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045_決断

 その日の午後、ホテルのラウンジにおいてワイルドローズの会合が開かれることになった。


 俺が会場に行くと、すでにグロリア、チャロ、リリアの三人は窓際のテーブルに座っており、中でもいち早く俺に気付いたリリアが、

「こっちです! タケル様」

 と、手を振ってくれた。


「……エステル様は?」

 席に着いた後、姿の見えないエステルの事をリリアに聞くと、

「まだ来てないんですよ。私はてっきりタケル様と一緒だと思ってました」

 と、彼女は首を傾げる。

「どこほっつき歩いているのかしらね。みんなを集めておいて」

 グロリアも呆れたようにため息をついた。誰もエステルの行方を知らないようだ。


 俺達のいるラウンジはロビーの一角にあり、広いロビーのほとんどを見渡すことができる。だから、エステルが来ればすぐにわかるはずだが、今のところ彼女の姿はない。まだ午後の早い時間のせいかロビーは閑散としていて、目に付くものといえば玄関付近で立ち話をしている何組かの客達だけだ。よく見ると、その中には今回の魔人戦に参加したバウパーティーも含まれている。

 彼らはすでに旅装束に着替えていて、どうやらもうこのホテルを発とうとしているらしい。懸賞金を受け取って機嫌が良いのか談笑している声がここまで聞こえてくる。

 俺の目は、そんな彼らの傍らでたくさんの荷物を表の馬車に運んでいる奴隷の姿に留まった。見覚えがある。昨日夕食でテーブルを共にした奴隷の一人だ。

 彼は、談笑する主人達とは対照的に汗をかきながら黙々と荷物を運んでいる。

 ……彼だって魔人戦に参加した英雄には違いないはずなのに。

 奴隷というのは本当に悲しい境遇だ。 

 俺は主人に恵まれ、運良く解放される運びとなったが、彼は恐らくこれからもずっと奴隷のままなのだろう。

「……」

 彼の姿に、俺の気分は憂鬱にならざるを得なかった。


 ……!?

 と、その時、玄関付近に固定されていた俺の視界に突然エステルが飛び込んでくる。

 外出していたのだろうか、玄関から現われたのだ。


 彼女は慌てた様子でキョロキョロし、すぐに俺達を見つけると、

「ごめんごめん、ダリスの町を散策してたら遅くなっちゃった」

 と、言い訳しながら駆け寄ってきた。


 そんな彼女を見てグロリアは一瞬ほっとした表情を浮かべたが、その後すぐ不満そうに口を尖らせる。

「遅刻ぅ、よってここのスティーナの支払いはエステルで決定ね」

 しかし、さっき大金持ちになってしまったエステルにとっては痛くも痒くもなかったらしい。

「いいわよ、百杯でも二百杯でも。好きなだけ飲んで」

「……」


 ようやくワイルドローズ全員が揃った。


 エステルは、注文したスティーナがみんなに行き渡ったのを確認すると軽く居住まいを正し、

「それじゃあ、始めましょうか」

 と、落ち着いた口調で会合の開会を宣言した。



「色々あったけど、今回の旅の目的である大仕事を何とか終えることができたわ。みんな本当によくがんばってくれたわね。パーティーのリーダーとして一言お礼を言せてほしい。ありがとう」

 そう言うとエステルは静かに頭を下げた。


「どうしたの突然? 水臭いわね」

 エステルの頭頂部を見て、グロリアが怪訝そうに問いかける。確かに自信家のエステルらしからぬ行動だ。


 すると、エステル自身も若干水臭く感じたのか、すぐに頭を上げ、

「まあ、私は魔人戦でみんなにかなり迷惑をかけちゃったからね」

 と、誤魔化した。


「確かに大魔人(・・・)エステルはかなり手強かったわ。ねぇ、タケル」

 グロリアは親友同士だからこそ許されるエステルに対しての際どい冗談を口にしたが、「ねぇ、タケル」って俺に振られても困るんだけど……。

「ハ、ハヘェ……」

 仕方なく、俺はグロリアに対しての同意と、エステルに対しての同情を同時に表現するような難易度の高い苦笑でその場を乗り切ろうとしたが、残念ながら失敗し、ただの気持ち悪い笑いになってしまった。

