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023_強敵

 突然、

「伏せて!!!」

 エステルが俺に向かって叫ぶ。

「っ!!」

 彼女の切迫した声に、俺は自分の運動神経の限りを尽くしてその場にさっとしゃがみ込んだ。

 その直後、何かが猛スピードで俺の頭上をかすめていく。


 ……な、なんだ!?

 俺は地面に這いつくばりながら、急いでかすめたその「何か」を確認した。

 ……犬!?

 それは、人の大きさほどもある犬型の魔物だった。

 茶色の毛で覆われたずんぐりした体型で、後頭部から肩にかけて馬のようなたてがみが生えている。

 口が異常に大きく裂けていて、中にのこぎり状の鋭い歯が並んでいるのが見えた。

「ウォーウルフよ!」


 その魔物は一匹だけではなかった。

 周りの建物の陰から唸り声を上げつつ続々と現れる。

 数にして十数匹。

 ……こいつらが村人を襲った犯人なのか!?


 俺達はあっという間にウォーウルフに囲まれてしまった。

 すでに逃げ道はない。こいつら群れで罠を張っていたのだ。

 俺とエステルは背中合わせになってウォーウルフと対峙せざるを得なくなった。

 ……やばい、やばいよ。

 このどうしようもない状況に俺は酷く狼狽したが、しかし、エステルは落ち着いていた。

「タケル、そのまま私にくっついていなさい!」

 彼女は早口で俺に指示を与えると、冷静に呪文を唱え始めたのだ。

「は、はい!」

 俺は言われた通り、意識して彼女の背中に自分の背中を密着させた。


 唸りながらじりじりと包囲の輪を縮めてくるウォーウルフ達。

 その裂けた口からはよだれがだらだらと垂れている。

 きっと俺達がご馳走に見えているに違いない。


 ……早く! ……早く!

 俺はドキドキしながらエステルが呪文を唱え終えるのを待った。

 異常に長く感じる。時間にすればほんの数秒のはずなのに。


 ウォーウルフ達はある程度まで近付くと、ぐっと踏ん張る体勢をとった。

 また飛び掛るつもりだ。


 ここでようやくエステルが呪文を唱え終える。が、それとほぼ同時だった。ウォーウルフ達が一斉に俺達に向かって飛び掛ってきたのは。

「うぅっ」

 為す術なく、麻袋を抱きしめながら歯を食いしばる俺。


 直後、エステルが杖代わりの棒で地面を突き、大声で叫ぶ。


炎の円陣(クエソ エソ エナレ)!!」


 ボォボォボォッ!!


 大きな音が鳴り、目の前が真っ赤になった。

 俺達を取り囲むようにして、三つの炎の輪が現れたのだ。

 そしてそれらは、出現すると同時に爆発的な速度で周囲に大きく広がっていった。

 輪に触れたウォーウルフ達は一瞬で燃え上がり、そのまま後方に吹っ飛んでいく。

 さらにその輪は広がって、周りにあった木の柵や物干し台まで燃え上がらせた後、音もなくスッと消えた。


 ……す、すげぇ。

 俺はエステルが使った魔法の威力に圧倒された。

 何しろ俺達を中心に半径十五メートルほどの範囲がウォーウルフも含めて全て一瞬で黒焦げになってしまったのだ。


 エステルが使ったのは、たぶん火の中等魔法。

 それも自分の周りにいる複数の敵を攻撃できる範囲魔法だ。

 俺も彼女から少しでも離れていたら、ウォーウルフのように黒焦げになっていたに違いない。


「ふう」

 俺はガチガチになっていた体の力を抜き、軽く深呼吸した。

 一時はどうなるかと思ったが、村を全滅させたウォーウルフでもエステルの敵ではなかった。

 俺のご主人様はやっぱり天才なのだ。


「やりましたね」

 やっと気分が落ち着き、俺は振り向いてエステルに声をかけた。さあ、食料探索の再開だ。

「……」

 しかし、彼女は何故かまだ険しい表情のまま村の正門の方を凝視している。

 ……えっ?

