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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 3~でもその前に、国防だ!~
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第104話 彼の気持ち彼女の気持ち

※今回もちょっと下的なお話があります。

「…………」


 いつも通り(?)アベリアの塔の地下牢で目覚めたぼくは、今まで身体をむしばんでいた性欲がきれいさっぱり抜け落ちていることに気がついた。

 えっちがどうとか薄い本がどうとか言う煩悩は、もはやない。賢者モードもかくやと言わんばかりの、完全なる解脱の心境だ。

 どうやら、ようやく繁殖期が終わってくれたらしい。極端な身体だよ、まったく。


 ただ、無事に終わったとはとても言えない。いや、むしろ大参事と言ってもいい。

 ぼくはそこで深く、とにかく深くため息をつくと、隣に目を向けた。そこには、目が覚めてからそむけていた現実が横たわっている。


「んん……にいさまあ……」


 現実――ティーアはまだ眠っているので、まあ寝言なんだと思う。

 何が問題かって、彼女もぼくも全裸で、しかも周辺がそれはもうあられもない汚れ方をしていることだ。その一部に、赤黒いものもある、とまあここまで来ればあとは言わなくてもわかるだろう。


 うん。


 その。


 なんですかね。


「……やっちまったァ……!!」


 ぼくはそう喉の奥から絞り出すと、頭を抱えてうずくまった。


 けどな、とりあえずこれだけは言わせてほしい。


 どこのどいつだ、ティーアを地下牢の中まで連れ込んだやつは!?

 この鉄格子はぼくには破れなかったんだぞ! つまり、誰かがここに連れてきたとしか考えられない!


 ここのカギを持ってる人間は、アキ兄さん一人だけ。それ以外で無理を通して道理をひっこめられるのは、ファムルさんか藤子ちゃんしかいないんだぞ!

 思い出したいけど、そもそも当時、ぼくは繁殖期の真っ最中でろくな思考ができなかった。ティーアが誰かに連れてこられたのか、一人で来たのか、それすらも記憶にないのだ。


 途中何回か、意識だけ冷静になったけど、その程度の精神じゃ暴走した身体を止めることはできなかった。

 そしてだからこそ余計に、ぼくの耳には苦しそうにうめくティーアの悲鳴が残っている。それが無性に、そして腹立たしい。自分で自分を抑えられなかった自分が、何よりも腹立たしい!


 ……誰が犯人だ? 誰が淫獣の檻にいたいけな天使を放り込んだんだ!?

 可能性として一番考えられるのはファムルさんかな!? 藤子ちゃんもなんかあやしいよな!

 アキ兄さんは……いや、あの人は違うだろう。なんていうか、あの人は真面目な人だ。そんなことをする人じゃないだろう。


 ……とりあえず、容疑者の一人を尋問せねばなるまい。


 ぼくは必死に怒りを抑えながら、星璽せいじの通信を起動した。


『お主からの通信は久々じゃな』


 浮かび上がった藤子ちゃんは、開口一番にそう言う。


『どうやら繁殖期は終わったようじゃな。いつも通りの……お主でもないな。どうした? 何をそう怒っておる?』

『…………』

『……なるほど』


 無言でぼくが示した現状を見て、藤子ちゃんは珍しく目を丸くして一瞬言葉に詰まっていた。

 ……藤子ちゃんじゃない、のか?


『……藤子ちゃん、確認なんだけど』

『うん?』

『ぼくはここから出られなかった。なのに、こんなことになった。聞くけど……藤子ちゃん、ティーアをここに連れてきたのは君?』

『いいや』


 ぼくは、精一杯の怒気を込めて睨みつけたつもりだった。

 でも藤子ちゃんは、ひるむことなくさらりと否定した。……まあ、彼女の実力があれば怖いものなんて何もないんだろうけど……。


『昨夜はずっと世界樹を調査しておった。わざわざそんなことをしようと思う状況ではなかったわい』

『……本当に?』

『嘘は言わぬ。……が、アリバイがないのは事実じゃのう。どれ、ここは場所の記憶を起こすか』

『場所の記憶?』

『うむ、この場で起こっていたことを映像としてこの場で再現する魔法じゃ。そうじゃな……レーシングゲームのゴーストみたいなものじゃ。ああいや、スタンドのムー○ィーブ○ースと言ったほうが良いか?』

