たして何か意味があるんだろうか……。


 ぼくたちが首をかしげる中、エルトさんは部屋から出ていく。最近、彼が放つ光の種類(色とか動きとか)が増えてるような気がするんだけど、あの人本当に何をしてるんだろう。


「……片付けようか」

「……うん」

「そーだな」


 たまりこんだ妙な空気を吹き飛ばすように、ぼくたちは一斉に動き始めるのでした。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


年末のあれこれで二日も更新が止まりましたが、一応今日……と、明日まではせめて更新したいと思ってます。

いや、別にコミケに行ってたわけではないんですけども。

気の置けない友人と飲む酒はうまいものです、ええ。

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