がっついて
その場にいる全員に、自分が偽GMである事を告白する光司。土下座までして。
そこまでするのには理由がある。
「おい、それってアカウントハックじゃねぇか」
「その通りです!それを承知の上でお願いしたい!」
オンラインゲームでの最大級の非マナー行為に、†イノウエ†が非難の声をあげる。ゴンザは呆れているのか言葉もないようだ。
だが、みなみは興味を持ったらしく、コウシに声をかけてきた。光司の『お願い』に予想が付いているのかもしれない。
「意図的にハック出来たわけじゃなくて、偶然ログインできちゃったんだよね?……ねぇ、GMの能力ってどういうのがあるのかわかるの?純粋に興味から聞くんだけど」
「マニュアルがあるわけじゃないから、ウインドウにある『GMメニュー』という項目の中にある物しかわからないけど、それでいいかな?」
一瞬、静かになる。
「うん。わかる限りで良いよ。知りたい」
「なら答えるけど……不可視化とか、バンしたりとか、広域メッセージ出したりとか、NPCの役職変えたりとか」
「……とか?」
光司はニヤリと笑う。間違いない、みなみさんはアレに興味がある。
「ジェネレイト、とか。あとは……クリエイトっていうコマンドがある」
みなみさんがゴクリと唾を飲み込んだ気がした。
ドリンク系アイテムを使ったわけじゃないから、飲み込むアクションなんて表示されないはずだけど、なぜかわかった。
「で、さ。お願いって言うのはなんなんだい?」
「もちろん、使ってみたいんだよ。クリエイトを。でも使おうとするとアイテムの番号と名称を入力しろと表示されるんだ。たぶん、間違った物を生成するのを防ぐためだろうね。やってないけどジェネレイトも同じだと思う」
ここまで話すと、みなみさんはゆっくり頷いた。
「つまり、君はアイテム番号がわからない。自分が持っているアイテムなら、詳細データ表示画面に番号がでるから複製できるけど……」
「そう。それだと持っているアイテムの複製しかできない。でも番号と名前さえ分かれば、強力なレア装備とかも生成できる。たとえば『屠竜』とか」
みなみとコウシは、顔を見合わせて『ニヤニヤ笑い』のエモーションを表示。
状況が分からない†イノウエ†が、イライラしたよう二人の顔を見比べて眉をひそめる。
「んだよ。そんなコマンドあるなら好きに生成すりゃいいじゃねぇか。自慢かよ」
「いや、番号と名前がわかれば生成できるけど、コウシ君はそれがわからないんだ。まぁ普通番号なんて覚えてないしね」
「馬鹿じゃねぇ?そんなのWIKIは無くても、ギルドホームページとかで手に入れたレアの写真載せてるやつとかいくらでもいるだろ。あんたの攻略サイトにだっていくつか載ってただろ」
「うん、その為には一旦ログアウトしなきゃいけないよね。情報を見る為に。でも彼はたまたまGMアカウントに繋がっちゃっただけ。だからログアウトしたらもう一度GMキャラが使えるかわからないんだ」
ここでようやく†イノウエ†にも『お願い』の内容がわかったらしい。
「なんだ、つまり、その。自分はログアウトできないから、見てきてくれってのか」
「それだけじゃ土下座はしないだろ。たぶん……GMアカウントでいくらアイテム生成しても、自分の本アカのキャラにはアイテム手に入んないって事じゃないのかな?」
みなみが悪い笑みを浮かべて説明する。
「事故でハック状態になったとはいえ、アイテムを譲渡したらアウト。貰った側も共犯としてアカウント消されるだろう。でも、『拾った』人が売りに出して、別の人が『知らずに買った』なら善意の第三者。そう言う事だよね?コウシ君?」
「そう言う事です。アイテム番号見てきてくれたらなんでも生成するので、誰か捨てアカウントで拾ってショップ出して下さい」
「うわー、悪いなー。君たち実に悪い!かくいう俺も悪い人なんだけどさ」
コウシ、みなみ、†イノウエ†がニヤニヤ笑う。
「良くわかんないけど、私も一枚かむー。面白そうだからー。この『ゴンザ』は鍛冶屋欲しくて作った新キャラだし、アカウントもメインのじゃないから犠牲にできるから、私がコウシ君が生成したアイテムを拾って露店立てるよ」
「良くわかってんじゃないですか」
ゴンザが手をあげて参加を表明する事で、この場にいる全員が共犯となった。
「で、問題なのはログインすると村の中央から現れる事なんだよね」
「今ログインすると、あれに囲まれて即死ですか。誰か何とかなる?」
「俺、魔法士だけど体力特化なんっよ。だから雑魚はともかく変異ボスはダメージが足りないかな」
「魔法士なら知力一本じゃないのかよ?!俺も騎士なのに知力あげてヒール騎士なんだけどさ」
まさかネタ構成のキャラクターばかりとは思っていなかったので、少々予定が外れて焦る光司。