『把握』


 相変わらずとんでもないな、この子……。


『効果範囲は鉄格子の向こう側。再生時期は昨夜20時から30時までとするか。再生速度は3倍でよいかな。音は切っておこう。さもないと、繁殖期中のお主の声まで再生してしまう。ではやるぞ』


 ホログラムの藤子ちゃんが、その手から青い光を放った。それは彼女が口にしていた範囲まで飛んでいき、その中が結界のようなもので覆われる。

 ……虚空に時間まで表示されてる。丁寧にデジタル表記だ。どんだけ規格外なんだ。


 最初は、特に何も変化はなかった。宙に浮いている時間表記だけが、早送りで進んでいく。

 変化があったのは、それが28時を目前にした頃合いだ。日付が変わる少し前、深夜も深夜な時間帯だ。

 そこで、階段から人影が二つ降りてきたのだ。それを見て、ぼくは腰を浮かせた。


 藤子ちゃんがそれを見て、早送りをやめた。映像内の時間の流れが、1倍になる。

 そうこうしているうちに、鉄格子のすぐ目の前に人影がやってきた。


 片方は言うまでもない、ティーアだ。いつもの彼女からは考えられないくらい、薄くて布面積の小さい服を着ている。ベビードール……?

 一方、もう片方は……。


『……誰だこれ』

『ふむ』


 見覚えのない男だった。でっぷりと太った身体、張り付けたような下卑た笑み。

 ……いや、本当に誰だろう。まったく見覚えがないんだけど。


 そんな男と、妙に親しげに会話するティーア。……怯えてるような雰囲気もあるのは、この時のぼくを目の当たりにしたからだろうな。


『……父様、と言っているな』

『!?』

『簡単な読唇術じゃよ。よく見ていればわかる。少し戻すぞ』


 指摘されて、映像のティーアの口元を凝視する。

 巻き戻って、もう一度先ほどの会話をよくよく観察する。


『……本当だ』


 そして確かに、ティーアの口の動きは「父様」だった。

 それがわかれば、なるほどとも思った。父さんは変装の達人だ。ルパン三世レベルとは言わないけど、この世界ではトップクラスだろう。


 ……いや、そうまでして、一体何がしたいんだあの人は!?


『落ち着け、鍵はかかっておるぞ』

『これが落ち着いてられるわけないよ! ティーアをこんな目に遭わせたんだ! 今日という今日は本当に頭に来てるんだ!』

『そう思うならまず服を着ろ』

『…………』


 確かに。


 精神的な余裕がなかったとはいえ、起きてからずっと全裸だ。この状態で表に出るわけにはいかない。

 それによくよく考えたら、ティーアを裸のままここに放置するわけにもいかないな……。


 ……服ってどこに置いてあるんだろう?


『……まあ、じゃろうて』


 かろうじて頭の冷えたぼくに、藤子ちゃんが苦笑交じりに肩をすくめた。


 そこで、


『ん……んー……』

『っ!?』


 ティーアが目を覚ました。覚ましてしまった。

 掛け布団も何もないベッドで、少し身体を起こしたティーアの眠そうな目がぼくに向けられる。


「…………」

「…………」

『…………』


 そしてしばらく、沈黙。


 どうすればいいのかわからなくて、何か言うべきなんだろうけどそれすらもうまくまとまらなくて、ぼくはただひたすら、ティーアの美しい赤の瞳を見つめることしかできない。

 と、とにかく、とにかく何か言わないと!


