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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
幼年期編~でもその前に、筆記具だ!~
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  挿話 教えて兄さま!

 わたしには、自慢の兄さまがいる。名前はセフュード、みんなにはセフィと呼ばれてる。


 兄さまは、何でもできるすごい人だ。どれだけすごいかって言うと、どんなことだってできるくらいすごい。勉強だって、魔法だって、なんだって兄さまが一番なんだ。

 お話も上手。わたしは物心ついたときから、兄さまの話してくれる奇想天外なお話が大好きだ。

 それに、新しいことを考えさせたら、兄さまに勝てる人なんて絶対いないに決まってる。だって、今学校で使われてる紙も、鉛筆も、ぜーんぶ兄さまが作ったものなんだもん。


 そんな兄さまは、どんなときも怒らない。いつだって優しくって、わたしが怒られたり落ち込んだりしてるときは、どんなときでも助けてくれる。

 わたしはそんな兄さまに比べられて、出来が悪いって言われることも多いけど。でも兄さまは、そんなときでもわたしをかばってくれるの。


「ぼくと比べる必要なんてないよ。ティーアだって、ぼくより得意なことがいっぱいあるんだから」


 そう言って、優しく微笑むんだ。


 最初は、そんなわけないって思った。わたしが兄さまよりすごいわけがないって。

 でも、学校に通い始めて、いろんなことを教わって、わたしにも兄さまより得意なことができた。

 闘技系のマナの使い方、運動、それに武術。少なくともこれだけは、兄さまにだって負けないって思ってる。


 兄さまは、正しかった。わたしにも、兄さまに負けないことがあった。


 そう、兄さまはすごくて、優しくて、正しい人だ。……たまによくわかんないことも言うけど。でも。


 そんな兄さまが、わたしは大好き。この世界の誰よりも、兄さまのことが。


「はい、それでは今日の授業はここまで」


 用務員さんが鳴らすベルの音を聞いて、先生がそう言った。


 ああ、やっと授業が終わったんだ。なんだかとっても長かったような気がするけど、1時間しか経ってないんだよね。嘘みたい。

 わたしはあくびをしながら身体を起こして、んーっと伸びをする。眠かったあ……。


「ティーアちゃん寝てたでしょ」

「えー、だって眠かったんだもん……」


 お昼のあとに歴史の授業なんて、眠くならないわけがないじゃない。

 しょうがないの。これはしょうがないんだってば。


「知らないよー、またテストで悪い点取ったって」

「いいもん、勉強なんてできなくったって。できるところでカバーすればいいんだもん」

「次のテストで点数悪かったら、補修と追試って先生言ってたよー?」

「えっ? え、ええ、そんなの聞いてないよ!」

「えー、だって寝てたじゃない」

「う、ううー……」


 や、やだなあ。補修も追試も、絶対ヤだ。

 寝てたわたしが言うのもアレだとは思うけど、いやなものはいやなの。


 だって、そんなことしてたら、兄さまといられる時間が減っちゃうじゃない!


「ティーア」

「兄さまっ」


 どうしようと思っていると、もう帰り支度をした兄さまがわたしの横に立っていた。


「どうしたの? 今日も行くでしょ?」

「あ、う、うん! ごめんね、すぐ用意するから!」

「うん、待ってるから急がなくっていいよ」


 慌てて荷物をしまい始めたわたしを急かすことなく、兄さまはにっこり笑って廊下の方に移動する。


「いいなあティーア、いつもセフィと一緒に色々してるんでしょ?」

「ん……うん、まあ」


 兄さまは、いつも新しい技術の研究に放課後を使ってる。他のクラスメイトは、魔法や武術の先生のところに行って訓練したりする人が多いんだけどね。


 わたしも当然、兄さまのお手伝いをしてる。でも、わたしは兄さまみたいに頭がよくないから、一緒にいることはできても、あまり兄さまの役には立てない。

 だから、いいなあと言われても、ちょっと複雑な気分になるわたしなんだよね……。


「できたっ。じゃあね、わたしもう行くから!」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 どこか呆れた感じで手を振るクラスメイトを振り切って、わたしは廊下へ走る。


「兄さま、お待たせっ」

「ん、じゃあ行こうか」

「うん!」


 わたしが遅れたのにもかかわらず、兄さまは怒らない。いつもようににこっと笑って、わたしを促す。

 そして、わたしたちは並んで歩き始める。


 実は、身長はわたしのほうが高い。でも身長なんて、どうでもいいことだなってよく思う。兄さまがどれだけすごいか知ってれば、そんなことを気にする気にもならないんだから。

