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028_山道

 俺達はナディアの町を出発した後、そのまま街道を北に進んだ。

 空は灰色の分厚い雲に覆われ、辺りはまだ薄暗い。

 西の方、少し離れた所には南北に連なる山々が黒い影となってたたずんでおり、大半が山岳地帯というヴァイロン王国の特徴をわずかに垣間見せていた。


 一昨日ナディアに着いた時は真っ暗でよくわからなかったが、町の周りは広範囲にわたって畑になっているようだ。

 が、作物は全く植えられておらず、荒れ果ててしまっている。

 所々にはヴァイロン軍が倒したと思われる魔物の死骸も転がっていて、この景色を見る限りでは、世界が滅亡寸前と言われても誰も不思議には思わないだろう。


「このまましばらく街道を走って」

 御者台の後ろからエステルが俺に指示する。

 ウォレスが勧めた「山道」の入口は、ナディアの町から馬車で三時間ほど街道を走った所にあるらしい。

 俺は新しい馬車の操縦感覚を体に覚えさせつつ、徐々に速度を上げていった。


 途中、五匹ほどのウォーウルフの群れに遭遇したが、グロリアとチャロだけで難なく倒してしまった。

 ウォーウルフはそこそこ強い上に群れで行動するため、一般の人々にはかなり怖れられているらしいのだが、ワイルドローズにとってはそれほどの敵でもないようだ。



 街道を進むうちに、ナディアでは西に離れていた山岳地帯の山々が、いつの間にかすぐそこまで迫ってきた。

 山は低く、岩だらけで、所々に背の低い木や草が申し訳程度に生えている。

 ……これまた貧相だなぁ。

 見るからにみすぼらしい。

 草原にしろ、山々にしろ、この国の景色は「貧相」で統一されているかのようだ。


 そんなことを考えながさらに馬車を走らせていると、前方に街道から左に折れる脇道らしきものが見えてきた。

 その道は、少し登りながら山と山の隙間を縫うようにして伸びている。


「タケル、そこを左ね」

「あ、はい」

 俺は手綱を引いて馬に指示を与え、馬車を左折させた。


 どうやらこの道が「山道」のようだ。

 街道とは違い、雑草が生え、石がごろごろしており、整備されている様子はない。

 馬車はガタガタと大きく揺れ、乗り心地は最悪だ。

「お尻が痛くなっちゃうわね」

 隣のグロリアも堪らず苦笑した。

 いつものタンクトップだったら、この揺れで彼女の大きな水風船も大暴れしただろうが、今は硬い鎧に押さえつけられ、お行儀良くしている。……チッ。


 エステルがナディアで集めた情報では、この道はかつて薬草街道と呼ばれていたそうだ。

 ヴァイロン王国の山岳地帯には数種類の薬草が自生しており、魔機関が発明されるまではこの国の主要な輸出品だったらしい。

 そのため山岳地帯には薬草の採集を生業とする小さな村があちこちにあり、そこから薬草を運び出すためにこのような山道が整備されたのだ。

 しかし、魔機関の発明によってヴァイロン王国の産業構造が大きく変化し、富が集まる王都に人口が流出してしまったため、薬草の産業は急激に廃れてしまったらしい。

 今ではほとんどの村が廃墟化し、この道も荒れ放題になってしまっているということだ。

 ……どこも一緒か。

 俺は自分の故郷を思い出して、少し気が重くなった。


 ちなみに、この世界では、薬草は主に病気の治療に用いられている。

 残念ながら、ヒールは病気に対して有用な効力を発揮しないのだ。

 船酔いでもそうだったが、症状を和らげるのがせいぜいらしい。

 だから薬草はとても重要で、ヴァイロン王国では廃れてしまったが、他国では現在でも盛んに採集されている。


 俺は悪戦苦闘しながら馬車を進めた。

 道は山に分け入るにしたがってさらに荒れ、片時も気を休めることができなかったからだ。

「疲れたら代わってあげるから言ってね」

 そんな俺にグロリアが優しく声をかけてくれたが、しかし、馬車の操縦は奴隷の仕事、ここで代わってもらうわけにはいかない。

 代わってもらったら、戦闘をしない俺はそれこそ存在意義がなくなってしまう。

「大丈夫です」

 俺は手に汗握りつつも、涼しい顔を装って答えた。


******


 昼が過ぎ、荒れた山道での馬車の操縦にもやっと慣れてきた頃だった。

 前方に、道を塞ぐようにして立ちはだかる一匹の黒っぽい魔物を発見する。

 ……うっ!?

