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異世界行っても漫画家目指す!でもその前に……  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
少年期編 2~でもその前に、外遊だ!~
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第99話 魔王

 テクタの工房を見学した日から、4日が経った。

 その間、ケイ王女は工房の改善に奔走していたので、結局あの日以来彼女とは顔を合わせていない。


 一方でぼくたちは、テクタの街をいろいろ見て回ったりして、なかなか有意義な時間を過ごすことができた。


 一番驚いたのは、ぼくがかつて作った砂糖を使って、お菓子が大量に作られていたことかな。

 なんでも、魔王様(ってより、魔王様一族全般)は甘いものが大層お好きらしい。そのおかげか、ぼくが今まで見た四カ国の中では、段違いでスイーツ文化が花開いておられたのは、ものすごく意外だった。


 ……ただ、クッキーはまだしもクレープやケーキの類まで完全に再現されてるのには、さすがに驚くしかなかった。砂糖が出回り始めて、ついでに言うと薄力粉が出回り始めて数年しか経ってないんだけど、よくぞここまで発達させたものだと感心したね。


 中にはピザまでスイーツに魔改造されてるものもあって、ある意味でゾッとしたのはここだけの話。

 いや確かに現代地球……というよりは現代日本でも甘いピザってあったけどさ……。ピザはやっぱりトマトソースとかチリソースとか、あとはサラミとかそういう……ね?

 げに恐ろしきは、甘いものへの欲求か……。


 甘物めぐりはさておいて。


 一番有意義だったのは、少しだけど印刷機の解析にようやく取り掛かることができたことかな。

 星璽せいじを使ったスキャンはほぼ一瞬だから当然終わってるんだけど、得られた結果を見て、どこがどういう仕組みになっているのかを把握するのには時間がかかるんだよねえ。

 何せ、地球の複合プリンタとほとんど変わらない仕様の道具だ。さまざまな知識が必要になってくるんだ、これが。


 まあ、本格的な解析はハイウィンドに戻ってからだろう。今から少しずつでもやっておくことに越したことはないけど、さすがに他国の領地内で、さらに別の国の秘匿情報をさらけ出すわけにはいかないし。

 とまあ、そんな感じの4日間だった。そしてぼくは今、ティーアともども正装をまとって謁見の間への長い廊下を並んで、兵士に連れられて歩いている。


 そう。


 ついに現魔王陛下が、ダンジョンから帰還なされたのだ。そして、いよいよ謁見する時が来た。


 いやー、どんな人だろうね、魔王様って。


 ぼくにとって魔王と言うと、「2度とよみがえらぬようそなたらのはらわたを食い尽くしてくれるわ!」なカバさんが浮かんだりするんだけど……。この世界の魔人族ダークムーンを見てると、ああいう人外じみた外見ではないんだろうな、とは思う。

 魔人族ダークムーンがいくら魔獣の血を受け継いだ種族とは言っても、元をたどれば彼らは月人族ムーンライト。見た目だけはエルフ耳の普通の人間と変わらないはずなんだ。


 とはいえ、強力なオーラをまとってたり、他を圧倒するプレッシャーを放ってたりはするんだろう。だって魔王だし。個人として見た場合、恐らくこの世界最強クラスの実力者であることは想像に難くない。

 粗相をして不興を買うような真似だけはしないように、マナーの類は絶対に失敗できないよね。


 ……さて、いよいよだ。扉が開く!


