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031_ドーラの町

説明が多いです><

「高いわねぇ」

 ドーラの町の城壁を見上げながらグロリアが呟く。

 確かに高い。他の町の城壁の倍以上ある。

 それがわずかに弧を描きつつ東西に長く伸びている。

 町はかなり大きいようだ。


 かつてドーラの町は、魔界の門の封印を守るヴァイロン軍の基地と、その兵士達を相手にした小規模な飲み屋街があるだけの小さな町だったらしい。

 この町の北、わずか17キロメートル先には魔界の門があり、わざわざこの場所に住もうなんて考える人などいなかったのだろう。

 けれども、そんな寂れた町が魔機関の発明によって一変する。

 魔界の門周辺でしか採れない魔石の需要が急増し、多くの人々が富を求めてこの町に移住してきたため、人口が爆発的に増えたのだ。

 今では町も拡張され、魔汽車の運行によって利便性も良くなり、こんな辺ぴな土地にも関わらず大いに栄えているらしい。


 城壁は巨大で重厚だが、しかし、よく見るとあちこち損傷していた。

 崩れかけている所さえある。

 ……魔物にやられたのか。

 魔界の門が近くにあるために、魔物の攻撃も凄まじいのだろう。

 それは、城壁の周りに転がっているおびただしい数の魔物の死骸からも容易に想像できる。


 城壁の南側には二つの門が並べて設けられていた。

 一つは街道用で、もう一つは魔汽車用だ。

 俺達は馬車の速度を落としつつ、街道用の門に近付いた。

 城壁の上には、例のごとく白い鎧を着込んだヴァイロン軍の兵士達がたくさん立っているのが見える。

 警備はかなり厳重のようだ。


 だが、門前でガエルがバウパーティーだと名乗ると、門は意外にも簡単に開く。

 ……人に対しての警戒はそれほどでもないのかな?

 そう思いつつ門を通り抜けると、何故かその先にもう一つ門が見えた。

 ドーラの町は二重の城壁によって守られていたのだ。


 二つ目の門の前で俺達は馬車を降りるよう命じられる。

 言われるがまま全員が馬車を降りると、すぐに二十名ほどのヴァイロン軍兵士が走り寄ってきて、俺達一人ひとりの身分確認と、荷物の検査を念入りに行い始めた。

 やはり簡単には通してくれそうにない。


 その確認が終わると、今度は今まで黙っていた門番の長らしき兵士が厳しい顔つきで口を開く。


「現在、ドーラの町は非常事態宣言が発令されている。そのため、一度町に入った者は、宣言が解除されるまで町から出る事を許されない。それでも町に入る事を望むか? もしここで引き返すのであれば、ナディアまでの食料と水は供与する」


