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潔癖症な巫女 下

ちょっと暗いお話になりました

 八月二十七日午前二時四十七分。


(みそぎ)」が終わり、へろへろになったタタリは寝巻き代わりの浴衣を清子に着せられていた。

 天焔(てんえん)神社の社務所には、宮司(ぐうじ)と巫女を務める藤宮親子が駐在しているため寝室が存在する。

 一応は客人扱いのタタリと鉄人はそれぞれ寝室を割り当てられた。


「タタリさんは私の寝室を、鉄人さんは……甚だ不本意ですが父の寝室をお使いください。現在父は留守にしているので、絶対に穢さないよう、心よりお願い申し上げます」


 先ほどの騒動が尾を引き、毒を含んだような言い回しで清子は釘を刺した。


「私はタタリさんを寝室まで運びますので、その間『(みそぎ)』の準備しておくように」


 そう言い残すと清子はタタリの肩を抱き、和風の平屋建ての社務所へと向かって行った。

 残された鉄人は「(みそぎ)」の準備に取り掛かった。平たく言えば服を脱ぐだけである。

 鉄人はライダースーツとその中に着込んでいたケブラー繊維の上下インナーを脱ぎ、脱衣所に備え付けられていた木製の籠に入れた。

 本来、マスクドスカルのライダースーツには様々な武器が仕込まれている。

 自家製目潰しエキスを噴射する霧吹き「スカルブラインド」や5万ボルトの電極を射出する拳銃型スタンガン「スカルサンダー」など、自らの武術で対処できないと判断したときに使用する数々の武器を常に持ち合わせているはずであった。

 しかし、タタリを追いかける際に慌てて飛び出たため、装備を整えている時間がなく、現在のライダースーツには一つも装備されていなかった。

 しいて言えば、髑髏マスクが装備品であると分類できるかもしれない。

 無論、保護下に入る神社の中で、それも潔癖症気味なあの巫女の前で、このような冒涜的な装飾品を身に付けるほどの度胸も非常識さも、鉄人は持ち合わせていなかった。


「準備は出来ましたか? それでは風呂場の浴槽に入ってください」


 脱衣所で全裸待機していた鉄人を横切り、清子は風呂場へと入っていった。

 タオル一つ持たずに、いわゆるフリチン状態で仁王立ちしていた鉄人に羞恥を露わにする様子もない。


(「(みそぎ)」がメジャーな儀礼だとすると、男の裸なんて、それこそ医者のように慣れているのだろう)


 そんな事を考えながら、鉄人は風呂場にある空っぽの箱型浴槽に入った。淵の高さが鉄人の胸あたりまであることから、深さは150cm程もあることがわかる。

 清子は浴槽の側に立ち、全裸で立ち尽くす鉄人と向かい合った。


「ふむふむ。貴方は意外にも綺麗好きのようですね。体の表面の『穢れ』を観察する限り、タタリさんのように何日も風呂に入っていないという訳ではない事がわかります。しかし、全身を覆い尽くす傷は圧巻です。古傷と生傷が耐えないような生活を送っているのですか? その割りには、乙女のようにムダ毛の処理も怠らないとは、貴方はどうもチグハグですね。それはそうと、私にはどのようにその肉体を造り上げたのか気になります。鍛錬だけではなく、実戦を通して造られたということでしょうか? その荒武者のような生き方を、一体どれほど続けているのですか?」


 清子はジロジロと鉄人の裸体を吟味するよう見つめ、畳み掛けるように喋り始めた。

 褒めてるとも貶しているとも捉えられる言葉の奔流に、鉄人は返す言葉を見つけられなかった。

 鉄人の反応に、清子はハッと我に帰り、申し訳なさそうな表情になった。


「私としたことが……御免なさい。儀礼を執り行う中で様々な人を見てきたのだけど、貴方のような体を持つ人は初めてだったので……では気を取り直して『(みそぎ)』を始めましょう」