「ようこそ、セフュード王子、ティーア王女」


 ぼくたちを出迎えたのは、なんとケイ王女だった。

 ぼくたちが正装なら、もちろん彼女も正装だ。ただ彼女は年齢が年齢なので、随分と着られている感じがするのだけども。

 黒を基調とした、ふりふりなドレスはとてもかわいらしい。まさにお人形のようだな。


「お出迎えありがとうございます、アムスクェイア王女」

「兄ともども、感謝を」

「どういたしまして。さあお二人とも、こちらですよ」


 そしてケイ王女の導きで、ぼくたちはそのままゆっくりと玉座の前へと案内される。


 二段も高くなった玉座は、黒が基調。そこに、装飾程度に金があしらわれていた。決して派手ではないけれど、重厚な色合いは確かに、魔王様らしいだろう。


 その前で、ぼくたちはひざまずく。


 一方、目の前で玉座に腰かける人物……つまり魔王様はというと。


「よく来てくれたわね、両殿下」


 そう言って、にこりと微笑む美貌の長身だった。


 身に包む服は、やはり黒。決して長くはないスカートからすらりと長い足に無駄な肉や脂肪は一切見受けられず、実に優雅に組まれている。

 正装なのだろうけど、全体的に身動きがとりやすそうな簡素な様式なのは、やはり常に戦いの中にあるべき魔王だからだろうか?

 ただ、その中でくるぶしくらいまでありそうなマントは、やはり見栄えの問題から外せないのかもしれない。


 さてそんな典雅な衣装をまとう魔王様の顔立ちは、実に端正に整っている。目を凝らさないとわからないほどの薄化粧は、自身の美貌に対する自信がうかがえる。

 眼は切れ長で恐ろしげな印象もあるが、そこはそれ。かの人の立場を考えれば、むしろこうした顔の構成のほうが人受けはいいんだろう。


 そして目を引くのは目の下、頬に描かれた赤色の逆三角形だ。ケイ王女も同じ文様を持っているけど、もしかしてこれは魔王一族の掟か何かなのかもしれない。


 ……っていうか、魔王様って女王様だったのか。


「歓迎するわ、両殿下。遠路はるばる、ようこそブレイジアへ」


 魔王陛下が続ける。女性にしてはかなり低い声だ。アルトよりもさらに低いか?

