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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 3~でもその前に、国防だ!~
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第123話 ケルティーナ平原の戦い 4

 突然ライラから念話が飛んできたのは、一通り勝利の宴も済ませてそろそろ寝ようかと思っていた頃合いだった。

 とはいえ、ぼく自身はその魔法を使えるわけじゃないから連絡は本当に一方的なもので、


『武器庫から出てきた怪しい人物と交戦中、増援求む(要約)』


 というその内容を聞いたぼくの眠気は、あっという間に消えた。


 武器庫にそんな手合いが入り込んでいたことも驚いたし、もちろんそれも問題ではあるんだけど、何よりライラが戦闘中ということに心底肝が冷えたのだ。

 結果、ぼくは誰にも行先を告げることなく、ライラから逐次飛んでくる念話を元に現場に急いだ。


 ……うん、人の上に立つ立場としては褒められたことじゃないことはわかっちゃいるんだけどね。それでもその報告を聞いた瞬間、いてもたってもいられなかったんだよ。


 そんなわけで、ぼくは慌てていて。寝る前のラフな格好に申し訳程度の防具をつけただけで陣屋から飛び出した。

 けれど、大急ぎで現場にかけつけたぼくは、その初動を反省することになる。なぜなら、ライラとティーアが交戦している相手の動きは、完全に怪力な前衛だったから。


 しかも敵は三人で、全員がそれに当てはまる。どうあがいても、ぼくも近接戦闘をする可能性が高い。

 なのでぼくは、うっかりその様子が視界に入ったところで足を止めてしまった。

 とはいえそれは、よく考えずに敵に突っ込まなくて済んだ、と前向きに考えることにしよう。うん。


 敵は、さっきも言ったけど三人で、全員が前衛。暗器か何かを隠しているのか、いずれもひらひらとしたローブ状の布を纏っている。色は当然のように、闇にまぎれる暗い色だ。ここからじゃ、性別や顔まではわからないなあ。

 それから武器は剣……って、ん? あれおかしいぞ、剣を握ってない。なのに手には刃が……?


 そう思って目を凝らすと、どうやら相手の刃は手首からせり出ているっぽい。漫画や何かでしか見たことないけど、まさか実際にこの目で見ることになるとはね……!


 しかし身体と一体化しているタイプの武器かあ。まずは銃に適用した弾丸の魔法で武装解除を考えてたんだけど、それは無理かも知れない。

 そうなると……狙うのは腕とか脚が妥当かなあ。


 そう考えて、ぼくは右手を拳銃の形にして前に差し出した。そのまま人差し指を、敵に向ける。指先に魔法式が走った。その先では、ティーアとライラを相手に一歩も引かない三人の敵。


「……銀弾魔法エンフィールド


 そしてぼくの宣言により、魔法が完成する。指先に生じた弾丸が、音速を超えて撃ち出された。

 これこそ、今回の戦争のために完成させたオリジナルの魔法。銃の根幹となった魔法であり、あの日シェルシェ先輩の敵を取れなかった失敗作の、一つの到達点である。


 術式構成は現段階において完璧とも言える精度である上にひどく難解で、この魔法を理解できる人間は今この世界にはほとんどいないだろう。それを一般人でも制御できるようにしたのが、ぼくが開発したあの銃という武器の素体だ。

 そんなベリーハードなものに仕上がったこの魔法、その分威力はそれに見合う極めて高いものに仕上がっている。


 特に要求したのは射程距離と、鎧をも貫く高い貫通力だ。この二つに重点を置いて組み上がったこの魔法は、既存のメン=ティの魔導書各種の極大魔法クラスの射程を誇る。有効射程距離は実に一キロにも達する逸品。

 藤子ちゃんみたいな化け物はさておき、人間が対処できる魔法ではない!


