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プロローグ: Masked Skull

始めて投稿します。

楽しんでもらえたら幸いです。

 八月二十六日午後十時四十五分。


 繁華街は眩いネオンの光に包まれ、喧騒はピークへと達していた。

 郊外の町の数少ない娯楽を提供する繁華街は、今日も怒号と排気音と吐瀉物の音で賑わっている。

 華やかなメインストリートから外れたひと気のない裏道では数々の「悪事」が見過ごされている。

 柄の悪い若者達が一人の大人しめな高校生に暴力を振るう場面など、それこそ日常茶飯事の光景であった。


「もう……やめて……ください……」


 絞り出したような声で、暴行を受けている高校生は呻いた。

 彼は、肩が当たったというテンプレート通りの因縁を突きつけられ、裏道まで連行された上で理不尽な暴力を振るわれていた。


「鮫島さぁん、コレくらいでどうッスかぁ?」


「ふざけんなよ? 俺の肩はソイツにぶつかってからガタガタしぱなっしなんだよぉ! ソイツも歯ぁガタガタになるまで殴りつけろや!」


 鮫島さんと呼ばれた、リーダー格の不良は、鼻ピアスを弄りながら、ぴくりと瞼を痙攣させ、吐き捨てるように怒鳴った。

 鮫島の手先となって暴行を加えていた二人の手下、迷彩バンダナを頭に巻いている手下Aとオーバーサイズのサングラスをかけている手下Bの二人は苦笑し、やがて地面に横たわっている高校生に語りかけた。


「ほらぁ、やっぱさぁ、慰謝料払っちゃった方が早いと思うよ、オジサンは。ここは誠意を見せようぜ?」

「鮫島さぁんも十万で許してくれるって言ってるからよぉ。ママにお小遣い前借りすりゃあラクショーだろうが?」


 にやにやと笑いながら、あえて高校生を気遣うような口調で二人は見下していた。


「払います……払いますから……」


 高校生の言葉に、不良達は下品な笑みを浮かべる。


「うんうん。物分りがいい子でオジサン嬉しいよ」

「鮫島さぁん! コイツ十万払うそうですぜぇ!」

「とりまぁ、頭金として全財産ボッシュートってか、ギャーハハハッッッ!!!」


 高校生は地面に這いつくばりながら、涙を滲ませ恐怖と後悔と屈辱に打ちのめされていた。

 どうして近道とはいえ、繁華街を通ってしまったのか?

 どうしてこんな不良達に目をつけられてしまったのか?

 どうして自分がこんなに理不尽な仕打ちを受けるのか?

 自分を襲った『理不尽』を呪いながら、高校生は震える手で財布を差し出した。


「そこまでだ!」


 繁華街のネオンをバックライトに、全身黒づくめの男が裏道に出現した。

 その男は……

 身体には漆黒のライダースーツを着込み、両手には漆黒の指ぬきグローブを嵌め、両足には漆黒の皮ブーツを履き、そして頭は漆黒の髑髏マスクで覆い被さっていた。

 身長はあまり高くない、恐らく170センチにも満たないだろう。

 しかし、見る者を畏怖させる髑髏マスクとライダースーツから盛り上がる鍛え上げられた筋肉がその存在を大きく魅せていた。


「ッンダァ!! コラァ!! 正義の味方気取りかテメェ!?」


 鮫島さんが吠える。


「正義の味方ではない」


 髑髏マスクの男はしめやかにに答えた。


「弱者の味方! すなわち、理不尽を打ち砕く者! ダークヒーロー・マスクドスカル!!」


 マスクドスカルと名乗る男に対し、三人の不良達は怒りを通り越し、乾いた笑みを浮かべていた。


「そうかよ」


 鮫島さんはヒュンヒュンと手慣れた動作でバタフライナイフを開き、凶器を見せつけるように構えた。

 マスクドスカルはバタフライナイフを凝視し、そのまま凍ったように動きを止めた。


「時々居るんだよなぁ、正義漢ぶってるイカレポンチがよぉ? 全員ナイフの一本チラつかせたら縮み上がっちまうヘタレってオチなワケなんだけどなぁ! テメェみたいによぉ、髑髏野郎! ビビってんじゃあねぇぞ、コラァ!!!」


 鮫島さんの怒号を受け、マスクドスカルは両手を上げ、ホールドアップの姿勢を取った。ぎゃはははと下品な笑い声を上げながら、手下ABが近づいた。


「何しに来たんだよ、テメェは! オジサン呆れちゃうよ、ったくよぉ!」

「鮫島さぁん! コイツも全財産ボッシュートってことでいいッスよねぇ!?」


 なんとか立ち上がり、様子を伺っていた高校生には状況を見守ることくらいしか出来なかった。「本当に何しに来たんだって感じだけど、そりゃあ、ナイフは怖いよな」と他人事のように考えていた。

 その時である。状況が一変した。


「あがっ!?」


 マスクドスカルは手下Aの顎へとフックを叩き込んでいた。ホールドアップした状態から、右手の掌底で顎を捉えていた。続け様に左手で拳を作り、ショートアッパーをこれまた顎へと喰らわせ、手下Aは完全にノックダウンされた。


