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動物なんてこんなもの

忘れられた頃にこっそり更新。

「危ないっ!イノ、早くこっちに来るんだ!」


 コウが最後尾のイノを振り返ると、そこには足を止めて微笑むイノの姿があった。

 体力特化のタンクと言えど、職業は防御系の補正が一切無い魔法士。

 けれど、最もレベルの高いイノは、他の誰よりも長く時間を稼ぐ事ができる。それを知っているイノは進んで囮になる事を選んだのだ。


「何してるんだ、早く!」


 扉を閉ざせば、扉を開ける能力の無い魔獣を締め出す事はできる。ただし、締める前に入りこまれてしまえば全員共逃げ切る事は出来なくなる。


「おれは、いい」

「何言ってるんだ、全員で帰るって約束したじゃないか!」

「ゴンザさんを、頼む」


 優しく微笑んだ魔法士は、そういうとゆっくりと三体の魔獣に立ち向かい……




「ふひゃあぁぁぁかわゆいのぉぅぅぅ」


 三体の猫に抱きついて頬ずりして完全にキャラ崩壊した。


「お前らその寸劇は何なんだよ?」


 このダンジョンに湧く、このゲームでは珍しくモンスターでもNPCでも無いキャラクターである猫に抱きつくイノを見下ろしながら、みなみがコウを問い詰める。


「いや、久しぶりになんか湧いてきたし、ダンジョンの中で魔獣と遭遇したからピンチ感を演出してみた」


 コウは綺麗な土下座で答える。


「魔獣じゃないし。それに俺らは装備の質が高いしイノはレベル高いから、このダンジョンで出る敵だとボス以外は苦戦しないからね、一応言っておくけど」

「あ、俺らってそんなに強いの?」

「ここの敵が攻撃力低いんだよ。その代わり命中率と攻撃回数が高いから回避型にとってはキツイけど防御が硬ければ安全。だからこのダンジョンを選んでるんだぜ?」


 回避型どころか、このパーティにはまともな前衛防御職(タンク)が居ない。防御型魔法士と支援型騎士とスキル人柱になった製造職、あとは火力はアイテムの性能頼りのGMという有様なのだから。


 ニッポリの街周辺の『階段ダンジョン』の一階層。入って二部屋目の小部屋を開けた時に背後でMOBが湧いてくる音がしたので、振り返ってちょっとピンチ感を出した寸劇で遊んだらイノが乗ってくれた。そんな状況だったのだが、みなみはあまりロールプレイには興味は無いらしい。


「猫ってそんなにレアなんですか? なんか一気に三匹も湧いてますけど」


 不思議そうに可愛らしく首をかしげるゴンザさんに、みなみの説明が始まる。まず、このゲームではほとんどのMOBが二足歩行だという奇妙な事実を。

 MOBは『NPC』『アニマル』『モンスター』の三種類にわかれるのだが、一部の泳いだり浮かんだりするMOB以外はほとんどが二本脚で移動するのだ。


「言われてみれば、今までゴブリンとオーグルと首狩りウサギとかそんなのばっかですね。確かに全部二足歩行です。理由あるんですか?」

「古参ユーザーには有名なんだけど、『ムーンウォーク・パッチ』と呼ばれたアップデートがあってね。騎乗できる動物とか、MOBモンスターとかNPC以外のアニマルが実装されたパッチなんだけど、足の動きと移動速度があって無くて。動画がアップされて大笑いになった。で、へそを曲げた運営が、アニマルごっそり削除したという結末に」


 心底下らない理由だった。

 しかし、一人称視点で見ている視界の中で、足の動きと速度にバラツキがあるというのはかなり恐ろしい。ゆっくりと足を動かす四足獣が、地面を滑るように高速で迫ってくる姿は多くのプレイヤーの腹筋を崩壊させた。

 高速でスライド歩行する鹿や、走るモーションで足踏みする馬の動画が爆笑動画として出回ったせいで、このゲームに牛や鹿などのアニマルは居ない。牛肉はミノタウロスからしか取れないし、乗馬スキルは使い道の無い死にスキルになっている。


「猫にゃん! 猫にゃん!」


 嫌がる猫の一匹を抱えてお腹に顔を埋めるイノ。他の猫達は全力で逃げる。


「で、あの狂いっぷりは、猫が数少ない例外だからって言う事ですか?」

「アニマル自体が少ない上に、可愛いのはもっと少ないからね。犬とか深海魚も二本脚で歩くし、魚なんて人間の顔ついてるしトナカイはグロいしで、可愛いキャラはホントにレア。イノの壊れっぷりは異常だけど、猫はペットとして高値で取引される位には大人気だよ」