 そして実際もくろみ通り、魔法の弾丸は相手の身体を貫いた。それを見届けるよりも早くぼくは次弾を放ち、三人全員を狙い撃ちにする。

 それによってバランスを崩した敵たちは、その隙を逃さなかったティーアによって次々に切り伏せられていった。ナイス、さすがぼくの妹だ。


「二人とも大丈夫?」


 敵が倒れたことを確認して、ぼくは二人に駆け寄る。


「兄様!」

「セフィ!」

「「危ない!」」

「え?」


 二人の言葉に、ぼくは思わず足を止めた。その瞬間、倒れていた敵がなんと再び起き上がり、襲い掛かってきたのだ!


「なぇええ!?」


 突然のことに、またありえないことにぼくは動揺してしまい、それでもかろうじて後ろに跳んだ。その眼前を、鋭い刃が通り過ぎていく。


 あ……っぶなああー!!


 い、いやいやそれよりも……。


「なんでこいつらまだ生きてるの!?……って、うわ……!?」


 バクバク言う心臓に手を添えながら前をにらんだぼくは、目を疑った。


 ぼくの前に立つそいつは、ティーアの剣によって上半身を切り裂かれている。心臓部分を迷わず走る刃傷は、普通の人間なら致命傷だ。しかしそいつの切り口からは、血が出ていなかった。

 暗くてよく見えないけれど……その身体は、光沢に近いつやがある。それはたとえるなら、まるでカブトムシやカナブンの上翅みたいで……。


「……な、何こいつら!?」

「兄様気をつけて、こいつらすっごい硬いよ!」

「おまけにしぶといんですの! 生半可なことでは堪えませんのよ!」


 愕然としたぼくの声に応えながら、ティーアが再び剣を振るう。ライラも魔法を放つ。

 それらは普通の人間なら食らうわけにはいかない威力があるはずだけど……にもかかわらず、相手のほうはまるで意に介していない。直撃ではないにしても、相当ダメージが入るはずなのに!


 なんて驚き続けるわけにはいかない。ぼくにだって敵は向ってくるのだ。剣? による攻撃が次々にぼくを襲う。結果的に、乱戦となってしまった。


 ……ひとまず、敵の攻撃はかわせないほどじゃない。母さんやアキ兄さんとしてきた稽古は、間違いなく生きている。少なくとも相手の動きは、ティーアには及んでないもんな。ダメージが一切ないってわけではないんだろう。


「近接戦は得意じゃないんだけど……な!」


 ぼくは敵が踏み込んできたのと同時に、全身に魔法式を走らせた。メン=ティの魔導書ではない。生命力に根差す、黄金の光がぼくの身体を巡る。太陽術だ。

 それによって爆発的な力を一時的に獲得したぼくは、攻撃をすれすれのところでかわしながら、カウンターの拳を敵の顔面にお見舞いする!


「……ぃ、いいいったあああー!?」


 そのインパクトの瞬間、確かな手ごたえと共にぼくの拳に痛みが走る。まるで鉄板を殴ったみたいだぞ!?


 慌てて後ろに下がって、殴りつけた手にひとまず回復魔法をかける。かけながら、それでも油断なく相手の顔に目を向けた。


「な……!?」


 そこでぼくは、言葉を失った。

 黄金の光で裂けたローブが風に吹かれて飛び、敵の顔が露わになっている。月光の下にさらされたその顔は……まるでスズメバチのような顔をしていたのだ!


「こ、昆虫人間……!?」

「そうなんですの! だからか知らないですけど、異様にしぶといんですの!」

「うええ、気持ち悪いよー!」


 二人は既に体験していたんだろうけど、それにしても慣れている様子はない。うん……某ハンター漫画のアリもそうだったけど、こういうのってぶっちゃけきもいよね。


 にしても、これはまずい。よくわからない相手だけど、どうやら敵は人間の柔軟さと、昆虫の硬さを両立した身体を持っているらしい。となると、貫通力に特化した銀弾魔法エンフィールドの効果が薄いのもうなずける。こいつらには、面に対する破壊のほうが効くだろう。


