013_エリート
ヴァシアの町を出発してから五日目の午後、馬車の進む先に小さな湖が出現した。
「ハリッサの湖よ!」
グロリアが嬉しそうに叫ぶ。
キラキラと輝く湖の青色と、大地の赤茶けた色のコントラストがとても綺麗だ。
俺の乾き切った体も一瞬で生気を取り戻した。
湖に近付くと、その周りにはヤシの木などの熱帯の植物がたくさん生い茂っていた。
まさにオアシス。
そして、湖の北の畔には土色の建物がびっしり並んでいる。オアシスの町ハリッサだ。
町はそれほど大きくないようだが、魔物の襲撃に備えてのことか、岩石でできた重厚な城壁が異様に高く築かれていた。
ハリッサの町は、荒野の中にある唯一の町だ。東にあるヴァシアの町と、西にあるテミスの町のほぼ中間に位置しており、ここを旅する者達にとって理想的な中継基地になっている。
旅人は、ここで一時の休息を得、残り半分となった荒野の旅に備えて鋭気を養うのだ。
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町の東門をくぐると、通りには小さめの宿屋が無数に並んでいた。やはり旅人のための町といった感じだ。
ただ、宿屋以外にも湖で獲れた魚を売る店や、瑞々しい果物を売る店などが軒を連ねている。
荒野では新鮮な食べ物を口にすることができないから、これほど魅力的な商品はない。どの店も繁盛しているようだ。
……うまそうだなぁ。
俺達も当然それらの食べ物の魅力に惹かれたが、何とか我慢し、まずは今日泊まる宿屋を探すことになった。
が、何故かどこも混んでいて、なかなか空きのある宿屋を見つけることができない。
「なんでこんなに混んでるのよ」
四軒目の宿屋でも宿泊を断られたエステルが、イライラしながら馬車に戻ってきた。
ただ、イライラしているのはエステルだけではなかった。
通りにいる商人や旅人達も酷く機嫌が悪く、大声で怒鳴り合ったり、けんかをしたりしている。
……何かあったのだろうか?
「バシリスクの変異体が出没してるらしいわ」
五軒目の宿屋でも断られたエステルが、その宿屋の主人から情報を仕入れてきた。
主人の話では、ハリッサの西の街道付近に何匹かのバシリスクの変異体が縄張りを作り、頻繁に出没しては人や馬車を襲うため、街道が封鎖状態になっているというのだ。
バシリスクの変異体は大きさも強さも普通のバシリスクの倍以上で、傭兵レベルでは太刀打ちできないため、旅人や商人達がこの町に足止めされてしまっているらしい。
「それでこんなに宿屋が混んでるのね」
納得して頷くグロリア。
「商人達はそのバシリスクの変異体をキングバシリスクと呼んでいるそうよ」
「懸賞金は掛けられているの?」
「もちろん掛けられているわ」
「ふーん、じゃあ何で討伐されないの?」
「今までに二、三のバウパーティーが討伐しようとしたけど、失敗に終わっているらしいわ」
「へー、じゃあ懸賞金が高かったら私達が討伐してあげましょうか?」
グロリアが不敵な笑みを浮かべながら提案したが、エステルは残念そうに首を横に振った。
「キングバシリスクは高位の魔物と同じくらい強いらしいわ。ヒーラーがいれば何とかなるかもしれないけど、今の私達じゃあ討伐どころか街道を通ることさえ難しいかもしれない」
エステルはそこで気落ちしたようにため息をついた。
「……とりあえず、宿屋を探しましょう」
その後、俺達は手分けして宿屋を探すことになった。
「私は馬車の番をしてるわね」
ただ、闇エルフのグロリアだけは部屋が空いていても宿泊を断られる可能性があるため、馬車で一人お留守番だ。
しばらくして、チャロが空いている宿屋を見つけてきた。
少し割高な感じの宿屋だったが、この際、仕方がないだろう。
******
やっと宿屋には入れたのだが、
「まだ夕食には早いからバウギルドに行ってみましょう」
と、エステルが間髪入れずに提案する。
ヒーラーがいなければ、俺達もこの町で足止めされてしまう。