 俺も彼女の視線に釣られるようにして、彼女の見ている方向を見た。


 すると、正門の外側から村の中に入ってくる大きな動物が。

 ……馬?

 いや、馬じゃない。

 馬ほどもある大きな犬だ。青白く光っている。

 ……ウォーウルフの親玉か?

 最初はそう思ったが、その魔物はウォーウルフのようにずんぐりした体型ではなかった。

 犬の品種でいえば、ドーベルマンのようにスマートな体をしていた。

 ただし、明らかにドーベルマンとは違う部分がある。頭だ。

 三つもある。

「ケ、ケルベロス!?」

 冷静だったエステルの表情がにわかに驚愕へと変貌した。


「タケル、あなたは早く隠れなさい!!」

 エステルは半分怒鳴り声で俺に指示し、自身は急いで呪文を唱え始める。

「は、はい!」

 俺はエステルにただならぬ雰囲気を感じて、大急ぎで近くの家の玄関に駆け込むと、ドアを閉め、割れた窓の隙間からそっと外の様子をうかがった。


 ケルベロスは悠然とエステルに向かって歩いてくる。

 その六つの目は全て彼女を睨んでいた。

 すごい威圧感だ。

 しかし、エステルは動じず、ケルベロスを見据えたまま呪文を唱え続けている。


 ほどなくしてエステルの長い詠唱は終わった。これで彼女の勝ちパターンだ。

 けれども、ケルベロスはお構い無しにドンドン進んでくる。

 俺は固唾をのんで両者を見守っていた。


 さらにケルベロスが近付いたのを確認すると、エステルは杖を構え、踏ん張るように体勢を若干かがめた後、満を持して魔法を発動させる。


火精の(イフリート エソ)咆哮(クハサ)!!」


 その瞬間、彼女の杖の先からロケットの噴射炎のような炎が勢いよく吐き出され、大きく広がりながら轟音とともにケルベロスに襲い掛かった。


 ……うっ!?

 その炎による熱気は凄まじかった。

 少し離れた所にいた俺ですら、その熱気に一瞬たじろいでしまったほどだ。

 ケルベロスが立っていた辺りは灼熱の地獄と化し、直接炎に触れていない近くの植木や井戸の建屋までもが激しく燃え上がった。


 炎はエステルの杖からしばらく噴射され続けたが、その後しだいに弱くなり、最後は大量の煙だけを残して消失した。

「はぁ、はぁ、はぁ、……」

 エステルの荒い息遣いが聞こえてくる。

 術者にもかなりの負担がかかる魔法だったようだ。

 ウィザードの精霊魔法において、精霊の名の付く魔法は高等魔法だと以前にエステルから聞いたことがある。

 エステルは相手が強敵であるとみて、得意の火の高等魔法を使い、接近戦になる前に一気にケリをつけにいったのだ。

 高等魔法は呪文がやたら長いらしいが、ケルベロスがゆっくり近付いてきたため、間に合った。


 煙は風に流され、ゆっくり横にスライドしていく。

 俺はそれが晴れるのを静かに待った。

 ケルベロスはまだ見えないが、たぶん煙の中で黒焦げになって倒れているに違いない。


 だが、

 ……!!?

 煙が完全に晴れた時、俺は愕然とする。

 立っていたのだ、ケルベロスが! それも平然と。

 火傷を負っている様子すらない。


「しまった、火耐性か!?」

 エステルが悔しそうに叫ぶ。

 ……火耐性?