「テメェ! あっ……アガアアアア!!!???」


 数瞬呆気に取られていた手下Bが怒気を露わにした瞬間、股間の激痛に股を抑え、前屈みになった。マスクドスカルが放った前蹴りが、無常にも手下Bのキンタマを捉えたのである。

 そのままマスクドスカルは髪を引っ張り頭を下げ、後頭部に肘を無慈悲に打ち下ろし、手下Bもやがて動かなくなった。


「何なんだ、テメェは! まさか、最近ここらのチームを潰し回ってるのはテメェの仕業かぁ!?」

「肯定する」


 マスクドスカルは冷静に頷いた。

 対して鮫島さんは、鼻ピアスを荒々しく弄くり、通常の三倍瞼をピクピクと痙攣させた。


「ッシャアァァァォオオオ!!!」


 獣のような雄叫びを上げ、鮫島さんはバタフライナイフを構え特攻した。

 万年シンナー中毒の鮫島さんは……

 特にシンナー不足に陥っている現在の鮫島さんは、思考力が著しく低下しており、人殺しに至る程の攻撃を躊躇なく行える。

 元々、学校はとっくに退学になり、数え切れない程警察に厄介になっている鮫島さんだからこそ放てる、将来も糞もないアウトローの殺人技である。

 中途半端に攻撃したところで、鮫島さんの特攻は止まらないだろう。

 鮫島さんの特性を理解しているマスクドスカルは冷静にライダースーツの懐に手を入れ、小型の霧吹きを取り出した。

 そして迫り来る鮫島さんの顔面へと、躊躇なく液体を噴射した。


「っがあぁぉぁぉぁ!!!???」


 謎の液体を顔射された鮫島さんは、奇声を上げながら地面にのたうちまわった。


「貴様がナイフを使う以上、こちらも武器を使わせてもらった。私が調合した『スカルブラインド』は、喰らえば一日は激痛で目が開かなくなる程の劇薬なのだ」


 視界を奪われた鮫島さんは、目を掻き毟りながら蹲っている。


「さて、トドメだ」


 マスクドスカルは馬乗りになり、うつ伏せの鮫島さんの後頭部へと拳を打ち下ろした。目潰しの激痛と打撃の恐怖から暴れまわる鮫島さんに、一切の容赦なく拳を打ち下ろし続けた。


「……やっ……やめてろ……」


 三十発程放った所でようやく、鮫島さんは力尽きる。


「手こずらせやがって」


 マスクドスカルは慣れた手つきで、鮫島さんと手下ABの服を漁り、合計9個の財布を取り出した。

 そして、まるでそれが当然の行為のように、それぞれの財布から紙幣に小銭にポイントカードに至るまで全ての中身を抜き取った。


「君の取り分を決めようか」


 一部始終を見ていた高校生は、マスクドスカルと名乗る男の言葉の返答に詰まっていた。

 不良達の理不尽なカツアゲと暴力から救ってくれた事には勿論感謝している。しかし、その戦いぶりの容赦のなさと、躊躇なく財布を漁っている行動に、どうしても不信感が湧いてくる。


「えっ? いや、結構です……恨みを買うのも怖いので……」

「その心配はいらない。ここで寝ている不良共は、少なくともここ一時間の記憶を失っている。私のマスクも君の顔も覚えられることはない」

「ど……どういう事ですか?」

「記憶を失うような攻撃を仕掛けたというわけだ。君の言う通り、恨みを買うのは避けたいからな」


 パンチドランカーという脳障害疾患がある。主にボクサーが患う症状であり、頭部への強い衝撃による外傷によって記憶障害、記憶喪失などが引き起こされるものだ。

 マスクドスカルは顎や後頭部や首などの急所を集中的に攻撃することによって脳を揺らし、意図的に記憶障害を起こしたのである。


「打撃の感触から、十中八九記憶を失わせることができたはずだよ。それより、君は随分と殴られたようだ。これくらい貰っても罰は当たらないだろう」


 マスクドスカルは一万円札を三枚、高校生に差し出した。髑髏マスクからは、有無を言わせない迫力が漂っている。


「……いえ、それでも僕は遠慮しておきます。助けていただいて、本当にありがとうございました」


 お礼もそこそこに、高校生は学生鞄を掴み、そそくさと裏道から出ていった。

 これ以上関わるべきではないと、彼の直感が警告している。

「財布の中身は、カツアゲの被害者に返すべきなんじゃあないですか?」なんて口が裂けても言えなかった。

 マスクドスカルは下手をしたら、不良以上に『理不尽』な存在のように思えた。


「いいのか? それじゃあ、遠慮なく戦利品は貰っておくぞ」


 裏道とはいえ、あまり長居すれば警察に見つかる可能性がある。

 マスクドスカルの経験上、この繁華街の警備体制ならば十分以上留まるのは危険である事を知っていた。

 逆に言えば、鮫島さん一味はこの場に放置されることで、暴行の被害者としても薬物使用の現行犯としても警察に拘留されるだろう。そして何よりもアウトローとしての最も大切な『メンツ』を失うことだろう。

 財布の中身をライダースーツの懐に押し込み、マスクドスカルは繁華街の闇へと消え去った。

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