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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 1~でもその前に、精進だ!~
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第55話 王子様の日常 上

 ハイウィンドに住み始めて、早くも半年ほどが過ぎようとしている。季節はもう夏も終わりに差し掛かってきてはいるけど、やっぱりまだ暑い。


 だからというわけではないけど、ぼくの日常は朝も早い時間から始まる。父さんから、戦いの基本を教わっているのだ。朝練ってやつだね。基礎的なマナの使い方から対人戦での立ち回り方、などなど……父さんから学ぶことはめちゃくちゃ多い。

 さすがにかつてミスリルクラスの冒険者として名をとどろかせただけあって、父さんは強いのだ。ぼくにとっては身近で一番頼みやすい人だけに、これはとってもありがたい。


 ただ、父さんは国王という職業から日中は忙しい。取れるのは朝ご飯までの1時間ほどだ。

 まあ、このあたりは仕方ない。ぼく自身も、別に世界最強を目指してるわけではなく、手の届く範囲の顔見知りと自分を守ることができればそれでいいから、あまり高望みはしてない。


「チェストオォォー!」

「ぬわーーっっ!!」


 父さんの鋼のような拳をもろに食らって、ぼくは盛大に吹き飛んだ。そのまま空中に弧を描いて、地面に落下する。

 めっちゃ痛い。全身をマナで覆って身体能力を強化なかったら、もちろんとんでもないダメージを受けただろう。


 おのれ父さんめ……! ぬわーは息子じゃなくて父親のセリフだろう……!


 なんて毒づいてみても、もう起き上がる気力なんてないので、とりあえず「ぐふっ」と言って全身から力を抜いておいた。


 息子だとは言っても、父さんは容赦がない。もちろん戦い方を学んでいるんだから、あまり手加減を加えられても、というのが本音ではあるけどね……。


「まだまだだな、セフィ」


 そんなぼくに、父さんがしゃがみこんで手を差し出していた。

 それを握れば、すぐに起こされる。目の前に輝く日焼けした顔つきは、ホントに還暦を間近に控えた人間の顔か?


「セフィはなんていうか……アレだな、深く考えすぎてるんだろうな」


 ぼくに中級回復魔法キュエリアをかけながら、父さんがうーん、と小さくうなる。


「常に相手を観察して、最善手を取ろうとするのはもちろん大事だが、時には考えるよりも感じることも大事だぞ」

「……またブルース・リーみたいなことを」

「ぶるうすりい?」

「や、気にしないで……」


 頭ではわかってるんだけどなあ。でも、どうしてもとっさに動けないんだよね。


 この辺りはたぶん、前世である平和な日本での記憶が染みついてることも大きいんだと思う。

 あの世界……と言うより日本では、命の危険を感じることなんてそうそう滅多にあることじゃなかった。まして、あまり外には出ず自分のことだけに注力してたぼくに、そんな経験があったわけもない。


 これが、徒手空拳と魔法の合わせ技を基本技術にしてる父さんを相手にする時はまだいい。たまに訓練に混じってくる母さんの場合は、得物が大剣なのでものすごく怖いのだ。なんていうか、武器ってそれだけで威圧感あるよね……。

 まして母さんとか、ミスリルクラス「不死身」のベリーですよ。正対するだけでもうね、足とかガックガクですよ。ティーアはよく平気な顔して真剣で打ち合いができるなあと、最近つくづく思う。