 つまり、ケルベロスは火の攻撃に強いということか。

 でも、あんな炎をくらっても平気だなんてにわかには信じがたい。


 ケルベロスは平然と立っていたが、目は尋常じゃない光をたたえていた。

 ヘイトだけは激しく上昇したらしい。

「ウォウォウォォォォ!!」

 ケルベロスは三つの口でエステルに吠え掛かり、猛烈な勢いで彼女に迫った。

「くっ!」

 エステルは身構えつつ、新たに呪文を唱え始める。


 ケルベロスはエステルを間合いに捕らえると、大きな牙をむき出しにし、彼女に噛み付こうと三つの頭を素早く動かした。

 その攻撃を、彼女は呪文を唱えながら必死に避けている。

 彼女の動きはチャロほどではないがとても俊敏だ。

 昔知り合いから近接戦闘の訓練も受けたと言っていたが、たぶん、その人はローグだったのだろう。

 しかし、それでも明らかに彼女はケルベロスに押されている。

 ……がんばれ、エステル!!

 そう思いながら、俺は黙ってその戦闘を見守っていた。


 ケルベロスが少しだけ離れた瞬間、エステルはここぞとばかりに反撃にでる。

風の剣(サナ エソ トムキ)!」

 真空の剣を発動させたのだ。

 それはケルベロスに向かって一直線に飛んでいき、首の根元辺りに吸い込まれるようにして当たった。直撃だ!


 ……やったか?

 俺は身を乗り出してケルベロスの様子を確認した。

 しかし、ケルベロスは切断されることもなく、悠然と立っている。

 真空の剣が当たった所にわずかに切り傷ができた程度だ。

「だめか!?」

 エステルが落胆の声を漏らす。

 真空の剣は風の中等魔法。かなりの威力のはずだ。

 それでもケルベロスには有効なダメージを与えられないのか!?


「ウォウォウォォォォ!!」

 ケルベロスはさらにヘイトを上昇させ、エステルに苛烈な攻撃を開始した。

 三つの頭で三方向からエステルを追い詰めている。

 時々前足も振り上げて攻撃し始めた。


 ……どうしよう。

 このままではまずい。

 ケルベロスの攻撃に対して、エステルはまったく余裕がなくなってしまったようだ。

 それは、彼女の着ているローブがケルベロスの牙や爪に当たって、あちこち切り裂かれ始めたことからもわかる。

 ギリギリでかわしているのだ。

 疲れも見える。

 体力的な疲労に加え、大きな魔法を立て続けに使用した事による精神的な疲労もあるのだろう。

 それでも、彼女は懸命に次の呪文を唱えているようだ。


 でも、まだ彼女にケルベロスを倒せるような魔法が残っているのだろうか?

 ケルベロスに風の中等魔法はほとんど効かなかった。

 たぶん他の元素の中等魔法も同様だろう。

 さらに彼女の得意とする火の魔法は、火耐性のせいで高等魔法ですら効かなかった。

 とすれば、彼女に残されている高威力の魔法は……風の高等魔法だけだ。

 おそらく今はそれを唱えているのだろう。

 でも、高等魔法は呪文が長い。

 彼女が得意な火の魔法ならともかく、風の高等魔法では、呪文を唱え終える前にやられてしまうかもしれない。


 ……何とかしなければ。

 そう思ったが、このとき俺はある事にとらわれていた。「言い付け」だ。

 昨日「二度と無茶な事はしない」とエステルと約束したばかりなのに、ここでまた俺が出ていったら、彼女は激怒するだろう。

 もちろん怒られることが怖いわけではない。

 ただ、彼女が怒るのは非力な俺を心配してくれているからこそなのだ。

 その気持ちを踏みにじりたくはない。

 が、しかし……。

 俺は助けるべきか否か、逃げ込んだ家の中で一人悩んでいた。


「つっ!」

 その時、エステルの短い悲鳴が。

 見ると、彼女の頬に斜めの赤いスジが付いていた。

 ケルベロスの前足の攻撃を避けきれず、爪で引っかかれたのだ。

 声を出したせいで、呪文の詠唱も中断してしまっている。


 ……助けなきゃ!!


 その瞬間、俺の頭の中から「言い付け」が完全に素っ飛んだ。

 俺は隠れ家を飛び出し、ケルベロスに向かって走った。


「このぉっ!」

 俺はケルベロスの無防備な後ろ足に狙いを定め、デッキブラシの柄で思いっきり叩きつける。

 ……うっ!?