 兄さまをチビなんていうクラスのいばりんぼがいるけど、そんな小さなことでいばれるなんて逆にすごいと思う。


「ねえ兄さま、今日は何するの?」

「今日はねー、ちょっと顔料を買いに行きたいな。色鉛筆を作りたくってさ」

「いろえんぴつ?」

「そうだよ。黒色以外の鉛筆でさ、もっと絵に色を乗せたいんだ」

「ふえー……」


 思わず変な声が出ちゃった。


 兄さまは、とっても絵が上手だ。兄さまが鉛筆を握れば、あっという間に絵ができる。しかもその絵は、教会に飾ってあるみたいな、面白みのない絵じゃない。

 わたしは芸術のことはよくわからないから、それを言葉でうまく表現できないんだけど、トルク先輩は斬新って言ってた。今までにない、まったく新しい絵の描き方らしいんだよね。

 そんなところに、他にも色が入ったらきっともっと、すごい絵になるんだろうなあ。わたしは、もう今から楽しみでしょうがない。


 その、いろえんぴつ? ってのがどうやって作るのかまったくわかんないけど。兄さまはもう、どうすればいいのかわかってるんだろうなあ。


「そういえばティーア。ちらっと聞こえてたけど、授業のほうは大丈夫?」

「う……」


 さっきの話、聞こえてたんだ。わたしは思わず、足を止めた。


「……あはは、その様子だと」

「うー……兄さま、どうやったら勉強ってうまくできるようになるの?」

「うーん、こればっかりは人それぞれだからなあ。興味のあるなしもあるし」


 苦笑する兄さまの横に並びなおす。それから改めて歩きながら、わたしはため息をついた。


「ティーアは歴史の授業が特に苦手だったよね、確か」

「うん……」


 こっくりと頷いて、もう一度ため息をつくわたし。


 わたしは勉強が苦手だけど、他の授業はまあまあくらいにはできてる。でも、歴史だけはダメ。これはもう、ぜんっぜん頭の中に入ってこなくて、いつもいつもテストで足を引っ張ってくれるんだよね。

 みんなどうやって覚えてるのかなあ……。


「まあねえ、基本覚えゲーだから苦手な人は苦手だよね、歴史。あの先生、教えるの下手だし」


 さっくりと言い切った兄さまに、わたしはそーだそーだと首をコクコクさせる。

 教えるのうまい下手って、わたしよくわかんないけど。兄さまがそう言うなら、きっとそうなんだと思う。


 ……ところでおぼえげー、ってなんのことだろ?


「わかるようになれば歴史ってすごく面白い分野なんだけどな……この辺りはどこに行っても事情は一緒なんだなあ」

「……じじょう?」

「え、ああ。ごめん、なんでもないよ」


 少し慌てた感じで、兄さまは首を振る。

 それから少しお芝居がかかった感じでこほん、ってせきをすると、話を戻した。


「テストは10日後だったな。ティーア、もしどうしても覚えられそうになかったら、ぼくのとこにおいで。あの先生よりはわかりやすく教えてあげられると思うから」

「……いいの?」

「もちろんだよ、かわいい妹のためだもん」

「……えへへ、兄さまありがとう!」


 やっぱり、兄さまはいつでもわたしの味方だ。わたしは嬉しくなって、思わず兄さまに抱きついていた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「はーい、それじゃ今から第1回大テスト勉強会をはじめまーす」

「おねがいしますー……」


 いつもみたいに、よくわかんない話の始め方をする兄さまに、わたしはふかぶかーっと頭を下げた。

 それに応じて、兄様は軽妙な音楽を口笛で吹く。兄さまの癖だ。

 最初聞いた時は驚いた口笛だけど、今はもう驚かない。ただ、毎回聞いたことのない音楽が飛び出てくるから、兄さまはきっと音楽もできる人なんだと思う。


 それはさておき。ここは学校の自習室。勉強のためだけに、一部屋を借りたのだ。


 うん。あの、あれです。結局、わたし1人じゃちっともお勉強なんてできなかったでした。

 まだ色鉛筆は完成しそうにないのに……こんなことで兄さまの時間を取らせちゃうのが、本当にごめんなさいだ。わたしはいつになったら、兄さまに迷惑をかけずに済むんだろ……。