 ムーンレイスで遺跡を案内してくれた月子さんもかなり低音ボイスな女性だったけど、魔王様はさらに低いかもしれない。

 どう見ても170センチは余裕でありそうだし、なんだか宝塚な感じがする人だな。


「魔王陛下、もったいないお言葉でございます」

「この度は急な参上の中、時間を割いていただき誠にありがとうございます」

「ふふ、ご丁寧にありがとう。両殿下ともまだ成人していないとうかがっているけれど、礼儀正しいのね。ディアルト陛下も良き子供たちに恵まれているようで何よりだわ」


 くすくすと微笑む魔王様。妖艶、というのはこういうことを言うんだろうなあ。


「お二人とも、楽になさるとよい。この謁見の間は、既に我ら王家のものしかおらぬゆえ」


 その言葉を割り込ませてきたのは、今まで口を閉ざしていた青年。彼は玉座のすぐわきに控えていた人だ。


 魔王様と似た服装(ただし、当然だけど男物)に顔立ちから、きっと世継ぎの王太子様だろう。目元の赤い逆三角形もばっちりある。

 年齢のほどは、アキ兄さんと同じくらい?……でも、魔王様もアキ兄さんと同じくらいに見えるんだけど、どうなってるのかなあ。


 ……っと、王太子様の言葉もあったことだし、とりあえずいつまでも畏まってるわけにはいかないな


「ありがとうございます」


 そう応じて、ぼくは立ち上がった。ティーアが一拍遅れて続く。


「改めて、名乗るわね。お分かりだとは思うけれど、わたくしが現魔王。シェルディンタ・ライ・エル・ワイゼリスよ。それからこちらが、うちの三男坊」

「両殿下、お初にお目にかかる。王太子、トゥラニパゥク・ライ・エル・ワイゼリスだ。以後お見知りおきを」

「ボクの紹介はいらないと思いますが……念のため。アムスクェイア・リ・エル・ワイゼリスでございます。よろしくお願いしますね」


 三者三様の挨拶だ。


 ……って、謁見の間にこの三人だけ? 普通こういう場所はもうちょっと大勢の人がいるはずじゃ……。


「ふふ、人が少なすぎると言いたげね。ええ、その通り」


 ぼくの心を見透かしたように、シェルディンタ陛下が笑う。


「でも、こういう場に他の王族はあまり連れ込みたくないのよ。ケイがいるのは、あなたがたとの関係を鑑みて、ね」

「他の王族は、夜会から参加する」

「官僚がいないのは、この後そのまま夜会に移ろうと思っているからね。シフォニメル王墓から持ち帰ったアイテムの分別に追われているというのもあるけれど」


 ……つまり、この状況は配慮ってわけか。

 でも、正直魔王とほぼマンツーマンに近い形でやり取りできるほど、ぼくの肝は太くないんですが……。


 ひくつく口元をなんとか隠そうと努力していると、ケイ王女が申し訳なさそうに小さく頭を下げてきた。ぼくの心境はバレてるみたいだ。

 小さく会釈を返して、そのついでに頭を下げた状態を維持しよう……。


「ご配慮、感謝いたします」

「いいのよ。正直、官僚がいると話も長引くしね」

「連中は、物事を面倒に大きくすることに長けている。我々としては、些事など捨て置き即断即決を旨としたいのだが」


 ……飾らない人たちなんだな……。

 父さんみたく、そういう風潮の王族なのか、それとも魔人族ダークムーンの特徴なのか……。


「……同感です」

「ふふ、噂通り堅苦しいことがお嫌なのね。わたくしたちとは気が合いそうだわ」

「そうですな、父上・・

「同感で……ん?」


 待って。


 今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど。


「……父上……?」

「あら、ご存じない? ワイゼリス家のミドルネームは男がライ・エル、女がリ・エルよ。だからわたくしも男なの。もし期待していたのなら、ごめんなさいね?」


 シェルディンタ陛下はあっさりとそう言うと、とてもいたずらっぽく、そして実に楽しそうな微笑みを浮かべた。


 けど、日常の一コマみたいに出てきたその発言、ぼくたちとしては「ああそうですか」と受け流せるものではなくて。


「「ええええええええ!?」」


 当然、場所も立場も忘れて、大声を上げることになる。


「あはははは、いいわねえ、その表情。たまんないわあ」


 いや、そこで魔王らしい発言されてもね!?


「……父上、お戯れが過ぎますぞ」

「すいません、両殿下。父上は昔から女装癖があるようでして……それこそ、ボクが生まれるずっとずっと前から……」

「な、なぜそのような……」

「あら、だってわたくしほどの美貌よ? 着飾らなくしていかがするのかしら。そしてこの美貌をより一層輝かせるためには、女のいでたちが一番!」


 いやそのりくつはおかしい。


「……まあ、それは冗談にしてもよ。元々、わたくし子供の頃から男に見られたことがついぞ一度もなくってねえ」

「そ、それは……男としては、正直嬉しくないでしょうね……」

「そう! そうなのよー! 子供の頃はね、大人になればそんなことないはずって思ってたんだけど、大人になっても結局変わらなくってねえ。確かに背丈は見ての通り伸びたんだけれど、顔と体格はほぼ変化なかったものだから、女扱いは変わらなかったわ。だったらもういいや、って、開き直ることにしたのよ」

「……ははあ……」


 その決断もどうなんだろう……。


 いや、常人にはとてもできそうにない選択だけど、ある意味で正しい……のかなあ……?


「それに、政治の場だと女の恰好をしていたほうが有利な場面もあるのよ。ほら、男って基本的に馬鹿でしょう?」

「…………」


 否定できないのが悲しいところだ。というより、この場合の沈黙は肯定扱いだろうな。

 そもそも色欲は、生物として外せない欲求だし……。


「ま、数年前に即位したセントラル帝は引っかかってくれないんだけどねえ。だからこそやりがいがある、とも言うんだけど……」


 そう言って笑った魔王様の顔は、まさに魔王様だった。

 先ほどまで見せていた艶めいた微笑みでも、優しげな笑みでもない。紛れもなく「マジであいつ殺す」と言いたげな、恐ろしい笑みである。


 そしてそれは、むしろ女性の姿をしているからこそより恐ろしく見えた。なんだろう、怒らせたら女のほうが怖い、っていうあれかな?

 ……いや、この人は男なんだけど……。


「あ、ちなみにあなたたちのお父上は結構引っかかってくれるわ。おかげでブレイジアとシエルの関係は、ここ数十年ずっと良好よ。ありがとうね?」


 父さあああぁぁぁん!!!!