 これ以外にも、死亡時28歳だった大人としての精神も影響してるんだろうな。

 大人ってほら、何かと理屈っぽいじゃない。子供みたいに、感性で行動することがどうしてもできなくなるっていうか。

 今のぼくの問題点である、「考えすぎている」ってのはそう言うことなんだと思う。感覚で言えば、40歳になってから武道を習い始めてるのと似たようなものなんだよなあ。


「兄様ー、そろそろご飯だよー! お風呂はいろー!」

「んー、わかったー」


 ティーアの声に振り返れば、真剣を軽々と持ち歩く母さんとティーア。

 ぼくが父さんに教わってるのと同じく、ティーアも母さんから剣を教えてもらってるんだよね。最近は、家族総出で朝早くから稽古ですよ。


 しっかし……マナって、すごいね。でもぼく、あのレベルには絶対到達できない自信がある。魔法ならいけるかもだけど……。


 そう思っていると、何か察したような顔で父さんがぼくの肩を叩いた。


「安心しろ、俺もあれはできん」

「……そっかー、じゃしょうがないね……」


 魔法をやり込むと、闘技のほうが不得手になるんだろうか。ハンターの念的な……ヒソカの言葉を借りるとメモリー不足的な……。


「まあ、まんべんなくできるよりも何かに特化したほうが有利なことが多いさ」

「それはまあ、そうだろうね」

「うっし、じゃあ俺らも行くぞ」

「アイアイサー」


 とまあこんな感じで、朝練はつつがなく終わる。この後は、家族4人でお風呂にインだ。

 さすがに4人が同時に浴槽に入ると狭いんだけど、母さんとぼくは小人族ウィンディアで体格は小さい。ティーアも人間族スターズだけどまだ子供だから、案外なんとかなってるのが現状だ。


 いやー、12歳目前にしていまだに親と一緒に風呂って、日本だと結構いじりの対象になりかねないだろうけども。

 これはこれでアリなんだろうと思ってる。前世はあまり人と付き合いをしてこなかっただけに、こういう裸の付き合いは案外楽しいのだ。

 そういえば、前世の両親とこういうことをした記憶ってあんまりないなあ……。


 ちなみに、今や我がフロウリアス王家では風呂が空前の大ブームだ。

 ぼくたちはもちろん、アキ兄さんも家族でよく入浴してるし、シャニス義母さんも父さんとちょくちょく入浴している。

 このまま行くと、プライベート空間であるアベリアの塔の中にも設置することになるかもしれない。


 ちなみに、父さんはさすがに王様歴が長い。この風呂というものを、政治的に利用できないかと、最近しきりにぼくに話を振ってくる。もちろん、風呂を本気で気に入ったというのもあるんだろうけど。

 相談されたぼくもぼくで、古代ローマを見習って、大衆浴場を作ったら民衆もより国政に対して満足するんじゃないかって答えちゃったものだから、さあ大変。

 今では、表だって動いてはいないものの大真面目に大衆浴場の導入が日々検討されていて、ぼくのところには計画書など持ち込まれてるんだけど……それはまた別のお話。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 朝風呂と朝食を終えた後は、日によって変わるけど主に座学の時間になる。


 基本的には、政務関係のことをシディンさんから、軍事関係のことをカバルさんから、マナー儀式関係のことをシェンマさんから学ぶ。

 この3つの授業を1日1つ、3日間でローテする流れになってる。午前中は、基本的にこれでつぶれる。ティーアもこの辺りは同じだ。


 ちなみにマンツーマンで、たとえばぼくがシディンさんについてるときはティーアはカバルさんに、と言った感じで、ぼくたちは同じことを一緒には受けない形になってる。

 ティーアは不満かもしれないけど、先生役の彼らも決して暇ではないからね。マンツーマンのほうが効率はいいんだろう。男女で学ぶべきことが違うマナーの系統は特に。


 何はともあれ、王族なら最低これくらいは身に着けておけよという言外のプレッシャーだろうなあ、これ。

 ぼくとしてはやりたくないことではあるんだけど、生まれ持った身分としての責任ってのはどうしても付きまとうからなー……。いっそ共和制でも導入してやろうか……。


 あ、そうそう。父さんに時間的な余裕がある時は、父さんによる冒険者についての講義が開かれることもある。

 個人的にはこれが一番楽しい。やっぱりロマンあふれる冒険の話だしね。


 あとは……これもたまになんだけど、ここにアキ兄さんが講義に来ることもある。今日は、そんな日だった。

 アキ兄さんによる講義内容は、太陽術だ。


「…………」

「…………」


 まあ、その内容がまず互いに面と向かってその場に座り、なんか座禅的なヨガ的な感じの恰好でひたすら深呼吸と瞑想するっていうんだから、なんていうか、修行僧にでもなった気分。