 しかし、反対に俺の手がジンジンしびれた。

 ケルベロスの足は鉄の棒のように硬かったのだ。

「くそぉっ!」

 それでも俺は、少しでもケルベロスの意識がエステルから離れるよう何度も叩きつけた。

 が、ケルベロスはまったく俺を無視し、エステルへの攻撃を続けている。

 ケルベロスのエステルに対するヘイトが高すぎるのだ。

 でも、他に良い方法が思いつかない。

「このぉっ、このぉっ、このぉっ!!」

 俺は必死にケルベロスの後ろ足や腰の辺りを殴り続けた。

「タケル! あなたは隠れてなさい!!」

 そんな俺を見かねて怒鳴り声を上げるエステル。

「俺の事より、エステル様は早く呪文を!」

「もうっ!」

 エステルは怒った表情を浮かべたまま、また呪文を唱え始めた。


 それからしばらく俺が必死に殴り散らしていたところ、一瞬ケルベロスの体がピクッと反応したような気がした。尻尾の辺りを殴った時だ。

 ……!?

 直後、俺はもの凄く強い視線を感じて思わず手を止めた。

 見上げると、ケルベロスの頭の一つから鋭い眼光が。

 ……うっ。

 俺は怯んで大きく後退せざるを得なかった。

「……」

 そんな俺の様子を見て、睨んでいたケルベロスの頭は前に向き直り、またエステルへの攻撃を再開する。


 ……こいつ、もしかして尻尾が弱いんじゃ?

 足や腰を叩いてもまったく反応しなかったケルベロスが、尻尾だけには反応した。

 普通の犬も尻尾を強く握るとすごく嫌がると聞いたことがある。

 ケルベロスも見た目は犬だ。尻尾が弱いに違いない。


 俺は再度ケルベロスに近付き、尻尾を狙ってデッキブラシの柄で軽く叩いてみる。

 するとやはり、ケルベロスはまたピクッとして一瞬動きが鈍くなったように見えた。


 ……やっぱり!

 非力な俺でも尻尾を叩けばケルベロスの注意を引く事ができそうだ。

 少しでも注意を引く事ができれば、その分、エステルは呪文を唱えやすくなるだろう。

「このぉっ、このぉっ!!」

 俺は夢中になってケルベロスの尻尾を追い回し、デッキブラシの柄で執拗に叩きつけた。

 もちろん、時々ケルベロスの頭の一つが振り返って睨みつけることがあったが、今度は俺は怯まなかった。

 ……あの頭は所詮少数派だ。

 たとえ一つの頭に睨まれたとしても、他の頭が同調しない限り、俺には何もしてこないだろう。

 一つの体に三つの意思、よく考えればかなり不自由な奴だ。

 俺は調子に乗ってケルベロスの尻尾を叩き続けた。


「……」

 そんな時、急に周りが静かになったような気がして我に返る。

 ……ううっ!?

 その瞬間、震えが起こるほどの猛烈な殺気が!?

 恐る恐る見上げると、ケルベロスはエステルへの攻撃を止め、三つの頭の全てを俺の方に向けていた。

 六つの目は、怒りの炎を燃やしながら俺を睨みつけている。


 ……ま、まずい、やりすぎた。

 ケルベロスの攻撃目標が、エステルから完全に俺に移ってしまったようだ。

 尻尾を攻撃されたことがよほど気に入らなかったのだろう。

 俺はケルベロスの迫力に思わず後ずさりしながら、頼みのエステルを見た。

 しかし、彼女はまだ呪文を唱え終えてはいないようだ。

 詠唱で喋れない彼女は、手を横に振って必死に俺に逃げるよう促している。


 仕方なく、俺はデッキブラシの柄を構え、足の震えを抑えつつゆっくりと後退した。

 恐らく、ここで背中を見せて逃げ出せば、狩猟本能を刺激して凄い勢いで追ってくるはずなのだ。

 山で熊に出くわした時も、睨みつけながらゆっくり後退した方がよいと聞いたことがある。

 とにかく、エステルが呪文を唱え終えるまで何とか時間を稼がなければ……。


 ケルベロスはゆっくりと体を動かして俺を正面に捕らえた。

 強烈な威圧感だ。

 すぐにでも逃げ出したい衝動を抑えながら、俺はゆっくりと後退した。

「グゥルウゥゥ……」

 けれども、ケルベロスは唸りながら俺の後退に合わせて前進してくる。

 ……エステル、まだか?