 その魔物を一目見て、俺の背筋が一瞬で凍りついた。

 三つの頭を持つ巨大な犬、ケルベロスが立っていたのだ。

 それは微動だにせず、ただ六つの鋭い眼差しで俺達をじっと見据えている。

「……」

 一昨日怪我を負った右足の脛の辺りが、今はヒールで完全に治っているにもかかわらず、何故かうずいた。


「タケル、馬車を停めて!」

 グロリアに指示され、俺は急いで馬車を停車させる。

 できれば、あいつにはあまり近付きたくない。


 馬車が停まると同時にグロリアは御者台から飛び降り、盾を構えながらケルベロスに近付いていく。

 他の面々も荷台から降りてグロリアの後を追った。

 そんな彼女達の後ろで、俺は足の震えを両手で必死に押さえ込んでいた。


 ケルベロスはしばらくこちらの様子をうかがっていたが、グロリアが一定の距離まで近付くと、

「ウォウォウォォォォ!!」

 と、突然激しい雄たけびを上げ、猛然と走り寄ってくる。

 ……うぅ。

 その声に俺は思わず怯んでしまった。


 しかし、グロリアは冷静にケルベロスの動きを読み、彼女を三方向から噛みつこうとしたケルベロスの三つの頭を、盾で次々に弾き返す。


 彼女の見事な防御の前に一瞬たじろぐケルベロス。だが、すぐに体勢を立て直して再度彼女に襲いかかった。

「はっ!」

「とぅ!」

 グロリアは盾と槍を使って、その攻撃を巧みに防いでいる。


 その間にチャロはケルベロスの背後に回り込み、後ろ足を中心にダガーで攻撃を開始。


 リリアは馬車のすぐ前にいて、グロリアやチャロが怪我を負ったらすぐにヒールできるよう注意深く戦況を見守っている。


 最後に荷台を降りたエステルは、リリアの少し前まで進み出ると、杖を頭上で一回転させてからケルベロスに向かって構えた。

「フフ、今日の私はこの前とはちょっと違うわよ」

 その後、不敵な笑みを浮かべつつ、いつもより声高に呪文を唱え始める。

 そして、

「グォオオゥ!」

 チャロの執拗な攻撃に、堪らずケルベロスが右側の頭を後ろに向けた瞬間、


風の剣(サナ エソ トムキ)!」


 と、真空の剣を発動させる。

 それは、音も立てずに猛スピードで飛んでいき、チャロの方を向いていたケルベロスの首の根元に吸い込まれるようにして当たった。


 ……えっ、でも?

 ケルベロスに真空の剣が効かないことは、この前の戦闘ですでに実証されている。切り傷程度で大したダメージを与えられなかったはずだ。

 なのに何故?

 俺は疑問に思いつつケルベロスを見守った。


 ツツツッ。


 しかし、今回はこの前とは違う結果になる。

 ケルベロスの頭は滑るようにして首からずり落ちると、地面にごろりと転がったのだ。

「よし!」

 それを見て、エステルが得意げに杖を大きく掲げる。

 ……何で?