「ごめんっ!」

「ごめんなさい!」

「「え?」」


 同時に繰り出した謝罪に、ぼくたちはさらに同時に目を丸くした。

 そしてもう一度向かい合って、沈黙する。


「あ……あああの、兄様……あの、違うの、兄様は何も悪くなくって!」

「そんなわけないだろ! だってぼくは、ぼくはティーアを……」

「違う、違うの! だってわたし、自分でここに来たんだもん!」

「はっ!?」

「わたし……わたし、兄様と、その……こ、こういうことしたくて、自分でここに来たの! だから兄様は何も悪くないの!」

「~~!?」


 なんだ、え!? ちょ、待て、待った待った!

 どういうことだ、えええ!?


「セフィ、落ち着け」


 今まで黙って様子を見ていた藤子ちゃんが、口を挟んできた。


 けど!


「いいいや落ち着けるわけないよ!?」

「まあそうじゃろうがとりあえず話を整理したほうが良さそうじゃ」

「あ、ああ、め、女神様……」

「うむ、久しいな。それよりティーア、お主自分でここに来たと言ったな? ディアルトに連れられて来たのではなく?」

「ふやっ!? いいいい、いいえ、ち、違いますわたし、一人で来ましたっ!」


 ……この慌てようは、違うんだろうなあ。


 うん……ティーアの狼狽っぷりを見て逆に頭が冷えてきた。


「ほう、一人で? それは真か? 嘘は……巡り巡ってお主の身を焼くぞ?」

「……ご、ごめんなさい!!」


 藤子ちゃんの脅しが強力すぎる。

 僭称とは言え光の女神の肩書はさすがというか……。


「……藤子ちゃん、あんまりティーア虐めないで」

「んん!? わしは真実を追究しただけなのじゃが!? あー……いや、いい、わかったわかった……」

「……ティーア、その……どういうこと?」

「……あのね……」


 神様の前ということで、観念したんだろう。そこからティーアはぽつりぽつりと話し始めた。


「……兄様、今度結婚しちゃうでしょ……? そしたら、今までみたいに一緒にいられなくなっちゃうでしょ……? わたし、悔しくて、嫌で、嫌で……。だって、兄様が傍にいないなんて、そんなのわたし信じられないんだもん……」

「……ティーア」

「……でもわたし、妹だから……。兄妹で結婚はできないから、……どうすればいいのかわかんなくって、それで……ファムルさんに聞いたら、き、既成事実さえあれば、兄様の気を引いたら、って……。そ、それに……に、妊娠、できたら……きっと兄様なら、邪険にはしないだろう、って……。

 でも繁殖期に入ってから兄様どこかに連れてかれちゃって! それで、それで父様に聞いて……何日も父様にお願いして、それでここに連れてきてもらったの……。

 だから、父様は悪くないの、悪いのは全部わたしなの! わたし……わたしっ、ライラさんに負けたくなかったっ、兄様の、最初の人になりたかった……っ! わたしのほうが、わたしのほうが兄様のこと好きなんだもん……っ、だから兄様の、にいさまの隣を取られたくなかったのっ!」


 懺悔のような告白を終えると、ティーアはそのまま泣き出してしまった。


 ……とりあえず、ファムルさんはここから出たら断頭台送りにするとして……ええと……。


「ごめんなさい兄様ぁ、でも、でもにいさまぁ、おねがい、おねがいだから、嫌いにならないで、わたしのこと……嫌いにならないでぇ……!」

「わかった、わかったからティーア、もう十分だよっ」


 このままだと際限なく続きそうだったので、ぼくは慌ててティーアを抱き寄せて無理やりその口を止めた。

 そのまま、彼女の身体を抱きしめる。……互いに裸なのにまったく何も感じないのは、繁殖期を抜けたからか。今はその体質がちょっとだけありがたい。


 それからティーアは、その状態でしばらく泣いていた。何か声をかけれればいいんだろうけど、こんな時にどう言えばいいのか、そんな知恵がぼくにあるわけもなくって、ただティーアの頭を撫でてあげることしかできなかった。


