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第10話


 ひばりの住む央華学園都市は計画都市だ。もともと小さな町や集落があったレベルだが、それらを飲み込むようにして、計画的に都市は構築された。

 都市の中央部には央華学園が存在し、拡張も見込んだ広い敷地面積を誇っている。すでに来年度に増える生徒数のために新しい棟が建っており、次の棟も建築中だ。

 その学園から南へ下ると住宅街へと出る。マンション区画と一戸建ての区画に分けられたそこは人口増加に対応すべく、南へと拡張が続いていた。

 そこから東へ向かえば商店街。西へ向かえば繁華街へと別れる。こちらも順次増築中だが、住宅街に比べれば緩やかである。

 さて、我らがちっちゃなヒロイン支倉ひばりであるが、住宅街を東へ。つまり商店街方向へと進んでいた。


「良いお天気だね?」

 歩きながら言うと、肩口に小さな人影が姿を顕した。ひばりのサイバーファミリア風華だ。ポケット内の“TaC”から立体映像を作り出しているのだ。


『はいマスター。今日は一日晴れるそうです』

「帰ったらお布団フカフカだよ~♪」

 風華の答えにひばりは顔をほころばせた。そんな主を風華は見上げる。

『そうなんですか?』

「うん、お日様の匂いがして、これが気持ち良いんだよね~♪」

 頬を緩める主の姿に、目をぱちくりさせる。

『……そうですか。私にはわかりませんが』

 考え込むようにして風華が呟くと、ひばりはアッとなった。

「あ、ごめんね? 風華」

 慌てて謝る。風華にはフカフカの干したお布団は味わえないのだ。

『どうしましたか?』

 だが、風華は首を傾げた。ひばりが謝る理由がわからないようだった。

 それでもひばりは申し訳なさそうにしながら風華に説明する。

「えっと、気分を害しちゃったかな? って……」

 そんな主の姿に、風華は驚いてしまう。

『お優しいですね? マスターは。私はプログラムです。羽月のような感情を発露する自我はありませんよ。人工知能なのでさまざまな反応を組み合わせて答えたりもしますが』

 苦笑いしながら言う風華だが、ひばりは納得しなかった。

「けど……あたしにとっては大事なお友だちだよ」

 そんな主の言葉に、風華は驚いたようだった。

 そして、柔らかく笑みを浮かべる

『……ありがとうございますマスター。嬉しく思います』

 そう答えた風華には、本当に心があるように見えた。

 それから、ひばりはのんびり歩きながら風華と談笑した。

 いまだとんちんかんな受け答えもないわけではないが、間違えても、それを間違いとして経験とし、自ら修正していく事ができる。

 ゆえに、こうしたマスターとの日常的なコミュニケーションをとることで、サイバーファミリアは育っていくのだ。

「大丈夫~?」

「は、はい。ありがとうございます……」

 不意に聞こえてきた声にひばりはおや? となり辺りを見回した。

 ゆっくり足を進めていたため、いまだ住宅街からは抜けていない。左手に見える公園を覗き込む。

 ゴールデンウィークの最終日とあって人影はほぼゼロ。比較的近いベンチに座る少女と、それを覗き込む少女の二人くらいしか見当たらない。

「……お手数をお掛けします」

「気にしないでよ♪ 困ってるときはお互い様って言うじゃない」

 覗き込んでいた少女が顔をあげた。緩くウェーブした黒髪を肩辺りで切り揃えた少女だ。

 彼女はベンチに座る少女に、ニカッと笑って見せた。

「……あれ?」

『? どうしましたか? マスター?』

 首をかしげるひばりに、風華は主たる少女を見上げながら首をひねった

「あ、いや、なんだか見たことあるような?」

『? よく分かりませんね』

「……なんだか困ってるみたいだし、ちょっと行ってみよう」

『え? マ、マスター?』

 ベンチの二人の様子が気になり、ひばりは公園へと入っていくとふたりに近づいた。

「……あの」

 少し遠慮がちに声をかけるひばり。黒髪の少女が振り返りながら身構え、ベンチの少女が顔をあげた。

 サラリと揺れる金糸が、陽の光を反射して、キラキラと輝く。先端の方をロールさせたそれは主張しすぎず、上品さを醸し出していた。そして処女雪のように白い肌に抑え目の鼻梁。丸く小さめの鼻は愛らしく、くちびるは赤い蕾のよう。目は大きく見開かれ蒼い空のような瞳がひばりを映した。

 ひばりは思わず息を飲んでしまった。

「……なんの用?」

 黒髪の少女が鋭い目付きで睨んできた。だが、ひばりの目は目の前の金髪少女から離れなかった。

「? あの?」

 金髪の少女が固まったひばりを見て首をかしげた。その所作ひとつとっても上品さを感じられる。

 声をかけられたひばりは金縛りが解けたようになった。

「……あ、えっと……」

 先ほどの感覚に戸惑いつつも、ひばりは続けた。

「なにか、お困りですか?」

 はにかむように笑いながら、ひばりは彼女達にそう聞いた。

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