 この時の俺は、どうしてこの前と今回とで真空の剣の切れ味に大きな差が出たのか理解できなかった。


 後に彼女に聞いた話によると、それは「杖の差」によるものらしい。

 前回のケルベロス戦では、エステルは砂浜に転がっていた単なる棒きれを杖の代わりにして戦っていた。

 それは、魔法の制御に対して「素手よりはマシ」という程度のものなのだそうだ。

 今回の真空の剣は、彼女が長年愛用してきたウィザード専用の杖を使って放たれたものであり、単なる棒の時とは威力や精度にかなりの差が出るらしい。

「だからこの前のケルベロス戦でも、この杖を持っていたならあそこまで苦戦しなかったわ」

 彼女は自信満々に語った。

 ちなみに彼女の杖は、軽くて丈夫なローズバーロンという希少な木材で作られた最高級品らしい。

「買ったんですか?」

「まさか、……知り合いから貰ったのよ」

 だそうだ。


 一つの頭を失ったケルベロスは、バランスを崩して大きくよろめく。

「隙あり!」

 すかさずグロリアが槍でケルベロスの前足を払うと、ケルベロスは堪え切れずに豪快に横に倒れ込んだ。

「ニャッ!」

 途端、チャロが短く叫んで上空に高くジャンプし、膝を抱えてクルクルと二回転した後、ダガーの刃を下に向けつつ、ケルベロスの心臓めがけて急降下。


 トスッ。


 何の抵抗もないような軽い音がして、チャロのダガーがケルベロスの胸に突き刺さった。

「ギャウゥゥゥ!!」

 ケルベロスの二つの頭は飛び上がるようにして喚いたが、チャロがダガーを引き抜くと、すぐにぐったりして動かなくなった。


 ……見事。

 俺は彼女達の鮮やかな勝ちっぷりに思わずため息が出た。

 やはり彼女達は強かった。

 この人達がいれば、俺がケルベロスを怖がる必要なんてまったくないようだ。

 気が付くと、いつの間にか足の震えも治まっていた。


「さぁ、行きましょう」

 その後も頻繁にウォーウルフやケルベロスが出没したが、ワイルドローズにとっては大した障害にならなかった。


******


 夕方、俺達は暗くなる前に見通しの良い所を見つけて馬車を停め、そこで野宿の準備をした。

 そして夜は、俺とグロリア、エステルとチャロ、の組で交互に見張りを行いながら睡眠をとることになった。

「リリアはよく休んでおいて」

 エステルの方針で、リリアは見張りの番から外されている。

 それは、ヒーラーである彼女の体力や精神力が、パーティー全体の持久力に直結するからだ。

 ただ、今のところ戦闘でのリリアの出番はほとんどなかったため、

「私だけ楽をしてしまってすみません」

 と、彼女は申し訳なさそうにしていた。


 もちろん、夜も魔物は頻繁に出没したが、眠りを妨げられ凶暴化したワイルドローズによってことごとく無残な最後を遂げたのだった。



 このようにして、俺達はゆっくりではあったが順調に山道の旅を続けた。


******


******


 変化が訪れたのは、四日目の正午を少し過ぎた頃だった。

 この日も相変わらず空は灰色の分厚い雲に覆われており、俺達はその下を馬車に揺られながらゆっくりと北に進んでいた。


 昨日の夕方に、ナディアとドーラのほぼ中間にあるといわれている廃墟の教会を通り過ぎたことから、俺達は大きな遅れもなく山道を攻略できていることがわかった。

 ……このまま行けば遅くもあと三日でドーラの町に着けるはず。

 そんな希望を抱きつつ、俺は馬車を操縦していた。


 すると突然、

「タケル、少し速度を落として!」

 と、隣のグロリアが俺の左腕を軽く押さえながら声をかける。

 馬車が大きな右カーブを抜けた直後の事だ。


「えっ、……は、はい」

 魔物が出たわけではなかったから、グロリアの指示の意図がいまいちわからなかったが、言われた通り俺は馬車の速度を落とした。


 グロリアは瞬きもせずに道のずっと先の方を注視している。

「どうしたんですか?」

 尋ねつつ、俺も釣られるようにしてグロリアの視線の先を眺めた。


「……馬車よ」


 道の先、目視で見えるぎりぎりの所に、俺達が乗っているのと同じような幌馬車が停まっている。

 さらに、その周りには人影らしきものも動いているようだ。

「何かしら?」

 グロリアの声を聞いて御者台の後ろから顔を出したエステル達も、緊張した面持ちでその馬車を観察している。


 しばらくすると、向うもこちらに気付いたらしく男が道端に出てきて、

「おーい! おーい!」

 と言いながら大きく手を振り始めた。


 ……何かあったのかな?

