第103話 大人の階段のぼる
※今回ちょっと内容が下世話なものになってます。
あれからたぶん10日とちょっと。ぼくが監督していた公衆浴場もいよいよ完成し、ぼくはその落成式に出席……。
……できていなかった。
「……うう」
ぼくはベッドにうつぶせになったまま、うめく。
全身がぎしぎしと痛む。にもかかわらず、身体ははっきりと高揚していて、それがまったく苦にならない。
かといって、それで大丈夫というわけじゃない。ただ、脳内麻薬的なアレやソレで感覚が鈍ってるだけで、ぶっちゃけたところ、
「……きっつい……」
のである。はっきり言って、それに尽きる。
一言、それだけ漏らして顔を少しだけずらした。
その視線の先には、鉄格子。さらにその先には階段がある。
お察しの通り、ぼくがいるのは鉄格子の中なのだった。
一応だけど、牢屋ではない。悪いことは何もしていないし、周りもそんな認識はない。
それじゃあここはどこなのか?
答えは……アベリアの塔の地下だ。
何度か話題に上げたのでわかるとは思うけど、念のため説明しておく。アベリアの塔とは、シエル王宮に付随する尖塔で、その内部は王族のプライベート空間として扱われている。諸事情で分家筋がない現在、文字通りここは王族だけが踏み込める場所だ。
そんな塔の地下に、どうして地下牢があるのか? それは単純に、かつてはここが表に出せない王族を幽閉しておくための場所だったから。
対外的なメンツなどが重視されるのが王族ってもの。人目に触れさせるわけにはいかなかった人間が、過去にそれなりにいたのは想像に難くない。
あまり言いたくないけど、奇形だったりとか、先天性の精神疾患を抱えていたりとか、そういう人間は、この世界みたいに中世色の強い世界では忌避されてしまうだろうから。
それじゃあ、どうして今になってぼくがここに入れられているのか?
その答えは……ぼくが繁殖期に入ったからだ。
……ちょ、いや、嘘でもなんでもないんだってば! 今さらそんなことするわけないじゃないか!
いやね?
小人族って、繁殖期があるんですよ。言葉の通りの意味で、大体の人が想像する通りなんだけども。
成人しても人間族の子供程度にしかならない小人族は、その生殖機能も小さい……らしい。だから進化の過程で、生存競争を生き残るために動物と同じく繁殖期を獲得したと言われている。
動物と少し違うのは、繁殖期以外では小人族は絶対に妊娠しないし、絶対に妊娠させられないということ。これは、今の歴史になってからの統計でもはっきりと証明されているようだ。
ところが、ひとたび繁殖期になるとこれが真逆になる。一度の行為で確実に妊娠するようになり、確実に妊娠させられるようになるのだ。
その懐妊率、実に150%。子供は確実に孕み、そしてその子供が双子になる確率は2分の1という、すさまじい確率を叩きだす。
おまけに、繁殖期中の小人族と交わると、相手は性的興奮を喚起されるという媚薬じみた力もある。
どこからどう見ても、エロ物件のゴブリンやオークどころか、触手も顔負けな性獣へと変貌してしまうのだ。そして繁殖期とは、言ってしまえば発情期と同義。とにかくえっちなことがやたらとしたくなる期間、てなわけで……。
ここまで言えば、もうお分かりだと思う。繁殖期の小人族は、放置するには危険なのだ。特に男の小人族なんぞを天下の往来に投げ込もうものなら、あっという間に色情地獄の誕生になるだろう。
ぼくもハーフとはいえ小人族。いや、むしろハーフだからこそ、ぼくは警戒されなければならない。
なぜか?
他種族の人間は、地球人と同じで万年繁殖期だ。つまり、いつでも生殖が可能。その性質を半分受け継いでいるぼくは、つまるところ、純血の小人族より繁殖期が多い。らしい。
詳細を聞く余裕がぼくになかったから、細かくは聞いてないけども。
本来、小人族の繁殖期は、その一生で3回程度しかないのが普通らしい。そこに男女の別はないという。
が、ハーフの場合はその10倍くらいの回数があるんだとかなんとか。それでいて、繁殖能力に催淫能力は純血とさほど違いがない。とくれば、ぼくの幽閉は至極当然なのだった。
けど、要するに発情期であるぼくにとって、この状況はつらいどころの騒ぎじゃない。
転生してからの13年間、一切なかったはずの性欲が今のぼくを満たしている。そりゃあ、肉体的な性の目覚めだろうから、ある程度の覚悟はしていたけど、まさかここまでとは思ってなかった。
もうなんていうか、とにかくなんでもいいからこう、えっちしたい。無性にしたい。すごく。
もちろんそんなことをできるわけがないので、ベッドでとにかく耐えるだけなんだけどもね。
こう……ね。一人で致してもまったく感動がない。ただの作業だ。ひたすらに空しい。
そんな時間が、……えーっとどれくらい続いたのかな? 地下だから時間の経過もわからないし、星璽で確認するだけの余裕もないので、その辺りの感覚はとっくに麻痺してる。
たまに事情を知ってる父さん(もちろんディノの変装で)が食事を持ってくるんだけど、気持ちとは裏腹に身体がハッスルしてるせいか、あまり喉を通らないんだよなあ。
早く終わんないかな、これ……。ゆっくりと魂を殺されてるような気分だよ……。
『なんじゃここは? しばらく連絡がつかぬと思ったら、お主いつの間に投獄されたのじゃ?』
その時、不意に聞き慣れた声が部屋の中に響いた。
と同時に、黒い板のようなものが現れて、そこに波紋を立たせながら藤子ちゃんが入ってくる。
藤子ちゃん。
女の子だ。
ロリババアだ。
しかも文句なくかわいい。
つまり、あれだ。
できる。
明らかに異常な思考が、最速でぼくの脳内で迸った。その瞬間、ぼくは自分でも驚くくらいの速さと力で、藤子ちゃんに襲い掛かる。
もちろん、性的な意味で。
『ふんっ』
『ぎゃああああ!?』
――ですよねー。
壁に叩きつけられながら、意識の片隅に残っていたぼくの理性がそうつぶやいた。
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『なるほどのう、小人族にそのようなものがなあ』
適当な木箱に腰を下ろした藤子ちゃんが、なるほどと頷いた。
一方ぼくは、その正面でベッドに座ってうなだれている。
藤子ちゃんの魔法で、一時的に興奮状態を抑えられているので、今は比較的落ち着いてる。相変わらずなんでもありだ。いや、ありがたいんですけどね。
軽減されてもなお、今まで何とも思ってなかった藤子ちゃんを組み敷きたい衝動が消えてないんだから、本当に誰も得しないよなこの習性! 原始時代じゃないんだぞ!