「えー、っと、今回のテスト範囲は約200年前から現代まで、だったね。……先生も無茶言うなあ、200年て時間の厚みわかってるのかな?」


 でも、兄さまは絶対わたしを悪く言わない。今日もいつも通り、にこやか。うう、本当にごめんなさい。


「ティーア、授業のメモは持ってきた?」

「うん、言われた通り持ってきたよ」


 横に置いたかばんから、わたしは数枚の紙を取り出した。わたしの文字がずらっと並んでるこれは、兄さまが言う通り、授業中に先生が黒板に書いたものを写し取ったもの。

 ……ところどころ、書いたわたしでも読めないようなぐっちゃりしたモノがあるのは、できれば見なかったことにしてください。


 兄さまが紙と鉛筆を開発してから、学校の授業はとってもやりやすくなった。こうやって、先生が言ったこと書いたことをメモしておけるんだからね。

 あ、メモって言葉も兄さまの発明だよ。新しい言葉まで考えちゃう兄さまはホントにすごい。


「ん。そんじゃ早速はじめようか。……てわけで早速問題だ!」

「えっ、えー、いきなりー?」

「ふっふっふ、覚悟したまへティーアくん」


 にやっと、兄さまが笑う。いつものようなのじゃなくって、何か企んでるような、そんな。

 人前ではあんまりしないけど、兄さまは実はよくノリでおちゃらける。これはトルク先輩やシェルシェ先輩の前でも、滅多にしない顔。わたしだけの、秘密の顔。こんな兄さまも、わたしは大好きだ。


 その兄さまは、わたしの前に1枚の紙を差し出した。そこには、ぐにぐにとうねった丸が、いくつかの線で区切られているものだった。


「これはこのアステリア大陸の、およそ200年前の簡単な地図です。それぞれの線で区切ったものが、国です。それぞれの国の名前を書き込んでみてください」


 そう言って兄さまは、鼻の上にくいっと指を上げる。


 なーんだ、いきなり問題って言うからびっくりしちゃった。これくらいならわたしだってできるもんね。


 えーっと、真ん中がセントラル帝国。一番おっきな国。兄さまがよく行きたがってる。

 北が闇の国ブレイジア。セントラルとよく戦争してる国。よくわかんないけど、怖いイメージ。

 西が太陽王国ドランバルで、永世中立国って習ったよ。どういう意味なのかな?

 そことセントラルの間の、ちっちゃいところがグドラシア森国しんこく。世界樹っていう雲より高い木があるんだって。

 それから南がシェルドール諸侯連邦。小さな国が集まった国。なんか不思議な気分になる。

 そこの北東に、魔法王国ムーンレイス。セントラルに並ぶ国。ここも兄さまは行きたがってる。


 それで……えーっと、あれ? シエルとグランドがないよ? あ、そっか。これって、今の地図じゃないんだったっけ。えーっと……。


「ティーア、わからなかったらメモ見てもいいからね」

「あっ、う、うん」


 思わず兄さまを見ちゃった。にこやかだった。素敵。


 ……じゃ、なくって。


 言われた通り、メモをぺらぺらとめくる。何枚かめくって、わたしはようやく答えを見つけることができた。

 フローリア王国。シエル王国とグランド王国の元、だったっけ。


「……はい、よくできました。全問正解」

「え、えへへ」


 わたしが書き終わったのを見て、兄さまはにっこりと笑った。それから、いつものようにわたしをなでる。

 褒められて悪い気はしないけど、でも結局最後はメモを見たわけだから、これじゃダメだよねえ……?