 そう思いながらそのまま馬車を進めていたが、

「タケル、停めて!」

 と、グロリアに緊迫した口調で指示されたため、俺は急いで馬車を停めた。

 彼女は険しい表情でその男を凝視している。


 その男はグロリアと同じような銀色の鎧を着込んでいた。

 そして、よく見ると帯剣もしているようだ。

 グロリアはそれを見て俺に馬車を停めるよう言ったのだろう。

 雰囲気からその男に敵意があるようには見えなかったが、用心するに越したことはない。


 男は俺達が警戒しているのに気付いたのか、慌てて腰の剣を外し、俺達に見えるように道の脇に置くと、両手を挙げながらゆっくりとこちらに近付いてきた。


 グロリアは槍を持って御者台から飛び降り、馬車の前に立つ。

 相手が怪しい動きをすれば、すぐに突き倒すつもりなのだろう。


 その男はグロリアの間合いから少し離れた所までやってくると、

「脅かして済まなかった。決して怪しい者じゃないから安心してほしい」

 と、冷静な口調で申し訳なさそうに頭を下げた。

 三十歳くらいだろうか、人間の男性だ。

 背はグロリアよりも頭一つ高いから、大男の部類に入るだろう。

 身に付けている銀色の鎧は使い込まれており、それだけ見れば歴戦の勇者のようだが、垂れ目で口元には愛嬌があるせいか、全体的には優しそうな雰囲気をかもし出している。


「私はガエル・トーマン、バウのガーディアンだ。ドーラの町に向かう途中なんだが、馬車が故障してしまってね」

 ガエルと名乗った男は困り果てた表情で話し始めた。

 その顔には疲労の色が濃く出ている。

 聞けばもう二日もここで立ち往生しているらしい。


「肝心な部品が壊れてしまって直しようが無い。……それで、お願いなんだが、その部品の予備を持ってないかな? もし持っていたら譲ってほしい。もちろん代金は払う」

 彼は真剣な表情でグロリアに頼み込んだ。


「わかったわ。とりあえず私達が持っている部品が使えるか試してみましょう」

 彼の誠実な態度にグロリアは槍を下げ、警戒を解いた。

「ありがとう」

 深々と頭を下げるガエル。

「なぁに、困った時はお互い様よ。タケル、あの馬車の近くまで行って」

「はい」

 グロリアが御者台に乗ったところで俺が馬車を発進させると、ガエルは小走りで先導した。


 彼の馬車に近付くと、それが故障中であることはよくわかった。

 右側の前輪が外され、あちこちに部品や工具が散乱しており、必死に直そうとした跡がうかがえる。

 その馬車のすぐ脇には、奴隷服を着た三十代後半と思しき男性が、疲れ果てたように座り込んでいた。


 俺が馬車を停めると、すぐに飛び降りてその馬車の下をのぞき込むグロリア。

 俺を含め、他の面々は馬車から降りずに静かにその様子を見守る。


 その馬車は、良くいえば年季の入った、悪くいえばおんぼろの、この山道を走るにはあまりにも心細い外見をしていた。

 「山道は路面の状態が悪い」という情報を彼らは入手できなかったのか、入手していてもそれを軽くみてしまったのだろう。


 その馬車の周りには、ガエルと奴隷の他にも数人の男女がいた。

 鎧やローブを着ているところからすると、たぶんガエルとパーティーを組んでいるバウ達なのだろう。

 みんな三十代くらいだろうか、若くもないし、老けてもいない。

 彼らは近くの岩に腰を下ろしたり、その辺をウロウロしたりしながら、グロリアや俺達の様子を遠巻きに眺めていた。


「あれだよ、あの部品が壊れてしまっている」

 ガエルはグロリアの隣で腰を屈め、壊れた箇所を指差した。

「ああ、あれなら……」

 グロリアは呟くと、荷台の側面に取り付けられた箱を開け、ゴソゴソとその中をあさっていたが、ほどなくして、

「これが使えるかしら?」

 と、ある部品を取り出した。


 ガエルはグロリアからその部品を受け取り、形や大きさを確認するようにしばらく眺めていたが、結局自分では判断できなかったのか、

「どうだ?」

 と言って、近くに座り込んでいた奴隷に渡した。