 さてどうしたものかと考えるぼくの眼前で、怪人スズメバチ男がぎちぎちとその顎を鳴らした。仮○ライダーでありそうなシーンだ……。

 太陽術で低い身体能力を補い、攻撃をかわしながら考える。少なくとも、炎や氷ではあまり威力は発揮できないだろう。風も難しそうだ。行けそうなのはやはり土かな……。聖と闇はわからない。


 ただ、生半可な威力では効かないだろう。少なくとも中級魔法……もしかしたら上級くらいは欲しいところだ。でもそこまで行くと、発動に時間がかかる。まだまだ魔法使いとしてぼくは未熟で、近接戦をこなしながら上級魔法を編むのはちょっと……。

 せめて時間を稼ぐ手段があればいいんだけど。一ターンでもいいから無敵になれるような、そういう魔法とか……。


 ……ん?


 ……あるじゃん、それ。


 脳裏で閃いたその案を確かめるように、ぼくは胸元に手を伸ばす。そこには、青い宝石が着いたペンダント。あの日から肌身離さず身に着けている、藤子ちゃんがくれたペンダント……。


「二人とも、ぼくに合流できる!?」

「わかった!」

「はい!」


 小規模の土魔法を手のひらから放ちながらの掌底をかましつつ、ぼくは声を上げる。それを受けたスズメバチ男は虚空を切りながらノックバックしていく。


 その隙に、ぼくに応じた二人も似たような形でそれぞれの敵を突き放した。そして、ほぼ同時にぼくのほうへ駆け寄ってくる。

 二人が手の届く範囲に入ってきたのを確認したぼくは、さらに敵が体勢を整えたばかりであることを確認して、あの魔法の名前を宣言する。


『百合籠!』


 日本語で告げられたその魔法は、即座にぼくたちをオレンジ色の花で包み込んだ。同時に、すさまじい量のマナを持っていかれてぼくはその場に膝をつく形になるけど……。


「これは……師匠の防御魔法!?」

「こ、これで……しばらくは攻撃をしのげる……! 二人とも、最大威力で、攻撃を……!」


 襲ってくる強烈な脱力感に耐えながら、ぼくは二人に告げる。ティーアもライラも、一度は百合籠に気をひかれたみたいだけど、ぼくの言葉で顔を引き締めて身構えた。


 二人の身体に、それぞれマナが集結していく。ティーアの方には赤いマナが、ライラの方には緑のマナが。どちらも神様に由来する、武と魔の色だ。花に阻まれて攻撃が一切届かないからこそできる、必殺技といったところだろう。


 うん……申し訳ないけど、ぼくは攻撃には参加できそうにない。相変わらず、藤子ちゃんの魔法はぼくには燃費が悪すぎる。


「ティーア、やりますわよ!」

「うん! 合わせるよ義姉様!」


 二人は互いに示し合わせて、同時に行動を開始する。ライラは右手を掲げ、ティーアは剣を振るう。


「『スイセン』……ッ!」

「奥義縦横一閃ッ!」


 ライラが日本語の名と共に生み出したのは、水でできた水仙の花。それはさながら槌のようにして、敵を上から襲う。

 ティーアが奥義の宣言と共に放ったのは、ただの一振りで敵を無数の刃の中に閉じ込める技。まるで網のように織り上げられた剣閃が、敵を包み込む。


 まさしくそれらは、必殺技。二つの攻撃が止んだ時、そこには粉砕され、あるいは細切れになった敵であった。


「……さ、さすがというか、なん、というか……」


 二人とも、頼もしすぎるぜ。


「セフィ、やりましたわ」

「兄様、終わったよ」


 そして二人は振り返りながら、まだ力が戻らないぼくにそれぞれ毛色の違う笑顔を見せてくれるのであった

 様にならないのはぼくで、いまだに立ち上がる気力もない。ここは二人に応えて笑顔で迎えてあげるのが筋じゃないかなー……。


 結局、ぼくは二人に両方から支えられる形で立たせてもらい、ふらふらのまま陣屋に戻ることになったのでした。

 せめて対面は保とうとしたけど、できたのは頭を撫でてあげることだけだったとさ……。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 既に月も沈み、ほとんど明かりのない森を一人の男が走っていた。複雑に木々が入り組んでいるはずの森だが、男はつまずくこともぶつかることもない。