 ……やっぱりドーラの町に入ったら出られなくなるのか。

 ナディア防衛隊副隊長ウォレスの言っていた通りだ。

 知らずにここまで来てしまった者は、町に寄らずに引き返すのも大変だから、大いに悩む事だろう。


「ガエル、そんなこと聞いてないぞ!?」

「俺だって初耳だ!!」

 案の定、トライデントはかなりもめているようだ。


「ドーラの町に入ったら出られなくなるっていう情報くらいは、ナディアのバウギルドでも入手できたはずなのに……」

 エステルは情報収集を怠ったトライデントのいい加減さにほとほと呆れていた。


 トライデントはサミーとジュストが町に入る事を嫌がったが、ガエルに「せっかくここまで来たんだから」と説得され、結局、全員入る事になったようだ。


 二つ目の門が開かれ、とうとう俺達の前にドーラの町が姿を現した。


 ……おお、これがドーラの町か。

 今までの中世ヨーロッパのような町とは違い、ドーラの町は、ちょうど東京駅のようなレンガの建物が建ち並ぶ近代的な町だった。

 町の中央に魔汽車の駅があり、その東側が魔石の集積場、西側が住民の居住区になっているようだ。

 そして、ここからは見えないが、北側半分はヴァイロン軍の基地になっているらしい。


 俺達は、門から伸びるこの町のメインストリートと思しき通りを馬車でゆっくりと進んだ。

「静かね」

 グロリアの言う通り、町は静まり返っている。

 まるでゴーストタウンのようだ。

 でも、町から出られないのだから人は普通にいるはずだ。

 みんな魔人の影に怯え、家の中に閉じこもっているのだろうか。


 二つ目の交差点に差し掛かった所で、トライデントの馬車が急に停まり、ガエルが御者台から飛び降りて俺達の馬車に近寄ってきた。

「ここで別れよう」

 彼らは宿屋には泊まらず、この町に住んでいるロジェーヌの親戚の家に厄介になるらしい。


「今日までありがとう」

 グロリアが、たぶん本心ではない社交辞令的な謝意を述べると、

「いやぁ、こちらこそ世話になった」

 ガエルは申し訳なさそうに頭を下げた。


「まあ、ヴァイロン軍の雰囲気からすると、今回の仕事はただ事じゃないようだから、討伐は連合戦になるかもしれない。その時はまたよろしく頼む」

 彼はそう言って軽く手を掲げた後、自分達の馬車に戻り、西の居住区の方に去っていった。

 俺は彼らの馬車をしばらく見送った後、馬に掛け声をかける。


「……連合戦って何ですか?」

 馬車を走らせながら、俺はガエルの言葉にあった聞き覚えの無い単語についてグロリアに尋ねた。

「複数のパーティーが共同で討伐を行う事よ。討伐の対象が強力で1パーティーだけじゃとても手に負えないとバウギルドが判断した場合に、ギルドが主導して討伐に参加するパーティーを募集するの」

