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027_滅亡の危機

今回は説明が主です。

 ウォレスは諦めたようにため息をついた後、俺達の顔を一度見回してから、険しい表情でゆっくりと重い口を開いた。


「この世界は今、滅亡の危機に瀕している」


「……えっ?」

 突拍子もないウォレスの発言に、俺達は一瞬呆気にとられる。が、

「……滅亡の危機に、瀕している?」

 ややあって、エステルが聞き返した。

「うむ」

 彼女の問いに、険しい表情を崩さぬまま頷くウォレス。


「この世界と魔界とをつなぐ『魔界の門』については君達も知っておろう」

「ええ」

「今、その魔界の門の封印が解けかかっているのだ」

「……」

 エステルは、フェーベの町で魔界の門の封印が少し緩んでしまっているらしいという情報を得ていた。そして、今回の仕事はそれに関することだろうと予測もしていた。

 どうやらそれは当たっていたようだ。

 ただその状況が、俺達が考えていたよりもずっと深刻だということは、ウォレスの表情から十分伝わってきた。


「魔界の門は通常、四つの『聖錠石』によって封印されているのは知っているか?」

「セイジョウセキ?」

 エステルが首を傾げる。

「呪文が彫りこまれた特殊なクリスタルだ」

「呪文が? マジックアイテムってことね」

「うむ、それが魔界の門の東西南北約七キロメートルの地点に安置され、その聖なる力によって魔界の門を封印している。が……」


 ウォレスはそこで険しい表情をさらに険しくする。

「現在、その聖錠石の三つまでもが魔人の手に落ち、聖錠石の持つ封印力を無効にされてしまっているのだ」

「魔人って!? 魔人が今この世界にいるの!?」

 ウォレスの説明に、エステルが驚きのあまり声を張り上げた。


 後で知った事だが、魔人とは人型の魔物の事だ。普通の魔物よりも知能が高く、桁違いに強いとされている。

 魔人は過去に二度この世界に出現して、人々を滅亡の危機へと追いやったことがあるらしい。

 ウォレスの話によると、今、その魔人がこの世界にいるというのだ。

 封印が緩むと、下位の魔人なら魔界の門を通ることができてしまうらしい。


「もし、もう一つの聖錠石も魔人共に奪われ、魔界の門の封印が完全に解かれると、魔界から高位の魔人が現われてこの世界は滅びる、といわれている」

「……」

「この事実が知れ渡れば、恐らく世界はパニックに陥るだろう。秩序は乱れ、犯罪が横行し、正義は失われる。たとえ結果的に魔界の門の封印が守られたとしても、世界は地獄と化してしまうに違いない。だから、我々はこの事実をひた隠しにしているのだ」

「……」

 俺達は事の重大さに黙り込んでしまった。


「……でも、何でそんなことになったの? ヴァイロン軍は魔界の門の封印をずっと守っているんでしょ?」

 そこでグロリアが思い出したようにウォレスに質問する。


「左様、元々ヴァイロン軍は魔界の門の封印を守るために創設されたもの。そして、現在もその役目を負っている」

「じゃあ、何で?」


 するとウォレスは目を細め、逆に質問してきた。

「……ラノア教団、という集団を知っているか?」

「ラノア教団?」

 彼の問いに対し、ワイルドローズの面々はお互い顔を見合わせたが、肩をすくめるだけで誰も知らないようだ。


「ラノア教団とは、『魔の力によってこの世界の全ては浄化され、魔神に選ばれし者のみが生き残る』という終末的思想をもった過激なカルト集団だ。この世界の創世期から存在しているといわれている」