 それもそのはず、男の顔は人ではなかった。暗闇を拠り所とする夜行性の魔獣とよく似た顔であり、その目は人の倍以上の大きさである。

 また首から下は人間だが、腰から下はやはり人間ではない。強靭な脚部は、バッタ型の魔獣のそれだ。


 合成獣。それの正体を知る者は、そう呼ぶ。現代では遺失した技術によって生み出された、異形の存在である。


 男は複数の銃を背負っている。両脇にも、それぞれ一本ずつ抱えられている。つい先ほど、シエル王国の武器庫から盗んできたものだ。


 男は合成獣だが、ベースは人間だ。男と行動を共にしていた連中も、それは同様。見た目は異形だが、その知能は人間とさほど変わらないのだ。だからこそ、今男は任務を全うしようと行動している。

 姿に似合わぬ手練れ二人に襲撃されたが、他の連中は男を逃がすために捨石となった。彼らはみな、命令には逆らえない。その命令遂行のためには、手段は択ばないのだ。


 今回与えられた命令は一つ。何が何でも、シエル王国から新兵器を奪うこと。

 男も同僚も、その命令に粛々と従うのである。


 森を行くことしばし。ようやく森が開け、小高い丘までやってきた。男の視界には、ひっそりと野営をする騎士の姿が飛び込んでくる。男はその下へ、まっすぐ駆け抜けていく。


「……おお、戻りましたか。首尾は?」

「ギ、抜かりなク」


 男を出迎えた騎士……セントラル観戦武官、キドナスの無表情に跪きながら、男は銃を差し出した。

 それを受け取りながら、キドナスは小さく頷く。そして早速、未知の兵器をしげしげと眺めるのである。


「……さて、これはどう使うのか。どういう仕組みなのか。……まずは試しに、使ってみますか……」


 そしてそうつぶやいた。その瞬間だ。


誅仙陣ちゅうせんじん


 どこからともなく、まるで聞き覚えのない響きの言葉が聞こえてきた。それは幼い女の声音であり、キドナスをはじめそこにいたすべての者が即座に警戒態勢を取った。


 しかしそれでは遅い。声と共に魔法は完成しており、その周辺はもはや世界から切り離されてしまっていた。

 景色は直線と幾何学模様で彩られた、自然の気配など欠片もないものへ。電子空間とも言うべき、単調な色彩の空間へと姿を変えていた。


「これは……一体……?」


 それでもなお、キドナスは表情を変えない。いや、変えられないと言ったほうが正しいか。


「さて、全員揃ったな」


 そんなキドナスを出迎えたのは、やはり少女の声。そしてそれと共に姿を現したのは、それに見合った少女であった。


 腰までの長髪はみどりの黒髪。黒一色の装束は昨今ムーンレイスで流行の兆しを見せているものに似ている。その上から彼女の身体を艶めかしくまとわりつくのは、玉虫色の羽衣……。


「……君は?」

「わしは光藤子……ミスリルは『青花』の藤子、と名乗ればわかるか?」

「……君が、『青花』の……」


 少女――藤子の揺らぎない答えに、キドナスは少しだけ目を見開いた。


『青花』こと藤子の話は、既に大陸中に広まっている。尾ひれがつきについた噂ではあるが、極めて優秀な能力を持つ、小人族ウィンディアという話は、当然キドナスも知っている。