「なるほど」

「今回は相手が魔人だから、恐らく大規模な連合戦になるでしょうね」

 ……大人数で討伐するのか。

 世界を大混乱に陥れるほどの魔人を、いくら優秀だとはいえワイルドローズだけで討伐できるのだろうかと不安に思っていたから、少し安心した。


 俺達はそのまま宿屋街に向かった。

 宿屋街は駅の前の通りだ。


「ここには人がいるわね」

 他の通りと違って、宿屋街にはわずかに人の往来があった。

 俺達と同じように討伐の仕事でこの町を訪れているバウや、運悪く事が起こった時にこの町にいて足止めを食らった行商や旅人等が滞在しているからだろう。

 ちなみに、ヴァイロン軍は宿代を払えない人達のために臨時に避難所を開設している。

 完全な雑魚寝状態らしいが、炊き出しもあってなかなか人気らしい。


 俺達は手頃な宿を見つけ、そこに落ち着く事になった。

 料理が美味しいと評判の宿屋だ。

 さらに、エステルは滞在が長期化することを考慮し、いつもよりも広い部屋を借りた。

 ベッドの他にソファーとテーブルが置かれ、洗濯物が干せそうなベランダも付いている。快適だ。


 その部屋に入って間もなく、

「ちょっと早いけど、バウギルドに行くのは明日にして夕食にしない?」

 と、エステルが提案する。

 長い山道の旅のせいでしばらく保存食しか口にすることができなかったから、とりあえずちゃんとした食事をしたいと思ったのだろう。もちろんみんなも喜んで賛成した。


「おいしいニャ!」

「このサラダも新鮮ですよ」

 こんな草木も生えない辺ぴな土地なのに、料理は意外にもおいしかった。

 宿屋の主人の話によると、三日に一度、食料や生活物資を満載した魔汽車が王都ダリスからこの町にやってくるらしい。

 だから、町から出られなくてもとりあえず生活に不自由することはないのだそうだ。

 王都ダリスとドーラの町をつなぐ路線は、ドーラ駐留のヴァイロン軍にとって重要な補給線になっているため、同軍によって厳重に警備されているらしい。


 夕食後、俺達は早々に部屋に戻り、そのままベッドにもぐり込んだ。

 ……やっと安全な寝床で寝られる。

 そう思ってベッドを満喫していたが、疲れていたせいか目を閉じた次の瞬間には深い眠り落ちてしまっていた。


******


 次の日、俺達は朝食を済ませた後、バウギルドに向かった。

 バウギルドは町の中央より少し北側にあり、目と鼻の先にヴァイロン軍の基地がある。


「空いてるわね」

 バウギルドの中は閑散としていた。

 世界中のバウが懸賞金目当てにこのギルドに集まってきているはずだから、さぞかし活気があるだろうと予想していたから、ちょっと拍子抜けだ。


 中央の掲示板には、ヴァイロン王国国王の名が記された討伐依頼の張り紙がでかでかと張り出されている。

 掲示板の半分以上を占めるほどの馬鹿でかい張り紙だ。

 そしてそこには「討伐目標は魔人三体」と堂々と記されていた。

 もうここでは秘密にしておく必要がまったく無いからだろう。

「上がってるわ」

 懸賞金の額は、エステルがこの旅の前に見た時よりもさらに上がっているらしい。


 やはり討伐は連合戦で行われるらしく、討伐依頼の張り紙には参加パーティー募集に関する記載もあった。

「とりあえず連合への参加希望を出してくるわね」

 そう言って、エステルは奥にあるカウンターの方へと歩いていく。

 他の面々は掲示板を全て見回った後、手持ち無沙汰といった感じで壁際のテーブルに腰を下ろし、そのままエステルが戻ってくるのを待っていた。


 ほどなくしてエステルが戻ってきた。

「今までに二度討伐しに行ったらしいけど、二度とも失敗したって」

 彼女は連合への参加希望を出したついでに、ギルドの事務員から魔人討伐の情報を仕入れてきたようだ。


「一度目は一ヶ月前で10パーティーほど参加したけど、ほぼ全滅したらしいわ」

「えっ!?」

 それを聞いてリリアが目を丸くする。

「二度目は半月前に行われて、この時は魔人を結構追い詰めたらしいけど、結局失敗に終わったそうよ」

「苦戦中かぁ、……それで懸賞金が上がっているのね」

 グロリアが納得して頷いた。

「だ、大丈夫でしょうか?」

 リリアが不安いっぱいの表情を浮かべる。

 10パーティーもいたのに全滅したって聞けば、誰だって心細くなるだろう。俺だって不安だ。

 しかし、エステルは何故か不敵に笑った。

「確かに強そうね。でも、だからこそ討伐し甲斐があるってもんじゃない」

 ……この人は根っからのバウンティハンターだ。


「次の討伐は四日後。ただ、ヴァイロン軍と共同作戦になっているみたいだから、その前日にここの二階で合同のミーティングがあるそうよ」



 ミーティングの日まで、ワイルドローズのメンバーは思い思いの事をして過ごした。

 エステルはずっと部屋で読書だ。

 グロリアは、山道の旅の間にガエルから教わったヘイトクラッカーを宿屋の庭で練習している。


「タケル様、ドーラの町を見て回りませんか?」

「私も行きたいニャ」

 俺はリリアとチャロに誘われ、ドーラの町を楽しく観光して歩いた。

 人はいないが、レンガの町並みはとても美しく豪華で、見て回るだけでも十分楽しめるのだ。


 その他にも、魔汽車が実際に走っている姿をみんなで見学に行ったり、俺とリリアがグロリアとチャロから近接戦闘の基本を習ったりと、この世界に来て初めて「旅」から解放されたゆったりとした時を過ごす事ができた。


