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フィールド歩いてる時なんてこんなもの

 目的地は「引きこもり易いダンジョン」という事で、ユニークウェポンの屠竜を100本程増やして99本をアイテムボックスに突っ込み、ショートカットで取り出せるように設定してから移動を開始する。

 対人戦に特化したスキル構成では攻略しにくいが、自分達の安全は確保できるダンジョンという条件で、イノとみなみが選んだのがニッポリの街周辺にあるダンジョンだった。

 高低差があって見晴らしが効く為、奇襲を受けにくく遠距離攻撃の手段さえあればかなり守り易い地形である事がその理由だった。そこに良く湧く猫を撫でたいからという理由では決して無い、はず。


「しかし、【剣投げ】で屠竜投げるのは凶悪に強いッスね、投げた武器は無くなるから強い武器投げる人なんか居なかったから考えから外してましたよ」

「【投擲】のスキルレベルが上がれば射程も伸びていくし、かなり使えるね」

「普通はゴブリンとか狩った時にドロップする『錆びた剣』とか、釣りで山ほど手に入る『太刀魚』とか『秋刀魚』とか投げるもんだろ。GMコウがパーティに居て初めて使えるやり方だから、使えるのは今だけだし、あんまりそれを主力にはしたくないかな。攻撃力100越えの武器投げまくるとか赤字狩りにも程がある」


 あくまで、「ログアウト後に使える情報」にこだわるみなみは、GMコマンドに頼った戦術で進む事を好まない。だがPK襲撃時に何もできなかった後ろめたさがあるのか、あまり強くは主張しないようだ。


「コウさんが回復担当になる為に取った投げ系なのに、一気に火力担当になっちゃいましたね。なんだかする事無くて申し訳ないです」

「いや、ゴンザさんのスキルが偏ったのはスキルツリーの検証やって貰った結果だから」

「あ、じゃあ、この後も少しレベル上がったら取れたら取って貰うなら経験値分配設定にしておきますか?」


 ゴンザのレベルを上げる為にコウが提案して、さっそくパーティを組みなおす。現在はイノも含めた四人パーティで、ドロップアイテムの共通拾得権を持ち、経験値は各自が倒した分を各自が取得する設定になっている。パーティのレベルがある程度以上近ければ、経験値を均一に分ける設定にする事もできる。これはトドメを刺す機会の少ない支援職がレベルを上げる為の設定だった。

 この機能は初期のゲートワールドオンラインには無かった為、パッチが当たって改善されるまでは回復職や支援職、肉壁などはレベルが全然上がらないという酷い状態だった。


「イノ、悪いけど一旦パーティ解散させて」

「イイっすよ。パーティ分けるとHPとか把握して貰えないけど、こっちは体力高いし。危なそうだったらエリクサー投げて下さい。HPが半分きる様だったら言うんで」

「了解」


<パーティ:『胃の上食堂』は解散しました>


「パーティ誘うから入ってねー」


<パーティ:『イノ以外』に誘われました。加入しますか?>


「みなみさん、その名前酷い」

「いや、だって見ろよイノのパーティ名」


 一瞬吹き出してから咎めるゴンザが、みなみの指さす通りにイノを見てみると、パーティを解散させたイノの頭上に、イノが作った自分一人のパーティ名が表示されていた。


†イノウエ†(パーティ:『ぼっち』)