切実な問題なのだ。
俺達は荒野の旅で疲れた体に鞭打って、この町のバウギルドに行ってみることにした。
この町のバウギルドは、ヴァシアのバウギルドと同じくらいの広さだったが、中はかなり混雑していた。キングバシリスクの懸賞金目当てで他の地域からもバウが集まってきているらしい。
ただ見たところ若年者か、もしくは年配者が多い。
不思議に思ってエステルに尋ねると、
「ここはヴァイロン王国からそんなに離れていないから、たぶん第一線のバウ達はキングバシリスクが現れる前にヴァイロン王国に向かってしまったのよ」
と、彼女なりの見解を教えてくれた。
エステルは掲示板にたくさん張ってある勧誘待ちの紙を右端から一つずつチェックしていたが、左端まできてまた気落ちしたようにため息をつく。
「やっぱりヒーラーの勧誘待ちはないわね」
カリオペにもヴァシアにもヒーラーの勧誘待ちはなかった。
ヒーラーというのは思った以上に貴重な存在のようだ。
エステルは肩を落としつつギルドの出入り口に向かって歩き出したが、途中でグロリアとチャロがまだ掲示板を見ていることに気付き、彼女達を待つためにとりあえず近くのテーブルに腰を下ろした。
俺も彼女に従ったが、そのテーブルは三人掛けだったため、座らずに彼女の後ろで立って待つことにした。
しばらくして掲示板を見終えたグロリアとチャロが俺達のもとに戻ってきた。
「キングバシリスクの懸賞金、結構高いわよ」
グロリアは懸賞金のかかっている魔物の情報を見てきたらしい。
「でもヒーラーがいないと倒せないわ」
エステルはテーブルに頬杖を突きながら、またため息をついた。
「困ったわね、こんな所で足止めを食うなんて……」
……あれ?
その時、何となくバウギルドの中を眺めていた俺の視界に、ある女性の姿が映り込んだ。
見覚えがある。
淡い緑色の長髪に先の尖った長い耳、そして白いロングコート。
間違いない、ヴァシアの町で俺が財布を拾ってあげたあの女性だ。
奥のカウンターからこちらに向かって歩いてくる。下を向きながらトボトボと。何やら元気がなさそうだ。
「…………」
その女性は俺にまったく気付かずに、俺のすぐ横を通り過ぎようとする。
俺は奴隷という立場だから一瞬どうしようか考えたが、彼女の元気のない様子に、思い切って声を掛けてみることにした。
「こんにちは」
「……えっ!?」
突然声を掛けられてびっくりしたのか、彼女は軽く仰け反った後、きょとんとした顔で俺に視線を向ける。
「また会いましたね」
「……ああ、あの時の!」
彼女は、授業中に居眠りをしていたらいきなり先生に指されてしまった不幸な生徒のようにあたふたした後、
「……その節はありがとうございました」
と、何とかうやうやしくお辞儀をした。
ただ、やはりまったく精気は感じられない。
「元気がないようですが、大丈夫ですか?」
「え? ええ、ちょっと考え事をしていただけです」
「そうですか、俺はてっきりまた財布を落として落ち込んでいるのかと思いました」
すると、その女性はやっと笑顔になった。
「いえ、財布は大丈夫です。ほらここに……」
そう言って彼女は自信ありげにコートのポケットに手を入れた。のだが、そのあと一瞬で笑顔が消える。
「あれ、……ない。おかしいな、ここに入れておいたはずなのに」
彼女は青くなってコートの他のポケットの中を必死に探り始める。
「……おかしいな、……何でないの」
……冗談で言ったつもりだったのに、まさか本当にまた落としたのか?
ちょっと不安になったが、ふと見ると、彼女のコートの内側に首から掛けられた例の財布がちらちらと見え隠れしている。
「……あのう、その首に掛かっているの、そうじゃないですか?」
「え? ……あっ!?」
女性は思い出したようにコートをめくり、財布を見つけるとすぐに安堵した表情を浮かべた。
「そうだ、また落とさないように首に掛けといたんだった。すっかり忘れてました」
……天然?
