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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 3~でもその前に、国防だ!~
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第120話 ケルティーナ平原の戦い 2

 地球において銃火器という武器の出現は、戦いの考え方を大きく変えた。戦術的な考え方はもちろんだけど、特に大きいのは武装の考え方だ。


 銃火器は弓矢ほどの訓練は必要としないが、一方でその威力は極めて高い。矢では貫通できない鎧を貫通してしまうのだ。そんなものが主力兵器となってしまったら、畢竟鎧なんてものは意味をなさなくなる。実際、地球では無用の長物になった。

 初期の銃である火縄銃さえ、距離次第では現代の拳銃と同等あるいはそれをしのぐ威力があると言われているんだから、それも当然と言えるだろう。

 結果、戦争の花形だった騎士という存在は歴史の表舞台から姿を消し、騎士道という思想として人々の記憶と物語の中にのみ、ひっそりと残るだけになった。


 火縄銃ですらそうなのに、ぼくが今回の戦争に用意した銃は、そんな初期段階をすっ飛ばして「ライフリング完備」「ある程度連射可能」「魔力が続く限り弾切れしない」という壊れ性能の逸品だ。元々自分用の武器としてひな形は完成していたところに、職人の腕とライラによる魔法知識の導入によって完成したこの兵器は、オーパーツどころの騒ぎじゃないだろう。


 その弾丸を食らったグランド王国軍の兵士は当然として、フルアーマーに身を包んだ騎士すらなんの抵抗もできずに戦闘不能になる。加えて言うなら、並べた銃に突っ込んでくる騎兵なんてただの的でしかない。連続する銃声と共に、見る見るうちに敵軍の数が減っていく。


 その光景を、高台とも言える本陣から見下ろしていて、どうにもうすら怖いというか、背中に寒気を感じてしまうなあ……。


「殿下! 敵軍の両翼が迫っております!」


 っとと、現実逃避してる場合じゃないや。


 ぼくはぺしんと頬を叩いて、改めて戦場を見る。迫ってきている両翼の敵軍は……うん、中央が壊滅してるおかげで包囲を構築できないままか。予想通りだな。

 もちろんこのままだと挟み撃ちの形になるから、黙ってみているわけにはいかない。


「全軍迎え撃て!」


 ぼくの号令によって、遂にシエル軍が動き出した。ただし、全員が整然と、というわけではない。

 三角形の形、と行ってもいい魚鱗の陣。それを真っ二つにさせて、それぞれが迫ってきた敵軍に対応する形に、だ。


 ぼくの目的は、あくまで各個撃破だ。中央軍を遠距離から執拗に狙うことで、それを実現させたのだ。

 ただ、この状況じゃうちはいつまでも不利だ。そこでぼくは、三つ目のカードを切る。


「弓兵隊、魔法兵隊は引き続き中央をけん制! 鉄砲隊は、左右の敵軍を狙え! それから先輩……合図を!」

「おうよ、任せな!」


 ぼくの合図を待っていたのだろう。トルク先輩は、ちらっと横目に見たぼくにサムズアップをすると、懐から小筒を取り出して空に掲げた。

 その先端が、ベータ○プセルよろしく光る。すると次の瞬間、そこから何かが空に向かって放たれた。

 その何かはひゅるるるるるという甲高い音を響かせながら、空を上へ上へと登っていく。そしてその頂点に達した瞬間……派手な爆音と共に美しい光の花が空中に咲き誇った。


 そう、花火である。これもたぶん、この世界では初だろう。あ、うん、これも爆発魔法の応用だね。火薬は使ってない。


 それはさておき。


 ぼくが言った通り、花火は合図だ。対象は、隠しておいた残り半分の兵。そして意味するところは、出ろ、である。

 花火で少しだけざわめきが落ち着いていた戦場に、鬨の声が響き渡った。その声の震源地は……今この瞬間、敵軍の後方に忽然と現れたシエル王国軍の伏兵、総勢一万二千五百だ。

 彼らは今まさに、正面きってシエル王国軍とことを構えていた両翼の、それぞれ後方に襲い掛かる。その形状は小さいながらも鶴翼そのもの。そして突然後ろに現れた敵軍が混乱しているうちに、左右どちらの敵軍も、完全に後ろと左右を抑え込まれてしまう。


 さあ、これで二つの局地的な包囲戦が出来上がった。すべては計画通り。前後左右、全方位から攻撃され続けて、いつまで戦意を維持できるかな?


「ひゅー、すげえぜセフィ。完璧な戦術だ」

「いやあ、ファムルさんがいたからこそできたことだよ。ファムルさんがいなかったら、こんな見通しのいい平原で伏兵なんてできなかった」

「ふふふふ、もっと褒めてくれていいのよ!」


 少し回復してきたのか、ファムルさんはいつものドヤ顔だ。

 今回ばかりは本気で彼女頼りだったので、その顔にも思うところはない。ただ感謝するばかりだ。


 さて、種明かしをしよう。どうして急に伏兵が、敵の後ろに出現したのか?