 清子は凛とした顔に引き締め、祓串(はらえぐし)を取り出し、高らかに祝詞(のりと)を紡いだ。


「『朝夕に 神の御前に禊して 皇御代(すめらがみよ)に仕へ(まつ)らむ』」


 ☆☆☆


 清子が唱える祝詞(のりと)に合わせ、祓串(はらえぐし)が振るわれ、その度に白木の先に付けられた紙垂しでがゆらゆらと揺れる。

 檜の浴槽には既に、鉄人の膝上のあたりまで湯が張っていた。儀礼が始まる際に、蛇口を回すよう言われていたのである。釜で焚かれたお湯は意外にも熱過ぎるということもなく、むしろ人肌に近いぬるま湯のような温度であった。


 清子が同じ祝詞を三回繰り返したところで、今度は両手を臍の前で開き、さながら架空のバスケットボールを持ち上下に揺らすような動作を始めた。


「『祓戸大神はらえどのおおかみ』」


 清子の掌の中には輝く玉が出現し、それは揺らされる度に活力が増しているようであった。


「な……何を!?」


 鉄人の主観では薄っすらとしか見えないが、清子が造り出した少年漫画の必殺技のような「気の塊」に警戒していた。


「これは神道に伝わる『振魂ふりたま』という行事です。(たま)を振ると書いて、『振魂ふりたま』と読みます。タマと言っても御魂(みたま)を指しますので、殿方の股にぶら下がっているタマタマのことではありませんよ?」

「……」


 清子のあまり上品ではない冗談に、鉄人は反応を示さなかった。先ほどまでは毒を吐くほど不機嫌だった清子が、いつの間にか冗談が言えるまで上機嫌になっているのだと、強引に好意的に解釈した。


「儀礼を滞りなく進行させるためには、斎主(いわいぬし)の力を増加させる必要があります。神道においてはこの『振魂ふりたま』を用いるのです。決して、貴方を直接攻撃するものではありませんよ」


振魂ふりたま」を終えた清子は、襦袢(じゅばん)の袖から薬包紙を取り出し、サーッと中の清め塩を湯船に振りかけた。そして人差し指と中指を立てた「天沼矛(あめのぬぼこ)印」を作り、「えいっ」という掛け声と共に湯を切った。伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミ夫婦(めおと)神が天沼矛(あめのぬぼこ)を用いて混沌の大地を攪拌した伝説のように、湯と塩は霊的に混ざり合い塩湯(えんとう)と成った。


「これで準備は整いました。それでは本儀式に入りますので……ふふっ、そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。ちょっと擽ったいだけですから」


 直接的な害はないと頭で理解していても、鉄人は身体が強張る程に緊張していた。

 風呂場の四隅に置かれた提灯の光が、巫女の嗜虐的な笑みを照らす。


「行きますよ、『神水清明しんすいせいめい』」


 清子の祝詞が響いた瞬間に、鉄人の膝上まで張っていた湯が輝き出す。やがて重力に逆らうよう鉄人の体を登り、全身を洗浄し始めた。


「ぬぅっ!? ぐっ! ごぼっ!」


 鉄人の頭の天辺から爪先まで、湯が包んでいた。手足も胴体も至る所が流水によって洗い流される感覚はやはり、抗い難い快感をもたらした。更に口や鼻や耳からも湯が入り込み、体内までもが洗浄されている。幸い体液の浸透圧と近い塩湯であるために痛みはないが、体の中に水が駆け巡る感覚は想像を絶するものであった。

 鉄人はトイレで水責めをされた記憶がフラッシュバックしパニックになりながら、一刻も早く儀礼が終わることを祈っていた。


 ☆☆☆


 時間にすれば十分足らずで、「(みそぎ)」は終わった。

 最も、鉄人の体感ではその十倍は屈辱的な時間を味わっていた。


「がはっ……げほっ……げほっ……」


 身体中の筋肉が弛緩してしまい、鉄人は浴槽の淵に腕を載せ、ようやく立っていられた。


「お疲れ様でした。これにて『禊』は終了です。貴方の身体の『穢れ』は全て洗い流されましたよ」


 何が可笑しいのか、にこにこと満点の笑顔を振りまきながら、清子は言った。

 確かに、鉄人の身体はあらゆる意味で浄化されていた。肌は女子のようにスベスベになっており、鳥居での事故の際に負った打ち身も完全に消えていた。


「……どうも。神聖なる儀礼とやらがこんなにも淫靡なものだとは思いもしなかったよ。まさか、ケツの穴まで洗浄されるとはな。あんたの格好と言い、まるでソープを体験しているようだったよ」


