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第12話

「ふたりとも全然見えないよっ?!」

「ひどいよっ?!」

「そうですっ!?」

 あやのの叫びにひばりと麟が同時にツッコンだ。

 その勢いに、あやのは少し気圧されてしまう。

「い、いやでも……ちょっと信じられない……って?」

 しかしいまだに信じられないあやのが言うと、ひばりは無言で“TaC”を差し出した。

 その上にホロモニターが展開し、央華学園の学生証が表示される。

「……“TaC”。うわ、ほんとに高校生だ!」

「ですね」

「皇見さんまでっ?!」

 “TaC”を覗き込んだあやのと麟が呟くと、ひばりはショックを受けたように声を上げた。

 そんなひばりの様子に麟が申し訳なさそうになった。「す、すいません……」

「……まあ良いけどね? いつもの事だし……」

 ひばりは苦笑いを浮かべつつ気にしていないと言う。

 そして次に麟が身分証を提示した。正式な渡航パスだ。

 これを見てあやのは目を丸くした。

「ほんとだ……」

「だね……」

 ひばりも隣でうなずいていた。

「は、支倉さんっ?!」

 そんなひばりに、今度は麟が愕然となった。

「いやその……ごめんなさい」

「あたしもごめん」

 声をあげた麟に、ひばりとあやのが申し訳なさそうに謝る。それを見て麟が慌てた。

「い、いえお気になさらずに……私も、ご免なさいです」

 そう言って頭を下げる。

「……」

「……」

「……」

 三人揃って頭を下げ合い、沈黙がその場を支配した。

「……ぷっ」

「ぷふ!」

「ぷぷっ! も、もうだめっ!」

 誰からともなく吹き出してしまい、次第に三人は笑みをこぼし、笑い始めてしまう。

「うふふふ♪」

「あはははっ♪」

「ふふふ♪」

 人気の無い公園に、三人の少女の笑い声がこだました。

 それから三人は笑うことをやめられず、しばらく笑っていた。

 やがてひとしきり笑い終えてから三人はひといきついた。

「ふぅ」

「はぁ」

「ほぉ」

 いつのまにやら三人並んでベンチに座って息を吐く。

 太陽が燦々と陽の光を降らせるが、まだ五月の初旬。暑いと言うほどではない。

 ポカポカ陽気にあてられて、三人は顔を緩ませていた。

「はぁ……良いお天気ですねぇ」

「うん。日向ぼっこにちょうど良い陽気だよね?」

「そうだねえ。なんかこうして一日ぼーっとしていたくなるなぁ。つか、あたしらなにしてたんだっけ?」

 麟とひばりにうなずきながらもあやのがぽつりと呟いた。

 一瞬の間が有り、麟とひばりがハッとなる。

「い、いけません! 私は行くところがあったのでした!」

「あたしは麟ちゃん手伝ってからお買い物だった!」

 声をあげながら立ち上がる二人。

「えー……良いじゃん。のんびりしようよ〜」

 ただひとり、あやのだけが表情を緩ませたままのたまう。

 そんな彼女をひばりと麟がうろんげに見た。

「……」

「……」

「……わ、わかったよぅ」

 ふたりの放つ無言の圧力に耐えかね、あやのは降参とばかりに手を挙げた。

「よろしい。で? 麟ちゃんはどこへ行きたいの?」

 満足げにうなずいてから、ひばりが麟に訊ねた。麟はひとつうなずいて口を開く。

「はい、央華学園へと向かいたいのです。そこで家族が働いていますので」

「学園に?」

 麟の言葉を聞いてひばりは軽く首を傾げ、北側を見やる。

 央華学園は、学園都市中央の小高い丘の上に存在している。

 南側の住宅地からでも見えるのだが。

「……その、この辺りをお散歩しながら向かっていたのですが、回りの景色が……」

「ああ」

 少し顔を赤らめ、言いにくそうに告げる麟に、ひばりは納得したようにうなずいた。

 学園都市は計画都市としての側面もある。毎年この都市へと引っ越してくる人間も多く、住宅地は急速に拡張されてきた。

 そのせいか、似たような住宅が多く、区画の見た目も同じような場所が多い。

 おかげである種迷路じみた構造になった場所も多く、慣れない内は迷いやすい。

 特に都市の外から来たばかりならこの住宅地側の区画は道順がさっぱり分からないだろう。

「繁華街の方に行く電車を使えばすぐだったのに」

「そうは聞いていたのですが、住宅街側も見ておきたかったもので……」

 ひばりの指摘に麟ははにかむように笑った。

「それで、へばってるところをあたしが見つけたんだよ」

「そうだったんだ」

 横から顔を出したあやのが笑いながら言うと、ひばりはうなずいた。

「……確かに慣れない内は迷うよね。うん、それじゃああたしが案内するよ」

 笑顔で言うひばりに、麟の表情は明るくなった。あやのも少し安堵しているようだ。

「助かります支倉さん」

「うん、あたしも学園都市は初めてだから、助かるや」

「って、あやのちゃんも?」

 その言葉にひばりは驚いた顔になった。

「たはは……実はそーなんだ。あたしはねーちゃんとにーちゃんに会いに来たんだけど、まあ急いでないし」

 あやのは照れ臭そうに頬を掻きながら笑った。

 そんな二人の様子を見て、ひばりは責任重大だとばかりに気合いを入れる。

「うん、じゃあ二人ともあたしに任せておいて。この辺は庭みたいなものだから!」

「おー」

「お世話になります」

 握りこぶしを作って息巻くひばりの姿に、あやのは感嘆したように小さく拍手をし、麟は丁寧に頭を下げた。

 すると、二人に持ち上げられて恥ずかしくなったのかひばりは少し赤くなってごまかすように咳払いした。

「こほん。じゃ、じゃあ行こっか?」

 そうして、三人の少女の珍道中が始まった。

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