「いや、このパーティ解散する時のシステムメッセージが酷いッスよ。ぼっちは解散しましたって、どうやってww」


 その言葉でコウも堪え切れなくなり吹き出した。

 そこからは「今までに見た凄いパーティ名」をお題に会話が続く。


「笑ったのは『パーティ:今日は誕生日じゃないよと言いだせない』ですね」

「『男だらけのクリスマス』とか『の、券を買わされた』とか面白かった」

「おーって思ったのは『(パーティ:)(パーティ:)』って名前。二度見した」

「カッコの部分は自動入力される部分だから何とかうまく使いたいッスよね。お題として」

「『パーティ:(笑)』とかは良く見るけど、もうヒト捻り欲しい」

「逆に『パーティ:辻支援歓迎』とかはウザいです」


 辻支援というのは辻斬りの逆の意味で、通りすがりの他人に支援魔法や回復を行う行為で、ロールプレイとして行う場合と善意での支援として行われる場合とがある。


「あー、それで思いだした。『何で辻支援してくれないんですか事件』」

「なんか名前聞いただけで聞きたくないほどウザい事件だってのがわかるね」

「なんッスかその酷い事件」


 やたらとクソゲオンライン歴の長いみなみは、データだけでなくゲーム内で起きた事件についても無駄に詳しい。


「支援職のいるパーティとか、ソロで採取とかしてる人の周りを無言でうろつく『辻支援歓迎』ってパーティの奴らが居たらしくてさ」

「それ、辻でも何でもないただのタカリですよ」

「そうなんだけど、無視してると無視した奴の事を『狩りの邪魔された』とか『ドロップ品盗まれた』とかあっちこっちに書き込んだり街で叫んだりする有様で」

「タカリどころじゃ無くて強請りだな、それ。ノーマナーとかいうレベルじゃ無い」

「すぐに言いがかりだってのはわかったんだが、キレてその『パーティ:辻支援歓迎』の連中をPKした奴がいてさ」


 気持ちは良くわかると頷く3人。良くわかって無いが併せて頷くフェイ。


「そのPKした奴が確か『悶絶丸』だった」

「さっきのPK達のリーダーじゃん」

「それで対人での狩りにハマったのかな? 人に歴史があるんッスねぇ」

「いや、理由とか関係ないですから。PK有りのゲームだから善悪とまでは言いませんが、今こう言うログアウト不可とかいう不具合出てる中で他人死亡させるとか、さすがに無しですよ」

「まぁね、俺らに対しては金目当てで襲ってきてたっぽい所もあるし。次に襲ってきたらしっかりトドメさそうね」


 ゲームなんだかゲーム外なんだかわからない、オンラインゲーム特有の会話を続けながらダラダラ歩くうちに、アップフィールドの街を再び迂回して、さらにその先のバードバレーに近くなる。ここも迂回しながら進む事に決まる。

 転移アイテム等は元々このゲームには無いし、回復アイテムは補給する必要が無いのだから、スキルを取ったり転職する時以外は街に行く必要が無いのだ。


「鴬谷にはどんなダンジョンがあったんでしたっけ?」

「ここは桜並木ダンジョンだね」


 聞けば即答えてくれるみなみ。コウの中では「知っているのか雷電!」とか、そんな感じの説明キャラとして定着している。


「じゃあ、植物系モンスターとか出てくるんですか?」

「いや、桜の下からじゃんじゃん動く死体が湧いてくるアンデッド系ダンジョンだよ。銀の武器が充実しているから今の俺らには良い稼ぎ場なんだけど、入り組んでないから引きこもるには向いてないかな」

「それに一撃死も多いッス。動く死体に【ブレインデッド】で掴まれて桜の下に引きずり込まれると、無条件で死亡だから敏捷低い人は無理ッス。塩も無いし」


 ダンジョンのコンセプトの酷さに「なにそれ」と呟いて無言になるゴンザ。そんな事言ってたらこのゲームやって居られないと言うのに、まだまともなゲームである事を求めているらしい。


 このゲームでは街の周囲に必ず一つのダンジョンと、複数の村がある。村には畑を荒らす動物やモンスターを倒す「退治」や、さまざまな農作物を刈りまくる「収穫」、収穫物を街に運ぶ行商人の「護衛」などのクエストが自動生成でランダムに発生する。

 一方、街では猫や子供などの「迷子」を探すクエストや、近くの村でアレ買ってきてくれ!という「お使い」クエストが発生する。普通にダンジョンの中に迷い込んでいたりもする迷子を生きて連れて帰ったりする事で報酬が貰える。