「……」

「そもそも魔界の門は、三千年前に彼らが自分達の理想を実現するために作り出したものなのだ」

 それを聞いたエステルが首を傾げる。

「え? 確か魔界の門を作り出したのは暗黒のウィザード・ドラノアじゃなかったかしら?」

「神話ではそうなっているが、厳密には違う。ドラノアとはラノア教団を一人の人間として擬人化したものだ」

「そうだったの!?」

 自分の知識とは違う事実に、エステルが目を見開いて驚いた。

「彼らは魔界の門から大量の魔人、魔物を呼び寄せ、文字通りこの世界を魔の力によって一掃させようとしたのだ」

 ……そういえば、旅の初めの頃に「魔物は約三千年前にこの世界に出現した」ってエステルから聞いた覚えがある。

 今、この世界にいる魔物はその時の名残ということか。


「彼らの思惑通り、世界は滅亡の寸前までいったが、しかし、ある人物によって阻まれた」

「英雄ヴァイロンね」

 エステルが自信有りげに答える。

「うむ、彼は実在の人物だ。神話では救世主として登場する」

 ……ヴァイロン王国のヴァイロンって英雄の名前だったのか。


「彼は魔人達を倒し、魔界の門の封印に成功した」

「一人で倒したの?」

「いや、神話では詳しく語られていないが、こちらも実際は百人程度の精鋭を引き連れていたらしい」

「なるほど」

「その後、彼は封印を恒久的なものにするためにこの地に王国を建国し、軍隊を創設して封印を守らせた」

「それがヴァイロン王国とヴァイロン軍の始まりってわけね」

「そうだ。我が軍は英雄ヴァイロンの意思を継ぎ、今も魔界の門の封印を守り続けている」

 ……三千年も守り続けているっていうことか。


「……それでその後、ラノア教団はどうなったんですか?」

 そこで、気になったのか今まで黙っていたリリアが口を開く。

「そう、ここからが問題だ。ヴァイロンの追撃によってラノア教団は壊滅寸前まで追い込まれたが、しぶとく生き残った。彼らはその後も事あるごとに魔界の門の封印を解こうとヴァイロン軍に挑んできた。約一千年前には聖錠石の一つを彼らに奪取され、下位の魔人が二体現われて世界中が大混乱に陥ったことさえある」

 ……確かグロリアも魔汽船でちらっとそんなような事を言っていたような。


「じゃあ今回もラノア教団が?」

「うむ」

 ここでウォレスは申し訳なさそうに角刈りの頭を掻きむしった。

「恥ずかしながら、我が軍の中にラノア教団の一人が紛れ込んでいたのだ。そいつは魔界の門の魔力が強まる新月の夜を狙い、北の聖錠石の封印力を無効にしてしまった」

「……」

「封印力の落ちた魔界の門からは四体もの魔人と大量の魔物が現われ、聖錠石を守るヴァイロン軍に襲いかかった。そして、増援部隊が間に合ったドーラに一番近い南の聖錠石だけを残し、魔人達に奪われてしまったのだ」

「……」


 ウォレスはエステルに厳しい視線を向けつつ、さらに話を続ける。

「しかも、今回は一千年前の時よりも状況が悪い」

「どんなふうに?」

「一千年前に出現した魔人は聖錠石に固執しなかった。だから、世界はめちゃくちゃにされたが、魔界の門自体はすぐに再封印できたため、最悪の事態は免れることができた」

「なるほど」

「しかし、今回は魔人が聖錠石の近くに居座り続けているために再封印することができないでいる」

「……」

「このまま新たに魔界から魔人共が現われ、最後の聖錠石を奪われたら世界はお仕舞いだ。だからそうなる前に今いる魔人達を倒し、聖錠石を取り戻して魔界の門を完全に封印してしまわなければならない。が……」

 そこまで言って、ウォレスは大きくため息をついた。

「しかし、今、我が軍に聖錠石を取り戻すだけの力は残っていないのだ。先の戦闘で聖錠石の守備隊は壊滅的な損害を被ってしまった。さらに、魔界の門から現れた大量の魔物が国内を荒らしまわっているため、住民も守らなくてはならない。いくら世界が終るかもしれないといっても、だからといって住民を放っておくわけにもいかんのでな。現在、予備役や退役軍人まで駆り出して対応しているが、現状を維持するだけで精いっぱいなのだ」