 そう思いながら、俺はさらに後退した。


 ドン。


 ここで不意に何かが背中に当たる。

 横目でそっと後ろを確認すると、それは板の壁だった。

 いつの間にか俺は民家に隣接する物置小屋の前にいた。

 知らず知らずのうちに追い詰められていたのだ。


 ……ま、まずい!?

 そう思った瞬間、

「ウォウォウォォォォ!!」

 ケルベロスが三つの口で俺に吠え掛かり、物凄い勢いでこちらに向かって走り出した。

 圧倒的な恐怖。

「……あぁっ、……やめ、……」

 俺は声にならない悲鳴を上げ、その場に立ち尽くしていた。

 もうどうすることもできない。


 ケルベロスがすぐそこまで迫った。

 三つの口を大きく開け、三方向から俺に噛み付こうとしている。

 奥歯まではっきりと見えた。

 ……もうだめだ。

 諦めかけたその時、


風精の光剣(シルフ エソ サーオ)!!」


 エステルの叫ぶ声が聞こえたかと思うと、ドカンという爆発音と共にケルベロスの体がビカビカと強く光った。

 ……うっ!?

 その光の衝撃に、俺は思わず仰け反る。

 直後、力の抜けたケルベロスの巨体が先ほどの勢いそのままに斜めになりながら俺に向かって突っ込んで来た。

「くっ!」

 俺は体勢を崩しながらも、辛うじて左に避ける。

 すると、ケルベロスは物置小屋の壁に激しく衝突し、それを派手にぶち破った後、ぬいぐるみの様に力なく地面に崩れ落ちた。

 その体からは湯気が上がり、六つの目は白目をむいている。

 もう、ピクリともしなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、……」

 俺は知らないうちに止まっていた呼吸を再開させた。

 ……助かった。

 恐怖から解放され、軽い放心状態になった。

 エステルも呼吸を荒くしながら立ち尽くしている。

 たぶん俺と同じ状態なのだろう。


 どうやら、エステルの風の高等魔法がギリギリで間に合ったようだ。

 近すぎてよくはわからなかったが、たぶん彼女はケルベロスに雷のようなものを落としたのだろう。

 さすがのケルベロスも落雷には勝てなかったようだ。


 少し落ち着いてくると、ケルベロスに勝った喜びが強くなってきた。

 ……今すぐエステルと抱き合って喜びたい。

 そう思ったが、そういえば言い付けの事をすっかり忘れてしまっていた。

 今回も相当の無茶をしてしまったような気がする。

 またこっぴどく叱られるはずだ。

 まあ、それも俺を心配してのことだから甘んじて受けよう。


「やりましたね!」

 俺はエステルに明るく無邪気に声をかけた。

 とりあえず今は言い付けの事は後回しにして、ケルベロスに勝った事を喜びたい。


「……」

 しかし、エステルはまったく喜んではいなかった。

 ただ、かといって言い付けを守らなかった俺に怒っているようでもない。

 彼女は目を大きく開いて、真っ青な顔をしていた。

 真っ青な顔をして、俺の右足を見ていた。


「え?」

 俺も釣られてエステルが見ている俺の右足に視線を向ける。

 すると、いつの間にかズボンの脛の辺りが大きく破れてしまっていた。そして、それより下の部分が何故か赤い液体のようなものでべっとりと濡れている……

「……うそっ!?」

 そう思った途端、右足に激痛が走る。

「うっ!!」

 俺は立っていることができず、その場に倒れ込んだ。

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