「……」

 そのせいで、一瞬その場に変な空気が流れたが、

「……それで、今回は何の会合でしょうか?」

 見かねたリリアが冷静に話を進めてくれた。


 エステルは仕切り直しといった感じで軽く咳払いをした後、

「この会合では、今後のワイルドローズについて話し合いたいと思ってるの」

 と、切り出した。

「今後のワイルドローズについて?」

 チャロが聞き返すと、エステルは頷き、

「ええ。私としては、区切りもいいし、ここで一旦パーティーを解散しようと思っているんだけど、みんなの意見はどうかと思って」


 ……え?


 突然の解散宣言。俺は内心びっくりしたが、しかし、他の面々は特に驚いた様子もなく、

「そうね、懸賞金も手に入ったことだし、しばらくは休みたい気分ね」

 と、グロリアがエステルの考えにすぐに同調すると、チャロとリリアも納得したように頷いている。

 後で知ったことだが、バウは大きな仕事を成し遂げた場合、その後長期の休養をとるのが慣例らしい。それは、懸賞金が手に入って生活に余裕ができるということもあるが、恐らく、そうでもしないと精神が持たないのだろう。


「みんな私と同じ意見のようね。まあ、一生遊んで暮らせるお金が手に入ったんだから、しばらくとはいわず、ずっと休養でも問題ないわ。これからは無理に命懸けのバウの仕事をする必要はない。そうねぇ、キュテレア大学の教師になる夢を実現させてもいいし、全国を一通り回ってみるのもおもしろいんじゃないかしら?」

 エステルはそう言いながらリリアやチャロの顔を見回した。


「やりたいことをやればいいと思う。みんなまだ若いんだし、時間もお金も使いたい放題よ」

 エステルは笑顔で楽しそうに語った。

 が、その後、わずかに声のトーンを下げる。

「ただ、私はバウを辞めない。いくらお金があっても続けるわ。たぶんこれが私の使命だと思ってるから。……だから、しばらくしたらまたワイルドローズを立ち上げるつもり。その時はみんなにも一応声をかけるけど、参加、不参加は自由だから各自で判断して」


 ……一応声をかけるけど。

 その言い方は、俺には何となく冷たく感じた。たぶんエステルはみんなに気を遣ってそんな表現を用いたとは思うが、でも、あまりにも他人行儀過ぎるような気もする。


 しかし、俺の考えはすぐに改まった。

 その後に、エステルは少し恥ずかしそうに笑みをこぼしながらこう付け加えたからだ。

「……でも、できれば参加してもらえると嬉しい。だってこんなにすごいメンバー、他にいないもの」


 すると、みんなもそれぞれとアイコンタクトを取りながら笑顔で頷いた。エステルと同様、大金持ちになったとはいえ、みんなも完全にバウを引退する気はないようだ。そして、バウの仕事をするのなら「またワイルドローズで」と思っているのだろう。


 とにもかくにも、ワイルドローズの一旦の解散は決定したのだった。



 話し続けて喉が渇いたのか、エステルはスティーナのカップに軽く口を付けて喉を潤した後、次の議題を発表した。


「それで、私達の奴隷であるタケルの処遇なんだけど……」


 その言葉に、みんなが一瞬動きを止める。


「パーティーを組む時に言っておいたから知ってるとは思うけど、彼とは、今回の仕事がうまくいったら奴隷から解放してあげるという約束をしていたの。だから、私としてはその約束を果そうと思っているんだけど、それについて異存がある人はいる?」