 とはいっても、これをやってるぼくらの全身から輝くようなオーラがにじみ出てるので、地球のうさんくさい宗教家たちのそれとはまったく違うんだけどさ。


 それはさておき。太陽術って、たぶん初めて出てきたよね。これは主に陽人族サンセットの人が扱う技術体系で、魔法と闘技、両方の性質を併せ持ったちょっと特殊な技術だ。

 なんでも、陽人族サンセットは生まれつきこれを扱うことができるんだとか。ハーフサンセットのアキ兄さんも、その血を継いでいるからかこれが一番得意だという。


 魔法と闘技の違いは、マナの使い方の違いだ。

 魔法は空気中のマナに働きかける技術だけど、闘技は対象に直接働きかける技術になる。つまるところ、間接的か直接的かって感じか。

 これで闘技のほうがマナの使用効率が悪いのは、対象に直接働きかける分だけ干渉を受けるから。免疫によって妨害を受けてるようなイメージだ。


 けれど太陽術はこの両方の性質を持つ。このため、どちらかの技術を用いるだけでも最低限の技を使うことができるのだ。

 魔法でもなく、闘技でもないので「術」と呼ばれている、というわけだね。


 その名前だけに、なるほどこういう座禅? も納得してはいるんだけど……いつまで経っても技らしい技を教えてくれない。

 太陽術を教えてもらい始めてからずっと、ぼくはこの座禅をひたすらやるだけなのだ。いくらなんでもそろそろいろいろ教えてほしいところだ。


「セフィ、気が散っているな」

「……はい」


 そして見透かしてるみたいに兄さんはそう言うので、逆らいようがない。

 兄さんいわく、太陽術がある程度使えるようになると、相手の思考がある程度読めるってことだけど……?


 なんてことを考えながら、あっさりとこの時間は終わる。

 いやあ、本当に何にもないんだよね、この時間……、ってあれ? そういえば、今日はなんかいつもより短いような。


 とか思ってると、立ち上がったアキ兄さんがおもむろに太極拳みたいな動きをし始めた。何事かと思ってそれを見るぼく。初めて見るものじゃないけど、いきなりやりだしたら驚くじゃないか。


 兄さんの身体は、金色とも橙色とも取れる色のオーラで包まれている。それはぴったりと兄さんの身体に沿うようになっていて、兄さんの身体が大きくなったようにも見える。

 けれど問題はそこじゃない。オーラと身体の接点……すなわち兄さんの体表面に、複雑な魔法式が浮かび上がっているのが見えたのだ。しかもその式は、流動するマナによって描かれている……ように見える。どうなってるんだろう?


 っていうか、あっれ? おかしいな、今まではこんなの見えたことなかったんだけど。

 えっと……身体に魔法式を埋め込んでるの? だとしたらそれって、めちゃくちゃとんでもないことなんじゃ……。


「見えたようだな」

「えっ?」


 ぼくが首をかしげていると、やはり太極拳っぽい動きを続けながら兄さんが言った。

 その意味が分からなくて、ぼくはさらに首をかしげる。


「俺の身体を覆う魔法式だ。見えているんだろう?」

「え、ああ……うん、見えてる。それ何? なんか、普通の式ともだいぶ違うみたいだけど……」

「そうだ、これが太陽術の魔法式だ。しかし同時に、これはマナによって形取られている。『魔法と闘技、両方の性質を持つ』とはこういうことだ」

「あ……なるほど?」


 確かに、魔法式は魔法の性質、マナの流動は闘技の性質だ。

 うん? でもこんなことしなくたって、太陽術は使えるんじゃあ……。


「完全な太陽術を使うためには、これができるようになることが前提条件になる。これを俺たちは『太陽回路』と呼んでいるが……回路を全身に構築できるようになって、初めてスタートラインに立つことになるのだ」