「うん、これが昔の大陸地図だね。境界線は色々変わってるけど、一番大きな違いはフローリア王国だよね。昔は、シエルとグランドは一つの国だったんだ」


 地図をわたしのほうに向けながら、兄さまが語る。


「ここでちょっと昔話をしようか。今から150年くらい前……新ラヴィス歴135年。フローリア王国には、ハルアスとロムトアという、二人の王子様がいました」


 そこで、兄さまは地図を脇に置いて白紙に絵を描き始めた。


 兄様お得意の、人間を小さくかわいくアレンジした感じの絵が、2つ。2つは似てて、兄さまはそれぞれの絵の上にハルアス、ロムトアと書き込んだ。

 ハルアス王子は剣を、ロムトア王子は槍を持ってる。それでにらみあってて、なんだかとっても仲が悪そう。


「ところがこの兄弟、仲がよろしくありません。いつもケンカばっかりしていて、王様を困らせていました」

「兄弟なのに、ケンカなんてするの?」


 わたしはよくわからなくて、思わず聞いた。

 だって、わたしと兄さまはケンカなんてしたことがない。生まれたときからずっと一緒で、そんなことしようなんて、思ったこともないんだけど。


 ところが兄さまは、ちょっとさみしそうに首を振った。


「残念だけどね、あるところはあるんだよ。人間ってね、一度嫌いになっちゃうと、好きになるのが難しいんだ……」

「そっか……」


 兄さまがそう言うなら、きっとそうなんだろうなあ。


「……さて、そんな仲の悪い王子様。結局、仲直りできないまま王様が亡くなります。するとどうでしょう……」


 話を戻して、兄さまはまた絵を描き始めた。今度は、鎧みたいなのを着た兵隊さんがたくさん、ハルアス王子とロムトア王子の後ろにちょこんとくっつく。

 それから、次に二人の王子の上に言葉を書き込んだ。


『わたしがつぎのおうさまだ!』

『いいやおれがつぎのおうさまだ!』


 そしてその言葉を丸で囲んで、最後にそれぞれの王子様に向けてちょろんととがった部分を書き込んだ。

 これは王子様たちがこう言ってるのかな。


「……二人の王子様は、互いにこう言い合って譲りません。二人とも王様になりたくて、仕方なかったのです。そしてそれを……」


 今度は、兵士さんたちの上に文字が書かれた。


『ハルアスおうじがいい!』

『ロムトアおうじのほうがいい!』


 それはやっぱり、丸ととんがりで囲まれる。


「色んな人が、別々に王子様を応援しました。けれど決着はつかず……」


 空白に、炎みたいな記号がずらーっと描かれた。


「フローリア王国に戦争が起きてしまいました。フローリア大内乱の始まりです」

「あ……それ覚えてる!」


 聞き覚えのある言葉が出てきて、わたしはつい声を上げた。

 それを聞いて、兄さまはにっと笑う。


「お、覚えてる? どんな意味か言えるかな?」

「え……えっとえっと、長く続いた戦争で、これがあったからシエルとグランドに……あ」


 そこまで言って、わたしははっとなった。


 そっか。こんな戦争があったから、シエルとグランドに分かれちゃったんだ。ただ戦争が起きて分かれたんじゃなくって……。


「ん、大正解。そう、この戦争をきっかけにしてフローリア王国は今のシエル王国、グランド王国に分裂するんだ。ハルアス王子が北にシエル王国を、ロムトア王子が南にグランド王国を作って、それぞれが王様になったのさ。

 先生は『フローリア大内乱でフローリア王国が分裂した』としか言わなかったけどね。なんで分裂したの? ってなると、その原因は実は兄弟げんかだったんだよ」

「ええー、二人のケンカがそんな大きくなっちゃうなんて……」

「だよね。でもね、これがこの国の歴史なんだよ」


 そんな風にはなってほしくないなあ……。

 今の王様、しっかりした人だといいけど……。


「……フローリア大内乱については以上。次はシエルの歴史に入るよ」

「うん」


 それから、兄さまの絵を交えた説明は続いた。


 兄さまは、出来事を物語にして教えてくれる。色んな絵を用意しては、なんだかお芝居みたいなこともしながら。それは、いつも兄さまがしてくれるお話みたいで、今まで受けた授業が嘘みたいにわかりやすかったし、面白かった。

 まさか歴史の勉強で、面白いって思うなんて全然思ってなかった。しかも不思議なことに、兄さまに教えてもらったことは、すぐに思い出して答えることができるんだから、何がどうなってるんだろ?


 もしかして、そんな魔法を使ってたりして?