 そう言ってエステルがみんなを見回すと、


「異存ないわ」

「異存ないニャ」

「もちろん、異存なんてありません」

 三人とも快く賛同してくれた。


 エステルは頷き、

「じゃあ、タケルを奴隷から解放してあげることに――」

 しかしその時、

「ちょっと待って。奴隷から解放してあげるのはいいけど、でもタケルは異世界人なんでしょ。その後行く所なんてないんじゃないの?」

 疑問に思ったのかグロリアがエステルに質問する。

 その途端、

「行く所がないのであれば、わ、私がタケル様のお世話をさせていただきます!」

 リリアが顔を真っ赤にしながら、自分が面倒みると言い出した。

 が、それを聞いたチャロがすぐに不服を申し立てる。

「だめニャ。ダーリンは私の婿になって一緒に猫族を守っていくニャ!」

 さらに遅れを取ったグロリアも、

「違う違う。タケルは私とハーフ闇エルフの子作りに励むことになってるんだから!」

 と、卑猥な事を言って二人の議論に強引に割って入った。


「わ、わ、私だって、タ、タケル様とハーフ、タ、タケルエルフの子を」

「何それ、意味わかんない」

「違うニャ。ダーリンは私とハーフ猫族の子を作るニャ! 絶対かわいくて賢いニャ!」

 グロリアの一言で、彼女達の言い争いがおかしな方向へとエスカレートしていく。


 ……子を作るって。

 聞いているこっちが恥ずかしい。まあ、男として嬉しくないはずはないが。しかし、彼女達の議論は白熱していてなかなか収まりそうにない。

 すると、

「静かに!!」

 堪りかねたエステルが大声で三人を制した。


「……」

「……」

「……」

 エステルにたしなめられ、我に返ったのか三人はばつが悪そうに黙り込む。


「ふぅ」

 それを見てエステルは呆れたようにため息をつくと、今度は怖いくらいの視線で俺を見つめた。


「タケルは、どうしたいの?」


 その問いに、みんなが真剣な眼差しを俺に向ける。


「……」

 俺は彼女達の鬼気迫る視線を感じて緊張したが、でも、想いがぶれない様に目を閉じてゆっくり深呼吸をし、その後、テラスでエステルに問われた時からずっと考え、決断したことを静かに告げた。


「俺は、……元の世界に戻ります」


「えっ?」

 恐らく、エステル以外は予想していなかったであろう俺の回答にみんな呆然とする。

 が、

「……戻るって? 元の世界に戻ることができるの?」

 グロリアが当然の疑問を投げかけてきた。

 ただ、その問いに対しては俺ではなく、エステルが答える。

「ええ。私が調べた限りでは」


「具体的に教えてもらってもいいですか?」

 さらにリリアにも聞かれたため、エステルは頷き、次元の扉についての概要をみんなに説明し始めた。



 ……約五分後、


「――というわけだから、タケルは元の世界に戻ることができるはずだわ。ただ、そうすると二度とこの世界には来られなくなるんだけどね」

 という言葉を最後に、エステルは説明を終える。彼女の淡々とした話し方とは裏腹に、重苦しい空気だけを残して。


「……」

「……」

「……うぅ」

 グロリアとチャロは絶句、リリアは俯き、泣いているのかかすかに肩を震わしている。三人ともかなりのショックを受けているようだ。


「……それでも、俺は元の世界に戻ります」

 俺は彼女達の想いに応えられず申し訳ないと思いつつも、決心が変わらないようにもう一度断言した。


「皆さんのお気持ちは涙が出るほどありがたいし、俺自身はこの世界に居続けても全然構わないと思っています。でも、向うの世界では、俺は突然失踪したことになっていると思いますので、何も知らない両親が相当心配しているはずなんです。俺がこのまま戻らなければ、彼らはこの先ずっと辛く悲しい人生を送らなければならなくなるでしょう。そんな彼らを放っておいて自分だけこの世界でのうのうと暮らすことなんて、俺にはできません。だから、俺は何としても元の世界に戻らなければいけないんです」


 俺は元の世界に戻る理由を正直に語り、彼女達は静かにそれを聞いていた。

 そして、全てを語り終えた時、目に涙を溜めたチャロが諦めと敬愛を感じさせる声でぽつりと呟く。

「……ダーリンらしいニャ」

 その言葉を最後に、しばらく俺達のテーブルは無音となった。

 みんなの目に見えぬ失意が、俺の肩にぐっとのしかかってくる。


「……タケル様の思いはわかりました。でも、もう会えないというのなら、せめて今しばらくはこの世界に留まって欲しいです。タケル様とのたくさんの思い出を作る時間を私達にください!」