 答えは、これも夢幻魔法だ。


 ぼくのこの戦争での狙いは、敵軍を分断した上でそれぞれを包囲する、というものだった。けれどそのためには、敵の後ろに回る兵をうまく隠す必要があった。

 これが周囲に森が点在しているとか、あるいは立地が谷であるとか、兵を伏せる場所が確保できる地点だったら問題はなかったんだけど……ぼくが二人に言った通り、このケルティーナ平原は見通しのいい平原だ。周辺に身を隠すところなんて、まったくない。


 ここで夢幻魔法の出番だ。隠す場所がないなら、透明になればいい。そういう発想だ。

 平原の隅のほうに、透明になった状態で待機しておいて。敵軍がケルティーナに向かい始めたら後ろを取って、気づかれないようにそっと近づいていく。そして戦いが始まり、ぼくの合図を受けた瞬間突撃する。そういう作戦だった。

 一万人を超える人間を透明にするのは、もちろん相当量のマナが必要になる。なので、こちらも節約のために攻撃行動を開始したら透明が解除されるという制約を与えた。これでばれる危険も増えたわけだけど、その心配は無用だったみたいだね。


 なお、二つに分かれた伏兵のうち、片方を率いているのはティーアだ。お兄ちゃんはすごく心配だったけど、よくよく考えるまでもなく戦闘力のほうは彼女のほうが上なので、無理だけはするなと言うにとどめた。

 見た感じ、ティーアはちゃんと指揮できてるみたいだし。先頭切って大剣(ちなみに母さんのだ)をぶん回しまくってるのは、はらはらするけどね!


 ……それはさておきパートツー。


 この状態までなって、グランド王国軍はどう対処するだろう?

 ぼくとしては、これで完全に王手をかけたと思ってるんだけど油断は禁物だ。ただ、今のところ相手が目立った動きは見られないんだよね……。


 ぼくだったらこんな状況に陥ったら、絶対撤退させる。被害は相当出るだろうけど、全滅するよりはましだし。あ、いや真っ先に逃げるなんてことはしないよ? ホントに。

 でも、そういう撤退の動きもみられないんだよなあ。


 ……ん? もしかして、ずっと牽制で中央が攻撃されてるから、そういう命令も出すに出せないんだろうか?


 もしそうだとすると……このままだとうちの軍が止まらずにマジで全滅させちゃったりとかしかねない……んじゃないだろうか……。

 それはちょっとまずいよなあ……神々の加護がないぶん、この戦争で死んだ人は普通に死ぬし……。


 うーん、どうしよう。降伏を促すくらいしたほうがいいかなあ?


 ……一人でうんうん考えてもしょうがないか。うん、ここは信頼できる二人に相談してみようかな……。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「馬鹿な!?」


 遠巻きにシエル・グランドの決戦を眺めていたセントラルの観戦武官たちは、本日何度目になるかわからない「馬鹿な!?」を口にした。

 特に、双眼鏡を使うことができる先頭の男はそれが顕著である。


 無理からぬことではある。この世界の現状では、絶対にありえない先進的な武器や、夢幻による超常現象を見せられているのだから。

 しかもそれらは、数の不利を跳ね返すための舞台装置。結果シエル王国軍は、今まさに包囲を成功させて最後の追い込みに移りかけている。


「……まさか、まさかシエルが……ここまでやるとは……」


 まさに絞り出すように、男がうめく。


 それでも、双眼鏡を下ろしはしない。シエル……セフィが切る手札のすべてが、彼らにとって記憶に焼き付けておくべきことに見えるのだ。

 今も断続的に攻撃が続けられている銃などは、その最たる例だ。その発射速度が速すぎて、彼の目では弾丸を捉えきれない。銃声と共に、遠距離の敵を不可視の攻撃が襲っているように見えていた。

 それがほとんど途切れることなく続いているのだから、その有用性は考えるまでもない。


 男にしてみれば、あれだけ間断なく威力のある遠距離攻撃を続けるには、相応のリスクがあるように見えているが。あいにくと、科学の知識によって形作られたそれは、ほどほどのマナ程度しか要求しない。