 だが、その人物がなぜこんなところにいるのか。そしてなぜこのようなことをしているのか。それは彼にはわからなかった。


「面倒なことは嫌いでな。単刀直入に言うぞ」


 その藤子が、にたりと笑いながら口を開いた。その様は、やはり子供ではない。老成した小人族ウィンディア独特の、ある種矛盾した気配がそこにはあった。

 藤子は単に不老不死なだけだが、不老という点は小人族ウィンディアも同様である。キドナスの印象は、さして間違いではない。


「シエルから盗んだものを返してもらおう。ついでに、色々と忘れてもらうぞ」


 そしてその宣言と共に、藤子から途方もない強さの威圧が放たれた。人のみに非ざる威力の圧迫感が、一切のむらなくキドナス達に襲い掛かる。


「な……!?」


 それでもなお、表情筋の死んでいるキドナスの顔色はほとんど変わらない。それでも彼は、背筋を冷や汗が伝うのを感じていた。

 そして刹那。藤子がひらりと手を動かし……同時に、キドナスの背後に控えていた数人の部下が、絶叫と共に倒れ伏した。


「何事です?」


 敵視されているにも関わらず、キドナスは思わずそちらに顔を向ける。そこには、苦悶の表情でこと切れた部下たちが転がっていた。外傷は一切ない。ただ無慈悲なまでに変化のないまま、彼らは死んでいた。

 その事実に気づけたのは、キドナスだけである。他の面々は、既に藤子が放つ特大の威圧により、完全に心を折られている。


 そしてそうこうしているうちに、それらが次々に倒れていく。いずれも絶叫を伴いながら、また一切の外傷はない。

 それは、強い恐怖を喚起する光景であった。ただの地獄絵図ではない、得体の知れない恐ろしさが漂っている。


「な、にを……」

「ふむ。冥土の土産に教えてやろうか」


 もっともお主は殺さぬが、と小さく付け加えながら藤子が嗤う。


「我が奥義の一つ『誅仙陣』は、亜空間に敵を封じて魂に直接打撃を与える魔法。今この場に飛び交う不可視の攻撃を受けた者は、肉体とは無関係の痛感と共に魂を砕かれることになる」

「そ、そのような魔法が……!?」

「くくく……さあどこまで持つ? せいぜい足掻いてみせてくれ」

「く……!」


 嗤う、嗤う。藤子の嘲笑が亜空間に響き渡る。その様は、キドナスには悪魔にしか見えなかった。


 だから彼は剣を抜き、藤子に躍りかかる。閃いた切っ先はしかし、その小さな身体に届くことはなく――。


「が……ッ!?」

「くくく……遅い。残念じゃったのう」


 何処ともなく襲ってきた攻撃を受けて、キドナスは倒れた。ただし、宣言通り死んではいない。彼にはやってもらうことがあるのだ。

 その様子を真正面から見据えながら、やはり藤子は嗤った。

 既に亜空間の中に動ける者はいない。生存者も、加減されたキドナスただ一人だ。


「さて……言った通り、銃は返してもらおうかのう」


 己以外の誰も言葉を発しなくなった中で、藤子がぽつりと言う。


 すると、その直後に銃がふわりと虚空に浮かんだ。手にしていた男の手を振り払うようにしながらふわり、と。そしてそのまま、まっすぐに藤子の元へと飛んでくる。

 それを手にして状態を確認して、藤子は小さくうなずいた。


「うむ……いずれも異常なし、と。他国に渡っていらぬ面倒が起こるのは、勘弁じゃ。わしは構わんが、時間は有限じゃからな」


 そして彼女は、のう、と誰もいない虚空に目を向けて問うてみせた。

 もちろんそれに対する返事はどこからも出てこないが……それでも藤子は、己のしていることを見ている存在がいることは、先刻承知である。


「あとはこやつに目印を打ち込んだら、セレンたちに合流するか。あちらもそろそろうまく煮詰まってきた頃合いじゃろうて」


 銃をあるべきところへ返しながら、藤子は再び笑った。


 かくして、誰も知らないところで銃の情報流出は回避されたのであった。そしてケルティーナ平原の戦いは、これによって完全な終幕を迎えたのである……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


もうちっとだけ続くんじゃ。

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