 奴隷はそれを持って馬車の下に潜っていったが、すぐに、

「少しサイズが違うようですが使えそうです、ガエル様」

 と、小さな声で回答する。


「そうか、じゃあそれで直してくれ」

 ガエルは奴隷にそう指示を与えた後、ふうっと息を吐き、肩の力を抜いた。

 馬車が直る目処がついて安心したのだろう。


 その後、

「いやぁ、ありがとう。おかげで助かったよ」

 と、穏やかな表情でグロリアに礼を言う。

「お役に立ててよかったわ」

 グロリアも微笑みながらそれに応えた。


「君達が通らなかったら、私達はここで飢え死にしていたかもしれない。何しろこの二日間、誰もここを通らなかったからね。君達は命の恩人だよ。……あ、そうだ、あの部品の値段はいくらだい? 通常の倍で買い取るよ」

 彼はそう言うと、鎧の隙間から財布を取り出した。

「お金なんかいらないわ。いくらかも分からないし、大した物でもないから」

 グロリアは断ったが、ガエルは不服そうに大きく首を横に振る。

「いやいや、そうはいかない。……じゃあ、一万ヴァードでどうかな?」

 命の恩人とか言ってる割には安い申し出のような気もしたが、

「ええ、それで十分よ」

 グロリアは快諾する。

 ガエルは財布からお金を取り出すと、恭しくグロリアに手渡した。


 そんなやり取りをしているうちに、馬車の下の作業が終わったらしく奴隷が這い出てきて、今度は車輪を付け始める。

 その様子を見たグロリアが、

「もうよさそうね」

 と、俺達の馬車に戻ろうとした。

 すると、

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 ガエルが慌てて呼び止める。


「君達もドーラに行くんだろ?」

「ええ」

「じゃあ私達と一緒に行かないかい?」

「えっ?」

「目的地が同じなんだから、協力しながら一緒に行った方が何かと楽だと思うんだ。魔物の対処にしてもそうだし、夜の見張りにしてもそうだ」

 ガエルは人の良さそうな笑顔を浮かべながら提案した。が、

「うーん……」

 グロリアは即答せず、腕を組んで考え込む。

 ガエルの言っている事も一理あるが、たぶん彼の本音は「また壊れるかもしれない自分達のボロ馬車をサポートしてもらいたい」ということなのだろう。

 グロリアもそれがわかっているから悩んでいるのだ。

 もしかしたら頼られっぱなしになるかもしれないし、足手まといになるかもしれない、と。


「……私達が先を行くから、君達は後からついてくればいい。そうすれば君達はほとんど魔物の対処をしなくてもいいはずだから、かなり楽になるはずだ」

 自分達に不利な条件をあえて申し出るところからすると、ガエルも多少後ろめたい気持ちがあるのだろう。

「うーん……」

 グロリアはまだ悩んでいる。

「一緒に行こうよ。ここで会ったのも何かの縁かもしれないじゃないか」

 ガエルはすがるような目でグロリアを見つめ始めた。

 もう少し粘れば、土下座すらしそうだ。


「……どうする?」

 ガエルの視線に、堪らず荷台のエステルに回答を委ねるグロリア。

「うーん、そうねぇ……」

 けれども、エステルも悩んでいるようだ。

「まあ、確かに人数が多い方が楽になるとは思うけど……」

「そうだよ! 絶対楽になるに決まっている!」

「うーん、……じゃあ、そうしましょうか」

 エステルは苦笑いしながら承諾した。

 もし彼らの馬車がまた壊れれば、今度こそ飢え死にするかもしれない。

 それを放っておくわけにもいかないと思ったのだろう。


「ありがとう。助かるよ……っ!」

 ガエルはほっとして思わず本音を言ってしまったらしく、その後慌てて口をつぐんだ。

 まあ、彼も悪い人ではないのだろう。



 ……こうして、俺達はガエルの一行と共にドーラの町に向かうことになったのだった。

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