 それを男が知っているわけではないが、だとしても男が……ひいてはセントラルの人間が、銃というものに注目しないわけがなかった。


「あれは一体どういう仕組みなのだ……まるで見当がつかぬ」


 そして傍から見ているだけでは、銃の構造などわかるはずもない。男は引き続き、うめいていた。


「閣下」


 そこに、キドナスが背後に控えた。

 その声を聴いて、男はようやく双眼鏡を下ろした。そしてゆっくり、ティマールの頭をそちらに向ける。


「どうした?」

「あの不可思議な兵器ではありませんが……一つ、シエルの種がわかりました」

「ほほう……言ってみよ」

「は。先ほど突如として現れたシエル王国軍についてですが……どうやら夢幻魔法が使われているようです」

「……何?」


 キドナスの報告に、男は眉をひそめた。


「……痕跡があったのか?」

「はい。夢幻魔法は他の魔法とはその仕組みがまるで違います。あれは一度見たら忘れられません」


 淡々と告げるキドナスの顔には、表情らしい表情はない。感情と言う概念を喪失したような、無表情である。


 男は、そんなキドナスの表情があまり好きではなかった。腹の底を読めぬ、何とも言えぬ不気味さがあるのだ。

 だから今も、極力彼の顔を正面から受け止めないようにしながら、会話を続ける。


「しかし……グドラシアの連中がシエルに協力しているという話は聞かないぞ。直近、二か国がそれほど親しくしていたという情報もないはずだが」

「個人……もしくは小規模のチームが、個人的に力を貸しているということもありえましょう」

「……いや、だとしてもあの規模の夢幻を行使するにはそれでは力不足だろう。あの、グランドの攻撃を防いでいる結界も夢幻だったと言うではないか」

「…………」


 男の指摘に、キドナスが口をつぐんだ。

 しかしその沈黙は、すぐに破られる。


「……個人でそれほどの実力を持ち、かつシエル王国と縁のある夢人族イリュージアがおります」

「何?……まさか、『紫幻』のファムルとでも言うつもりか?」

「そのまさかです」

「馬鹿な……彼女の話はもう十年以上ついぞ聞かんのだぞ」

「ですが、死んだと言う話も聞きません。彼女のパーティ……すなわちディアルト4世のパーティの半分がまだ存命であることを考えれば、ありえないことではないかと……」

「…………」


 今度は、男が口をつぐむ番であった。

 実際、キドナスの指摘は正しい。シエルには、まさにそのファムルが従軍している。しかも、その能力をいかんなく発揮しているのだ。

 ミスリルクラスの冒険者とは、一戦場での行為一つ二つでその存在が察知されるほど、認知度が高いものである。ましてや、数少ない夢人族イリュージアの冒険者となればなおさらである。


 脳裏に、見たこともない女冒険者の姿を想像しながら男は思考を巡らせる。


 仮に戦場に夢人族イリュージアの「紫幻」がいたとする。だとするとシエル王国の価値、ひいてはその力の認識を上方修正する必要がある。シエルについては、当初の予定通り情報収集だけに留めるのは、いささか軽視しすぎではないか。男は、そのように考え始めていた。


 そこに、戦場から今までにない大きさの音が聞こえてくる。


 何事かと戦場に目を向けてみれば、グランド王国軍のほうでよほどのことが起きたようだ。今まで、混乱しつつも軍としての体裁を保っていたグランド王国軍が、今度こそ瓦解しかけていた。

 それを見て、男は悟る。グランド王国軍の指揮系統、その上層部に位置する人間に何かあったのだろう、と。


 そう判断した男は即座に、双眼鏡を構えながらもキドナスへ声をかけた。


「……キドナス卿よ」

「は」


 男に呼ばれ、キドナスは首を垂れて応じる。


「予定を変更する。両軍に潜ませている間者を半分戻せ」

「……と、申されますと?」

「夜を待ち、あの不可思議な兵器を奪取させるのだ。シエルの陣地に潜入させ、秘密を探らせる。最悪、戦場に残された故障品でも構わんから鹵獲したい」

「なるほど。ではすぐに」

「うむ……あれさえ手に入れば、セントラルは更なる飛躍を遂げるだろう」


 一礼し、伝達のため男から距離を取ったキドナス。彼に聞こえる程度の声量を維持したまま、男はなおも戦場を眺めつづける。


「……さすれば、ブレイジアはもちろんムーンレイスを切るとることも容易になるだろう。すべてはスティーラ陛下のために」


 そしてそう言葉を続けた男の視界が、不意にぐらりと反転した。

 と同時に、その瞳は世界のすべてを認識できなくなる。


 ……ぼとり、と。


 地面に果実が落ちる。赤い、赤い死の渚で彩られた、頭と言う名の果実が。

 それに数瞬遅れて、男の身体がゆっくりと落竜した。


「……それでは困るのですよ、閣下。命令には従いますがね……」


 やはり淡々と、まるで知らぬかのように無感情な顔のままでキドナスが告げる。

 その手には、抜身の剣が握られている。そして鈍色の刀身は清らかな水をほとばしらせ、べっとりと張り付いてしまったあけに洗い流していく。


「いけない……ついカッとなってしまいました。貴方が悪いのですよ閣下……あんな女なんかを礼賛するのですから……。

 まあご安心ください閣下……予定より死ぬのが多少早くなっただけのことです。畏れ多くも帝位を簒奪した女狐には、シエルに観戦武官を断られた際に斬られたとでも伝えておきます。

 喜ばしいでしょう? 戦に疲弊したシエルを食らう口実になれて……」


 あざ笑う、の一言が似合う言葉である。

 けれども、キドナスの声や顔は……それでもやはり、細かな動きは見当たらないのであった。


 そんな彼の後ろで、残りの観戦武官たちは何も言わず、何も顔に出さず、ただ立ち尽くすだけだ。

 その瞳に、意思の光はない。いや、それを通り越して、瞳孔すら、存在しなかった。


 静かに剣を鞘に戻すキドナス。彼の背中を、いくつもの複眼・・が凝視していた……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


基本、ボクは物語にあまり影響のない人物には名前を用意しません。

つまり彼は最初からそういう定めの下に(ry

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