「でも、大丈夫っすよ。欲しい装備があって、それのアイテム番号覚えてるんで、それと回復アイテムを大量に生成して貰えれば露払いは引き受けますよ。アイテム番号E01208の『隠者の杖』をお願いします。あれで知力と体力に+10されるんで、回復アイテム連打しながら自分を中心に範囲魔法撃ってれば、雑魚は消せますよ」
「よくアイテム番号なんて覚えてんなぁ」
「誕生日と一緒なんすよ。それに知力と体力アップはこの自爆戦法に最適な装備だから、前から欲しくて金溜めてたし」
「なるほどね、でもこのゲームの範囲魔法って、自分もダメージ受けるだろう、死なないのか?」
ダメージ低め&ヒットポイント多めとは言え、自分が先に死んだら意味がない。
「その為にコレ、増やしてよ」
†イノウエ†がアイテムボックスの中から、金色のポーションを実体化させてコウシに手渡す。
BOSSドロップで得られるアイテムの中ではハズレと言われるものの、消耗品としてはかなり高価な『エリクサー』だった。
光司はエリクサーの詳細ウインドウを開き、アイテム番号を確認する。
<create: 生成するアイテムの番号と名称を入力して下さい>
<create: A10119 エリクサー>
今更だが本当にクリエイトが使えるのか、少しドキドキしながら入力すると、足元に現れた光の輪から噴き出す光の中央に『エリクサー』が生成された。
「おー!本当だ!ホントに出てきた!実は少し疑ってたんッスよ」
はしゃぐ†イノウエ†。みなみはエリクサー無限かぁ凄い事になってきたなと呟いている。
光司は続いて隠者の杖を生成すると、エリクサーのアイテム番号をコピー&ペーストで連打し、エリクサー生成を繰り返す。
とりあえず重量制限から考えて200個は持てるだろうから、全員がフル搭載するとして800個作ろうという考えだ。
「あのさ。U21998って複数作れたりするのかな」
おそるおそる、と言う様子でみなみがアイテム生成を申し出る。
「えっと、アイテムの名前も入力しないと。それなんのアイテム番号ですか?」
「俺の気が正しければ、屠竜。サーバに一つのユニークアイテムも量産できるのかなって」
俺の記憶が、だろ!という突っ込みたいのをこらえて、光司は疑問を口にする。
「ゲートワールド・リークスに、写真載ってたのは知ってますけど。なんでそんな覚えにくい番号覚えてんですか?」
「まぁ、いいじゃん。できるの?できないの?」
光司はエリクサー量産を一時止めて、みなみの言った番号を入力してみる。
<create: 生成するアイテムの番号と名称を入力して下さい>
<create: U21998 屠竜>
エリクサーや隠者の杖と同様に、光の輪の中央に鈍い色の両手剣があらわれた。
無言でその作業を繰り返す。たちまち、同じものが4本。床に転がった。
「すげぇッス!」
「MP+1080 攻撃力547!これで勝った!」
「待って待って、拾ったらダメですよ、私が拾って1G売りで露店立てますから待って!」
三者三様に歓声をあげて、この馬鹿馬鹿しい状況を喜ぶ。完全にお祭りモードだ。
「よし、†イノウエ†さんが先頭で突っ込んで、雑魚の殲滅しながら移動。俺達三人で変異種・族長ゴブリンのタゲ取って手下を召喚されないように囲んで殴る。これでOK?」
「イノでイイッスよ。でもそんな雑な布陣でいいんッスか?普通なら壁役が引きつけながら雑魚殲滅して、ダメージ職が交代で削ったりするんでしょうけど」
†イノウエ†がもっともな質問を投げてくる。
光司はさっき窓からみた光景を告げて、普通の戦法が使えない理由を説明した。
「族長ゴブリンが持つ『同族召喚』は、同種族の自分よりレベル低いモンスターを呼び出す技ですよね。
変異種で性能上がってるせいか、今そこにいる『変異種・族長ゴブリン』は、普通の『族長ゴブリン』を呼んじゃってるみたいなんですよ。で、族長ゴブリンは普通のゴブリンを呼ぶ、と」
「このウジャウジャはそういう理由でしたか……」
ゴンザは呆れたように眉をひそめる。
「普通に戦ってたら、どんどん呼ばれるから、力押しで短期決戦しないとダメなんだ?」
「もしくはダメージ受けない位の高レベルキャラに無双して貰うしかないッスね。さっきまで友人呼んで掃除して貰おうと思ってたんだけど、フレンドリストにいる連中が全員オフラインで」
「君もか。まぁログインサーバ混雑してGMアカウントに繋がる位だから、誰もログインできない状態なのかもね」
フレンドリストにいる連中が全員オフライン。
この言葉が妙に気にかかったが、お祭りの様なテンションの楽しさに、光司はすぐにそれを忘れた。
なんか妙に長くなっちゃいました。
うまく纏められなくてすみません。
コウシ:キャラクター
光司:中の人
って事で、一応かき分けているつもりなのですが、読みにくいようでしたら統一しちゃいます。
ネットゲーム用語なんかも、略語はなるべく使わないように心がけていますが、もしわからない単語がありましたら指摘して下さい。
キャラクターのセリフで説明させます。
ゴンザさんがネトゲ歴浅い設定なので、廃人のみなみに質問する形で。