 せめてもの反抗として鉄人が皮肉を言い放ち、湯を被り透度100%となった襦袢(じゅばん)を羽織る清子を睨みつけた。心なしかタタリの儀礼のときよりもハッスルしていた清子は飛び散った湯を全身に浴びており、全裸と言っても過言でないほどの格好になっていた。

 清子は「きゃっ」と体に手を当てて隠した。


「私としたことがこんなはしたない格好で、お見苦しいところを……そしてそーぷとは何でしょう?」


 冗談とも本気とも取れる言い回しに呆れながら、鉄人は湯船を出ようとした。


「お待ちください。まだやり残したことがありますので」

「『(みそぎ)』が終わったのなら、ここに居る理由はないだろう」

「私は掃除を行うときは、最後まで徹底的にやらないと気が済まない性分なのです。まだ貴方の内面のお掃除が終わっていません。貴方の御魂(みたま)に張り付く黒く濁った『穢れ』がどうしても気になるのです」

「……」


 清子が霊視で見たと思われる内面の「穢れ」とやらに、本人は心当たりがあった。

 それは鉄人にとってトラウマでもあり、今生きるための原動力でもあった。ゆえに、絶対に「掃除」される訳にはいかなかった。


「余計なお世話だ。俺はもう出……」

「『神水清明』」


 鉄人は再び湯に包まれ、拘束されていた。


「くそっ! この程度……!?」


 鉄人は体に一切の力が入らないことに気づいた。指一本動かせないほど、全身の感覚が封じられている。


「失礼ながら、御魂(みたま)を縛らせていただきました。肉体と魂は表裏一体です。どれほど強靭な肉体を持っていようとも動けませんよ」

「ふざけるな! こんな事までして強行しようというのか!」


 唯一自由に動かせる口を開いて激昂する鉄人の叫びを受け、清子は申し訳なさそうな表情になる。


「御免なさい。これは私の性分であり、悪癖なのです。決して悪いようにしませんので。貴方の心の闇は、『荒御魂(あらみたま)』は私が責任を持ってお祓いします。あっ、勿論料金などは発生しませんよ」


 何処か的外れな事を言いながら、清子は神道におけるお祓いである「修祓(しゅうばつ)」を始めた。


「『千早振(ちはやぶ)る 神の住居(すまい)はわが身にて 出で入る息も 内外(うちそと)の神』」


 荘厳なる祝詞を唱え、清子は特殊な呼吸法で身体を浄化した。

 ゆっくりと口から濁気を吐き、鼻からは精気を吸い、肉体から「余計なもの」を洗い流す。やがて、彼女の御魂(みたま)が身体から離れ、肉体は空の状態となった。

 球体となった清子の御魂(みたま)は、鉄人の記憶に入り込む。


(貴方の『穢れ』の正体を見極めさせていただきます)