俺は、頭の上に載せたことを忘れて必死に眼鏡を捜す定番のお笑いネタを思い出した。
すると、そのやり取りを見ていたエステルが俺の袖をちょんちょんと引っ張る。
「……そちらの方は?」
「え? えーと……」
そう言えば名前を聞いていない。
俺が困った顔をしていると、その女性が申し訳なさそうに言った。
「そういえば、助けていただいたのに名前も名乗っていませんでしたね」
彼女は姿勢を正し、俺に向かって爽やかに名乗る。
「リリア・ブレイスフォードといいます」
「俺は――」
彼女に続いて俺も名乗ろうとしたが、エステルがさっと立ち上がり、俺の言葉を遮るように言った。
「私はエステル・ドゥ・ビューリー。そして彼は、私達の奴隷のタケルよ」
「奴隷?」
リリアと名乗った女性は怪訝な顔をして俺の手首にはめられた拘束リングをちらっと確認する。
「……奴隷、でしたか」
リングを見て彼女は一瞬残念そうな顔をしたが、しかし、何故かすぐに俺に敬意の眼差しを向けた。
「奴隷にもかかわらず、ねこばばもせずに私に財布を返してくれたとは、ますます感心しました。ほんとに素晴らしい方ですね」
「い、いやあ、それほどでも」
綺麗な人に褒められ、ちょっと顔が熱くなってしまう。
「……ところで」
そんな照れてる俺を軽く押し退け、エステルが話題を変えた。
「その格好からするとクレリックですか?」
「え? あ、はい。そうですけど」
「どのくらいの魔法を使われるんですか?」
「キュテレア大学を卒業しましたので、一応高等の魔法まで使えます」
「その若さでキュテレアを卒業!? すごい、エリートじゃないですか!」
後でエステルに聞いた話によると、キュテレア大学とは、ヘルメス神聖国にあるこの世界で唯一のクレリック養成学校だ。
何でも毎年百人以上入学するが、卒業できるのはその内の十人にも満たないという。
一応三年制ではあるが、二年生に進級するには初等魔法が、三年生に進級するには中等魔法が、そして卒業するには高等魔法が使えるようにならなければならないため、十年以上在籍している者も少なくない。
リリアはその学校を規定通り三年で卒業したエリートらしいのだ。
「い、いえ、そんなことないです」
エステルに驚かれ、リリアは恥ずかしそうに首を横に小さく振った。
「ご謙遜を、……でもどうしてそんな方がバウギルドに?」
「修行のためにバウギルドに所属しています」
「なるほど、偉いわ」
エステルは少し大げさにリリアを褒め立てているように見える。
「……それで、今、どこかのパーティーに所属してるんですか?」
……ははーん。
そこまで聞いて、俺は何となくエステルの魂胆が分かってしまった。
エリートクレリックであるリリアがパーティーに所属していないはずは無い。
だから、エステルは俺が彼女の財布を拾ってあげた事をダシにして、彼女を今所属しているパーティーから引き抜こうとしているのだ。
しかし、リリアの回答は意外なものだった。
「……いいえ、していません」
彼女の表情がにわかに曇る。
「ほ、ほんとに!?」
エステルは信じられないといった表情で聞き返した。
「……先ほどクビ、い、いえ、か、解散してしまったんです。所属していたパーティーが。そ、それで今、ギルドに勧誘待ちの掲示を出してもらうように頼んできたんです」
リリアの喋り方が急にぎこちなくなった。
「それじゃあ、よかったら私達のパーティーに入りませんか?」
パーティーに所属していないとわかり、エステルはすかさずリリアを勧誘しにかかる。何しろヒーラー不在のワイルドローズにとって、リリアは喉から手が出るほどほしい人材なのだ。
が、何故か隣に座っていたグロリアは、露骨に嫌な顔をしてエステルの手を引っ張る。
けれども、エステルはそれを邪魔臭そうにさっと払いのけた。
「えっ、私なんかが、いいんですか?」
「ヒーラーがいなくて困ってたんですよ。あなたなら大歓迎です」
すると、リリアの顔がパッと明るくなり、
「で、では、勧誘待ちの掲示依頼を取り消してきます!」
と、嬉しそうにカウンターの方へ走っていってしまった。
ただ、リリアが走り去った後で、
「私、エルフをパーティーに入れるの反対」
と、グロリアが不機嫌そうな表情でエステルに抗議し始める。
「彼女はハーフエルフよ。森エルフじゃないわ。見ればわかるでしょう?」
「でも嫌なの」
グロリアがあからさまに嫌な顔をするのは珍しい。
闇エルフの彼女は、色白のエルフにコンプレックスでも持っているのだろうか?