******


 討伐の前日、俺達は連合戦のミーティングに参加するためバウギルドに向かった。


「すごい賑わいね」

 バウギルドの中は、この前とは打って変わって人で溢れていた。

 ミーティングに出るため、この町にいるバウ達がみんな集まって来ているのだろう。

 俺達は人混みをかき分けつつバウギルドの二階に上がった。


 バウギルドには通常、連合戦などのミーティングが行える部屋が必ず用意されているらしい。

 このバウギルドでも、二階の大部屋がそれにあてられていた。

 前側に黒板があり、それに向かって長テーブルが並べられている。

 一般的な日本の教室に近い形。

 黒板には地図と建物の見取り図らしきものが描かれており、ミーティングの準備はもうできているようだ。


 長テーブルはすでに半分程度が人で埋まっていた。

 連合に参加するバウパーティーの連中だ。

 屈強な体をした者もいれば、ほっそりとした魔法使い風の者もいる。

 ほとんどは人間のようだが、ハーフエルフやドワーフのような者も混じっていて、多種多様だ。

 ただ、みんな一様に只者ではない雰囲気をかもし出していた。


 部屋に入ると、俺達は少し緊張した面持ちで中ほどのテーブルに腰を下ろした。

 他のバウ達は一瞬俺達に静かな視線を向けたが、すぐにまた何事も無かったかのように雑談を始める。


「強そうな人がたくさんいますね」

 俺が隣のグロリアに耳打ちすると、

「ええ、世界的に有名なバウが何人もいるわ」

 と、彼女も目を輝かせながら周りを見回していた。

 懸賞金が馬鹿高いから、優秀なバウが世界中から集まったのだろう。

 さながらバウのオールスター軍団といったところか。


 すると、屈強な者の中でも一際でかい男がこちらに向かって歩いてきた。

 背丈は二メートルを優に超えている。

 筋肉が異常に盛り上がっていて、着ているシャツが今にも張り裂けてしまいそうだ。

 少し後退した生え際を隠すことも無く短髪にし、日焼けした顔には無精髭が生え、目には自信に満ちた強い光をたたえていた。


「新顔だな。俺はルイ・ベルナール、ガーディアンだ。黄金の牙というパーティーでリーダーをしている。よろしく頼む」

 彼はそう言いうとエステルに握手を求めてきた。

 エステルはすっと立ち上がってその握手に応じたが、二人の手のサイズは大人と幼児の差ほどもある。

「ワイルドローズのエステル・ドゥ・ビューリーです。……ベルナールって鉄壁の?」

「ん? ああ、そんなあだ名もあったな」

「あなたのような人がいれば心強いわ」

 エステルが尊敬の眼差しで彼を見上げた。


 彼が去った後、

「誰ですか?」

 俺はエステルに小声で尋ねる。

「鉄壁のベルナール、世界で一番硬いといわれているタンクよ」

 ……なるほど、確かに硬そうだ。

 彼がリーダーを務める黄金の牙というパーティーは、今までに高額な懸賞金の魔物を何体も倒しており、バウで知らない者はいないというほど超有名らしい。

 そんな人達と連合を組めるというのは、何とも頼もしい限りだ。


 その後も数パーティーが部屋に入ってきた。

「やあ、また会ったね」

 ガエル達も後からやってきて俺達の前のテーブルに腰を下ろした。


 大体60名ほどだろうか、長テーブルがほぼ埋まった時、ヴァイロン軍の鎧を着た二人の男性が部屋に入ってくる。


 一人は金色の縁取りがある鎧を着ているから将官クラスだ。

 五十代くらいだろうか、中肉中背で茶色の髪には所々白髪が混じっている。

 目が鋭く、口は一文字に結ばれていた。


 もう一人は銀色の縁取りの鎧を着た三十代くらいの男性だ。

 銀色の縁取りは佐官クラスらしい。

 赤毛の髪を軍人らしく短髪にしているが、顔は軍人とは思えないほど優しげ。

 まずまずイケメンといってよい。


 将官クラスの男性は、部屋に入ってきたそのままの勢いで黒板の前に立ち、部屋にいるバウ達をゆっくり見回してから、大声で名乗った。

「ヴァイロン軍ドーラ司令官、アーロン・デイルだ」


 その声を聞き、バウ達は雑談を止めて彼に注目する。

 デイルは一呼吸置いてから、

「困難な仕事にもかかわらず、ここに集まってくれた勇者の方々に感謝したい。そして、魔人を必ずや討伐してくれるものと期待している」

 とだけ告げると、すぐに踵を返し、足早に部屋から出て行ってしまった。何ともそっけない挨拶。

 たぶん司令官として形式的な挨拶をしに来ただけなのだろう。

 そんな彼を、赤毛の男性は胸に手を当てる例のヴァイロン軍の敬礼で恭しく見送った。


 デイルがいなくなった後、今度は赤毛の男性が黒板の前に立った。

「私はヴァイロン軍ドーラ第二遊撃隊隊長、タイタス・ブロードです」

 彼はデイルとは対照的にとても優しい語り口だった。

「初めて参加する方もいるようですので、簡単に今までの経緯を説明します」

 彼はそう前置きすると、魔界の門の封印が解けかかり、魔人がこの世界に出現して聖錠石の近くに居座っているという事実を淡々と説明した。

 俺達がナディアでウォレスから聞いた内容とほぼ一緒だ。


「前回、前々回と討伐は失敗に終わっています。が、前回はだいぶ魔人を追い詰めることができました。あと一歩でした」

 ブロードはここで残念そうにため息をついた後、今度はこれからの計画について話し始める。


「今回の目標も、今までと同じく『東の砦』に居座る魔人です」