 そんなことを考えながら、兄さまの話を聞くわたしでした。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「『人間こそ国の宝である』とディアルト4世陛下は言いました。貧しいシエル王国を栄えさせるためには、まず人を育てる必要がある、そう訴えたのです。

 こうしてディアルト4世陛下は、今まで貯めた自分のお金を全部使って、国中に学校を作りました。この学校のことを……」

「統一教育学校!」

「……と言います。この制度ができたことで、シエル王国では識字率が爆発的に上昇しました。魔獣と戦う技術も広まりました。

 おかげで外国に留学したり、夢を持つ若者も増えましたし、兵士さんたちの仕事も楽になりましたとさ。めでたしめでたし」


 そう締めくくりながら、兄さまは夕焼けに染まる紙におしまい、と書き込んだ。


 わたしは、ついいつもの癖で拍手する。あれー、これって勉強してたはずなんだけどな。わたし、すっごく楽しんじゃったよ?


「こんな感じかな。うまく伝わってればいいんだけど」

「ううん、とっても楽しかったよ! それに、わかりやすかった!」

「そうかな? そう言ってもらえるとがんばったかいがあるよ」


 わたしが身を乗り出すのをそっと抑えながら、兄さまは笑った。どことなく疲れたような感じだけど、それでもなんとなく、嬉しそうだ。

 でも、すぐに身体を起こすと、外に目を向けながら立ち上がった。


「……って、達成感に浸ってる場合じゃないな。そろそろ寮に戻らないと怒られちゃうぞ」


 それもそうだ。もうほとんど日が傾いてて、だいぶ空も暗くなってきてる。部屋の中も、もう少しで太陽の光が入ってこなくなっちゃう。


「片づけないとだね」

「うん、そうだね。いやー、我ながらしゃべったし描いたし……」


 散らかった紙を片づけながら、兄さまが笑う。その様子がおかしくって、わたしも笑った。


「兄さま、今日はありがとう」

「いいんだよ。ぼくも得られたものがあったしね」

「? そう、なの?」

「うん。だからぼくからも、ありがとう、だよ」


 すぐ目の前の兄さまの笑顔が、夕日に照らされる。ああ、まぶしい。とってもまぶしい。思わず、わたしは見とれてしまった。


 そういえば、こんなにすぐ近くで兄さまをじっくり見るのって、どれだけぶりだろう?

 学校に入ってからはいつも兄さまの周りには誰かがいて……普段暮らしてる寮も別々で。今はそれが普通になってはいるけど、やっぱりどこか寂しくって……。

 今日は、勉強は正直したくなかったけど。でも、兄様とこれだけ長い間一緒にいられたのって、もしかしたら学校に入ってから初めてなんじゃ?


 そっか、こうやってお願いしたらもっと一緒に……って、ダメダメ。兄さまは忙しいんだから。わたしのこんなことで、迷惑かけるわけにはいかないよ。


「ティーア?」


 ふと、兄さまがわたしの顔を覗き込んでいた。兄さまの、宝石みたいな青い目にわたしが映りこんでいる。

 いつの間にか、手が止まってたみたい。


「ううん、なんでもないよ!」


 わたしはふるふると首を振った。それから、大慌てで片づけを済ませる。


「終わった? 忘れ物はない?」

「うん、おっけー!」


 兄さまがたまに使う言葉で応じながら、これまた兄さまがよく使う、親指を立てるポーズをするわたし。

 それを見て兄さまはにっこりと笑うと、そっと左手を差し出してくる。


「それじゃ、帰ろうか」

「うん!」


 わたしはその手を取って、笑い返した。


 早く大人になりたいなあ。大人になったら、きっと兄さまの手伝いも、ちゃんとできるようになると思うから。そうすれば、もっと兄さまと一緒にいられると思うから。


 先のことは、よくわからないけど。それでも、わたしはずっと、兄さまの隣にいたい。大好きな兄さまの隣に――。












 あ。

 ちなみに、テストは100点満点中90点でした!

 ありがとう、兄さま!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今までの中で、いくらなんでもティーアの出番が少なすぎるなあと思いまして、それとこの世界の歴史的なことも少し触れておきたいなと思ったので、ティーア視線で書いてみました。

そしたら案の定、お兄様さすがですわキャラまっしぐらになりました。そしてこういう感じのキャラ実は好きっていうこの。

っつーか子供の一人称って思ってた以上に難しいですね。どこまで言い回しや語彙を制限するべきかで迷って、結局いつもの調子になっちゃいましたけどね。


そして今明かされる大陸名。

いや、別に設定してなかったわけじゃなくって、言う機会がなかっただけなんです……実際たいていの場合は「この世界」で説明つきますもの。

今後も、あまり「アステリア大陸」という名称はあまり出てこないかも。藤子のほうはまだ出るかもですけど。

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