 ……かなりやばい状況だな。


「…………」

 ウォレスの話を聞き、ワイルドローズの面々はしばらく黙り込んでいたが、その後、エステルが納得したように口を開く。

「……つまり、その魔人の討伐をバウにやらせるということね」

「まあ、そういうことだ」


 しばらくしゃべり続けて喉が渇いたのか、ウォレスは一旦立ち上がって事務員にスティーナのおかわりを要求した。

 事務員はすぐに現れ、ウォレスと俺達のカップにスティーナを注いだ後、一礼してまた部屋を出ていく。


 ウォレスは熱々のスティーナを一気に飲み干し、軽くため息をついた後、苦笑いしながら俺達の顔を見回した。


「驚いただろう? 世界が滅亡の危機だなんて」

「まあ、正直」

 エステルも苦笑で応える。


「この事実を隠すため、現在、ドーラの町に入った者は事が済むまで町から出ることを許されない。だから、今の話を聞いて自信がなくなったのであれば、ドーラには行かない方がいいだろう」

 ウォレスはそう言って気遣ってくれたが、対するエステルは首を大きく横に振った後、不敵な笑みを浮かべる。

「まさか、あの懸賞金の額を見て血が騒がないのはバウじゃないわ」

 すると、グロリアもニヤリと笑った。

「相手が魔人だなんて、なんかワクワクしちゃう」


「わっはははは!」

 それを聞いてウォレスが快活に笑い出した。

「頼もしい。さすがはバウだ。我が軍の若い連中にも聞かせてやりたいわ」


 ただその後、ウォレスはすぐに真面目な顔に戻り、再度俺達の顔を見回しつつ、

「クラーケンを倒すほどの君達が魔人討伐の戦列に加わってくれるとはまことに心強い。どうかよろしくたのむ」

 と、角刈りの頭を大きく下げた。

「ええ、詳しい情報を教えてくれてありがとう」

 エステルも頭を下げて礼を言った。


「では、君達の荷物をここに運ばせるから少し待っていてくれ」

 難しい話が終わり、元の気さくさを取り戻したウォレスがそう告げてソファーから勢いよく立ち上がる。


「あっ、ちょっと聞きたいんだけど、あの港の脇に停まっている鉄の塊のような乗り物でドーラの町まで行けるのかしら?」

 ウォレスが立ち上がったのを見て、エステルがある方向を指差しながら慌てて尋ねた。蒸気機関車が停まっていた方向だ。


「鉄の塊? 魔汽車のことかね?」

「え? ええ、たぶん」

 聞き返され、エステルは少し戸惑う。


 ウォレスは腕を組み、気まずそうな表情で答えた。

「確かにあれならドーラまで二日で行く事ができるんだが、残念ながら今は運休中だ」

「運休中? 動かないってこと?」

「ああ、一ヶ月前の大雨でドーラに行く路線の一部が土砂で埋まってしまってね。普段ならすぐに工兵を出して復旧させるんだが、今は魔物のせいでそれができないでいる」

「そうなの、残念。じゃあ馬車で行くしかないのね」

「うむ、済まない」

 ウォレスは申し訳なさそうに首の後ろをかいた。


「いいわ、もともと馬車で行くつもりだったし」

「そうか。……馬車で行くのであれば、遠回りだが山道を行った方がいい」

「山道?」

「ああ。偵察兵の報告によると、街道には魔物がうじゃうじゃいるということだが、山道は比較的少ないらしい」

「なるほど」

「ただ、路面の状態は最悪だから頑丈な馬車が必要だぞ」

「わかったわ。ありがとう」

 ウォレスの忠告に対し、エステルは軽く微笑みながら謝意を述べた。


「それでは君達の健闘と無事を祈る」

 ウォレスは最後にそう言うと、胸に手を当て軽くお辞儀をし、その後、足早に部屋から出て行った。



「ただことじゃないわね」

 ウォレスがいなくなった後、グロリアが苦笑しながらエステルに話しかける。

「あんな懸賞金の額だもの、最初から簡単な仕事でないことはわかっていたわ」

「ええ、でもまさか相手が魔人とはね」

 すると、乾ききった口の中を潤すようにスティーナを飲んでいたリリアが、

「……正直、ちょっと怖いです」

 と、不安げに呟いた。

 もともと彼女はバウ志望じゃないから、エステルやグロリアとはモチベーションに差があるのだろう。

 そんなリリアにエステルが励ますように言う。

「私だって怖いわよ。でも、どのみち魔人を倒さない限りこの世界に未来はないわ。それなら、ただ恐れおののいて破滅を待つより、それを回避できるよう努力すべきよ。自分達の力を信じて」