「うふふふ、その反応はディアルト陛下とそっくりね。いじめたくなっちゃうわ」

「ひっ!」


 取って食われる!

 もしかすると性的な意味で!?


「…………」

「てぃ、ティーア」


 ぼくが悲鳴を漏らすと同時に、ティーアがかばうようにぼくの前に出た。

 ……嬉しいけど、嬉しいんだけど相手が悪い!


「父様はいいですけど、兄様は許しません」


 なんで言っちゃうのおおぉぉ!?

 これが国に対する敵対行動って思われたらどうするんだよ、ティーア!


 ……っていうか、父さんはいいんだ!? あわれ父さん……娘にあっさり売られてるよ!


「うふふふ、あなたの反応はベリー王妃とそっくりね。昔のあの二人を見ているみたいだわ」


 ……母さあああぁぁぁん!!!!


「父上、その辺りになさいませ」

「あら、やりすぎたかしら?」

「明らかに。父上ほどの力量の持ち主にかようにからかわれては、それこそシエルに対する示威行為とみなされかねませんぞ。それに……」

「……わかってるわよ。ケイのお気に入りさんにこれ以上何かしたら、わたくしの命が危ういわ」

「父上……今夜のパーティ、父上のケーキはナシです」

「そんなあ! ごめんねケイ、お父さん調子乗っちゃったわ! もう二度としないから! ケーキなしだなんて、そんな鬼畜の行為だけはやめてちょうだい!」


 魔王様ちょろくね!?

 ケーキで陥落するって……いくらなんでもそりゃ……。


 ……ていうか、あの恰好で「お父さん」って違和感半端ないな……。


「ダメです。父上の二度としないは、子供の一生のお願いくらい信用できません。……ちなみに、今日のケーキはボクが作ったフルーツケーキですよ、父上♪」

「いやあああああっ!!」


 ケイ王女の言葉に、魔王様は断末魔の悲鳴よろしく金切り越えをあげて、その場に膝から崩れ落ちた。

 そのまま、orzの文字絵よろしくがっくりと蒼白の顔でうなだれる。


 そしてそんな魔王様を尻目に、ケイ王女はにっこりと微笑みかけてきた。


「ティーア王女、先ほどは申し訳ありませんでした。これで許してくださいませんか?」

「え。えっと……はい、許します」

「やれやれ……父上の甘味好きにも困ったものだ」


 だろうね!


 ため息交じりに腕を組んでいる辺り、これはもしかして、わりとよくある光景だったりするんだろうか。

 王太子も大変なんだろうなあ……。


「…………」


 一方、魔王様は無言で、そしてのろのろと玉座に戻った。


 ……戻ったって言うか、目が死んでる。いつの間にあんなにげっそり痩せたんだろう。

 あそこまで一気に落ちぶれると、魔王様っていうか魔王様だった何かって感じだよな……。


「……セフュード殿下」

「は、はい。なんでしょうか」

「……人は……どうして生きているのかしらね……」


 どんだけ心にダメージ受けたんだよ!?


 どうしようと思ってケイ王女や王太子様に視線を送ると……。

 ケイ王女は目を閉じて首を振り、王太子様もため息交じりに首を振った。


 魔王様、実子二人に見捨てられてる!! それでいいのかブレイジア!?


「こうなった父上はしばらく使い物にならん。この場は余が預かろう」


 そして王太子様のその言葉により、以降魔王様は完全に無視される形になった。

 代替わりしても安泰そうだな、この国……じゃなくって。本当にそれでいいのか、ブレイジアは……。


 ちなみに、魔王様が復活したのはパーティの直前になってからだった。

 だったんだけど……復活した直後に、ケーキなしという現実が即座にたたきつけられたため、再び機能停止していた。


 まあ、ケイ王女に一口だけあーんで食べさせられただけで完全回復してたから、かなり大丈夫だろうけど。


 4歳の娘に手綱を取られる魔王って、どうなの……?

ここまで読んでいただきありがとうございます!


どうしてこうなった(頭抱え

おかしいな、当初の予定では前回セフィがやらかした機密情報の漏えいについて発言させようとか思ってたんだけど、あれえ?

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