 鉄人の心の内に、清子の声のようなものが響いた。鉄人は己が内側に、心の奥底へと異物のような「何か」が侵入してくるような悍ましい感覚を覚えた。

 清子は自身の霊体 (神道で言うところの御魂(みたま))を鉄人に憑依させることによって、鉄人の記憶の奔流を垣間見た。


 生まれたばかりの記憶

 喜ぶ両親

 初恋の幼稚園の先生

 小学校の入学式

 作文コンテストの優勝

 苦しかった中学受験

 合格発表で嬉し涙を流す自分

 そして……

 中学時代に入り、記憶の奔流が荒々しい激流へと変化した

 馴染めない環境

 初めて見る身体の大きな不良

 初めて触れる理不尽な暴力

 初めて味わう砂の味

 初めて聞く嘲りの言葉

 初めて嗅いだ塵塗れの自分の匂い

 毎日が地獄だった

 保守的な教師も、厳格な両親も、地獄を抜け出す蜘蛛の糸にはならなかった

 地獄を抜け出すためには、理不尽を押し付ける輩を越える理不尽な「力」を手に入れる必要がある

 決心し、身体を鍛え、武術を身に付け、自らを貶めていた理不尽を、更に圧倒的な理不尽で塗り潰した

 復讐が終わった後も、理不尽を憎むことは辞められなかった


「やめろォォォーーー!!!」


 清子の御魂(みたま)が離れると、鉄人は悲痛な叫びをあげた。

 鉄人は感覚で理解していた。己が内面を盗み見られた事を。


「だいたいわかりました。貴方の荒御魂(あらみたま)は理不尽に虐められていたという記憶。身体を鍛え、かつて虐めていた者全てに徹底的な報復を行った後も気が晴れなかった」

「やめろ」

「理不尽を振るう者全てを滅ぼすため、夜な夜な不良を襲っているという訳ですね。現在、最も切望するものは全ての理不尽を覆す圧倒的な『力』。貴方は『神秘』にその可能性を見出した」

「やめろ」

「貴方という人はとても……」

「それ以上口を開けば殺す! 凌辱した上で息の根を止めてやる!!!」

「可哀想な人です」


 己が内に秘めていた心の底を全て暴露された上で、憐憫の目で見られる。これほど屈辱的な光景がこの世に存在するだろうか。

 鉄人は言葉を発することも出来なかった。


「安心してください。貴方が抱える荒御魂(あらみたま)は、私が浄化いたします。今風の言葉でいうところの虎馬(とらうま)を、綺麗さっぱり掃除します。過去に縛られている貴方の心の闇を、私が良い思い出へと変えてみせましょう」


 慈しむような声色で清子は言い放った。「良い思い出」へと変えると。

 鉄人は清子の言葉に、彼女が行おうとしている儀礼に、心の底から恐怖した。


「……頼む……それだけはやめてくれ……アレは決して良い思い出なんかじゃない……俺は屈辱を忘れなかったからこそ強くなれたんだ……」

「その通りです。貴方は立派に強くなりました。ですからこれ以上、過去に囚われる必要はないのです。貴方の御魂(みたま)を穢すその記憶を、私が掃除、いいえ、祓ってみせましょう」


 清子に鉄人の言わんとしていることは、全く伝わらなかった。これは鉄人の言葉足らずに起因するものではなく、清子の思考の方向性が常軌を逸しているからである。


「『悪しきものは祓い給いて 正しき行いを為さしめ給え』」


 巫女が祓串(はらいぐし)を振るい、祝詞を奏上する。「払う」と「祓う」の言霊が重ねられた神道の「修祓(しゅうばつ)」は、シンプルがゆえに効果は強い。

 鉄人の霊体は淡い光に包まれ、清子が「穢れ」と見なした記憶が浄化されていた。鉄人は穏やかな心へと変化していく自分に恐怖しながらも、懸命に自らの記憶を保つため、中学時代の凄惨な記憶を刻み続けていた。

修祓(しゅうばつ)」は時間にして数分続いた。やがて息を切らした巫女が手を止めた。


「……ハァハァ……まるで漆のように根強い『穢れ』です。こびりついて落とせないお皿の汚れのようです。これは、是が非でも掃除したくなりました!」


 清子が祓串(はらえぐし)を持ち直し、新ためて鉄人と向き合うと、自らの失敗に気づいた。

修祓(しゅうばつ)」に夢中になる余り、鉄人の拘束が解けていたのだ。

 鉄人は既にふらふらになりながらも浴槽を跨いでいた。


「『神水清……グゥッッ!?」


 清子が唱えようとした祝詞は、鉄人が喉に叩き込んだ一本拳によって文字通り潰された。本人的には喉仏を切断させるくらいの気持ちで放った拳だが、筋肉が弛緩しているためそこまでの威力は期待できなかった。