 ……正直、ここまでとはいかなくても、これに近いことが起こる可能性を考えてなかったわけじゃない。

 物心ついた時から、ティーアはずっとぼくのことを見ていた。ぼくのすることや言うことにその目を輝かせて、いつもぼくの隣で、ぼくのことを呼んでくれていた。

 その視線の色が尊敬とは違う色に変わったのは、一体いつからだったろう。シェルシェ先輩が死んで、一緒に悲しんで、一緒に苦しんだ辺りからだったような気がする。はっきりとは覚えてないけど、少なくともハイウィンドに移るころには、既にそうなっていたと思う。


 そうだ、ぼくは変化に気づかなかったわけじゃない。ただ……それに気づかないふりをしていただけ、なんだろう。それによって起こるだろうことを避けようとして……。


「……にい、さま……」

「ん……?」


 ぐるぐるとどうしようもないことを考えていると、下から呼ばれて目を上げた。

 ティーアの、ぐしゃぐしゃになった顔がそこにある。本当に目と鼻の先だ。


「……にいさま、は、……わたしのこと、……わたしの、こと……」

「……好きだよ」


 言わんとしていることを理解して、ぼくはそう答えた。


「ティーアのことを嫌いになるわけ、ないじゃないか。ぼくたちは一緒に生まれて、一緒に育ったんだ。……ぼくにとってティーアは、大事な大事な家族だ……」


 ……本当は違う、ということはわかってはいる。それでも、確かにティーアとは一緒に育った家族。それは間違いないんだ。


 でも。


「……でも、ぼくはよくわからないんだよ……。ぼくの『好き』とティーアの『好き』は、違う気がするんだ……」

「…………」


 そう、ぼくのティーアに対する気持ちは、たぶん家族愛的なもの。最初から精神的には大人だったからこそ、父親のような気持ちがどうしても混ざっているんだ。


 はっきりと、対等な男女としての「好き」が、ぼくの中にあるのか?


 そう自問しても、肯定も否定もできない自分がいるんだ……。


「……兄様……いいんだ、そんな、気、遣わなくったって……。兄様優しいから……だから、そう言ってくれるんだよね……」

「ティーア……」

「でも、いいの、わかってるから……わたしじゃ、ダメだって……わかってるから……だから、……あの、ね……兄様……兄様が結婚するまで、……それまででいいから、だから、もう少しだけ……もう少しだけ、兄様の隣にいさせて……」


 この子は、本当にどれだけぼくのことを好いてくれているのだろう。素直にそれは、嬉しいと思う。


 でも、だったらぼくは、どうすればいいんだろう? どうすべきなんだろう?

 ……わかってはいるんだ。彼女のこんなまっすぐな気持ちを言葉で聞かされてしまった以上、今までみたいに避けてないで、ちゃんと向き合わないといけないんだってことは。


 なのに正面から向き合えない自分が、ものすごく嫌になる。受け止めるか、突き放すか。二つに一つを選ばなきゃいけないはずなのに……。

 でも、そんな二択ぼくには本来意味がない。だって、


「……うん……いいよ、おいでティーア……」


 この子を突き放すなんて、そんなことできるわけ、ないじゃないか……。


 軽い自己嫌悪に陥りながら、ぼくは今度はそっとティーアの肩を抱いた。

 彼女は一瞬ぴくりと身体を震わせたけど、すぐに目を閉じて、ぼくに身体を委ねてくる。直接感じる彼女の肌の温もりが、心地いい……。


 ……答えを出すとするなら。

 ぼくとライラが正式に結婚する、その日までに、だよな。


 ……そもそも、こんな気持ちのままで他の女性に好きだと言える自信が、まったくない。世の中のハーレム系主人公って、どんな気持ちでいるんだろう?

 つくづく恋愛経験がなさすぎるな、ぼくは……。


 さっきより深まった自己嫌悪の気持ちに、そっとため息をつくその向こうには――邪魔だと判断したんだろう、藤子ちゃんの姿はいつの間にか消えていた……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


現代日本で育った一般的な草食系男子がハーレムできる状況に追い込まれたら、結構悩むと思うんですよ。

そんな簡単に気持ちに折り合いつけられるわけがないだろうと。

てなわけで、今回はちょっと棚に上げてみました。セフィには悩んでもらうのです。

リア充は爆発すべき(八つ当たり

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