 クソゲオンラインの二本脚事情を説明し終えたみなみは、今度はイノに目を向ける。


「猫が可哀想だし。テイムするならさっさとして肉球触ろうよ」

「ニャンコは肉球っていう風潮やめろよ、そういうもんじゃねぇんだよ!」


 口調もわすれてガチで怒るイノ。それが面白いのでもう少し弄とうとアイコンタクトする。


「そういうもんじゃないならなんなんだよ!」

「ケモノ…じゃないかと」

「ゴンザさん上手い事言った!」

「誰か座布団持ってこい!」

「座布団は無いのでこの毛皮敷いて座って下さい」


 ゴンザの足元に毛皮を置く抜き身の剣をさげたフェイ。


「ちょっと! その毛皮ってドロップ品だよね。動物倒すとでる奴。ねぇ、ちょっと待って! 猫をどうした!」

「星になった」


 珍しく遠まわしな言い方をするフェイ。イノの抱えているの以外の猫がいつの間にか居なくなっている。


「なんでネコ倒した!」

「つい」

「ついじゃねぇよ! 猫はモンスターじゃないんだぞ!」


 わりと本気で怒るイノと、頬をポリポリ掻きながらそれを受け流すフェイ。珍しい図だ。


「モンスターじゃなきゃ何なんだろうな?」

「ケモノ…じゃないかと」


 座布団はフェイの物になった。



 残った猫を狩られる前にしっかりテイムしようと言う事で、猫に餌をあげる事になった。

 どうでもいい事だがこの猫、正式名称は『猫耳の猫』である。猫耳じゃない猫がどこの世界に居ると言うのか、製作側は正気失ったのはいつからなのだろうか。ちなみにバグは無い。


「猫にあげちゃいけないのってイカでしたっけ?」

「またたびとかあげれば好感度上がるんじゃないですか?」

「猫に小判っていうし、金塊とかでもいいんじゃないかな」


 違うだろうと思いつつも、金塊をあげてみる。ピロンと安っぽい音がして猫が発光する。


「うにゃぁん♪」


 一気になついた。さっきまで全力で嫌がってた猫が顔を擦りつけてる。


「金目の物あげたら一気に媚びた!」

「何この子チョロイ」

「金とか貰って猫が何に使うんだよ……」


 驚く三人の後ろで「年収以上のお小遣い貰えるなら誰だって媚びます」とか荒んだ事を口走ってるNPCがいるが、誰にも聞こえていない。ログは残っているが。

 ちなみにNPCが受け取った金目の物の使い道だが、自動的に換金されて一定時間ごとに能力値上昇と引き換えに訓練と言う名目で消費されていく。フェイがNPCにしてはやけに強いのは武器の性能だけでなくこんな所にもあるのだが、コウもみなみも気が付いていない。さらにどうでもいいことだが、ペットの所持金が無くなると今度は好感度が減って行き、好感度が0になると主の元を黙って去るという鬼畜仕様だったりする。


「好感度さえ高ければスキルとか要らないのは嬉しいよな。名前何にしよう!」

「名前は自動的についてるだろ、なんて名前だった?」

「『ヒロシ』とか呼びたくないからあだ名で呼ぶんだよ! 可愛いヤツで!」

「それならユッコネェとか、知り合いのお姉さんの名前付けるとかどうだ?」

「オスだよ!」


 次から次へと金塊を渡して好感度をMAXまで育てて猫のヒロシをペット化する。アニマルは速度や能力値が優れている代わりに装備部位に難がある。猫の場合は一時的に口で咥える事が出来る以外には、首と背中にしか装備品を付けられない。

 イノはいつか猫をペット化出来た時の為に準備していたのか、『海賊課の首輪』と『祝福された翼』を装備させている。海賊課の首輪は攻撃力があがる防具なので攻撃回数の多いキャラクターには便利な装備で、祝福された翼は身に付けた者を常時浮遊させる効果がある。


「スピードリングじゃないんだ?」

「うん、とりあえずダメージ通るようにすれば毒とかも持たせられるし。あと浮遊は、まぁお約束で」

「そうだね、浮遊はしょうがないよね」


 猫はなぜか削除をまぬがれてはいるが、脚の動きと移動があっていないのは改善されていない。浮遊させてしまえば、地面を滑るような動きにはならない。猫テイマーにとっての暗黙の了解のようなものだった。