 ふらつく巫女の肩を掴み、鉄人は一切の容赦のなく、激情を込めたボディブローを放った。腹パンである。


「グガッッッ……ハァッ……」


 これもまた、内蔵を潰すくらいの勢いでの攻撃であったが、力が上手く入らず、せいぜい跪かせる程度に留まった。

 腹を抑えて蹲る美しい巫女に、鉄人は怒りを込めたストンピングを放つ。彼女の後頭部に全体重を載せて、バキィ!という音と共に一切の躊躇なく踏み抜いた。


「……過去は……今の俺が強くなるために必要なものだ! それを勝手に、理不尽に弄くるなど……貴様は俺の敵だ!!!」


 それだけ言い残し、鉄人はふらつきながら風呂場を去った。

 一方、後頭部にストンピングを喰らい、檜の床板ごと頭を踏み抜かれた清子は今だに意識を手放していなかった。


「うふふ……初めて私が祓えなかった漆のような『穢れ』……本当に……本当に……掃除のしがいがあります……アレは絶対に私が洗い落とします……えぇ、洗浄してやりますとも……」


 例えるならば、如何なる課題も解き続けきた天才が、人生で初めて解きがいのある難題と出会えたような感覚に近いのかもしれない。

 風呂場の床に突っ伏し、額から血を流しながらも、清子は上品な笑みを浮かべていた。


 ☆☆☆


 ガラッと勢いよく襖が開かれ、お布団の上で寝っ転がっていたタタリは飛び上がった。「(みそぎ)」の影響は時間が経過したことで既に回復している。


「うわっ!? 鉄人くん、ここは女子部屋だよ! 君は向こう側の部屋だって! 今度からは間違えないように!」


 そんなことを言いながら、タタリは弟子候補の異様な雰囲気に気づいた。上下のインナーだけを着ているが、全身が濡れている。脱衣所のタオルを使用した様子もなく、風呂場から直でここまで走ってきたようだった。

 何よりも鉄人の悲痛な表情と暗暗とした霊体の状態がタタリを困惑させた。

 彼は心に大きな傷を負っていると、タタリは確信した。


「すまない、タタリ。この神社に居られなくなるかもしれない」


 泣き出しそうな表情で告げる鉄人に、タタリにあわあわと慌てだした。


「大丈夫! 大丈夫だから! 何があったのかだけ話してねっ! お姉さん絶対に怒らないから! ほら、深呼吸、深呼吸……」


 タタリに促され、鉄人は風呂場で起きたことを語り始めた。

 無論、中学時代の記憶については詳しく話さず、「知られたくない過去」だと誤魔化した。

 概ね話し終わったところで、タタリは口を開いた。


「……ハッキリ言うと、呪い師の私から見てもその巫女さんは異常だよ。私からは良くぞ反撃したと、大きな賞賛を送りたいくらいだよ。無理矢理儀礼を強行するなんて、そんな理不尽なことが許されるはずがない。本当に大変だったね……」


 タタリの同情を込めた言葉に、鉄人は静かに頷いた。


「まぁ……確かに暴力を振るっちゃったのは、マズイかも。追い出されることは覚悟しないとね。一先ずこれから先の事は置いといて、今は睡眠を取ろう。巫女さんがのびてる間に、ここの寝床を使ってあげようじゃないか」


 あくまで明るく振る舞い、タタリは布団に包まった。


「すまない……追い出されたとしても、俺が責任をもって君を守るから……」


 鉄人は向かい側の寝室に入り、部屋の中央に敷かれてあった布団に気絶するように倒れた。色々なダメージが蓄積されていたのである。


 ☆☆☆


 提灯を消し暗くなった寝室で、タタリはモヤモヤとした気持ちに苛まれていた。


(私の知らない鉄人くんの過去を、あの巫女さんは知っている……)


 タタリの主観では、鉄人は熱烈な好意を寄せてくる相手である。一目惚れしたと弟子になることを懇願され、今は甲斐甲斐しく用心棒などをやってくれている。

 そんな男を傷つけられ、なおかつ知らない部分まで覗かれたという事実は、タタリをなんとなく苛立たせていた。


(もしかしたら、この気持ちが嫉妬というヤツなのかな?)


 そんなことを考えながらタタリは瞼を閉じ、疲労しきった身体を休めた。

ひとまず「潔癖症な巫女」は終わりです

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