 しばらくして部屋に荷物が運ばれてきた。

「あっ!」

 その瞬間、驚いて荷物に駆け寄るエステル。

 見ると、彼女のショルダーバッグに見覚えのある物が縛り付けてあった。

「私の杖! 海に落ちてなかったのね!」

「ええ、甲板から落ちそうになっていたのをチャロが拾ってくれたのよ」

「ありがとう、チャロ!」

「ニャ」

 感激したエステルに抱きつかれ、チャロは照れ臭そうに笑った。


「これさえあれば、ケルベロスくらいへっちゃらよ」


******


 俺達は荷物を持って宿屋に帰った。

 ただ、正午はとっくに過ぎてしまっている。

 急がないと今日中に旅の準備が終わらないだろう。


 そこでエステルは、手分けして準備することを決める。

 俺とグロリアは馬車の調達、エステル、チャロ、リリアはバウギルドでの情報収集と必要な物資の買出しだ。


 早速、俺とグロリアはナディアの西門近くに店を構える馬車屋に赴いた。

 店頭に幾つも馬車を並べた大きな店だ。ただ、客はまったくいない。

 魔物のせいで町の外になかなか出られないため、馬車の需要が極端に落ちているのだろう。

「安くしますんで、買っていってください」

 堅物そうな店主のぎこちない笑顔がそれを如実に物語っていた。


 グロリアは並んでいる馬車をしばらく遠巻きに眺めていたが、

「これなんかよさそうね」

 と、端から二番目に置いてあった馬車を気に入ったらしく、御者台に乗ったり荷台の下をのぞき込んだりして色々確認し始める。

 その馬車は中古でまったく飾り気のないものだったが、とても頑丈そうな造りをしていた。値段も手頃のようだ。

「いい感じですね」

「ね」

 一通り状態を確認してから、グロリアはそれを買う事に決めた。

「あと、修理用の部品も少し多めにほしいんだけど」

 そんな彼女の要求に、店主は壊れやすい部品を二セット分揃え、馬車の側面に取り付けられた箱の中に入れてくれたようだ。

 馬は、馬車屋と提携している近所の店から元気のよさそうな奴を調達。

 前のより気が荒そうだが、俺も馬車の操縦には十分慣れたからたぶん大丈夫だろう。


「毎度あり! ありがとう!」

 取引が完了し、俺達は満面の笑みを浮かべる店主に見送られながら、その馬車に乗って宿屋に戻った。



 宿屋に着くと、ちょうどエステル達も戻ってきたところだった。

 すでに買い物も済ませてきたらしく、三人とも大きな荷物を抱えている。

 さらに、エステルはいつの間にか水色のワンピースに着替えていた。

「明日の朝までにローブを直してって、無理やり服屋に頼んできたのよ」

 俺の視線に気付いたエステルが簡単に説明する。

 ……そうかぁ、直しちゃうのかぁ。

 裂けたローブのせいでちらちら見えていたエステルの太ももがもう見れなくなると思うと、俺は残念でならなかった。


 そうこうしているうちに辺りが薄暗くなってきた。

 分厚い雲のせいで暗くなるのが早いのだ。じきに真っ暗になってしまうだろう。

 そこここの家にも明かりが灯り始めている。

 俺は急いで馬車を宿屋の裏手に回し、停留の仕事を終わらせた。



「山道を通ると、ドーラまで普通なら六日くらいかかるそうよ」

 夕食の途中、エステルがバウギルドで得た情報をみんなに話し始めた。


 ヴァイロン王国は南北に長い島国で、そのほとんどは山岳地帯になっている。

 ナディアの町からドーラに向かう場合、海と山岳地帯に挟まれた狭い平野を貫く街道が最短ルートで、四日もあればドーラに着けるらしい。

 けれども、街道は魔物だらけということだから、ウォレスの忠告通り、エステルは山岳地帯を抜ける山道を選択した。


「ただ、山道でも魔物は結構出るらしいわ」

「それじゃあ十日分くらいは食料を準備しておいたほうがいいわね」

 グロリアは、魔物の襲撃によりドーラ到着が遅延することも考えて食料の積み込む量をさっと割り出す。