「仕方ないでしょう、他にいないんだから。それにキュテレアを卒業した正真正銘のクレリックなんて、そんじょそこらにはいないのよ。私達はついてるわ」
バウギルドに所属しているクレリックは、そのほとんどが正式なクレリックではない。大抵はキュテレアの中退者だ。だからリリアの存在はかなり貴重といえる。
「……」
グロリアはまだ納得していないようだったが、リリアの貴重さは理解しているのか、それ以上は何も言わなかった。
リリアが戻ってきたので、まず一人ずつ自己紹介をし、続けてワイルドローズの目的についても話したのだが、
「ヴァイロン王国に行くのですか。私も一度行ってみたいと思っていました」
と、リリアはまるで観光旅行にでも行くかのように嬉しそうに受け入れた。
「それと、タケルはワイルドローズで使っている奴隷だから、購入代金をメンバーで割り勘にしているんだけど、同意してくれる?」
エステルが確認すると、リリアは申し訳なさそうな顔をしつつも答えた。
「タケルさんを奴隷として扱うのは心苦しいのですが、パーティーの決まりというのであれば仕方ないですね」
……こうして、リリアが新しく俺の主人に加わった。
リリアは別の宿屋に泊まっていたが、それでは何かと不便なため、俺達と同じ宿屋に移ることになった。
幸い、宿屋は二人部屋が一部屋だけ空いていたので、彼女はその部屋を借りることができたようだ。
「せっかくだから懸賞金の掛かったキングバシリスクを全部倒して今回の旅費にしない?」
夕方、リリアを含め、みんな揃って食事をしている時、エステルが急にそんなことを言い出した。
さっきまで街道を通ることさえおぼつかないと嘆いていたのに、優秀なクレリックを獲得して気が大きくなっているようだ。
「そうね、ヴァイロン王国にたどり着いても、もしかしたら仕事がもう終わっている可能性もあるし、その場合、今回の旅費はまるっきり赤字になっちゃうしね」
エステルの提案にグロリアも同調。
チャロも頷いている。
ただ、リリアだけは何の反応もない。
「リリアもいいでしょ?」
待ちきれずにエステルが尋ねると、
「……え? あ、ああ、そ、そうですね」
「じゃあ決まりね」
一応彼女も賛同したが、いまいち気が乗らないのか、その後うつむいてしまった。
******
次の朝、朝食を済ませると、俺達は準備を整えてキングバシリスクの討伐に向かった。
もちろんみんなフル装備だ。
街道沿いに確認されているキングバシリスクの巣穴は三つ。
その内、まずはハリッサの町に一番近い巣穴の主を狙う。
町から馬車で街道を三十分ほど行ったところにある岩山の麓にその巣穴はあるらしい。
俺は馬車を走らせた。
辺りは見慣れた荒野の風景だ。朝から日差しが強い。
「久しぶりの討伐だから腕が鳴るわ」
俺の隣に乗っているグロリアが嬉しそうに言う。やる気まんまんだ。
キングバシリスクの巣穴は情報通りの場所にあった。
岩山の麓に異様にでかい穴が口を開けている。
直径は五、六メートルくらいだろうか。
巣穴というよりは大きな洞窟と言った感じだ。
こんな巣穴の主とこれから戦うのかと思うとぞっとする。
……まあ、俺は見ているだけだが。
俺はグロリアの指示で馬車を巣穴から少し離れた岩山の日陰に停めた。
今回、俺は荷物持ちとして彼女達と同行するよう言われていたから、馬車はとりあえずここに放置なのだ。