『随分と歪な進化をしたものよ。「それなんてエロゲ?」じゃのう』
『ホントにね……当事者になっておいて言うのもあれかもだけどさ……』
『女の小人族の誰もが、繁殖期にはトロ顔アヘ顔晒して誰彼かまわず股を開く痴女になるのかと思うと、わしはそそられるものがあるがのう』
『何さらっととんでもないこと言っちゃってるの!?』
何この子怖い!!
君ってばそっちの人だったの!?
……はっ、まさか弟子が女の子ばかりなのはそういう……!?
『冗談はともかく』
いや真顔だったよ!? どこからどう見ても真顔でしたけど!?
『それはどれくらい続くのじゃ? 確か、猫などでは5日程度だったかと思うが』
『……人による、だってさ』
『おおう』
『ぼくは今回が初めてだから、どれだけ続くのか正直わからない……記録では最短が2日、最長が半月らしいんだけど……』
『半月は長いのう……』
いやもう、本当に。そしてそれだけはやめてもらいたい。
苦行なんてレベルじゃない。地獄の責め苦レベルだから。マジで。
『かといって、あまり抑えつけるのも身体によくなさそうじゃしなあ』
『……やっぱり?』
『うむ……どこの世界に行っても、やはり「出す」より「出さない」ことのほうが難しく、問題になることの方が多いのは変わらん。この世界でもそうじゃろう』
『ううう……』
藤子ちゃんに完全に性衝動を封印してもらうのは、どうやら無理そうだ。
神は死んだ。
『とりあえずわしにできることは……おい、星璽をこれへ』
『……? うん、はい』
手渡しだとそのまま押し倒しかねないので、ぼくは腕から外した星璽を藤子ちゃんへ投げてよこした。
『こいつを改良する。お主の精子から性機能を除去する機能を追加しよう』
受け取った藤子ちゃんの発言は、やっぱりとんでもなかった。
『……安心しろ。と、言っていいのかどうかわからんが……効果は星璽をつけている間と、外してから12時間までじゃ』
『ああうん。そうしてくれるとありがたい。さすがに完全な不能になるのはちょっと』
『うむ、そんな半端なやり方はせぬよ』
そう言って、藤子ちゃんは作業に入った。
作業とは言っても、ものを手にして何か魔法を練ったり式をいじったりしてるわけで、傍目には道具の改造とかの作業には見えないんだけども。
とんでもない技術が使われていることは間違いない。彼女レベルは無理だとしても、その10分の1でもできたら、印刷機を作るのもかなり楽ができそうなんだけどなあ。
あいにくと今のぼくでは、観察ができるほどの余裕はない。
なので、藤子ちゃんが終わるまで軽く一眠りすることにした。
何せ、繁殖期に入ってからというものろくに睡眠が取れてない。衝動が少しでも収まっている間に、眠っておきたかったのだ。
『ところでのう、セフィ』
『……んー……?』
『……いや、なんでもない。年寄りがでしゃばるものでもなかったな、他に適任もおるしのう』
『? えっと、……うん?』
彼女は何が言いたいんだろう?
ぼく、寝ておきたいんですけど……。
『ああ済まぬ、ちと老婆心が出ただけじゃ。お主は今のうちにしっかり寝ておけ。整ったら起こすからのう』
『ん……うん、そうさせてもらうよ……』
気を利かせてくれたんだろうか?
ともあれ、藤子ちゃんもそう言ってくれるし、いい加減寝るとしよう。
できれば、次に目が覚めた時には繁殖期が終わってればいいんだけど……世の中そんなに甘くはないんだろうな。
そんなことを考えながら、ぼくは目を閉じる。するとたちまちやってきた睡魔に、ぼくは逆らうことなく身をゆだねた……。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ライラとの結婚も近づいてきてるので、そろそろセフィも精通させようかなあと思いまして。
ちょっと前の挿話でファムルがちらっと口にしてたのはこんな設定があったからです。
ぶっちゃけ、この設定描写したくてこの物語構築した側面があるのは否定できない(真顔