 ヴァイロン軍は聖錠石を頑丈な建屋で覆い、外界と隔離することで今まで魔界の門の封印を守り抜いてきた。

 それらの建屋は、聖錠石と同じく方位を頭に付けて「東の砦」や「南の砦」などと呼ばれている。

 今回の目標である東の砦は、ドーラの町の北北東約18キロメートル付近に位置しており、魔人はその砦の中心にある聖錠石が安置されている部屋「聖錠石室」にいるらしい。


「我が隊はバウの方々を魔人の所までエスコートします」

 ブロードは時折黒板の図を指し示しながら作戦の詳細を説明した。

 要約すると、バウとブロード隊は明日の夜明けとともにドーラの町の東門より出発、東の砦に向かう。

 その途中に魔物に襲撃された場合は、ブロード隊がこれに対処する。

 無事に砦に到達したら、ブロード隊は砦内の魔物を駆逐しつつ聖錠石室の前室までバウを誘導。

 その後、バウが聖錠石室に侵入して魔人と対決する。

 という流れだ。


「魔界の門付近での夜の移動は大変危険なため、後中(ごちゅう)の刻までに討伐できない場合は、行きと同じルートでドーラの町に撤退します」


 作戦は昼間のうちに行われる。

 闇の生き物である魔物は夜になると強さを増すため、討伐はおろか、撤退すらも困難になるからだ。

 後中の刻とは、元の世界でいうところの午後三時。

 前回の作戦では、ベルナール等のオールスター軍団が加わって魔人を後一歩のところまで追い詰めたのだが、後中の刻までに討伐できなかったためやむなく撤退したらしい。


「討伐に成功した場合、我が隊はすぐに聖錠石の封印力を有効にする作業と、砦内にいる魔物の掃討作戦に入ります。また、増援部隊も地下鉄道を使ってやってくる手筈になっていますので、バウの方々はその隊が到着し次第、入れ違いでドーラの町に帰還していただきます」


 ……地下鉄道。

 ブロードの話によると、ドーラのヴァイロン軍基地と聖錠石が安置されている東西南北の各砦は地下の馬車鉄道で接続されており、兵士の移動や補給を迅速に行えるようになっているらしい。

 ただ、残念ながら、魔物に占拠されている砦へは地下鉄道で行く事ができない。

 魔物の地下鉄道への侵入を防ぐために、砦と地下鉄道をつなぐ通路が封鎖されているからだ。

 つまり俺達は、魔人の討伐に成功すれば地下鉄道で優々と、失敗すれば魔物の追撃を受けながら行きと同じ地上のルートでドーラの町に帰還することになる。


「東の砦の魔人は、竜の頭を持つ巨人です。武器は戦斧を持っており、力が強く、動きも素早いです。ただ、知能はそれほど高くないようです」


 これまでの作戦で、魔人の能力はある程度判明しているようだ。

 力で押すタイプで、攻撃魔法はあまり使ってこないらしい。


「氷壁の魔法を使って防御することがあるので、水に強く、火に弱いと思われます」

 その情報を聞き、エステルがニヤリと笑った。

 火の魔法が得意な彼女にとっては、とてもやり易い相手だろう。


「討伐に参加する方は、明朝、日の出の時刻までにこの町の東門に集合してください」


 全ての説明が終わり、ブロードはそこでふうっと息を吐いた。

 それから、

「何か質問はありますか?」

 と、全体を見回す。


 質問はなかった。

 ブロードは静かに頷き、

「では明日、遅れないようにお願いします」

 と言うと、ピシッと敬礼を決め、きびきびとした軍人らしい動きで部屋から出て行った。


 ブロードの説明の余韻で、部屋はしばらくしんと静まり返る。

 ややあって、

「じゃあ、ここからは俺が進める」

 と、ベルナールがテーブルから立ち上がり、黒板の前に進み出た。


「各パーティーのリーダーは、パーティーの構成と実績を教えてくれ」

 どうやら、連合内での各パーティーの役割分担を決めるようだ。


 連合戦の場合、連合のリーダーは一番実績のあるパーティーのリーダーが務めることになっているらしい。

 よってここでは、自ずからベルナールになるようだ。


 部屋には全部で11のパーティー、47名のバウがいた。

 奴隷も含めれば58名という大所帯だ。

 ベルナールは黒板に軽くメモを取りつつ、連合内での各パーティーの役割とポジションをテンポ良く決めていった。


 彼はこの連合のメインタンクとして魔人の正面に立つ。

 そして、彼のパーティーは別のパーティーから四人のタンクと二人のヒーラーを臨時に編入し、タンクパーティーとして魔人の攻撃を一手に引き受けることになる。

「黄金の牙パーティーに一時的とはいえ入れてもらえるなんて、夢を見ているようだ」

 ガエルもこのパーティーに編入されたようだ。


 その他のパーティーは攻撃が担当だ。

 ワイルドローズは左翼から魔人に攻撃をしかけるということになった。

 旅の間ずっとタンクだったグロリアも、今回は近接重装備アタッカーとなる。

 彼女は元々、二本の長剣を操る二刀流のウォーリアなのだ。

「腕が鳴るわ」

 すでにやる気満々のご様子。



 ミーティングが終わり、宿に戻った俺達はさっそく討伐の準備に取りかかった。

 各々、自分の武器や防具に不備がないか念入りに点検している。

 俺は荷物持ちとしてリキッドの入ったベルトポーチと、軽食や水筒を入れたショルダーバッグを持っていくことになっている。

 また、

「重いけど、念のために持っていって」

 と言うグロリアの希望で、グロスシールドも背負っていく予定だ。

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