グロリアは馬車が動かないよう車輪を固定し、俺は馬が心配しないように大量の干し草と水の桶を置いた。
馬はここに置いていかれることも知らず、美味しそうに干草を食べ始める。
……魔物にやられるなよ。
俺はそんな馬の無事を祈りつつ、すでに巣穴に向かって歩き出していたエステル達の後を追った。
「いるかなぁ?」
巣穴に到着すると、早速中をのぞき込むグロリア。まるで野良の子猫に餌をやりにきた無邪気な小学生のようだ。しかし、巣穴の中は真っ暗で奥まで確認できない。
そんな彼女を横目に、
「まあ入ってみればわかるわ」
と、エステルは落ち着き払った様子で装備の点検を行なっている。
チャロもいつものように淡々と準備運動。怖くはないのだろうか?
ただ、リリアだけは少し緊張しているのか、小刻みに震えていた。
「リリア様、大丈夫ですか?」
「え、は、はい。もちろんです!」
……武者震いというやつか?
「タケル、ライトリキッドを二つ準備して」
「あ、はい」
エステルに言われ、俺はベルトポーチからライドリキッドと呼ばれる物を取り出した。
このリキッドは、光を発する魔法が封入されたマジックリキッドだ。瓶の蓋を開けると中の液体が強い光を発するらしい。
松明やランプなんかよりずっと明るく、しかも、約三時間はその効力が持続するという優れものだ。
もちろん高価だから一般人が使えるような代物ではないが、洞窟や迷宮に潜るバウにとっては必需品で、今回持参したライトリキッドもエステルが以前から常備していた物だ。
俺がライトリキッドの蓋を少し開けると、教えてもらった通り、中の液体がまばゆい光を放ち始める。
それを見て、エステルが次の指示を出した。
「リリア、グロリアとチャロにバフを」
「はい」
エステルの指示を受け、リリアは目を閉じて呪文を唱えた後、グロリアに魔法をかける。
「ヘルメスの鎧!」
すると、グロリアの体がほのかな赤い光をまとった。
同様にしてチャロにも魔法を施す。
「ヘルメスの羽!」
チャロの場合はほのかな緑色の光だった。
……これがバフか。
リリアが二人に施した魔法は、一時的に肉体に関する特定の能力を上昇させる支援魔法だ。光明魔法に属しており、クレリックしか使用することができない。
上昇させることのできる能力は肉体剛性、腕力、素早さの三つで、対応するバフは肉体剛性が「ヘルメスの鎧」、腕力が「ヘルメスの剣」、素早さが「ヘルメスの羽」だ。
バフをかけられた者は、上昇した能力によって色の異なるオーラを体からほのかに発する。
肉体剛性は赤、腕力は青、素早さは緑、のオーラだ。
ゆえに、オーラを見ればその者にどんなバフがかけられているか容易に判別できる。
一見便利なバフだが、一人に一つしかかけることができず、また、持続時間は概ね十五分程度だから長期戦の場合は途中でかけ直す必要がある。
さらに、バフは単純に能力が上昇するのではなく、一つの能力を上昇させると、他の能力が低下するような副作用がある。
例えば、「ヘルメスの鎧」をかけると肉体剛性の能力は二割程度上昇するが、腕力と素早さの能力が一割程度低下する、といった具合だ。
だから、バフはケースバイケースで使い分けする必要がある。
全ての準備が整ったのを確認すると、
「じゃあ、行きましょうか」
エステルの号令で、ワイルドローズはキングバシリスクの巣穴に足を踏み入れた。
いよいよバウとしてのワイルドローズの初仕事だ。