「そうね、余裕があったほうがいいわ。後で宿屋の店主に頼んでおいて」

「オーケー」

「他に何か足りないものはある?」

 そう言ってエステルがみんなを見回したが、特に発言はなかった。

「いいみたいね。じゃあ、明日は日の出とともに起床、で、準備ができしだい出発しましょう。しばらくゆっくりできないでしょうから、今夜は十分休んでおいてね」



 夕食を済ませ、俺達は部屋に戻った。

 ……さっさと寝るか。

 そう思って寝る支度をしていると、

「タケル様、ズボンを直しますから貸してください」

 と、リリアが裁縫道具片手に俺の所にやってくる。

 俺のズボンはケルベロスにより脛の辺りが横一文字に破られたままになっていて、俺はそれがわからないよう裾を膝の辺りまでまくり上げていた。血でもかなり汚れていたが、膝から下は朝食の後に軽く洗っておいたため、多少は綺麗になっている。

「いやぁ、このままでいいですよ」

「すぐ直せますから」

 俺は遠慮したが、リリアがしきりに催促するので、折角だからとズボンを脱いで彼女に手渡した。

 すると、彼女は馴れた手付きで破れた箇所を素早く縫い合わせていく。


 それから五分と経たないうちに、

「はい、できました」

 と、彼女は残った糸を歯で切り、直し終わったズボンを広げて見せた。

 その速さもさることながら、破れた所がほとんどわからないほどの見事な出来栄えだ。

「すごい! ありがとうございます!」

 俺はズボンを受け取りながら礼を言った。

「い、いえ、これくらい大したことないです」

 俺に感謝され、少し赤くなりながら謙遜するリリア。

「いやぁ、リリア様はきっといいお嫁さんになれますね」

 さらに褒めると、彼女は俯き加減で小さく呟いた。

「そ、そうなれるよう努力します。タ、タケル様のた……」

「え? 何ですか?」

 語尾のところがよく聞こえなかったため聞き返すと、

「い、い、いえ、こ、こちらの話です」

 彼女はエルフ特有の長い耳のその先端まで真っ赤にしながら小声で答えた。

 真っ赤すぎて頭から湯気が立ちそうだ。


 ……リリアのこのはにかんだ姿がたまらないなぁ。

 そう思ってデレデレしていると、

「うっ!?」

 突然、背後から突き刺さるような視線を感じて思わず仰け反った。

 恐る恐る振り返ると、そこには三人の魔人!? い、いや、身も凍るような冷たい視線を俺に向けたエステルとグロリアとチャロが。


「……さ、さあ皆さん、あ、明日は早いから、も、もう寝ましょう!」

 俺は震えながらそう告げると、逃げるようにしてベッドの中に素早くもぐり込んだのだった……。


******


 次の朝、俺達は日の出とともに起きた。

 まあ、日の出とはいっても空は相変わらず分厚い雲に覆われていたから、正確には「明かりを点けなくても何とか見える時間」ということになるだろうか。


 すぐに朝食をとり、その後、俺は馬車の準備を、エステルはローブを受け取りに服屋へ、他の三人は荷物や食料の積み込みなどを行った。

 準備が整ったところで、彼女達は着替えのため一旦部屋に戻る。

 魔物に備えて、ここからドーラまで彼女達は完全フル装備なのだ。


 着替えが済んだ人から馬車に乗り込み、最後に鎧を着込んだグロリアが御者台に乗り込んだのを確認すると、

「じゃあ、出発しましょうか」

 と、エステルが号令。俺は勢いよく馬に掛け声をかけた。


 北門の所で一旦停められたが、俺達の顔を見るとヴァイロン軍はすんなり門を開けてくれた。

「ご無事で」

 と声をかけた顔見知りの門番の長に、グロリアは何も言わず、ただ力強く頷く。


 いよいよドーラの町に向けて出発だ。

 俺は門の向こうに伸びる街道に向け、馬車をゆっくりと走らせ始めた。

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