 これらのクエストで村と街を往復しながらお金を稼いで、ダンジョンの中に潜る費用を作るというのが基本的な流れだ。

 ダンジョンには入るだけで通行料が必要なダンジョンもあるし、ランタンや食料、回復アイテムなどで出費はかさむ。それでもダンジョンの中で宝箱を見付ける事ができれば、ダンジョンでしか手に入らないレアアイテムを手に入れる事が出来るのだ。これらのレアが高く売れれば一攫千金のバブル到来だ。良い武器を揃えて他のダンジョンに入る資金になる。

 こうして街と村でマネーを稼ぎ、ダンジョンでレアアイテムを狙いながら徐々に高レベルな街に流れていくのが正しいゲームの順路なのだろうが、こんな物はあくまで基本に過ぎない。


 良く訓練されたゲームプレイヤーというモノは、楽をする為ならばどんな苦労すら厭わない。製作者側の意図しない稼ぎ方や、ショートカット方法を見つけ出す天才がかならず居る。ましてやMMOというものは高レベルプレイヤーによりパワーレベリング(効率の良いレベル上げ)という物が存在するのだ。高レベル者が支援して効率よく経験値を稼げば、あっという間に低レベル帯を脱出できる。だが、クソゲオンラインの運営側はそれを徹底的に嫌っていたらしく、運営VS廃人の熾烈な戦いはゲームバランスを破壊するほどの高みにまで登っていた。


 運営によるパワーレベリング(効率の良いレベル上げ)妨害、その一つが「蘇生アイテム無し」であり、死ぬと強制的にログインサーバーに戻されて、直近に入った街や村まで戻される。

 もう一つが「フラグを立てていないと喰らう即死攻撃」の多さである。例えば、バードバレー付近の桜並木ダンジョンでは、街で「桜の木の下には死体が埋まっている」という話と「塩や聖水を撒けばゾンビは動きが鈍くなる」という情報を聞いてから、店や食堂で冷やかしを繰り返す事で塩を撒かれるようになる。この塩を浴びた後ならば、ゾンビの一撃即死スキルの成功率が下がるのだ。このイベントを受けていない状態での桜並木ダンジョンへの立ち入りは自殺行為だ。入って五分で三割死ぬと言われている。


 ただ、事前に準備さえしておけば喰らう確率がグッと下がるので、この程度ならばこのゲームをクソゲ呼ばわりするプレイヤーはあまりいない。

 だが、「死んだら戻る」と「面倒なフラグを立てないと即死しやすい」の二つが合わさる事により、めんどくさい事になる。


 完全なる一本道ゲーの完成である。

 決められたお使いクエストを処理しないと、高確率で即死スキルを喰らい、デスペナを支払わされる。これはでまともに進めない。大規模オンラインゲームなのに一本道。これこそ、このゲームがクソゲと呼ばれる大きな理由の一つであった。

 だが、良く訓練されたプレイヤー達は、この一本道なMMOですら、ショートカットの研究に成果を上げた。


「戦士から派生する前衛職の力士が居れば【塩まき】でゾンビ系は動きとめられるんだけどな。ギルドのメンバーの新キャラ育成で良く使ったよ」

「でも筋力と体力の要求値が高いんッスよね、力士は。今の俺らで転職できるのはいないッスよ」


 マワシだけを装備して前衛としてゾンビを食い止めるスモーレスラー。その雄姿に想いを馳せる二人に、常識人枠のゴンザが真っ当な突っ込みを入れる。


「このゲームってファンタジーでしたよね?」

「100を超える職業を渡り歩き、様々なスキルを磨いて自分だけのキャラクターを! っていう売り文句の為にかなり変な職業とか入ってますから、このゲーム。名人とかひよこ鑑定士とか」