 このように、このゲームでは運営の怠慢やミスはプレイヤーのぬくもりでフォローされている。



「しかしさ、二足歩行の敵しかいないってのはわかったけど、それだとドラゴンとかは全部飛んでるのしかいないの?」

「え?」

「え?」


 驚いたような顔で首をかしげる熟練者二人。


「ドラゴンなんてこのゲームにはいないッスよ?」

「ドラゴンスレイヤーがあるのにドラゴン居ないとかおかしいだろ。せっかくの屠竜どうすんだよ」


 あーそっちだと思ったんッスね、とテイムして落ち着いたのか口調を戻して説明するイノ。

 イノの話によるとこのゲームにドラゴンは存在せず、屠竜には対竜特攻なども付いていないとの事。


「じゃ、なんでそんな紛らわしい名前してんだよ」

「その当時の担当者がミリタリー好きで、ユニークウェポンの名前は旧日本軍の飛行機からとったと言われてます。ほら、イノの使う戦場魔法もトカレフとか銃器の名前だろ?」

「その割には【マジック・バズーカ】の時に表示されるエフェクトがバズーカじゃなくてパンツァーファウストだったりするらしいッスよ。好きだけど詳しくないとかオタクとして片隅にもおけんって兄がおこってました」

「【剣投げ】とか、私の【回転斬り】とかもそうですけど、魔法以外のスキル名はかなり適当ですよね」


 ここにもみなみの解説が入る。時間の有り余るニートがオタク化している場合、偏った知識無双が始まる場合がある。大抵は役に立たないのだが。


「ゲートワールド・オンラインは、初期は魔法を使ったFPSだったんだよ。で、ギルド単位で各都市を制圧する国取りゲームだったから魔法が兵器の名前なのはその名残。MOBも対人戦の練習相手という面があるから人型が多くて、群れてる事が多いのも同じ理由。

 どんどんパッチがあてられて装備品の製造とか、対人しなくても遊べるようにダンジョンとか、物語とかの追加要素が担当者が変わりつつツギハギに増えて行って、こうなったらしい」


 このありさまだよ! と言わんばかりに両手を広げて見せるみなみ。


「噂だけど、農業プレイもできるらしい。まったりユーザーの希望にも応えたみたいなコメントがどっかにのってた」


 なんで国取りゲームでまで農場ライフをやりたがるのかはわからないが、いろんなユーザーのニーズにこたえようとし過ぎて方向性を見失ったゲームというのは良くある事だった。


「話戻すけど、初期の武器データとかの担当者の趣味のせいで旧日本軍の飛行機『屠竜』の名前がユニークウェポンに使われたって事はさ、他のユニークウェポンもそうなのかな?」

「『月光』ってのがあるのは聞いた事がある」

「他にはわかります? 俺そういうの詳しくないんで」

「なんでそんなの知りたいの?」

「名前がわかれば、番号少しずつずらしてクリエイト出来るかなって」


<create: 生成するアイテムの番号と名称を入力して下さい>

<create: U21999 月光>


<そのIDが不正です>


「システムメッセージまでなんかおかしい」

「普段ユーザーが見ない所なんてそんなもんなんじゃないの?」


<create: 生成するアイテムの番号と名称を入力して下さい>

<create: U21997 月光>


 適当に番号をずらして入力すると、二度目で成功する。

 光の輪の中から、まだ持っていないユニークウェポンが現れた。


「コウ先生ステキー! こういうの大好き!」

「今頑張って思い出します。ゼロ戦とか紫電改とかそういうのはないんッスかね?」


 一時間近くかけて、前後100番程の番号を当たって見た所、何本かのユニークウェポンが確認できた。


『月光』攻撃力は屠竜より低かったが、暗闇耐性が付く。ただし暗闇属性の攻撃をしてくる敵は未実装。

『彩雲』移動速度上昇の効果を持つのでMOBをトレインする時に便利かも。

『銀河』攻撃力が高いが重い。投げにくかったのでみなみだけが持ち替えた。

『隼』 二回攻撃ができると書いてあったが、どうやら未実装。


「ジェネレイトでフェイが出て来た時みたいに空白では出来ないの? アイテムなら変なものでてきても危なくないでしょ」

「よし、どんどんやってみよう!」

「楽しくなって来た!」


 はしゃぎまわる三人を悲しそうな目で見つめてゴンザさんが呟いた。


「デスゲームと決まった訳じゃないですけど、私達ログアウト不可でもう丸一日水分取ってないんですからね?」


 深刻になってもどうにもできないなら、楽しく過ごそうという感性にゴンザさんだけが着いていけていなかった。


おかしい、ダンジョンのボス戦まで行く気だったのに。

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