 その長い沈黙を破ったのはリリアだった。彼女は涙を流しながら震える声で懇願してくる。


「……」

 そのすがるような彼女の目に動揺し、俺は必死で押さえこんでいた「迷い」に再び支配されそうになった。

 けれども、その時この場で一人冷静さを保っていたエステルが、リリアを制するように彼女の腕を軽く押さえ、首を横に振った。

「残念だけど、元の世界に戻るんだったらできるだけ早い方がいい。さっき簡易型の次元の扉は一往復しか使用できないって説明したけど、使用回数にも制限があるらしいのよ。タケルが通った次元の扉は、彼以外にも過去に何度か使用されていることがわかっているわ。まあ、まだ大丈夫だとは思うけど、早いに越した事はない。それに、タケルと長く一緒にいればいるほどっ!!?」

 そこまで淡々と話していたエステルが、何故か急にハッとして口をつぐんだ。何か余計な事を口走ってしまったといった感じで。


「……一緒にいればいるほど?」

 リリアが不審そうに尋ねたが、エステルは俯き、唇を噛み締めているだけで答えようとはしない。

 しかし、みんなに注目されて黙っているわけにもいかないと思ったのだろう、その後、蚊の鳴くような小さな声で答えた。


「……別れが、……辛くなる」


 ……ああ。

 エステルの言葉に、俺は自分の愚かさを感じずにはいられなかった。

 彼女はさっきのテラスでも、この会合でも、俺に対して無感情な態度を取り続けていた。俺が元の世界に戻ることなんかどうでもいいかのように……。そんな彼女に俺は内心失望していたが、そうじゃなかったんだ。

 俺はヴァイロン王国に向かう魔汽船の中で、彼女に自分の両親の事を話した。さらに「早く戻ってあげたい」という気持ちを打ち明けていた。だから彼女は、俺が元の世界に戻らなければならないと考えていることをわかっていたはずだ。そんな俺を困らせないために、彼女はわざと素っ気無い態度で俺と接していたのだ。俺を気遣って。……それなのに俺という奴は。

 ……ごめんなさい。……ごめんなさい。

 俺は自己嫌悪に陥りつつ、心の中で何度もエステルに頭を下げた。


「……エステルの言う通り、ね」

 グロリアもエステルの考えに賛成する。

「タケルがこの世界に来てもう三ヶ月にもなるんだし、これ以上私達の勝手で彼を引き止めておくわけにはいかないわ。別れるのは辛いけど、できるだけ早く彼を元の世界に戻してあげた方がいい」


「…………はい」

 エステルとグロリアの言葉を聞き、リリアは自分の想いがわがままだと感じたのか申し訳なさそうに頷いた。

 そんなリリアの肩をグロリアはポンポンと軽く叩いて慰めた後、

「……それで、……次の新月はいつなの?」

 俯いているエステルを気遣うようにしてそっと尋ねる。


「…………一週間後」


「そっか。じゃあ、タケルが元の世界に戻れるのはその次の新月ってことになるわね」

 グロリアはそう断定。簡単な計算だ。俺達はこのヴァイロン王国に約一カ月かけてたどり着いた。だから恐らく帰りも同じくらいはかかるだろう。


 けれども、エステルは俯いたまま、小さく首を横に振る。

 そして何とか顔を上げ、目を潤ませながらも笑顔を作り、自信のある声で言った。

「いいえ、一週間でリシェールの森にたどり着けるわ」


「え? どうやって?」

 みんながエステルのおかしな発言に首を傾げていると、彼女は右手の人差し指を上に向け、円を描くようにくるくると回した。


「あれに、乗るのよ」


******


******


「あそこに見えるの、フェーベの港じゃないですか? ほら、小船が見える!」

「あれは小船じゃなくて魔汽船よ。煙を吐いているじゃない」

「魔汽船があんなに小さく見えるなんてすごいニャ」


 次の日、俺達は雲の上にいた。

 そう、一昨日ダリスの上空に浮かんでいたあの魔飛船に乗ったのだ。

 