「変なゲーム……冒険に関係の無い職業なんてある意味無いんじゃないですか?」


 不満を口にするゴンザさんだが、みなみはそれを一太刀で屠る。


「筋力を99まで上げてプロテイン持ってハロワ行くとボディビルダーに転職できるよ」

「素敵なゲーム! 人生と言う名の冒険に意味の無い事なんてないんですね!」


 とりあえず筋肉をぶら下げておけばゴンザさんの機嫌は取れる。


 ゴンザさんを中心に、今後のステータスの振り方や転職相談などをしながらのんびりと歩いていると、コウの正面に一台の馬車と、それを囲んでいる数人の小さな人影が現れる。見えてきたのではなく、明らかに湧いてきた。数匹のゴブリンが貴族の乗る馬車を襲撃するという固定イベントだ。


「すみません。私『始まりの村』のイベントでフラグ立ててたんで、私のせいですね」


 ゴンザさんが軽く手を上げて馬車襲撃イベントのフラグを立てていた事を自白する。


「あー、いいんじゃないですか? 今は装備とかしっかりしてるから平気ですよ。でも俺この馬車の人助けられた事一回も無いんですよ。結構ここで死ぬ事多いし」

「え、なんで死ぬの?」

「え? 装備無いと死ぬようなイベントでしたっけ、ここ」

「馬車の中の人は助けてもボーナスとかないッスよ? それにこのイベントは回避余裕ッス」


 コウにとっては、自分が最も死ぬイベントだったのだが、他のみんなにはそうではなかったようだ。初心者のゴンザまで驚いている所を見ると、なにか余程のミスを犯しているのだろうか。

 ゴブリン達の振るう斧で馬車を引く馬が殺され、悲痛なイナナキを残して粉々に砕け散る。

 太った貴族の男が引きずり出され、斧でメッタ打ちにされるのを遠目で眺めながらゴンザに質問を続ける。このイベントのクリア方法は是非聞いておきたい。


「みんなはこの馬車襲撃イベントで死んだりしないんですか?」

「俺の場合は普段はギルドメンバーと一緒に行動しているんで。でもそうじゃ無くてもここで死んだ事はないかな」

「コウさん。こいつら、村長からポーション買ってくる依頼(クエスト)を受けなければ湧いてこないッスよ?」

「あと、そもそも近くに寄らなければすぐ終わる。馬車の中の食料とかあさったらゴブリン達はどっか行くし」


 始まりの村で受けるチュートリアルクエストをトリガーにして発生するイベントなので、チュートリアルを飛ばせば出てこない。コウは初心者用ポーション欲しさのあまり毎回律儀にチュートリアルを行っていたので、まさかこんな簡単なことだとは気付かなかった。始まりの村をでたレベル1のキャラクターで「今助けるぞ!」とか叫んで乱入し、複数のゴブリンを相手にしては死んで戻るという事を何度かやっていた。


「ほら、襲われてるNPCとかいたらさ。『まて! そこまでだっ!』とか言って助けに行きたいじゃないですか」

「ノリノリだな! でも気持ちはわかる」

「ここは俺に任せて先に行け!と並んで一度は言って見たいセリフッスね」


 そんな会話をしているうちに、太った貴族の男は「神は私を見はなしたのか!」と叫んで粉々になった。ゴブリン達は奇妙なゴブリンダンスを踊りながら森に消えていった。


「神とか居ないし、無念だろうけども成仏してくれ」

「大丈夫です。始まりの村で村長と会話した人が、アップフィールド周辺の街道歩いていれば、一日に何回でも湧いてきます。死んだら次の日まで湧いてこない私のお母さんとかよりよっぽど出番多いし、良い役ですよ」


 経験値もドロップも旨味は無いので放置した事件現場を通りすぎる時に、日本人的な感性から手を合わせてみた所、フェイからの突っ込みが入る。

 NPCにとっての死生観って一体どうなってるんだろうと不思議に思う一行だった。

今回のクソゲポイント:結構な距離を移動したのにイベント以外で雑魚キャラに遭遇してない。敵の湧きが悪すぎる点。


誤字脱字、読みにくい点変な点、ご指摘いただけると助かります。

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