「うひゃ。思ってた以上に大変なんだね……」

「ああ。これを生まれつき行うことができるのが、陽人族サンセットだ。他の種族は、訓練しなければできるようにならない」

「……もしかして、この数か月ずっとやってたのって」

「ああ、太陽術回路を認識できるようになるためのものだ……」


 そこで兄さんは、ようやく構えを解いた。そして、ぼくに近づいてくる。

 その中でも、その全身に浮かび上がってる太陽術回路はそのままだ。


 ……傍から見ると、コマンドーとかのフェイスペインティングに近いものを感じる。正直、見えてる人にとっては結構複雑な気分になる見た目だ。


 そんな状態で、兄さんは仁王立ちになった。


「セフィ、見えていればお前ならこの魔法式を再現できるだろう? やってみろ」

「あ、う、うん……」


 問題は、マナを流動させる、身体にくっつけること、かな。そういう赤い使い方は苦手なんだけどな……。


 けど、ようやく実践に移れると思うとやる気は出る。ぼくは今までの座禅で何度もやってきた深呼吸を無意識に一回して、それから兄さんの全身をはう太陽回路を観察し始めた。


 その構造は、メン=ティの魔導書とはだいぶ違う。錬金術で使ってきた魔法回路とも、またかけ離れている。なるほど、独自の技術体系として扱われているのは伊達じゃない。

 ただ、決して複雑なわけではない。難易度をメン=ティの魔導書であらわすと、中級以上上級未満ってところか。これくらいなら、ぼくも十分構築できそうだ。……よし。


 これを身体に対して……か。闘技で言うところの、自己強化技に近い使い方だ。


「……んっ、け、結構難しいなあ……!」


 ただの身体強化に比べると、段違いだぞ。やってることは同じなはずだけど……!


「く、くくう……こ、こんな、感じでいいのかな……?」


 ぶっちゃけ、かなりいっぱいいっぱいだけど。


「ああ、それでいい。それをより長く維持できるようにすること、そうすればより強く術を使うことができる」

「なる、ほどね……」


 そうは言うけど、回路の維持だけでも相当集中力がいるぞ、これ。こんな状態じゃ、戦闘にはまだまだ使えないよな……。


 っていうか、陽人族サンセットの人たちは、これを生まれながらにできるのか。すごいな……。

 陽人族サンセットといえば、彼らが中心になって築かれた太陽王国ドランバルは、永世中立の傭兵国だと聞いている。

 なるほど、こんな技術を平気で使える連中なら、そんな国の作り方も可能だろうな。きっと、スイスも驚きの成果を過去に上げてるんだろう。


「よし……ではセフィ、今から俺はお前の妨害をする。反撃は禁止、ただし回避は可。その状態で、回路を維持し続けるんだ」

「えっ、ちょまっ、それいくらなんでも早すぎ……ってひゃあ!?」


 容赦なく、ぼくに向かって突っ込んでくる兄さん。そのスピードは、母さんや父さんにも負けないだろう。


 慌てて横に跳んで回避したけれど、兄さんはそんなスピードでもしっかりと方向転換をこなして、最短の動きでまたぼくに迫ってくる。

 さすが、ハーフとはいえ陽人族サンセット。その身のこなしは、獣みたいだ。兄さんは狼系(狼は地球との唯一の共通点な気がする)の血を引いてるから、まさに狩人だな……。


「あれこれ考えている場合じゃないぞ? ほら、回路が薄くなってるじゃないか」

「っでええ、最初にいきなりやることじゃないってばああ!」


 そしてぼくは、朝練に続いて2度目のボコられタイムに身を投じることになったのだ……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


色々考えてましたがまたセフィ編に戻ろうかと思います。

そして書いたら書いたでかなり長くなってしまったので、上下にわけさせていただきますね。


ちなみに、この世界は1日の時間数と1年の日数の関係上、ディアルトパパ上は既に地球で言う還暦をとっくに越えてます……。

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