 この魔飛船はヴァイロン王国のお金持ち達のために運行されている豪華客船であり、もちろん運賃も途方も無い金額だから、一般人が乗れるような代物ではない。

 でも、考えてみれば、今やワイルドローズの面々も相当のお金持ちなのだ。それに気付いたエステルが「いい機会だから」と昨日のうちに魔飛船の運行状況を調べておいたらしい。


 といっても、俺達は魔飛船の目的地である常夏の島ミトロスに行くわけではない。その途中にある大陸南端の町レナに行こうとしているのだ。


 その段取りについてもエステルは事前に行なっていた。昨日、彼女が会合に遅れてきたのもそのせいだったのだ。

 魔飛船は通常、大陸には着陸しないのだが、海上が悪天候の場合に限り避難場所として唯一着陸する町がある。それがレナだ。

 その情報を得たエステルは、悪天候じゃなくてもその町に着陸してほしいと魔飛船の船長に直談判したらしい。

「骨が折れたわ」

 エステルがそう語った通り、交渉は難航したようだ。船長は最初、彼女をまったく相手にしてくれなかったらしい。まあ、一乗客のために航路を変更するなんて普通は考えられないことだから、それも当然だろう。

 ただ、彼女がある物を見せたところ、船長の態度が一変し、すんなり承諾してくれたのだという。


「何を見せたんですか?」

「え? ああ、ヴァイロン勲章よ」

「な、なるほど、……策士ですね」

「だって、こんな時くらいしかあんなもの役に立たないでしょう」


 かくして、俺達はレナで下船することができるようになったのだった。

 そこからリシェールの森までは、馬車を飛ばせば三日でたどり着くことができるらしい。ぎりぎり新月の夜に間に合うのだ。



「あれが王都イオカスタ? 見て! イリヤ大聖堂の大屋根が親指くらいしかないわ」

「空から見るとみんなおもちゃみたいですね」


 ワイルドローズは魔飛船の船首に設けられた展望室の窓に取り付き、時々歓声を上げながら地上の景色を食い入るようにして眺めている。そりゃあ興奮するだろう、彼女達にとって空から地上を眺める経験など今までに一度もないのだから。行儀の良い他の金持ち達の冷たい視線などお構い無しだ。

「見てください、あの綺麗な河岸段丘! 三段になってますよ。すごいなぁ」

 俺自身も空の旅は高校の修学旅行以来だから、年甲斐も無く興奮してしまった。

「……」

 まあ、誰も河岸段丘になんか興味ないみたいだが……。


 ちなみに、俺はまだ拘束リングをはめている。

 外すと身分証明が面倒臭いということもあるが、ワイルドローズが俺に付き合ってリシェールの森まで行き、その後解散するということになったので、

「じゃあ、最後までワイルドローズの奴隷を務めさせてください」

 と、自ら申し出たのだ。恩返しのためにも、この世界を去る間際まで彼女達に尽くしたい。



 下界の景色に一定の満足感を得たワイルドローズは、その後、金銀の装飾がちりばめられた豪華な客室に戻り、まったりとくつろぐことにした。

 そこで、

「ねぇ、タケルの世界のことを教えて」

 と、グロリアにねだられ、俺は彼女達に元の世界について話すことになった。


 自動車や電車といった乗り物の事、電灯や携帯電話といった便利アイテムの事、学校や会社といった日常生活の事などを、この世界のものと比べながら、俺は時間の許す限り話し続けた。

 ただ、電気とか機械などの基本的な概念すら持たない彼女達にこれらのものをうまく説明するのは非常に難しかった。できるだけ易しく説明したつもりではいるが、たぶん半分も理解できなかっただろう。それでも、みんなは目を輝かせながら俺の話に熱心に耳を傾けてくれていた。

 彼女達にしてみれば、まるでおとぎ話を聞いているような、そんな感覚だったのかもしれない。時々笑ったり、不思議がったりしながら楽しそうに聞いていた。



 そんな俺達だけの安らかで心地良い時間は瞬く間に過ぎ去っていき、ダリスを出てから二日後、魔飛船は予定通り大陸南端の町レナに到着したのだった。

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