第11話
ひばりの言葉に、身構えていた黒髪の少女が、緩くウェーブした髪を揺らしながら構えを解いた。
そして、金髪の女の子が丁寧な所作でベンチから立ち上がる。少々小柄な彼女は、小学生くらいだろうか?
「……はい、確かに少々難儀しているところなんです。よろしければお力をお貸し願えますか?」
そう言って頭を下げる女の子に、ひばりは軽く息を呑んだ。
物腰柔らかで丁寧なそれは育ちの良さをうかがわせるものだ。
さりとて嫌みを感じるでもなく。むしろ好感を持てる雰囲気を感じてしまう。
不思議な魅力を醸し出す女の子。
ひばりが彼女に持った感想はそれだった。
「……うん、良いよ? あたしはひばり。支倉ひばりだよ? よろしくね」
うなずいたひばりがにっこり笑いながら自己紹介すると、女の子は口元を両手で押さえつつ、あっ?! となりながらあわてて顔を上げた。
「申し訳ありませんまだ名乗っていませんでした」
そう言って居住まいを正す。
ゆったりとした所作で、美しい金髪を揺らしながら女の子は小さく会釈した。
「初対面の方に対しての無作法をお許しください。初めまして、わたくしは麟。皇見 麟ともうします支倉さん」
年下の女の子の、申し訳なさそうなその様子に、ひばりは慌ててしまう。
「い、いいよ皇見さん。気にしないで?」
ひばりの言葉に麟は顔を上げた。
「で、ですが……」
「堅苦しいのは苦手だし、ほんとに気にしないで?」
すまなそうな麟に、ひばりは苦笑した。どうやら幼いながらに真面目な女の子のようである。
育ちの良さも含めて世間擦れしていないのが見てとれた。
そんなふたりのやりとりを見守っていた、いまひとりの少女がニカッと笑う。
「そうそう♪ 仲良くしようよ☆」
場を明るくするほどの、邪気の無い笑顔。その笑顔に、やはり見覚えがあるような気がして。
ひばりは小さく首をかしげた。
それを既にした様子も無く、肩の辺りで切り揃えられた緩くウェーブしている黒髪を揺らし、Tシャツに包まれた身体を軽く反らしながら、ジーンズ生地のスカートに包まれた細い腰に両手を当てた。
「あたしはあやのっていうんだ☆ よろしくな♪」
輝く太陽のような笑みとともに自己紹介する少女。それを眩しく感じるひばり。
「う、うん……」
あやののそんな笑顔に既視感を感じ、ひばりは気後れしながらも戸惑うようにうなずいた。
それを見たあやのはきょとんとしたが、すぐにまた笑顔になった。
「なんだ緊張してんのか? 大丈夫だぞ☆ あたしももう中学生! 麟もひばりも、ふたりともどーんと大船に乗ったつもりでこのあやのお姉さんに任せとけっ!」
そう言って無い胸を張るあやのの言葉に、ひばりと麟が訝しげになった。
「お姉……?」
「……さん?」
呟くふたりにあやのは「ん?」となった。
その邪気の無い顔に、ひばりは一瞬迷うが意を決して“TaC”を取り出した。
「……あ、あの、あたし高校生なんだけど……」
「……わ、わたくし、高校生なのですが……」
台詞が被った。
『えっ?』
となって、ひばりと麟が顔を見合わせた。
ひばりの身長は138センチ。対して麟もそれほど目線は変わらない。140台半ばといったところだろうか?
だからひばりは、麟を年下だろうと考えていたのだ。
それは麟も同様だったらしく、ひばりを見ながら目を丸くしていた。
そして……。
ガッ。
と同時に手を出して握手するふたり。
言葉がなくとも通じ合う何かがあったのは確かのようだ。
そんなふたりを見て、あやのはぽかんとなっていた。
今年中学生になったあやのから見ても、ひばりと麟は小学生にしか見えなかったからだ。
にも関わらず、ふたりとも年上だと言う。
その事実に、彼女の意識は一瞬フリーズしていた。
そして。
「……………………えぇぇえ~~~~っ?!」
人通りの少ない住宅街の公園に、少女のすっとんきょうな声が響き渡った。